報道発表資料

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2012年12月05日
  • 地球環境

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測データによる二酸化炭素吸収排出量等の推定結果の公開について(お知らせ)

 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」は、環境省、(独)国立環境研究所(NIES)及び(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した、世界初かつ唯一の温室効果ガス観測専用の衛星です。二酸化炭素とメタンの濃度を宇宙から観測することを主目的としており、平成21年1月23日の打上げ以降、現在も順調に観測を続けています。
 今般、温室効果ガス濃度の算定手法の改良等により精度の向上した「いぶき」による二酸化炭素濃度の観測データと、地上観測点における観測データとを用いて、平成21年6月から平成22年5月までの1年間について、全球の月別・地域別の二酸化炭素吸収排出量(正味収支)を推定した結果等を一般に公開します。
 世界で初めて、衛星観測による二酸化炭素濃度データを活用して全球の二酸化炭素収支を定量的に推定するとともに、衛星観測濃度データの有用性を定量的に実証しました。
 これまでは、地上観測データのみによって二酸化炭素吸収排出量の推定を行っていましたが、「いぶき」により得られた観測データを加えることにより、より精度の高い(不確実性の低い)二酸化炭素吸収排出量の推定値が得られました。これにより、二酸化炭素吸収排出量の推定における、衛星観測濃度データ活用の有効性が確認されました。
 このような全球炭素循環の研究の進展により、気候変動予測の精度が向上し、その結果、将来のより効果的な地球温暖化対策の政策立案にも資することが期待されます。
 今後は、推定結果を定量値としてより確実に求めるために、さらに研究を進め、濃度算出方法及び吸収排出量推定モデルの改良を行っていく予定です。

1.今回の「いぶき」(GOSAT)によるデータ公開の概要

(1) 二酸化炭素吸収排出量(正味収支)の推定結果の公開

 平成21年6月から平成22年5月までの12ヶ月分の全球における月別および地球を64分割した地域別の二酸化炭素吸収排出量(正味収支)(以下単に「吸収排出量」とします。
注1))の推定結果を一般に公開します。世界で初めて、衛星観測による二酸化炭素濃度データを活用して全球の二酸化炭素収支を定量的に推定(図1)するとともに、衛星観測濃度データの有用性を定量的に実証しました。(詳細な解説は別紙を参照)。
 図1は、国立環境研究所が独自に開発した大気輸送モデル(注2)を用いて、「いぶき」による二酸化炭素濃度分布データと地上観測点での濃度データ(注3)から、各地域の吸収排出量を推定する手法(インバースモデル解析)(注4)により求めました。

平成21年7月の推定結果

平成21年7月の推定結果

平成22年1月の推定結果

平成22年1月の推定結果

図1
地上測定ネットワークで得られた観測結果と「いぶき」の観測結果から推定した、全球64地域における吸収排出量(左列)とその不確実性(右列)。上段は平成21年7月(北半球の夏)、下段は平成22年1月(北半球の冬)の結果を示す。凡例のカラーバーの上段は陸域の、下段は海域の二酸化炭素の吸収排出量(右列ではその推定誤差)の大きさを表す。正が正味の排出、負が正味の吸収を表す。単位はgC/m2/日。(注5)

(2) 不確実性の低減

 地上観測データに「いぶき」の観測データを加えることで、月別・地域別の吸収排出量の推定値に関する不確実性が、地上観測データだけからの推定値にくらべ、大幅に(年平均値で最大で40%程度)低減され吸収排出量の推定結果がより確実となることがわかりました。
 顕著な例として、地上観測点の空白域(例えば、アフリカギニア湾沿岸域、アフリカ南東部、中近東及びインドなど)において従来よりも20~30%低減されました(図2)。これらの地域では、正味の収支として、吸収になっているか、排出になっているかが、より明確になりました。

図2
地上観測データに「いぶき」観測データを加えたことによる、全球の64地域における二酸化炭素収支推定値の不確実性の低減率(%)の年平均値。平成21年6月から平成22年5月までの月ごとに評価された低減率を平均して求めた。

