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事後評価 2.第2研究分科会<環境汚染>
i. 環境問題対応型研究領域

研究課題名: B-0801 東アジアにおける生態系の酸性化・窒素流出の集水域モデルによる予測に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 新藤純子((独)農業環境技術研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 欧米では 1980年代以降、大気からの酸性物質の負荷と森林生態系の物質循環調査の詳細なモニタリングおよびそのモデリングにより、土壌や渓流水の酸性化や植生変化などの進行や回復過程の解明が行われている。東アジアは近年の急速な経済発展のもと、酸性沈着量の増大も予想されているが、特に熱帯地域における上記の様な影響解明のための生物地球化学的循環に関する調査はほとんどなく、循環の特徴やメカニズムは未解明である。また既存のモデルの多くは温帯から亜寒帯の生態系を対象としており、熱帯・亜熱帯地域への適用性はほとんど検討されていない。またその多くは非常に詳細な入力データが要求され、測定データの少ないアジアへの適用は困難な状況である。
本課題では、熱帯域を対象に集水域内の物質収支解析のためのモニタリング手法の確立とモデルの作成、また、これらを用いて酸性物質の生態系への流入・循環・流出の特徴とそのメカニズムを解明すること、更に、森林流域を含むより広域な領域を対象とした窒素収支の将来予測も含む経年的な変化を評価し、その中で大気沈着の寄与を明らかにすることを目的とした。

図 研究のイメージ        
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このためタイのサケラートおよびマレーシアのダナンバレーの小流域を拠点サイトとして設定し、各々拠点サイトを含むナコンラチャシマ県およびサバ州を研究対象領域として、以下の3サブテーマで研究を実施した。
(1)東アジア集水域を構成する生態系における酸性物質の循環のモデル化に関する研究
(2)集水域システムにおける酸性物質の蓄積・流出過程のモデル化に関する研究
(3)東アジアにおける集水域モデル開発のための渓流水化学性および物質循環の解析

■ B-0801  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/c-082.pdf PDF [PDF 250 KB]
※「 C-082 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ (1)サブテーマ3による観測結果やタワー観測データ、衛星データに基づいて森林の物質循環と大気沈着を考慮した土壌影響モデルを作成し、加治川(新潟県)のデータで検証した後、拠点サイトに適用した。サケラートで観測された表層土壌 pHの季節的な変化と類似の変化が推定され、モデルを用いた要因解析の結果、短期的な pH変化は雨季と乾季の水分条件の違いに起因すると考えられた。加治川と比較すると、両地点では大気沈着量に比べて、生物地球化学的循環量が大きいこと、大気沈着量の増大は長期的に土壌 pHの低下を招く可能性があることを示した。また、サブテーマ2による窒素循環とリンクさせることにより、ナコンラチャシマ県の 8%を占める森林からの窒素流出は県全体の負荷の 2%程度であると推定した。
(2)ナコンラチャシマ県とサバ州を対象に家庭、農畜産業および自動車からの窒素排出量の 1980年〜 2005年の推移、および将来の人口、作物生産、自動車台数と排出規制への適合率などの予測に基づいた 2030年までの変化を推定した。ナコンラチャシマ県では人口と一人当たりのタンパク質消費量の増加、窒素肥料使用量の増加により、窒素排出量は 1995年ころまで急激に増大したが、以降は安定し、今後の変化も小さいと推定された。サバ州では増大は現在まで継続し、特に近年のパームオイル需要の増大に伴う農耕地の拡大と肥料使用量の増加の寄与が大きい。今後、水系への窒素流出と共に肥料からのアンモニア発生量増加の可能性を示した。一方両地域とも自動車からの窒素酸化物の排出量は排出規制の導入により今後低下すると推定された。

図 研究成果のイメージ        
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(3)拠点サイトにおいて大気沈着量と渓流水質の継続的な観測やイオン交換樹脂を用いた土壌中の物質フラックスの観測等を行い、気象条件や植生の異なる両集水域での物質循環特性を明らかとした。熱帯多雨林のダナンバレーは内部循環が大きく高い酸中和能を有しているのに対して、熱帯乾燥林のサケラートでは大気沈着量や渓流水質が季節により大きく変動し、渓流水質は雨季と乾季の交代や大気沈着に敏感に応答する酸感受性河川であることを示した。拠点サイトを含む広域観測も実施し、両地域とも拠点サイトは河川水の pH、EC、アルカリ度が最も低く酸感受性が高い地点であった。本研究の成果に基づいて作成した集水域モニタリングガイドラインは EANET科学諮問委員会において承認され、 EANET集水域モニタリングの本格的実施の基礎となる。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0801
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/B-0801 .html

