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事後評価 3.第3研究分科会<リスク管理・健康リスク>
i. 環境問題対応型研究領域

研究課題名: C-0801 細胞株とメダカの遺伝子破壊株(メダカ)を使った環境発がん物質を検出するバイオアッセイ系樹立の為の国際共同研究(H20-22)
研究代表者氏名: 武田俊一(京都大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 環境中に排出される有害化学物質の生体・生態への影響を検出するとして、野生型の、細胞やメダカを使ったバイオアッセイがある。しかし、野生型の生物は毒物を代謝・無毒化するので、毒物を高感度に検出できない。そして、バイオアッセイは必ず偽陽性の結果を出すが、野生型細胞や野生型動物のみを使った従来のバイオアッセイでは、偽陽性を検証することが困難である。有害化学物質の毒性をその化学構造からコンピューターで予測することが、将来必要である。ところが、偽陽性が多い実験結果は、コンピューターで予測することを目的とした学習データには使えない。
我々は、過去に世界に先駆けて、ニワトリ細胞株(DT40)とメダカにおいて簡便に遺伝子破壊する手法を確立した。そして、発がん物質によって生じた DNA損傷を効率よく修復できない、多種類のミュータント DT40細胞を樹立した。同様に、 DNA修復経路や小胞体ストレス応答が欠損したメダカを樹立した。

図 研究のイメージ        
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我々が提案する研究は、この遺伝子破壊生物(ニワトリ細胞株やメダカ)を、有害化学物質の検出およびその毒性の評価を目的にしたバイオアッセイに利用することである。言い換えると、特定の毒性(例、変異原性やミトコンドリア毒)を特異的に検出する手法を開発する方向に努力することを止め、どの遺伝子破壊がどの化学物質に対する生体応答(例、細胞死)に影響するかをハイスループットに解析する手法を開発する。そして遺伝子破壊と化学物質の構造との関連をデータベース化する。このデータベースを学習データにして、有害化学物質の毒性をその化学構造からコンピューターで予測することを最終目標にする。
我々が実施した研究は以下の3種類である。
1)変異原性をハイスループット解析 DNA修復酵素の遺伝子を破壊した DT40細胞を使って、変異原性をハイスループット解析できるようにする。この研究目標を米国国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)と共同研究することで実現する。 NIHとの共同研究で得られたデータは、すべて PubChemで公開することが義務づけられる。言い換えれば、自分でデータベースを管理する必要がない。この公開データから in silicoによる毒性や薬効を予測する手法を開発できる。
2)環境に存在する化学物質の変異原性の検出ソウル大学と協力して、 DT40細胞を使って、環境に存在する化学物質の変異原性を検出する。
3)遺伝子破壊メダカメダカの遺伝子破壊は、多くの手間とコストがかかる。破壊手法を見直し、コストを下げる。また過去に創った遺伝子破壊メダカで有害化学物質の評価を実際に行う。

■ C-0801  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/c-0801 .pdf PDF [PDF 299 KB]
※「 C-0801 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ (1)変異原性をハイスループット解析米国国立衛生研究所と共同研究し、 DT40細胞から作製された遺伝子破壊株は、化学物質の変異原性をハイスループットに検出するのに有効であることが証明できた。それだけでなく、我々が創った遺伝子破壊株を使った解析方法は、変異原性の機構(DNA毒性の内容)を解明できることも証明した。
(2)環境に存在する化学物質の変異原性の検出 Polybromi-nated diphenyl ethers (PBDEs)なかの BDE-47とBDE-49とが DNA毒性を持つことを証明できた。さらに、 BDE-47と BDE-49とに対する、様々な DNA修復欠損株のあいだの感受性のプロファイルから、 BDE-47と BDE-49がどんな DNA損傷を作っているかも推定できた。
2007年 12月 7日のタンカー事故から漏出した重油で汚染された海岸の土壌に含まれる残留化学物質の変異原性を証明できた。

図 研究成果のイメージ        
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(3)遺伝子破壊メダカメダカの遺伝子破壊を、次世代シーケンサーを使ってできるようにした。細胞を使った解析では、化学物質がもつ臓器特異的な毒性(例、生殖細胞への毒性)を検出できないことは明らかである。我々が世界で初めて創った遺伝子破壊メダカは、臓器特異的な毒性を解析できる有望なバイオリソースである。谷口が創った p53遺伝子破壊メダカは、変異原性以外の原因の発がん物質を検出するのに貴重な実験材料であることが証明できた

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 C-0801
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/C-0801 .html

