報道発表資料

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1998年04月24日

ナホトカ号油流出事故環境影響評価総合検討会中間報告書について

平成9年2月に設置された「ナホトカ号油流出事故環境影響評価総合検討会」は、関係省庁及び地方公共団体が実施する環境影響調査の実施内容や調査結果の評価について総合的に検討を重ねた結果、このたび中間報告書を取りまとめることとなった。
 平成9年1月に発生したナホトカ号油流出事故は、我が国周辺海域における油流出事故として極めて大規模であり、重大な環境影響が発生していたことから、関係省庁が連携して、関連の幅広い分野の科学的知見を結集して環境影響調査を総合的に進めることが必要となっているところである。
 この中間報告書では、ナホトカ号油流出事故と本検討会設置後発生したダイヤモンドグレース号油流出事故について、漂着油の回収作業が展開されたことにより重大な環境影響は確認されていないものの、生物の生活史全体を観察しなければ影響の有無を断定しがたいことから、今後とも継続的、段階的な調査監視が必要であるとしている。
 なお、油流出事故の中長期的な影響については、本検討会で引き続き検討する。

1調査結果の概要

(1)ナホトカ号重油流出事故環境影響調査の概要

監視・予測手法
人工衛星搭載合成開口レーダによる海上浮遊油観測精度等の向上を図る解析技術を開発。
漂流予測システムの高度化の一環として、海流、油分等を調査(平成9年2~3月)したところ、海水中の油分濃度はこれまでの調査結果と同程度であり、水平的にも鉛直的にも有意な分布が認められず。
深海探査機「ドルフィン3K」により、平成9年1月から2月にかけて調査を行い、船名、沈没部船体の状況、重油漏出状況等を確認。更に、事故から約1年経過した平成10年3月に再調査を実施し、重油漏出箇所からの漏出量は全体的に減少しており、船体状況(姿勢、形状等)については特段の変化がないことを確認。
汚染状況の把握
(ア)汚染に関する基礎研究・基礎調査
船首部重油、漂着油等は、高沸点炭化水素を主体とし、少量の低沸点成分、硫黄化合物を含むこと等、主な化学的組成を明確化。
日本海における定期観測(平成9年1~11月)で油塊、海水中油分を調査したが、当該海域で通常に認められるバックグラウンドの濃度範囲内。
流出油の浄化速度と浄化に関係する諸要因より海洋の自浄メカニズムを解明するため、流出油の残存量調査を実施した結果、潮上帯上層では波等による物理的除去作用が、潮間帯~潮上帯では微生物分解等作用が、流出油の除去に対し寄与していること、また、潮間帯生物の回復状況に関する調査を実施した結果、油汚染のない地点の生物相に近づいていることを確認。
(イ)水質、底質の汚染状況調査
漂着直後の海岸部の環境影響は、大気については全般的に軽微。一方、水質については重油漂着地点で高沸点成分濃度が若干上昇。
沿岸海域の水質については、平成9年3月に重油漂着海岸の一部で重油成分が微量確認されたが、7月にほぼ通常レベルに低減。底質については、3、7月とも特段の影響は認められず。油処理剤は水質、底質とも3月には不検出。
流出油の回収
流出油は、国、地方公共団体、民間ボランティア等により、平成9年8月末までに約59,000k?(海水、砂等を含む。)を回収。
海岸の汚染状況調査
海岸への重油の漂着範囲・回数、及び回収量を整理。平成9年2~3月に海水及び砂礫中の油分等を調査したところ、一部の海岸で重油の残留が確認されたが、ほとんどの地域は定量下限値未満。
平成8年度の調査で比較的影響の大きかった6港湾を対象に残存状況を調査した結果、平成10年1月現在、非常に限定された範囲でゴミなどに混ざったごくわずかな油塊を確認。
浅海域用回収機の漂着油回収状況を調査し、回収機の改良の必要性を確認。
船首部が漂着した付近の砂浜域と岩礁域において、水質・底質・海底堆積物中の油分は一時的に検出された以外はほとんど定量下限値未満。生物種類数の異常な変化は認められず。
生態系、生物に対する影響把握
水産生物体内の油成分と油処理剤(非イオン界面活性剤)の濃度は、平成9年3月に調査したところ全ての海域において不検出から非汚染域と同レベルの範囲にあり、流出事故の影響は認められなかった。
平成9年3月に沿岸海域の一部の地点の貝類(ムラサキイガイ)から油成分でもある一部の成分が検出。
油が漂着した潮間帯・潮上帯で、平成9年2、3月に一部水域で動物の生息量の減少等の影響がみられたが、その後は回復傾向。潮下帯の生物には明瞭な影響は認められず。
平成9年2~3月に、重油が漂着した7府県の国立・国定公園内の海岸等において自然環境への影響調査を実施したところ、一部で潮間帯生物の活性の低下や植生への重油汚染等の影響等が見られた。
平成9年2月の植物プランクトン量は自然変動の範囲内。
被害を受けた海鳥類の種の同定、個体数の推定、繁殖地への油付着状況等を把握。
過去の油流出事故と環境調査の事例、生物に対する石油や油処理剤の毒性等に関する事例を整理。
大気、作業環境に対する影響把握
平成9年2月10日~14日の調査で重油漂着地域の大気中の炭化水素及び重金属の濃度は、対照地点と比べて同程度かそれ以下の濃度。
油処理剤による環境影響調査
バイオレメディエーション技術※等の有効性及び環境影響に関し、海外の適用事例等について文献調査し、技術の概要や適用事例を整理するとともに、バイオレメディエーション技術を適用するに当たっての留意事項を整理。
バイオレメディエーション技術とは生物を用いた環境修復技術をいう(以下同じ)。

