報道発表資料

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2017年03月21日
  • 自然環境

環境省版海洋生物レッドリストの公表について

 環境省では、平成24(2012)年度より海洋生物レッドリスト作成の作業を進めてきました。今般、魚類、サンゴ類、甲殻類、軟体動物(頭足類)、その他無脊椎動物の5分類群のうちこれまで評価を行っていなかった種について、新たにレッドリストを取りまとめましたので公表します。
 絶滅のおそれのある種として海洋生物レッドリストに掲載された種数は、合計で56種でした。

1 海洋生物のレッドリストについて

 環境省版レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)とは、日本に生息又は生育する野生生物について、専門家で構成される検討会が、生物学的観点から個々の種の絶滅の危険度を評価基準に当てはめて科学的・客観的に評価し、その結果をリストにまとめたものです。環境省では、平成3(1991)年に主に陸域と陸水域の野生生物を対象としたレッドデータブックを作成して以降、レッドリストの見直しを随時行っています。

 一方で、海洋生物については、一部の種を除き、これまで絶滅のおそれの評価を行っていませんでしたが、海洋生物多様性保全戦略(平成23(2011)年3月環境省決定)において、「海洋生物の希少性等の評価」の推進が位置づけられるなど、海洋の生物に対する関心の高まりを受け、平成24(2012)年度から検討を開始しました。

 検討開始初年度の平成24(2012)年度には、海洋生物の希少性評価の検討を行い(報道発表:https://www.env.go.jp/press/16534.html)、水産庁とともに評価方法、評価対象、評価体制の整理を行いました(参考資料1)。

 ここでの整理を基に環境省では、広域に移動する種、二国間や多国間協定の対象として資源評価が行われる種、水産庁が資源評価を実施している種や小型鯨類などを除いた種について、絶滅のおそれの評価を平成25(2013)年度より開始しました。なお、既に環境省レッドリスト(陸域)で絶滅のおそれを評価している種についても、検討の対象から除いています。
 

 
図 環境省版海洋生物レッドリストの評価対象(イメージ)

 

 評価に当たっては、絶滅のおそれのある海洋生物の選定・評価検討会を設置し、対象種を①魚類、②サンゴ類、③甲殻類、④軟体動物(頭足類)、⑤その他無脊椎動物(宝石サンゴ、環形動物、腕足動物等)、の5つに分類群を分け、各専門家による分科会を設けて検討を行いました(参考資料2)。各分科会においては、「基本的評価方法(参考資料3)」及び「評価対象種の基本的条件(参考資料4)」を整理したのち、各種の評価を実施しました。なお、評価の基準とカテゴリー(ランク)は、平成27(2015)年度に公表した陸域の環境省レッドリスト2015(報道発表:https://www.env.go.jp/press/101457.html)で使用しているものと同じです(参考資料5)。

 

 

(参考)水産庁の評価結果:https://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/attach/pdf/20170321redlist-15.pdf
※令和4年5月25日URL修正 連絡先:水産庁増殖推進部漁場資源課生態系保全室(03-3502-8111)

カテゴリー(ランク)の概要

絶滅 (EX)

我が国ではすでに絶滅したと考えられる種

野生絶滅 (EW)

飼育・栽培下でのみ存続している種

絶滅危惧IA(CR)

ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの

絶滅危惧IB(EN)

IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの

絶滅危惧II類 (VU)

絶滅の危険が増大している種

準絶滅危惧 (NT)

現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種

情報不足(DD)

評価するだけの情報が不足している種

絶滅のおそれのある

地域個体群 (LP)

地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの

※単に情報が不足しているのではなく、詳しい情報が得られれば絶滅危惧に判定され得るものを指す。

 

 レッドリストへの掲載は、捕獲規制等の直接的な法的効果を伴うものではありませんが、社会への警鐘として広く公に情報を提供することにより、さまざまな場面で活用が図られるものです。

2 海洋生物レッドリスト及びその作成によって明らかになった点について

 対象となる種の生息状況等を分類群ごとに評価し、環境省版の海洋生物レッドリストをそれぞれ取りまとめました。5分類群のレッドリストの掲載種の総数(亜種を含む)は、下表のとおりです。

 