3.委員の指摘及び提言概要

これまで酸性沈着の調査や解析がほとんど行われていない熱帯域の森林や流域(タイの熱帯季節林、マレーシアの熱帯多雨林)を対象に、土壌化学プロセス・窒素循環モデルを作成、検証し、目標を概ね達成した。また、熱帯、亜熱帯雨林での土壌、渓流水化学性の国際共同研究成果も整いつつある。
水域システムの蓄積、流出過程のモデル化については、上記土壌化学プロセス、窒素循環のモデル化のアプローチとの整合性、相補性、継続性は見られず、大気沈着、降水から集水域流出に至る全体システムのモデル化には及ばなかった。なお、本課題にはサブテーマが 3つあるが国際誌への成果の発信が少なく、全体としてのまとまり感がみられなかった。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: B-0802 東アジア地域における POPs(残留性有機汚染物質)の越境汚染とその削減対策に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 森田昌敏(愛媛大学農学部)

1.研究概要

図 研究のイメージ 我が国において 3地点の大気定点モニタリング、東シナ海での 3回の航海による洋上大気モニタリングおよび海水モニタリング、国内および中国、韓国を含む松葉を用いたモニタリング、日本海、東シナ海から太平洋にわたるイカを用いたモニタリング更にはスペシメンバンクに蓄積されたイカおよび二枚貝の分析を通じて、有機塩素系農薬を主体とした有機残留性汚染物質(POPs)の我が国周辺での現在の分布の状況および過去から現在に至るトレンドを明らかとした。これらの POPs類は高濃度の汚染地点から低濃度の汚染地点へ、また大気経由では西から東へ、気化 /沈着を繰り返しながら寒冷な北への移動が、そして水圏経由では海流にのって移送されていると思われる。越境汚染が明確に観察されたのは、マイレックスの場合であった。本物質は、大陸側で使用され、その地域において高濃度で見いだされるとともに我が国で使用実績のない物質であり、日本では低濃度であること、そしてその汚染は大気経由で(一部は海流にのって)我が国に運ばれたと推測された。
汚染物質の移送現象は、物質の物性、発生量、気象等に支配されるが、モデル化することによりシュミレーションすることができ、その程度を見積もることが出来る。全球多媒体輸送・動態モデルの開発を試み、各種 POPs化合物について東アジア地域の大気濃度に対する地域内排出の寄与の推定が行えるようになった。

図 研究のイメージ        
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■ B-0802  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/c-083.pdf PDF [PDF 234 KB]
※「 C-083 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 研究は 4つのサブテーマについて行なってきたが、その達成は次のように評価できる。
[1] POPs全球多媒体輸送・動態モデルは一応の完成をみている。このモデルは多くのインプリケーションをもっており、新しい場への適用等、活用の場を拡大させることは重要と思われる。

図 研究成果のイメージ        
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[2]東アジア諸国における POPsの排出推定と排出削減対策に関する研究では、中国におけるマイレックス汚染、インドネシアにおける森林火災によるダイオキシン発生量推定等に一定の成果をあげ、また、今後の POPsの新規化学物質(デクロランプラス)についての中国での基礎的知見を得ている。
[3]東アジア地域・西太平洋地域における POPsの定点モニタリングでは広い地域にわたる POPs成分の分析値の集積、および輸送経路の検討を可能として、我が国に使用実績のないマイレックスについては越境汚染を証拠だてることが可能とした。また同時に海流を通じた移送の重要性も示された。
[4]スペシメンバンク試料を用いた汚染レベルの時系列的変化の解明は時間軸を遡及して、過去から現在に至るまでの汚染解析を通じて、汚染の全容解明にむけて、また長期的移送にかかわる情報を含めて重要な知見が得られている。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0802
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/B-0802 .html