(2)ダイヤモンドグレース号原油流出事故環境影響調査の概要

汚染状況の把握
(ア)水質、底質の汚染状況調査
事故直後の原油漂流地点の海水中の油分濃度は通常よりも高く、油処理剤も微量検出されたものの、5日後以降は油分濃度、油処理剤とも通常レベルまで低下。底質の油分濃度は通常レベルであった。
(イ)海岸の汚染状況調査
海中での目視観測では、大型生物への外観上の影響、廃油ボール等の油は認められず。
流出油は時間の経過とともに性状を変化させ、海水の粘性や密度に近づく。
底泥及びムラサキイガイから油分が検出されたが、その成分組成の特徴から流出油由来分は多くともその1/2~1/3程度と推定。
海水中の油分は漂着量の多かった浮島で他の地点より高く、上層よりも下層の濃度が高い。
生態系、水産生物に対する把握
主要魚介類については、事故発生当初、一部の魚介類に流出油由来の油成分が若干取り込まれた可能性があるが、8月には油成分及び油処理剤の影響は認められず。
大気・作業環境に対する影響把握
事故直後、炭化水素濃度の高い地点がみられたが、その後通常のレベルに低下しており、大気汚染による健康影響は軽微。

2 今後の課題

 これまで関係省庁及び関係地方公共団体において、ナホトカ号及びダイヤモンドグレース号油流出事故に係る各種の環境影響調査を実施してきたが、今後、調査研究を進めていく上で主要な課題は次のとおりである。

{1}水質等の環境及び生物における油濃度の分析手法の標準化
{2}水質等の環境及び生物における油処理剤濃度の分析手法の確立
{3}海洋環境、水生生物等に係るバックグラウンドデータの整備
{4}流出油の生態系への影響把握手法の確立
{5}油流出事故が発生した場合の迅速な初動調査
{6}油流出事故による景観に対する影響の評価手法の確立

添付資料

連絡先
環境庁ナホトカ号油流出事故環境影響評価総合検討会事務局
(環境庁水質保全局水質規制課)
 水質規制課長 :畑野 浩  (6640)
 課 長 補 佐 :西嶋 英樹(6643)
 係      長 :川井 仁一(6646)

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