表 海洋生物レッドリスト掲載種数

 環境省版の各分類群の海洋生物レッドリストは、別紙1に示すとおりです。また、各分類群の海洋生物レッドリストの作成により明らかになった点は別紙2にまとめています。全体として明らかになった点の概要は、以下のとおりです。

絶滅危惧種は合計56種が選定されました。

 絶滅危惧IA類(CR)、IB類(EN)、II類(VU)の3つのカテゴリーの総称を「絶滅危惧」といい、これらに判定された種を「絶滅危惧種」と呼びます。絶滅危惧種は、各分類群の中で今後の絶滅の危険度が相対的に高い種を指しており、海洋生物レッドリストの評価においては、合計で56種が選定されました。

 各分類群における絶滅危惧種の傾向は、以下のとおりです。

○魚類では、合計16種が絶滅危惧種として掲載されました。掲載種には、南西諸島等の暖かい地域の沿岸域に分布する種が多くみられました。また、特定の環境に依存する傾向が見られたり、分布範囲の限られる種が多く挙げられました。

○サンゴ類では、合計6種が絶滅危惧種として掲載されました。掲載種は生息域が局所的である、あるいは分布が極度に分断されているなどの特徴があり、きわめて稀にしか確認されないものが多く、こういった種の絶滅の危険度が高まっていることが明らかになりました。

○甲殻類では、合計30種が絶滅危惧種として掲載されました。掲載種の多くは干潟や南西諸島の海底洞窟に生息する種であり、他の生物に寄生・共生する種も挙げられ、こういった種の絶滅の危険度が高まっていることが明らかとなりました。

○軟体動物(頭足類)では、絶滅危惧種として選定された種はなく、3種が準絶滅危惧種として掲載されました。これらは全てが沿岸に生息する種で、生活史の中で内湾の砂泥域や沿岸の転石帯(石や岩等の多い海岸)、やサンゴ礁といった環境を必要としており、沿岸開発により絶滅の危険度が高まるおそれがあることが明らかになりました。

○その他無脊椎動物では、合計4種が絶滅危惧種として掲載されました。これらすべては干潟(及びその沖の浅い海)で見られる種でした。干潟を主な生息地とする種は近年分布を縮小させているものが多く、こういった種の絶滅の危険度が高まっていることが明らかになりました。

情報不足(DD)と判定された種が多くありました

 情報不足(DD)は、絶滅のおそれがある可能性はあっても、そのように判定するに足る情報が得られなかったものです。情報不足(DD)と判定された種は5分類群合計で224種であり、掲載種全体の約50%を占めました。これらの種は、詳しい情報が得られれば絶滅危惧に判定され得るものであり、今後の調査等による情報の蓄積が求められます。

絶滅(EX)と判定された種は全体で1種でした。

 今回の分類群全体の評価において、絶滅(EX)と判定された種はオガサワラサンゴのみでした。オガサワラサンゴは、昭和10(1935)年に小笠原で記録された種であり、新種として記載された後に日本国内では一度も生息が確認されていません。

3 注目される種のカテゴリー(ランク)とその評価の理由(別紙3より抜粋)

 各分類群の掲載種のうち、注目される種のカテゴリー(ランク)と評価の理由を別紙3にまとめています。また、各分類群の概要は以下のとおりです。

 

【魚類】

和名 タマカイ 絶滅危惧IA類(CR)

写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館(瀬能宏撮影)

 

学名 Epinephelus lanceolatus

【種の説明と評価理由】

 本種は成熟サイズが約130cmとハタ科の中でも特に巨大であり、浅い岩礁やサンゴ礁に散在的かつ単独で生息することから、もともと極めて稀な種である。特に近年では、成熟個体の明確な漁獲・確認事例がほとんどなく、すでに国内における個体数は極めて少ないと考えられ、さらなる減少が懸念されることから、絶滅危惧IA類(CR)に選定した。

 

【サンゴ類】

和名 オガサワラサンゴ 絶滅(EX)

東北大学所蔵標本より撮影

写真提供:立川浩之(千葉県立中央博物館)

学名 Boninastrea boninensis

【種の説明と評価理由】

 昭和10(1935)年に小笠原諸島父島より採集された1群体に基づき新種記載された種である。国外でもインドネシアで報告されているのみであり、世界的にも稀な種であると考えられている。

