報道発表資料

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1997年11月17日

「地球温暖化防止のための企業のボランタリーアクション等調査研究会」報告書について

環境庁の委託により第一勧銀総合研究所に設置されていた「地球温暖化防止のための企業のボランタリーアクション等調査研究会」は、この度、地球温暖化防止のための企業の自主的行動を環境政策の中にいかに位置づけ、活用していくかに関し、国内外の実例を調査し、今後の方向付けに関わる論点を整理した報告書を取りまとめた。
 本報告書では、{1}経団連環境自主行動計画について、経団連のほか6つの業界団体等に対してインタビューを行い、その概要と特徴について整理し、評価を行い、{2}産業界の自主的取組が政府の政策の中に位置づけられている諸外国の先行事例、外国企業の取組及び国内の地方公共団体の取組についてもレビューし、{3}その上で、主に「オランダ型」の取組を念頭に置いて、自主的取組を地球温暖化防止のための国全体の取組の中で位置づけ、活用するための方策に関わる論点を整理した。
 環境庁では、産業団体、学識経験者等に配布することにより、各方面での議論の深化を促すとともに、今後の地球温暖化防止のための政策立案のために役立てることとしている。
1.趣旨
 
(1) 近年、地球温暖化問題に対処するために、ドイツ、オランダ、カナダ等においては、企業、業界団体等による自主的取組が、環境政策の中に組み込まれる形で行われている。我が国では、社団法人経済団体連合会(以下「経団連」という。)が傘下の業界団体を主導する形で自主行動計画を取りまとめ、1997年6月に最終報告を発表した。産業界が全体的な取組として自主的行動計画を発表したことは、これまでの個別企業の取組と異なって我が国全体の対策の方向性にまで関わる大きな動きとして注目される。
 
(2) このような業界団体の自主的取組をどのように評価すべきか、現在の自主行動計画をこのまま進めれば問題が解決されるか、他の手段は必要がないのかといった観点から、客観的な検討が十分に行われていない状況にある。このため、自主的取組について、国内外の動向を把握した上で、足りない点があれば補い、優れている点があれば評価することにより、産業界の自主的取組がより一層円滑に進むための方法を探ることを目的に、平成8年度事業として、委託事業により検討をすすめてきたものである。
 
2.報告書の構成
 
 第1章  調査の趣旨
 
 第2章  企業の自主的取組の現況
 経団連からのヒアリングを下に作成した経団連環境自主行動計画の概要を紹介するとともに、研究会がヒアリングを行った日本電気工業会等6団体、東京電力等5つの企業について、計画の内容や特徴について整理している。
 
 第3章  諸外国の状況
 諸外国の温暖化防止に対する取組として、産業界の自主的取組が政府の政策の中に位置付けられている先行事例であるドイツ、オランダの例を紹介している。また、ゼロックス等の外国企業の取組についても紹介している。
 
 第4章  地方自治体による企業の温暖化防止取組促進施策
 兵庫県について、事業者の温暖化防止活動の促進施策の内容を概観している。
 
 第5章  自主的取組の評価と限界
 自主的取組に関する要素の抽出及びその類型化を行ったうえで、自主的取組の評価と留意点について理論的に整理している。
 
 第6章  実効ある自主的取組を推進するために
 第1章から第5章までの検討を踏まえ、実効ある自主的取組を推進するための必要な点を整理している。
 
3.報告内容のポイント
 
(1) 経団連環境自主行動計画の特徴
 
{1}  自主性重視による参画団体の拡大
 1997年6月の最終報告書の取りまとめでは、非エネルギー消費型産業も含め36業種137団体が参画した。この参画団体数の多さが今回の自主行動計画の大きな特徴である。 
 
{2}  数値目標
 地球温暖化対策の目標については、各団体の平均として、おおむね原単位による二酸化炭素発生量、エネルギー消費量について10~20%削減することとなっている。経団連の試算によれば、自主行動計画によって2010年の産業部門からの二酸化炭素排出量は1990年比ほぼ横ばいとされており、計画発表に際して経団連は「二酸化炭素排出量を1990年レベル以下に抑えるよう努力する」旨表明した。
 
{3}  定期的レビュー
 経団連は取りまとめにおいて定期的なレビューを明言している。レビューの時期については、初回は、1998年夏であり、その後は毎年レビューをすることとしている。また、その結果は全て公表していく方針である。
 