3.委員の指摘及び提言概要

課題全体として、また 4つのサブテーマについては、予定された計画が遂行され順当な成果を上げたと評価されるが、総体としてのまとまり感が薄い。また、研究目的に削減対策について明記されているが、結果は不十分である。
各サブテーマで扱った POPsの種類に統一性がないため科学的法則性の提示に至っていないこと、サブテーマ間の連携により導かれた結果や結論が乏しいこと等は、本研究の成果が断片的に利用されることはあっても、将来予測や政策提言の場で統一感のある総合的指針として効果を発揮する可能性は低いと思われる。国際誌発への表論文は多いもののハイランクの国際誌に掲載された論文は少なく、学術的な波及効果や国際的インパクトは弱いと考えられる。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: B-0803 次世代大気モニタリングネットワーク用多波長高スペクトル分解ライダーの開発に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 西澤智明((独)国立環境研究所大気圏環境研究領域遠隔計測研究室)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究では、多種多様なエアロゾル特性を精緻測定でき、かつ時間連続的にその動態を把握できる次世代のエアロゾルモニタリングネットワークの構築を主眼とし、このネットワークの実現化に必要となる、小型で自動連続運転可能なネットワーク用のマルチチャンネルライダーのプロトタイプの開発を目的とする。具体的には、高スペクトル分解ライダー (HSRL)技術に基づき、 Nd:YAGレーザーから得られる3波長 (1064 nm, 532 nm, 355 nm)を用いて、2波長 (532 nm, 355 nm)の消散係数、3波長の後方散乱係数および2波長 (1064 nm, 532 nm)の偏光解消度を測定する小型の昼夜自動連続測定可能なマルチチャンネルライダーシステムを開発する。先行研究で個別に開発された波長 532nmと 355nmでの HSRL技術(各々、狭帯域フィルターとしてヨウ素吸収フィルターとファブリペロエタロン(以下、エタロン)を用いる)を 1台のライダーに合理的に統合することで、 2波長 HSRLシステムを構築する。

図 研究のイメージ        
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さらに 2波長(1064nm, 532nm)での偏光測定機能も組み込むことで、世界屈指のマルチチャンネルライダーシステムの構築を目指す。
ネットワーク観測を視野に入れ、長期観測に耐えうる小型のライダーシステムを構築し(サブテーマ1)、
自動連続測定機能(レーザーと狭帯域フィルターの自動波長調整システム)の開発を行う(サブテーマ2)。

■ B-0803  研究概要
./pdf/b-0803.pdf PDF [PDF 287 KB]

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ サブテーマ1(ライダーシステムおよびデータ処理手法の最適化に関する研究)では、小型かつ高性能な光学系及び信号処理を実現するライダーの最適設計を考案し、ライダーシステムの構築を行った。また、本ライダーシステムに適した受信信号の幾何学的効率等の校正手法を検討し、信号解析を行った。粒子(エアロゾル及び雲)の消散係数・後方散乱係数・偏光解消度を精密に導出する解析手法の開発も行った。構築したシステムを用いた実測を行い、開発した解析手法を用いてその信号解析を実施した。導出した粒子光学特性が先行研究の観測結果と整合することを確認し、本ライダーシステム及び解析手法の妥当性を実証した。本研究では、小型の多波長 HSRLシステムの骨子を世界に先駆けて構築することに成功した。この技術統合によるライダーのマルチチャンネル化は、遠隔計測手法によるエアロゾルの分離測定および光学特性測定を革新的に飛躍させるものである。
サブテーマ2(自動波長同調システムの開発に関する研究)では、ヨウ素吸収フィルターの吸収波長へレーザー波長を常時固定し(レーザー波長固定手法)、かつ固定したレーザー波長へエタロンの透過波長を常時調整する(エタロン透過波長調整手法)技術の開発を行った。これらの技術は HSRLの測定精度を維持し、かつ自動連続測定を可能とするために必須となる。レーザー波長固定手法では、先行研究で開発された AOM(音響光学変調器 )を用いた手法を発展させ、より精度良く波長固定できる手法を考案し、本ライダーシステムへ実装した。実測を行い、長時間にわたってレーザー波長を適切にヨウ素吸収線へ固定できることを実証した。

