報道発表資料

平成11年3月17日 この記事を印刷

第3次酸性雨対策調査の取りまとめについて

  酸性雨対策検討会(座長:大喜多敏一桜美林大学名誉教授)は、第3次酸性雨対 策調査(平成5年度〜9年度)の最終的な取りまとめを行った。
  その概要は、次のとおりである。

(酸性雨モニタリング調査)

1. 全国48ヶ所の測定所における酸性雨モニタリング調査の結果、降水の年平均 PHは4.7〜4.9(年度毎の全地点平均値)で、第2次調査結果(昭和63年度〜平成 4年度、同pH4.7〜4.9)と比較して同レベルであった。降水の酸性化に硫酸と硝 酸のどちらが寄与しているかの指標である硝酸イオンと硫酸イオンの当量濃度比 (N/S比)は、平成5年度0.44から平成9年度0.53 と近年増加しており、酸性化 に対して硝酸の寄与が大きくなる傾向にある。
  冬季の日本海側地域において、硫酸イオンと硝酸イオンの濃度及び沈着量の高 い傾向がみられ、大陸からの影響が示唆された。

(陸水モニタリング調査)

2. 全国29湖沼を対象とした酸性沈着の陸水への影響調査を実施した結果、アル カリ度の低い湖沼のうち、雌池(長野県)、今神御池(山形県)及び夜叉ヶ池( 福井県)については、周辺に火山等の自然的要因及び人為的要因が見あたらないことから、酸性雨による影響が生じている可能性も考えられるため、今後も調査 を実施し経年的変化に注意する必要がある。

(土壌・植生モニタリング調査)

3. 全国88定点で土壌・植生モニタリング調査を実施したところ、pH、イオン濃 度等の土壌理化学性については、前回調査に引き続き、顕著な変動は見られなか った。一方で、20定点で原因が特定できない樹木の衰退が観察された。

(陸水・土壌影響予測調査)

4. 全国5湖沼について、現状程度の降雨が継続し、また、現状の土壌緩衝能が持 続するとして酸性化の予測計算を行ったところ、鎌北湖(埼玉県)、伊自良湖( 岐阜県)及び蟠竜湖(島根県)については、計算期間(50年)以内の酸性化の 可能性は少ないことが判明した。計算条件として、酸性化物質の沈着量が大幅に 増加したり、土壌緩衝能が低下した場合には、これよりも早期に湖沼の酸性化が 起こることも考えられる。

  環境庁においては、本調査の結果を受け、現行の第4次調査(平成10〜12年 度)をさらに推進するとともに、東アジア酸性雨モニタリングネットワークの活動 を積極的に推進し、国際協調に基づく酸性雨対策を進めていく。

1.酸性雨対策調査の経緯

 酸性雨は地球環境問題のひとつであり、その解決のためには関係国が協力してこの問題に取り組む必要があることから、欧州においては1979年に長距離越境大気汚染に関する条 約が締結され、同条約に基づき、酸性雨の共同監視、汚染物質の排出削減対策等が進められ成果を上げている。
 環境庁は、欧米における酸性雨に関する情報も踏まえて、昭和58年度より、我が国における酸性雨の実態及びその影響を明らかにするため、大気汚染、陸水、土壌・植生等の 専門家や自治体の研究者等からなる「酸性雨対策検討会」を設置し、第1次(昭和58年度〜62年度)、第2次(昭和63年度〜平成4年度)の酸性雨対策調査を実施してきた 。環境庁では、引き続き酸性雨の実態やその生態系への影響について、注意深く監視・予測し、酸性雨による影響の未然防止に努めていくことが極めて重要であるとの考えから、 平成5年度から平成9年度の5カ年計画で、第3次酸性雨対策調査を実施した。(以下、第3次調査という)

*酸性雨とは、以前は化石燃料の燃焼に伴い大気中に放出された硫黄酸化物や窒素酸化物から生成した硫酸や硝酸が溶解した酸性の強い(pHの低い)雨のこととされていた 。しかし、現在では、酸性の強い霧や雪(雨も含めて「湿性沈着」という)や、晴れた日でも沈着する粒子状(エアロゾル)あるいはガス状の酸(あわせて「乾性沈着」という) をあわせたものとされている。酸性雨による影響としては、湖沼の酸性化による陸水生態系への被害、土壌の酸性化による森林の衰退、銅像等の文化財や建造物の損傷などが指摘 されている。

