『田舎でシュウカツ(就活)』という取り組み名を聞いて「UターンやIターンの就職支援?」と思った方が多いのではないでしょうか。いえいえ、昨年のグッドライフアワードで優秀賞を受賞した『楠クリーン村』は、まさに村自体が若者の就職先。自分たちで開拓した畑でお茶やブルーベリー、野菜などを育て、太陽光発電などでエネルギーを自給して、共同生活を営んでいるのです。
自然エネルギーで生活しながら、新しいライフスタイルを構築!
活動のきっかけは?
農業の手伝いをするプロジェクトからスタート!
耕作放棄されていた茶畑の再生がスタートでした。
畑では野菜も作っています。
楠クリーン村を運営しているのは、『学生耕作隊』というNPO法人です。山口大学の学生を中心に、周辺の農業を手伝うために2002年(平成14年)に設立されました。当初は人手の足りない畑の農作業を手伝う活動でしたが、耕作放棄地を受け継いで農業を営むことに踏み出して、活動が広がります。
楠クリーン村は山口県宇部市郊外、およそ20ヘクタールほどもある森の中に広がっています。耕作放棄されていた茶畑の山の管理を地主さんから引き継いだ土地です。荒れ放題だった茶畑などをメンバーたちが再生させました。
さらに、2011年の東日本大震災をきっかけに、持続可能なライフスタイルへのチャレンジがスタートしました。電気も来ていない森の中にセルフビルドで家や倉庫を建てて、自然エネルギーで電力などを自給しながら、共同生活をする場所へと進化しました。農業を中心にして事業を作り、自活していこうという目標を掲げて、楠クリーン村の活動が本格的に始まったのです。
どんな取り組みを?
農業だけでなく、廃業した旅館の経営も後継創業!
廃業した旅館の再生にも取り組んでいます。
お茶は商品化して東京のショップなどでも販売中!
今、楠クリーン村では二十代を中心に9名のメンバーが共同生活しています。畑担当、建築担当など、それぞれが役割を分担して、村の自然を活用した農業の6次産業かと事業化に取り組んでいるのです。
おもな産物はお茶、米、みかんやブルーベリー。野菜を作る畑もあります。村で生産されたお茶などは、東京のショップでも販売しています。少し離れた場所には耕作放棄地を継承した田んぼもあって、自給自足用と販売用の米も昔ながらのはぜかけで作っています。
さらに、島根県の温泉津温泉にある『吉田屋』という100年続いた老舗旅館を受け継いで、「自給自足旅館」として週末のみ営業するというユニークな取り組みも始め ています。畑に限らず、その土地に伝えられた価値を受け継いで、新しいビジネスモデルを作っていくのが、楠クリーン村のチャレンジともいえるでしょう。
広大な山と畑の仕事などは、9人のメンバーだけでは大変です。村では夏休み期間中などに、国内外の学生などが体験的に村で働く「インターン」を受け入れて、活動を広げる取り組みにも力を入れています。
成功のポイントは?
思い切って飛び込んだ若い力と、周囲の支援が原動力
春のわらび狩りは地元の人たちにも大人気です。
脱穀や精米などの機械も近隣の農家さんから
提供されたもの。
現在、NPO法人の理事長として総務を担当する高田夏実さんは、神奈川県出身です。学生時代、そろそろ就職活動を始めなければという時期に楠クリーン村の活動を知り、「これしかない!」と感じてこの村にやってきたそうです。
メンバーたちの経歴はまちまちですが、都会で普通の会社に就職して生きていくことに疑問を感じ、自然や土地の風土と共存して新しいビジネスモデルや生き方にチャレンジする村の活動に飛び込んできた「熱意」は同じ。若いメンバーたちが試行錯誤しながらも、人生を賭したチャレンジを続けていることが、村の原動力になっているのです。
春になると、楠クリーン村の森には「わらび」がいっぱいできるそうです。好きなだけ採取できるわらび狩りは、地元の人たちにも大人気。不要になった農機具を提供してもらったり、いわば素人同然からスタートした若者たちに、農作業のコツを教えてくれたり。地元の人たちとの交流や支援は、楠クリーン村にとって大きな力になっています。
周囲の支援やサポートと、メンバーたちの本気の熱意が交わっているからこそ、自然エネルギーで生活するという壮大なチャレンジが成り立っているといえるでしょう。
レポート
火事から再起して、さらなるチャレンジを計画中!
昨年、思わぬ火事に見舞われてしまいました。
電力は太陽光発電で自給しています。
懐かしい五右衛門風呂もメンバーの手作りです。
食事づくりは当番制。自作の野菜などを
たくさん使います。
テーブルを囲んでみんなで食事。
いろんなことを話し合います。
現在、建築中の新しい事務所棟。
インターンなどゲスト用のコテージも
セルフビルドです。
太陽光で作った電気はバッテリーに
貯めて使っています。
今山口県食品ロス削減推進協議会の幹事でもある『キッチンあさくら』と『西の雅 実は、昨年のグッドライフアワード受賞の直後、村ではいくつかの建物が全焼してしまう火事に見舞われました。焚き火が建物に燃え移ったものの、水道がなく井戸水で生活している村のこと。消火する間もなく、ままたく間に居住棟や倉庫が燃えていまいました。
でも、村の活動はトラブルをバネにして再始動。取材に伺った時は、新しい事務所棟や、インターンを受け入れるためのコテージなどが建築中でした。また、村の入り口付近の道をメインストリートにして、パン工房などを始める計画が進行中です。
『西の雅 この日、居合わせたメンバーたちがテーブルを囲んで手作りのランチを食べながら、最近、鶏小屋のニワトリが卵をあまり産まなくなったことが話題になっていました。近くの農家さんに話して卵を産むニワトリと交換してもらうか。何羽かしめて「いただく」か。ところで、ニワトリをしめたことがあるか、などなど。
デスクの上にはセルフビルドの参考書などに混じって『イノシシを獲る』という本もあったりして。本やネットで調べ、近隣の先輩農家さんや大工さんにアドバイスをもらいながら「何でも自分たちでやる」という楠クリーン村の若者たちのたくましさや力強さを感じる取材となりました。