図 研究成果のイメージ        
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エタロン透過波長調整手法では、エタロン透過光の干渉縞のパターンの変化を常時モニターし、パターンの変化に応じてエタロン内の圧力を常時調整することで、レーザー波長へエタロン透過波長を固定する方法を考案し、本ライダーシステムへ実装した。実測結果から、本手法を用いることでエタロン透過波長をレーザー波長へ常時調整できることを実証した。
本研究で開発した自動波長調整技術は、多波長 HSRLを自動測定化するための根幹技術である。 HSRLの多波長化は世界の潮流であり、自動測定化のために本技術が広く利用されることが期待できる。また、十分な精度を持った時間連続の観測(及び解析)データは粒子の大気環境や気候システムへの影響の評価において必須であることから、本技術開発の貢献は大きい。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0803
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/B-0803 .html

3.委員の指摘及び提言概要

小型で自動連続運転可能なネットワーク用のマルチチャンネルライダーシステムとデータ処理手法の最適化や自動波長同調システムの開発が研究計画に沿い達成されたことは高く評価できる。
この次世代型ライダーを用いエアロゾルの種類(煤、硫酸塩、黄砂など)の同定や動態等の解析に積極的な応用が期待される中、実用化に向けた検討がさらに必要。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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研究課題名: B-0804 浚渫窪地埋め戻し資材としての産業副産物の活用−住民合意を目指した安全性評価に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 徳岡隆夫(NPO法人自然再生センター)

1.研究概要

図 研究のイメージ 日本を代表する汽水湖の中海には、干拓事業に伴い形成された水深 10〜14mのヘドロが堆積した浚渫窪地が多く存在する。窪地から溶出する栄養塩や硫化水素は中海の水質に大きな影響を及ぼすと考えられていて、浚渫窪地を対象に現況調査を行い、窪地の形状、堆積物量、水質などの状況を明らかにした。また、埋め戻し材として利用可能と考えられる産業副産物の安全性について、住民の合意が得られる評価方法として生物影響評価試験及び生態系影響評価試験を行った。また、埋め戻しに伴う環境影響を調査し、環境影響の少ない埋め戻し工法を検討すると共に、石炭灰造粒物による覆砂効果について調査した

図 研究のイメージ        
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■ B-0804  研究概要
./pdf/b-0804.pdf PDF [PDF 300 KB]

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ (1)中海浚渫窪地の現況調査研究
音波探査によって窪地の形状と面積・体積を求めた。また、音波探査記録と柱状堆積物試料との比較によって,音波探査記録の透明層を追跡することでヘドロの層厚分布を把握できることがわかった。窪地内の水質は弓ヶ浜沿いに連続してつながる窪地と安来沖などに点在する独立性の強い窪地とで挙動が異なった。独立性の強い窪地では 6月から 11月にかけて無酸素状態が継続し、硫化水素の蓄積がみられ、無機態リンやアンモニア態窒素の蓄積がみられた。連続した窪地でも 6月から 11月にかけて無酸素状態が継続したが、アンモニア態窒素の蓄積は観測されなかった。流向流速計の測定結果から、連続した窪地ではかなり強い流れが確認され ,水が入れ替わっていると推測された。また、独立性の強い窪地では内部セイシュによる往復の流れが観測された。

図 研究成果のイメージ        
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(2)産業副産物の埋め戻し材としての完全性評価研究
埋め戻し資材に産業副産物を活用するため、イシマキガイを指標生物としたバイオアッセイを行い、産業副産物の安全性を評価した。その結果、廃瓦、石炭灰造粒物、鋳物廃砂造粒物、酸化スラグ、廃耐火レンガにおいて重金属の生物濃縮は確認されず、浚渫窪地の埋め戻し材料としての候補となり得ると考えられた。また、単一の生物に対する評価手法に加えて生態系影響評価を試みた。生態系影響評価試験は 270Lの屋外水槽に中海の底泥と湖水を入れることで疑似中海生態系を作り、試験資材を入れて試験した。一次生産を指標に試験した結果、上記の産業副産物では一次生産を阻害する資材はなかった。
(3)埋め戻し工法と埋め戻しに伴う環境影響評価
産業副産物である石炭灰を造粒した石炭廃造粒物 750m3を細井沖浚渫窪地に40mx40の範囲に覆砂する実験を行った。覆砂による N、Pおよび H2Sの溶出抑制効果について底泥チャンバーを用いて検討した。栄養塩の溶出抑制効果および酸素消費速度の抑制効果が 1年以上にわたって確認することができた。埋め戻し工法について覆砂工事時にセジメントトラップを用いて調査した。巻き上がりは塩分躍層より下位に限られることがわかり、躍層下までシルトスクリーンを下ろすことで、周辺への施工時の影響は防げる事が分かった。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0804
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/B-0804 .html