(3) 二酸化炭素濃度の三次元分布推定データについて

 上記の二酸化炭素吸収排出量の推定結果に基づいたモデルシミュレーションにより、大気中の二酸化炭素の三次元分布を推定することも可能であり、今回これらの結果も公開します。この結果は、全球的な炭素循環の研究の進展に貢献することが期待されます。ただし、これらはシミュレーションに基づく推定結果であり、推定誤差が含まれることに留意する必要があります。(結果と詳細な解説は別紙を参照)
 なお、シミュレーション結果については、国立環境研究所内ホームページ(https://data.gosat.nies.go.jp/ 左列の“ギャラリー”のコーナーの一番下の項)にて閲覧することができます。

2.今後の予定

(1) 推定期間の拡長とデータプロダクト公開の継続

 今回求めた月別の全球を64分割した地域における正味収支の推定について、対象期間を平成22年6月から平成23年5月まで、さらに1年間延長します。その推定結果を「いぶき」の研究公募により採択された関連研究者等に提供するとともに、海外の他機関による同様の解析結果との比較研究などを通して、その妥当性について評価・確認を行った上で、今回と同様に一般に公開する予定です。

(注1)
地域毎の、陸域生態系(植物、土壌)による光合成や呼吸に伴う吸収排出、海洋による吸収排出、化石燃料消費や森林火災等による排出を合わせた、全体としての正味の吸収排出量(全吸収量と全排出量の差分)を意味する。
(注2)
二酸化炭素やメタンなどの大気微量成分の、大気中での輸送・拡散の様子を、気象データを用いて数値シミュレーションするための計算プログラムのこと。大気微量成分の空間分布と変動を再現することができる。
(注3)
米国海洋気象庁(NOAA)より公表されている二酸化炭素全球データ (GLOBALVIEW-CO2)。
http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/globalview/co2/co2_intro.html参照)
別紙では「GVデータ」と記す。
(注4)
国立環境研究所の開発した大気輸送モデル(NIES-TM version NfIES-08.1i)を用いた地域別二酸化炭素収支の解析。(S. Maksyutov, H. Takagi, et al. (2012): Regional CO2 flux estimates for 2009-2010 based on GOSAT and ground-based CO2 observations, Atmos. Chem. Phys. Discuss., 12, 29235-29288, doi: 10.5194/acpd-12-29235-2012参照)。利用した気象データ(JCDAS)は、気象庁及び電力中央研究所によるJRA-25長期再解析プロジェクトにより提供されたものである。
(注5)
「gC/m2/日」とは、二酸化炭素の質量を炭素(カーボン; C)の質量に換算した場合、対象とする地域から1日当たり、1日当たりに総量として何グラムの炭素が吸収または排出されるかを表す単位。「グラム・カーボン・パー・平方メートル・パー・日」と読む。

(参考)
「いぶき」後継機(GOSAT-2)の開発について
 今回、「いぶき」の観測データを利用した二酸化炭素吸収排出量の推定結果を世界で初めて公開しますが、温室効果ガス濃度の観測データを利用した吸収排出量の推定結果の精度を高めるには、「いぶき」の特徴・強みである、宇宙からの全球の多数点での観測を今後さらに充実させることが必要です。このため、平成29年度の打ち上げを目指して、さらに性能を向上させたGOSAT-2の開発に、環境省、NIES、JAXAで共同して平成24年度に着手しました。
 後継機開発に当たっては、観測データ数を大幅に増加させるために高度化された観測センサの開発に加えて、衛星観測データの処理手法や解析手法の高度化、収支推定に利用するインバースモデルの改良等を行う予定です。
 また、今後、米国等で二酸化炭素等の温室効果ガスの観測を専用で行う衛星の打ち上げが計画されていることから、衛星からの温室効果ガスの観測に関する国際的な連携・協力を推進していく予定です。

添付資料

連絡先
環境省地球環境局総務課研究調査室
代表:03-3581-3351
室長:辻原 浩(内線6730)
補佐:森 芳友(内線6731)
係長:後藤 敦史(内線6756)

(独)国立環境研究所 地球環境研究センター
衛星観測研究室長:横田 達也(029-850-2550)
物質循環モデリング・解析研究室長:
シャミル・マクシュートフ(029-850-2212)

(独)宇宙航空研究開発機構広報部
報道グループ 050-3362-4374

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