報道発表資料

この記事を印刷
2011年10月28日
  • 地球環境

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測データを用いた全球の月別・地域別の二酸化炭素吸収排出量の推定について(お知らせ)

 環境省、(独)国立環境研究所、及び(独)宇宙航空研究開発機構は、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT(ゴーサット)、平成21年1月23日打上げ)プロジェクトを推進していますが、今般、「いぶき」による観測データと地上観測データとを用いて、全球の月別・地域別の二酸化炭素吸収排出量(正味収支)の推定及び推定結果の不確実性(推定誤差)の算出を行いました。この結果、「いぶき」データを導入することで、従来の地上観測データのみから算出される推定値における不確実性が低減されることが示されました。本研究成果は、10月29日に日本気象学会のオンライン論文誌「SOLA」に掲載されます。
 今後、これらの推定結果を、「いぶき」研究公募における当該分野の関連研究者に対して提供し、研究者による評価・比較・確認後に、必要に応じて改良を加えたデータの一般提供を開始する予定です。

1.今回の「いぶき」(GOSAT)による成果の概要

(1)二酸化炭素吸収排出量(正味収支)の推定の精度向上

 「いぶき」による二酸化炭素の観測濃度データと、地上測定ネットワークデータ(注1)の平成21年観測分の公表値とを併せて利用し、平成21年6月から平成22年5月までの12カ月分の全球の月別・64地域別の二酸化炭素吸収排出量(正味収支)を算出しました。この結果から、月別・地域別の二酸化炭素吸収排出量(正味収支)の推定値に関する不確実性が、地上観測データに「いぶき」観測データを加えることで、従来よりも大幅に(地域によっては年平均値で最大で50%程度)低減されることがわかりました(詳細については別紙参照)。全球の二酸化炭素収支に関し、衛星データの有用性を定量的に実証する成果は、世界で初めてのものです。この「いぶき」観測データの有用性に関する研究成果は学術論文として、10月29日に日本気象学会のオンライン論文誌「SOLA」に公表されます(注2)。

(2)今回の二酸化炭素吸収排出量(正味収支)の推定からわかること

[1]
地上観測データに「いぶき」観測データを加えることで、月別・地域別の二酸化炭素吸収排出量(正味収支)の推定値に関する不確実性が、従来よりも大幅に低減される。「いぶき」による継続的観測と今後のデータ処理プロセスのさらなる向上によって、月別・地域別の正味収支の変化をモニタリングできると期待される。
[2]
特に、地上観測点の空白域である南米・アフリカ・中近東・アジアなどの領域における、二酸化炭素収支推定値の不確実性は、「いぶき」観測データを加えることによって年平均値で最大50%程度減少した。
[3]
北半球の夏季に北半球高緯度地帯で大きな吸収(植物による光合成の効果)、冬季に排出(植物による呼吸の効果)となる傾向が見られ、従来の知見とほぼ同様の結果が見られた。「いぶき」による継続的観測と今後のデータ処理プロセスのさらなる向上で、気候変動による陸域生態系の吸収排出量の変化の早期検出が期待される。
[4]
解析を行った1年間の二酸化炭素全球収支は、同期間の地上観測データが示す二酸化炭素濃度増加率から求めた値とほぼ同様の4[GtC/年]程度となっている。この収支の値の妥当性や化石燃料消費による人為起源や自然起源の寄与については今後更に確認を行う。
[5]
「いぶき」観測データを加えることで、地上観測データのみを用いて推定した二酸化炭素収支と比較して、月・地域によっては異なる推定結果が得られており、今後「いぶき」観測データの利用研究を進めることにより現象の理解が深まるものと期待される。

2.今後の予定

(1)海外の研究機関、研究者による評価・確認

 今回求めた月別の全球64地域における正味収支の推定結果は、「いぶき」の研究公募により採択された関連研究者等に提供するとともに、海外他機関による同様の解析結果との比較などを通して、その妥当性について評価・確認を行うこととしています。また、国際学会への発表などを通して、世界の関連分野の研究者による評価・確認を経ることとしています。その結果をもとに、必要に応じてデータ処理プロセスの改良をはかり、その後、これらの二酸化炭吸収排出量(正味収支)プロダクト(注3)およびそれに基づく全球の二酸化炭素濃度3次元分布プロダクト(注4)の一般提供を行う予定です。

(2)「いぶき」後継機の開発

 今回、「いぶき」の観測データの有用性が世界で初めて示されましたが、「いぶき」の特徴・強みである、宇宙からの全球の多数点での観測を今後も継続し、炭素循環解明、地球環境監視、世界の気候政策への貢献をさらに充実させることが必要です。このため、最短で平成28年ごろの打ち上げを目指して、さらに性能を向上させた後継機開発について、環境省、NIES、JAXAで共同して検討を進めています。
 後継機開発においては、観測データ数を大幅に増加させるために高度化されたFTSセンサの開発のほか、衛星データの解析アルゴリズムや収支推定モデルの改良と処理プロセスの高度化を行う予定です。
 また、今後、米国等で二酸化炭素等の温室効果ガスの観測を専用で行う衛星の打ち上げが計画されていることから、衛星からの温室効果ガスの観測に関する国際的な連携や、協力についても、取り組んでいく予定です。

【本件問い合わせ先】
(今回の解析結果および「いぶき」衛星搭載センサデータについて)
(独)国立環境研究所 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室
室長(国環研GOSATプロジェクトサブリーダー)
 シャミル・マクシュートフ(Shamil Maksyutov)
電話:029-850-2212
(独)国立環境研究所 地球環境研究センター 衛星観測研究室
室長(国環研GOSATプロジェクトリーダー) 横田 達也
電話:029-850-2550
(「いぶき」衛星、搭載センサ及び観測状況について)
(独)宇宙航空研究開発機構 宇宙利用ミッション本部 衛星利用推進センター
ミッションマネージャ 中島正勝
電話:050-3362-6130
(注1)
米国海洋気象庁(NOAA)より公表されている二酸化炭素全球データ GLOBALVIEW-CO2
http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/globalview/co2/co2_intro.html参照)
別紙では「GVデータ」と記す。
(注2)
日本気象学会のオンライン英文学術論文SOLA(Scientific Online Letters on the Atmosphere)。
著者:
H. TAKAGI, T. SAEKI, T. ODA, M. SAITO, V. VALSALA, D. BELIKOV, R. SAITO, Y. YOSHIDA, I. MORINO, O. UCHINO, R. J. ANDRES, T. YOKOTA, and S. MAKSYUTOV
論文タイトル:
On the benefit of GOSAT observations to the estimation of regional CO2 fluxes
掲載誌情報:
SOLA, 2011, Vol. 7, 161-164, doi:10.2151/sola.2011-041
(注3)
「いぶき」の標準プロダクトである「レベル4Aプロダクト」として公表予定。
(注4)
「いぶき」の標準プロダクトである「レベル4Bプロダクト」として公表予定。全球2.5度メッシュ、6時間ごとの三次元濃度分布として提供する。
連絡先
環境省地球環境局総務課研究調査室
代表:03-3581-3351
室長:松澤 裕(内線6730)
補佐:佐々木 緑(内線6731)
係長:河里 太郎(内線6735)

(独)国立環境研究所地球環境研究センター
物質循環モデリング・解析研究室長:
 シャミル・マクシュートフ(029-850-2212)
衛星観測研究室長:横田 達也(029-850-2550)

(独)宇宙航空研究開発機構広報部
報道グループ 050-3362-4374