報道発表資料

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1999年10月15日

瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業に係る環境庁長官意見の提出について

環境庁は、瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業に係る環境影響評価書について、環境影響評価法第22条第2項の規定に基づき、建設大臣より環境の保全の見地からの意見を求められたことから、平成11年10月15日付けで、同大臣に対し大気保全対策、水質保全対策及び自然環境保全対策等に関する環境庁長官意見を提出した。
【環境庁長官意見】
 当該新住宅市街地開発事業については、シデコブシをはじめとするこの地域に特有な生物種及び希少種であるオオタカが生育・生息する里山的な自然環境を有する地域において土地造成、住宅市街地開発を行うものであり、生態系や地下水への影響をはじめ、環境への影響に不明確な点もみられる。
 また、本事業の基本方針として、「自然環境にやさしいまちづくり」、「環境負荷の小さなまちづくり」が挙げられており、本事業の造成地を先行利用する 2005 年 日本国際博覧会が「自然の叡智」をテーマに検討されていることから、万全の環境配慮が社会的にも要請されていること等も勘案し、本事業の環境影響評価書について下記の意見を述べるものである。



1 全体的事項

(1)  本事業実施区域及びその周辺地域においては、相互に関連する事業が計画されており、複合的な環境影響も懸念されるため、事業計画、環境保全措置、事後調査のそれぞれについて、関連事業者と調整の上、十分な連携を図ること。
 特に、平成17年(2005年)度までの事業着手箇所については、博覧会事業と工事内容や工事工程の調整を図ること。
(2)  本事業については、環境との共生を目指した事業であること及び環境をテーマとした博覧会の成果を継承することが期待されていることを勘案し、本事業に伴う自然環境への影響などを極力抑制すること。
 また、本事業は長期にわたる事業であることから、博覧会事業終了後、博覧会開催までの工事中及び博覧会開催期間における事後調査の結果、及び博覧会事業により実施される追跡調査の結果も踏まえ、評価書の予測結果についてレビューを行い、その結果により必要に応じ、その後の事業内容等の変更を検討すること も含め環境保全上必要な措置を講じること。
(3)  現段階で完全な予測が困難な環境要素及びその効果が不明確な環境保全措置がみられることから、事後調査の具体的計画を記載するとともに、評価書に記載された環境保全措置、事後調査を実施するにあたって、専門家の指導・助言を得ながら慎重に進めること。
 また、環境への影響が確認された場合においては、専門家の意見を聴取するとともに、関係機関と調整し、関連する工事の中断も含めた適切な対策を講じること。
(4)  本事業においては、工事実施時のみならず完成・供用後の環境影響についても懸念されるため、供用時に適切な環境配慮がなされるよう、適切な措置を講じること。
 また、供用時における環境との共生にかかる幅広い事項の実施内容等(例えば、太陽光発電、残置森林の管理、希少生物種の保全等)について、専門家・有識者等による具体的な検討を行い、その成果を事業内容に適切に反映すること。
(5)  計画策定の早期の段階から環境保全上の検討がなされてきたことに鑑み、事業計画の環境保全に係る検討経緯を明らかにするため、計画策定段階における環境保全に係る比較検討内容について整理し、記載すること。
(6)  (1)~(4)の旨について評価書に記載すること。

2 大気環境関係

 工事中の本事業実施区域周辺道路沿道において、道路交通騒音及び浮遊粒子状物質に係る環境基準の超過が予測されること、及び関連事業との複合影響等に起因する予測結果の不確実性が考えられること等を踏まえ、次の措置等を適切に講じること。

(1)  供用時の発生交通による事業実施区域周辺における道路交通騒音及び道路沿道大気影響について、予測・評価を行うこと。
(2)  まちづくりにあたっては、道路沿道環境負荷の低減について、事業実施区域内のみならず、その周辺についても考慮した交通システムの整備が必要であることから、 (1)の結果も踏まえ、関係機関と連携しつつ、公共交通機関の整備による発生交通量の低減や低公害車普及対策等を促進すること。
(3)  工事中の建設作業騒音・振動、道路沿道大気・騒音、一般環境大気及び発生交通量について、具体的な事後調査・事後監視計画を策定するとともに、供用時における道路沿道大気・騒音についても、適切に事後調査が行われるよう措置を講じること。
(4)  (1)~(3)の措置及び工事用車両の運行時間帯について、評価書へ記載すること。

3 水環境関係

(1)  生活排水対策として位置づけられている公共下水道の整備について、下水道整備計画と本事業の進捗との整合を図ることが重要であるため、下水道事業者と十分に調整し、その整合を図るとともに、下水道高度処理の早期導入の推進が図られるよう適切な措置を講じること。
(2)  地下水への影響については、予測の不確実性が考えられるため、事後調査を適切に実施するとともに、影響が確認された場合は、専門家の意見を聴取した上で、調査結果に基づき適切な措置を講じること。
(3)  (1)、(2)の旨について評価書に記載すること。