(2) オランダにおける自主協定
 
 1993年にオランダは国のコミットメントとして「1995年時点で1989年レベルに抑制、2000年までに3~5%の二酸化炭素の排出削減を達成する」旨発表した。
 これに沿って政府と産業界が「2000年までに1989年ベースで20%のエネルギー効率改善」を各産業界が達成することを目標として計画を作成し、それを基に政府と合意したものが省エネルギー長期協定である。
 
{1}  協定の締結手続
(1) 政府当局が主要産業界の代表にコンタクトをとり、政府の目標を説明。
(2) 各産業界が目標達成のための調査を行う。
(3) 各産業界が独自の調査に基づく目標達成の可能性を報告。
(4) 共同で合意できる目標を設定し、自主協定に結びつける。
 という順序で行われる(別紙)。
 
{2}  法的性格
 省エネルギー長期協定は規制ではないため、目標値が達成されなくとも必ずしも規制違反とはないが、後述のモニタリング制度により、企業側が目標達成に向けて最善の努力をしていることが証明されなければ協定違反となる。なお、規制当局は操業許認可権を有しているため、ライセンス更新時に問題になり得るという意味での間接的な抑止力もあるとされている。
 
{3}  モニタリング制度
 省エネルギー長期協定の場合、各業界や企業はエネルギー効率インデックス(EEI)を定義し、エネルギー環境公社(NOVEM)が作成した計算方式に従い、実際のモニタリングを行う。実際の報告手続は別紙のモニタリングの欄に示したとおりであり、企業毎のデータは公開されないが業界ごとのレポートは基本的に公開になっている。
 
{4}  評価
 オランダにおける自主協定では、目標が明示されており、その目標の達成のための手法については、各当事者が経済効率の良い手法を選択できる。協定の目標が達成されない場合の重い罰則規定は設けられていないものの、規制当局が契約の一方であると同時に事業の許認可の権限を有しているため、企業は目標達成に向けて努力することとなる。また、目標の達成状況については、第三者的機関による監査が行われるため、企業の自主的行動の実効性は相当程度に担保されている。
 いくつかの大企業と業界団体が政府との協定によって自主的に地球温暖化防止に取組んでいるオランダの例は、目標設定について検討の上、契約の手法で取組を担保しようとするものであり、オランダの社会的条件の下では効果的に機能し、企業・業界団体の取組を促進しており、注目に値する。
 
(3) 実効ある自主的取組を推進するために必要な点
 
{1}  自主的取組に対する評価
 経団連の自主行動計画は、地球温暖化防止に向けた重要なファーストステップとして、主として、事業分野毎の参画の可能性、環境技術情報の業界内への伝播、他業態との積極的な協力という点で評価できる。今回の自主行動計画の発表は、計画を発表していない業界及び企業に影響を与え、我が国における今後の取組を促す推進力となることが期待される。
 しかしながら、以下のような問題点も挙げられる。
目標設定における基準
 目標の設定方法が統一されておらず、また、業界団体によっては目標値設定の根拠が不明確なところ、目標を掲げていないところもある。
目標達成に向けたコミットメント
 経団連による業界間の調整は行われず、統一ルールでの目標設定を各業界に要請したわけではないため、各業界団体の目標達成に対するコミットメントには強弱がある。
アカウンタビリティ
 外部からの信頼性を高めるためには、内容について説明の準備をする必要があるが、今回の自主行動計画の中には、表現が曖昧で、目標値設定の根拠、具体的対策等が不明確な
ものがある。
明確な評価基準設定とモニタリング
 外部からの客観的な評価のためには、透明性の高いモニタリングの評価の体制が必要であるが、今回の自主行動計画では、多くの業界が評価の仕方について明示していない。
チェックアンドレビューに関する計画
 自主的取組はチェックアンドレビューが重要である。経団連は定期的なモニタリングと計画の見直しを明言しているものの、個別業界の中には計画の見直しを特に記載していない業界もある。
情報開示
 業界毎の行動計画を作成する際、個々の企業が経営の都合上、明確な情報を提供しなかったり、差し支えのない目標設定に拘泥したりする傾向がみられる。
産業界全体の取組による削減目標
 今回の自主行動計画の目標は、少しでも多くの業界団体の参画を得ることであったため、目標、手段の提示方法については参画主体の自主性に任せている。このため、産業界全体の二酸化炭素排出削減目標値は明確にされていない。
 