3.委員の指摘及び提言概要

ニワトリ Bリンパ細胞株とメダカ遺伝子破壊株を使って環境発ガン物質を検出するバイオアッセイ系を樹立して、動物試験を削減し、より簡便でかつ信頼性の高い毒性評価手法を開発しようとする意図は評価できる。その中で、リンパ細胞株のミュータントを用いた研究では、亜ヒ酸ナトリウムの DNA毒性機構の解析、 PBDEs(Polybrominated diphenyl ethers)の DNA毒性の検出等の知見が得られている。
しかし、この試験系をハイスループットスクリーニングに用いて、多様な環境化学物質の in silicoの毒性予測につなげるためには、数多くの課題が残り、これらの課題克服のための工程や手順に関する考察が不十分である。また、次世代シークエンサーを利用して多種類の変異メダカを効率的に作製すると毒性評価におけるどのような課題が解決できるのか、その限界は何かを示して欲しかった。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: C-0802 レチノイン酸様化学物質による水環境汚染の実態解明およびリスク評価(H20-22)
研究代表者氏名: 池道彦(大阪大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ レチノイン酸(RA)様化学物質は、ビタミン Aの代謝物であるレチノイン酸(RA)の受容体(RA受容体(RAR)あるいはレチノイド X受容体(RXR)) に結合することでレチノイドシグナル伝達系を攪乱し、人間や野生生物に奇形等の重篤な生体影響を引き起こす可能性のある水環境の潜在的なリスクファクターである。近年、RA様化学物質による水環境汚染や、RA様化学物質が原因と推定される水生動物への悪影響が海外で報告されるようになってきたが、我々の予備調査でも、国内の水環境中においても RA様化学物質が存在することが確認された。しかし、RA様化学物質による水環境汚染の実態は殆ど明らかにされておらず、原因物質もごく一部の物質を除き特定されていない。このため、RA様化学物質汚染に伴う現状未知のリスクを正しく評価し、必要に応じて制御戦略を確立するための予見的研究が必要である。

図 研究のイメージ        
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そこで本研究では、国内水環境における RA様化学物質汚染の実態を明らかにし、その汚染によって人間および野生生物に対して生じ得る潜在的なリスクを推定することを目的として、各種水環境における汚染実態の把握、原因物質の特定、ならびにその各種生物への影響の評価を試みた。RA様化学物質のリスクは、人間および広範な動物種に及ぶことから、本研究の成果は、水環境中の生態系の健全性の保全や、特に水資源に乏しい都市域に暮らす人々の水利用をめぐる安全性の確保に大いに貢献するものと考えられる。

■ C-0802  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/c-0802 .pdf PDF [PDF 299 KB]
※「 C-0802 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ RARおよび RXRに対する結合活性を指標として近畿地方の河川、海域における RA様化学物質汚染の調査を行い、RXRアゴニストの存在は極めて局所的であり汚染レベルも低いが、RARアゴニストは普遍的に存在していることを明らかにした。また、淀川、猪名川における RARアゴニスト汚染度マップを作成し、流域レベルでの汚染分布を示した。河川における汚染分布と下水処理場における調査結果から、下水処理場の流入下水には RA様化学物質が普遍的に含まれているが、かなりの部分が下水処理で除去されることが明らかになり、下水処理場は RARアゴニスト汚染の原因にはなっていないことが示された。このことは、RARアゴニスト汚染がエストロゲン様化学物質汚染とは大きく異なる特徴を有することを示している。

図 研究成果のイメージ        
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河川水中の RARアゴニストは物質の同定には至らなかったが(継続検討中)、都市下水中の主要な RARアゴニストは天然の RA類とその代謝物である 4-oxo-RA類であることを明らかにし、その排出経路を推定するとともに、固相抽出と HPLC分画、LC/MS分析を組み合わせた RA類、 4-oxo-RA類の定量分析手法を開発した。また、RA類と 4-oxo-RA類の基本的な物性と RARアゴニスト活性を整理するとともに、活性汚泥処理による除去特性について検討し、汚泥への吸着や化学分解、生分解の作用により比較的容易に水中から除去できることを明らかにした。しかし、場合によっては、4-oxo-RA類の処理過程で未知の活性物質が生成する可能性のあることも示唆された。
他方、 RA様化学物質の各種生物に対する影響を正確に評価するため、既に構築できているヒトに加え、哺乳類(マウス)、両生類(ニシツメガエル)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ)の RAR、RXRに対するリガンド活性を評価できる実験系(in vivoレポータージーンアッセイ系、酵母 two-hybrid系)を構築した。また、その過程で、これまで未知であったメダカ RAR、RXRのリガンド結合領域の遺伝子配列を解明することができた。
構築した評価系を用いて RA類、 4-oxo-RA類の各種生物の RAR、RXRに対するアゴニスト活性を評価することにより、 4-oxo-RA類の影響(毒性)がヒトと魚類、両生類で異なり、 4-oxo-RA類は水生生物にとって RA類と同等かそれ以上のリスク要因となる可能性のあることを明らかにした。さらに、 RA類の妊娠中の齧歯類の内分泌機能への影響について検討し、 RA類が妊娠中のラット胎盤の内分泌機能に影響を及ぼさないことを明らかにし、 RA様化学物質のリスク評価においては種差の考慮が重要であることを示した。
これらの成果は、 8編の査読付き論文として発表しており、さらに 4編の論文を投稿準備中である

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 C-0802
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/C-0802.html

3.委員の指摘及び提言概要

奇形誘発因子であるレチノイン酸様化学物質の水環境中における存在を明らかにし、そのリスク評価を行い、これらの結果を、発表を通して社会に広く知らしめたことは評価できる。本研究で開発されたレチノイン酸様化学物質汚染の実態調査における手法は、今後多くの有害化学物質調査の参考となりうる成果である。また、水生生物(メダカ、カエル)に対するレチノイン酸受容体(RAR)およびレチノイド X受容体(RXR)アゴニスト活性評価手法が提案されたことは、水生生物に対する影響評価手法としても有用である。
ただし、今後他の水生生物に対する影響をどのような戦略で実証していくかの検討、及びレチノイン酸様物質の定量化並びに発生源の解明を進めて、環境汚染の解決に役立つ手法の確立を期待する。また、実環境中での“リスク評価”の観点からは、さらに低用量でのアッセイ系試験法の開発が望まれる。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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