4 自然環境関係

(1) 全般的事項
 事業実施区域においては、シデコブシやオオタカなどの絶滅のおそれのある動植物が生息・生育しており、事業の実施にあたっては、これらの動植物及びその生息・生育環境を含めた里地生態系の適切な保全を図ること。
 また、予測の不確実性を補うため、事業期間における貴重な動植物の生息・生育状況について事後調査を行うとともに、事業による影響が明らかになった場合には、関連する工事の中断も含め、所要の対策を講じること。
 さらに、事業完了後においても事後調査等の継続が必要な場合には、関係機関との調整に努めること。
(2) 植物
1)  シデコブシについては、詳細な施工計画策定段階において、生育地の改変が可能な限り小さくなるよう、工法等についてさらに検討し、残存する集団の保全を確実に行うこと。
 特に、屋戸川・寺山川流域の源頭部における地下水文の変化に係る影響に関しては、専門家の意見を継続的に聴取し、工事及び代償措置について、工法、道路構造等の検討にその意見を反映するとともに、予測の不確実性が考えられるため、事後調査を適切に行い、湿地における植生への影響を低減すること。
2)  サクラバハンノキについては、新たな生育環境の確保と生育を誘導することを目的とした苗木植栽を行うとしているが、現在の生育地が消失する前にその定着状況を確認する必要がある。このため、専門家の意見を聴取し、最適な誘導先及び誘導方法を検討した上で苗木植栽を行うとともに、その定着状況に係る事後調査を十分に行い、生育状況に問題がある場合は、適切な措置を講じること。  
3)  スミレサイシン、イトトリゲモ、サガミトリゲモ、アギナシ、ウスバシケシダの移植については、専門家の意見を聴取し、現在の生育状況及び移植候補地周辺の自然環境に係る調査を実施し、その結果及び移植実験等の結果を勘案した上で、最適な移植方法及び移植場所を選定し、慎重に移植を行うこと。また、その活着状況に係る事後調査を十分に行い、活着状況に問題がある場合は、適切な措置を講じること。
 特に、イトトリゲモ、サガミトリゲモについては、残存地の管理に係る関係者間の調整を行うことにより、現生育地の維持・改善に努めること。
(3) 動物
1)  ムササビについては、個体の追跡調査から行動圏推定及び行動解析を行っているが、調査を行った個体が少数であり、予測の不確実性が考えられるため、事業の実施にあたっては、事後調査を十分に行い、その結果を事業の施工内容、環境保全措置の内容に反映させること。
2)  オオタカについては、当該事業実施区域近傍で複数の営巣が確認されている   ことから、当該営巣個体の保護に関しては、国際博会場関連オオタカ調査検討会における検討内容を確実に反映した適切な保護対策を具体的に明らかにし、繁殖等に支障が生じることのないよう対処すること。
 特に、博覧会会場候補地内の営巣個体については、評価書において「営巣地が事業実施区域外であり、本事業による改変域とある程度、距離があるため営巣に直接影響を及ぼす区域ではない」とされているが、現状ではこのように判断をする十分なデータは得られていないと考えられるため、工事による繁殖への影響等について、十分専門家の意見を聞いた上で、工事により営巣に支障が生じる恐れがあると見込まれる区域内における工事は、上記の保護対策が具体的に示されるまでは着工を控えること。
 また、工事実施にあたっては、事後調査を確実に行い、その結果を踏まえ、専門家の意見を聴取し、工事による影響が明らかな場合は、当該工事の中断を含め、適切な措置を講じること。
(4) 生態系
 里地生態系の典型性の観点からとりあげたタヌキについて行動追跡調査を行い、行動圏の分布状況の把握、各個体の行動分析による生息の維持の必要な環境要素の把握を行っているが、調査を行った個体が少数であり、予測の不確実性が考えられる。このため、事業の実施にあたっては、タヌキを含めた中型哺乳類に係る環境保全措置について、専門家の意見を聴取し、さらに具体的な検討を行うとともに、事後調査を十分に行い、その結果を事業の施工内容、環境保全措置の内容に反映させること。
(5) 景観
 緑化計画の策定や工法の選定にあたり、現状の里山的景観を可能な限り保全するよう十分配慮すること。
(6) 自然との触れ合い活動の場
 保全重要性が高いルートについて、造成による直接改変や利用環境の変化から実質的に消失するものがあることから、事業の実施にあたっては、代替ルートの検討、環境保全措置の実施により、人と自然との豊かな触れ合いの場の確保に努めること。
(7) その他
1)  支障木については、事業の実施にあたり、伐採量を必要最小限とし、極力樹林地の保全に配慮するとともに、可能な限り移植する等により事業地内の緑化木として活用すること。
2)  保全した表土については、採取地の近傍で活用すること。また、具体的な採取地及び活用地について、事前に調査・検討を行うこと。
3)  工事中において、事後調査等の結果、新たな貴重な動植物が確認された場合は、専門家の意見を聴取した上で、これらの種の生息、生育環境に対する影響が最小限となるよう、適切な措置を講じること。
4)  水辺環境の改変による影響が懸念されるため、工事及び代償措置の実施にあたっては、現況の水辺環境を可能な限り保全・活用するよう、施工に際して特に配慮すること。
(8)  (1)~(7)の旨について評価書に記載すること。

5 環境への負荷

 本事業の土地造成による大量の残土の発生が想定され、残土処理に伴う環境影響が 懸念されるため、その有効活用も含めた処理方法に係る具体的検討内容について、評価書に記載すること。

添付資料

連絡先
環境庁企画調整局環境影響審査室
室  長 :小林 正明 (6231)
 補  佐 :志々目友博(6233)
 審査官 :水谷 泰史 (6236)