{2}  自主的取組の今後の課題
 
<産業界の課題>
目標設定のレベル
 自主的取組を尊重し、活用する場合は、地球温暖化防止に有効な水準を十分に満たす高い目標設定が期待される。
参加数の拡大
 自主的取組への参加数が少ない場合、産業界全体として、あるいは国全体として満足できる成果を期待するのは難しく、業界間の不公平感も払拭できない。今後、参加数の一層の拡大を図ることが必要であり、場合によっては何らかの追加的措置を講じることも必要である。
モニタリングとチェックアンドレビュー
 自主行動計画は、第三者によるレビューがあればその成果の実現もより確実なものとなるが、コストの点から企業による自己申告に頼らざるを得ないのが現状である。今後は自己申告の信頼性を高めるような社会システムづくりが必要である。
情報の開示
 情報の開示は、自己評価や社会の監視を呼び起こし、企業の活動計画を補正する結果、自主的取組はより効果的に推進される。今後は、同一評価基準に基づき行われること、および継続的に行われることの二点を確保するための情報開示のルールが必要である。
 
<行政の課題>
従来の施策の限界
 二酸化炭素は、直接的な有害物質でない等、その性質上、従来の規制的手法にはなじみにくい。当面の二酸化炭素排出削減は、規制的手法だけでなく、実現可能なアイデアを広く募集し検討することにより、より良い成果を得ていく方向で進められていく必要がある。
諸外国の例と日本への適用性
 いくつかの大企業と業界団体が政府との協定によって自主的に地球温暖化防止に取り組んでいるオランダの仕組みは注目に値する。このオランダの仕組みを日本に適用するのは、社会構造の違い等により、現時点では困難であるが、今後、オランダの仕組みを参考に、日本の仕組みを検討することは可能である。
自治体の役割
 地方の従来の公害防止協定の枠組の中に二酸化炭素の排出目標を織り込むという方法は、現在ある政策の中に温暖化防止対策を織り込むことを意味するため、最も取り組み始めやすい手法である。
規制的措置、経済的措置とのポリシーミックス
 政府と産業界が別々の施策を打ち出すよりも、両者にとって実施しやすく、意義のある施策を考えていく方が効率的である。自主的取組を推進するためには法規制や経済的手段を取り入れることは、むしろ産業界にとっても歓迎すべきと考え、積極的に受け入れ、進めていく必要がある。
規制を軸にした産業育成
 温室効果ガスの削減対策については、技術的に確立しているものであっても、経済的に採用できないものもある。このような場合に、進んだ技術を前提とするような規制が示されると、その規制により技術の開発や市場化、普及が促進されることにより、技術のレベルが向上し、優れた技術がコストの低い解決方法として選択されるようになり、結果的には国際競争上優位に立つこととなる。
助成手法や規制緩和
 企業が自主的取組を進めやすくするための支援策として、助成によるインセンティブの付与が考えられる。これについては、環境税の税収を、環境保全のための設備投資を促進する企業に対する助成や、環境関連設備の減価償却期間を早める税制優遇措置の財源にする方法により、企業の環境保全活動を一層支援する方法も考えられる。
 また、現在の技術に基づいて、他の政策目的の確保の必要性と温暖化防止施策の緊急性とを比較検討した上で、可能な限り他の政策目的に基づく規制については緩和することも考えられる。
 
<市民の課題>
産業界の自主的取組に対する市民の正当な評価
 消費者であり、企業人である市民が、地球温暖化問題に関心を持ち、産業界の自主的取組を正しく評価し、その意欲に応えていくことは、国全体としての地球温暖化問題の解決には欠かせない重要な要素であり、我が国の環境行動をより活発化し、力強いものにしていくと考えられる。
消費者としての意識の改革
   環境負荷の少ない商品を積極的に購入することは、消費者としての市民による最も身近な評価であり、市民の評価が得られない限り、企業の自主的取組はたちゆかなくなる。今後は、個人の健全な環境意識や倫理観の醸成を促す環境教育、企業による信頼性の高い環境情報の提供によって、漸進的に環境保全についてのコンセンサスができる状況を作り出していく必要がある。

報告書(全文)

添付資料

連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課
課長:小林 光  (内6740)
 補佐:上野 賢一(内6758)
 担当:山中 昌史(内6739)