 本種は、新種記載後日本国内において、さまざまな研究者による調査や環境省が実施している調査等でも今まで確認されたことはなく、一般のダイビング等でも報告された事例はないことから、飼育・栽培下を含め我が国では絶滅したと判断し、絶滅(EX)に選定した。

 

【甲殻類】

和名 オガサワラベニシオマネキ 絶滅危惧IA類(CR)


写真提供:佐々木哲朗(小笠原自然文化研究所)

学名 Paraleptuca boninensis

【種の説明と評価理由】

 小笠原諸島父島固有種のオガサワラベニシオマネキは、太平洋から東部インド洋に広く分布するベニシオマネキとされていたが、平成25(2013)年に新種記載された。

 本種は、小河川の河口干潟の非常に狭い範囲でわずかに確認されているのみであり、近年の調査によれば個体数が減少しており、絶滅の危険性が極めて高いと判断し、絶滅危惧IA類(CR)に選定した。

 

【軟体動物(頭足類)】

和名 ナギサアナダコ 準絶滅危惧(NT)


写真提供:小野奈都美

学名 Octopus incella

【種の説明と評価理由】

 マダコ科に属する全長15~20cm程度の小型のタコで、潮の満ち引きの影響があるサンゴ礁性の磯や干潟に生息しており、日本では沖縄島と瀬底島のみで見つかっている。

 本種は海岸の波打ち際に点在する石やサンゴ瓦礫の小穴に営巣し、産卵する習性をもつため、沿岸環境の悪化が繁殖に直接影響を及ぼす。沖縄県での沿岸開発の状況から生息条件は悪化状況にあると考えられ、今後絶滅危惧に移行する可能性があり、準絶滅危惧(NT)に選定した。

 

【その他無脊椎動物】

和名 オオシャミセンガイ 絶滅危惧IA類(CR)


写真提供:逸見泰久(熊本大学)

学名 Lingula adamsi

【種の説明と評価理由】

 世界最大級のシャミセンガイ類で、干潟やその周辺の浅い海の砂泥底に生息する。

 本種の生息地である有明海沿岸からの近年の採集例は極めてまれで、本種の生息地の状況は危機的であると考えられることから、今回もっとも絶滅の危険性の高い「絶滅危惧IA類(CR)」に選定した。

4 今後の対応

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保全は重要な施策であり、生物多様性条約COP10(平成22(2010)年10月)で採択された愛知目標においても、その1つに「2020年までに既知の絶滅危惧種の絶滅及び減少が防止され、また特に減少している種に対する保全状況の維持や改善が達成される」ことが位置づけられており、当該目標の着実な達成に向けて保全の取組を体系的・計画的に進める必要があります。

 環境省では、新たな海洋生物レッドリストについて広く普及を図ることで、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保全への国民の理解を深めるとともに、関係省庁や地方公共団体等に配布することにより各種計画における配慮等を一層促す予定です。

 また、海洋生物レッドリストの掲載種の中で特に保護の優先度が高い種については、生息状況等に関する詳細な調査の実施等により更なる情報収集を行い、その結果及び生息・生育地域の自然的・社会的状況に応じて「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく国内希少野生動植物種に指定する等、必要な保護措置を講じていく考えです。

 今回の海洋生物レッドリストに掲載された、これらの絶滅のおそれのある種を将来にわたって存続させて行くには、様々な主体がその意味について真摯に捉えることが重要です。このため、環境省としてはこうした観点からの普及・広報や保護措置の充実等の各種対策を一層推進していく考えです。

5 海洋生物レッドリストの入手方法

 以下のいずれかの方法で入手可能です。

  1. 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室で直接配布。
  2. 環境省ホームページよりダウンロード。
  3. 返送用封筒(A4版、切手510円分※を貼り宛先を記入)または、レターパックライトの封筒(料金430円、宛先を記入)を同封し、下記に送付。 
   ※2024年10月1日 郵便料金改定
 
〒100-8975

   東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館

                   環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 宛

連絡先

環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室
代表
03-3581-3351
直通
03-5521-8353
課長
植田 明浩 (内線 6460)
室長
番匠 克二 (内線 6677)
室長補佐
羽井佐 幸宏 (内線 6685)
係長
佐藤 直人 (内線 6671)