2.調査目的及び内容

 第3次調査においては、酸性雨による影響を的確に把握することを目的として、また、地域特性及び生態影響の把握のために、逐次、酸性雨測定所を増設しながら、降水、陸水 及び土壌・植生の長期継続的なモニタリングを実施した。
 大気系調査としては、大陸からの長距離越境汚染及び大都市からの中距離輸送による生態系への影響を解明するためのモデルの検討を行った。
 陸水及び土壌・植生系調査としては、酸性雨が与える影響を予測するためのモデルを開発し、そのモデルを用いて湖沼及び土壌の酸性化に影響を及ぼす因子等を検討した。
 さらに、酸性雨による陸水、土壌・植生生態系への影響を把握するため、大気系、陸水系及び土壌・植生系の総合調査を実施した。

1)大気系調査
  • 酸性雨モニタリング調査
  • 酸性雨モニタリングに関する検討調査
  • 酸性雨発生予測調査
2)陸水系調査
  • 陸水モニタリング調査
  • 陸水生態系影響調査
3)土壌・植生系調査
  • 土壌・植生モニタリング調査
  • 土壌影響予測調査(室内実験)
4)総合影響調査
  • 総合モニタリング調査
  • 陸水・土壌影響予測調査
  • 酸性雨及び酸性化大気汚染物質等による土壌・植生影響解明調査

3.調査結果の概要

 第3次調査で得られた主な結果は以下のとおりである。

1)酸性雨モニタリング調査「大気規制課」
 48カ所のモニタリングネットワークを用いて、降水等の捕集及び成分分析を統一した方法で行うことにより、その組成等を明らかにするとともに、我が国における湿性沈着の 地域特性及び経年変化を把握することを目的に実施した。
 降水の年平均pHは4.7〜4.9(年度毎の全地点平均値)で、第2次調査結果(昭和63年度〜平成4年度、同:pH4.7〜4.9)と比較して同レベルであった。(図1)
 また、降水の酸性化に硫酸と硝酸のどちらが寄与しているかの指標である硝酸イオンと硫酸イオンの当量濃度比(N/S比)は、平成5年度0.44から平成9年度0.53と近年増加しており、酸性化に対して硝酸の寄与が大きくなる傾向にある。冬季の日本海側地域において、硫酸イオンと硝酸イオンの濃度及び沈着量の高い傾向がみら れ、大陸からの影響が示唆された。
 なお、北海道東部には、調査地点がないため分布図を作成することができず、これらの地域では調査地点を設置する必要がある。また、今回初めて地域分布図を作成したところであり、これは濃度等の地域分布を表す有効な手段と考えられることから、今後さらに手法等を検討する必要がある。

2)陸水モニタリング調査「水質管理課」
 人為的な影響が比較的少ない全国29湖沼を対象とした酸性沈着の陸水への影響調査を実施した結果、アルカリ度の低い湖沼のうち桶沼(福島県)及び五色沼(栃木県)は火山 の影響ですでに酸性化していると考えられるが、雌池(長野県)、今神御池(山形県)及び夜叉ケ池(福井県)については、周辺に火山等の自然的要因及び人為的要因が見あたら ないことから、酸性雨による影響が生じている可能性もあり、今後とも調査を継続し、これらの経年的な変化に注意する必要がある。(図2)

3)土壌・植生モニタリング調査「土壌農薬課」
 全国22自治体の88定点で3年毎の土壌・植生モニタリング調査を実施したところ、土壌理化学性については、前回調査に引き続き、顕著な変動はみられなかったものの、4 1定点で樹木の衰退が観察された。衰退原因としては、病虫害、台風被害、植生遷移などが主に推定されたが、20定点では原因が特定できなかった。これらの樹種は、全国的に 広く分布しているスギ、アカマツ、ヒノキ、ブナ等であった。原因不明の樹木衰退の見られた代表的な定点について、土壌理化学性との関係を見ると、酸性雨への感受性が中程度 とされる土壌が多く、植生の種類や衰退原因との間に明確な関連性は認められなかった。(図3)

4)陸水・土壌影響予測調査「水質管理課」「土壌農薬課」
 総合モニタリング調査対象湖沼について、これまでに得られた実測データ、文献データを基に酸性化の予測計算を行った。平成9年4月の「中間取りまとめ」においては、現状 の酸性雨が継続した場合、鎌北湖(埼玉県)の酸性化が始まる年数を予測すると早い場合で概ね30年後との結果も得られた。ただし、この年数は計算の前提となるデータにより 異なることから、今後、さらに検討が必要とされたところである。これを受けて、植物からの陽イオン溶出量の増加、鉱物の風化による陽イオンの供給量の増加等の予測シミュレ ーションモデルの設定値について改良を行い、予測計算を行った結果、計算期間(50年)以内での湖沼の酸性化は起こりにくいものと推定された。
 なお、鎌北湖(埼玉県)、伊自良湖(岐阜県)及び蟠竜湖(島根県)については、計算期間(50年)以内の酸性化の可能性は少ないが、計算条件として、酸性化物質の沈着量 が大幅に増加したり、土壌緩衝能が低下した場合には、これよりも早期に湖沼の酸性化が起こることも考えられる。(図4)

4.今後の酸性雨対策について

1)国内における酸性雨対策の推進
 第3次調査結果を踏まえ、今後、以下の取組を推進していく。

 (1)

全般的施策

  • 国内モニタリングの推進東アジア酸性雨モニタリングネットワークの技術マニュアル、ガイドラインに沿い、精度管理・精度保証を適切に実施しつつ、比較可能なデータを得るための長期的なモニタ リングを実施する。
  • 酸性雨問題に関する国民各界、各層の理解と協力を求めるとともに、今後とも原因物質の排出抑制を推進する。
 (2)

大気系調査

  • 乾性沈着のモニタリング・調査研究の推進乾性沈着については、湿性沈着と比較して無視できない沈着量を有することが明らかになったことから、そのモニタリング手法の早期確立を図るとともに、湿性沈着と乾性 沈着との総合評価が可能になるような手法、モニタリング体制の整備を推進する。
 (3)

陸水系調査

  • 陸水影響のモニタリング・調査研究の推進酸性雨に対する感受性が高い湖沼については、長期、継続的なモニタリングを継続していく。特に、これまでのモニタリング結果から、アルカリ度が低く、火山等の自然的要因 及び人為的要因が見当たらない湖沼については、酸性雨による影響が生じている可能性もあることから、経年的な変化に注意するとともに、今後とも調査手法の検討を行いながら 調査を継続する。
 (4)

土壌・植生系調査

  • 土壌・植生影響のモニタリング・調査研究の推進引き続き、酸性雨に対する感受性を考慮した多様な土壌種について、モニタリングを継続し、経年的な変化に注意するとともに、基礎情報の収集を進め、臨界負荷量の設定に資する。特に、土壌鉱物や土壌有機物の含量、鉱物風化速度、土壌微生物等に関する調査 研究、植物への直接影響等も考慮したモニタリング調査を検討する。
  • 植生影響の把握酸性雨の植生への影響を総合的に把握するため、スギ、アカマツ、ヒノキ、ブナ等を含めた多様な樹種について、周辺土壌との関連性についてさらに詳細な調査を実施する。
 (5)

総合影響調査

  • キャッチメント手法の向上
     総合的な影響を評価するためのモニタリング手法の向上を図る。特に、キャッチメント手法の開発を推進することとし、そのために必要となる集水域の様々なプロセスにおける物 質循環を把握するためのデータの集積を図る。
  • 陸水・土壌臨界負荷量の検討
     我が国における湖沼・土壌の臨界負荷量設定のための基礎的な検討として、陸水・土壌影響予測モデルについて関連する基礎データの整備に努め、既に構築されているモデルの改善を今後も検討する。
  • 特定地域における総合的な調査研究の推進
     奥日光地域等特定地域における森林衰退の原因解明に資するため、酸性雨、霧、オゾン等の大気調査データと土壌の理化学特性及び樹葉変化などとの関係について、集中的な調査 を実施し、影響解明を図る。

2)東アジア地域における国際的な酸性雨対策の推進

  • 東アジア酸性雨モニタリングネットワークの推進
     平成10年4月から試行稼働が開始された東アジア酸性雨モニタリングネットワークの活動を積極的に推進し、同地域における酸性雨問題の状況把握に努める。特に、平成12年 における正式稼働に向けて、国際的なイニシアチブを発揮するとともに、ネットワークの参加国の多くは途上国であることから、今後とも、各国の実状を踏まえた適切な支援を継 続強化する必要がある。また、欧米のモニタリングネットワーク、世界気象機関(WMO)が推進する全球大気監視計画(GAW)等との連携を図る。

添付資料

連絡先
環境庁大気保全局大気規制課
課長 飯島 (6530)
 担当 飯豊 (6538)

環境庁水質保全局水質管理課
課長 一方井(6630)
 担当 竹内  (6637)

環境庁水質保全局土壌農薬課
課長 西尾  (6650)
 担当 福盛田(6652)

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