3.委員の指摘及び提言概要

汽水湖である中海特有の干拓事業に伴い形成された水深 10〜14mヘドロが堆積した浚渫窪地の問題を取り上げた課題であり、中海の海底における窪地の状態、浚渫窪地の水質特性およびヘドロの堆積量を定量化するとともに、埋め戻し材として石炭灰造粒物による覆砂効果など成果が得られ、今後の中海の水質改善の方向性を概ね示すことができた。一方、サブタイトルにもなっている住民合意形成を目指した安全性評価については、安全性や環境影響についての評価はなされているが、それと住民合意形成との関係が判然としない。合意形成には、どのような情報をどのように提供するべきなのかなど、情報の内容と提供方法などについての検討とそれに基づく安全性評価が必要なのではないか。成果はシンポジウムやセミナーで発表されているが、査読論文としても発表すべきである。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: B-0805 湖内生産および分解の変化と難分解性有機物を考慮した有機汚濁メカニズムの解明(H20-22)
研究代表者氏名: 一瀬諭(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)

1.研究概要

図 研究のイメージ 近年、湖沼や海域において難分解性と考えられる溶存態の有機物が増加傾向にある可能性が指摘されている。我々は、琵琶湖内において、これら有機物指標にかかる水質メカニズムを解明するため、湖沼への有機物供給における内部生産の寄与を明らかにし、今後の湖沼管理政策へ貢献することを目的として、プランクトンの長期的な変動解析と内部生産構造の変動解析を中心に、湖内における生産や分解の変化と難分解性有機物を考慮した水質汚濁メカニズムの解明についての研究を実施した

■ B-0805  研究概要
./pdf/b-0805.pdf PDF [PDF 459 KB]

図 研究のイメージ        
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2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 琵琶湖における過去 30年間の植物プランクトン定期調査データの変動解析した結果、琵琶湖において CODと BODの乖離現象が特に顕著となってきた 1985年以降、植物プランクトンが小型化し、藍藻等の粘質鞘を有する植物プランクトンの優占度が増している特徴が明らかとなった。
また、過去 30年間におけるバイオマスの 53%を占めた 13種類について大量培養し生分解試験を実施した結果、 3か月 (100日間分解 )経過しても CODとして平均 35%の有機物が残存しており、 TOCとしても平均 25%が残存しており、湖内でプランクトンが生産した有機物が長期間分解されずに湖水中に残存していることが明らかとなった。

図 研究成果のイメージ        
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プランクトンの分解者である湖水中の細菌類による難分解性有機物の生成を検討するため、湖水中にグルコースやアミノ酸を添加して細菌を培養繁殖させ、繁殖後の溶存有機物の化学組成の変化や、溶存有機物の変成について評価した結果、細菌の増殖にともない新たな溶存有機物が生成されることが確認され、さらに、細菌の増殖により生成する有機物は、親水性で、分子量 1,000以下の低分子量の有機物が主成分であることが確認された。
これらのことから、植物プランクトン種組成変化に伴う内部生産構造の質的、量的変化が難分解性有機物の供給に大きく影響している可能性が明らかとなった。さらに、 1995年と 2000年および 2005年の純生産量を比較推定した結果、 1995年に比較して、 2000年および 2005年は湖内純生産量がそれぞれ 1.62倍、 1.69倍に増加していることが推計された。また、藍藻などの小型種が大量に発生することで純生産量を増大させている可能性が示唆された。さらに、琵琶湖への有機炭素の流入負荷は、滋賀県の試算によれば 28 tonC/d(1995年)から 19 tonC/d(2005年)に減少している。一方、琵琶湖の内部純生産量は逆に増加している上、流入負荷量よりも一桁大きな値を示していることから、琵琶湖の有機物による水質汚濁を考える上で、内部生産制御の重要性が明らかとなった。本成果は、今後、水質管理目標の検討、湖沼管理政策立案への基礎資料として活用する予定である

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0805
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/B-0805 .html

3.委員の指摘及び提言概要

膨大な植物・動物プランクトン等のデータを活用し、植物プランクトン種組成変化に伴う内部生産構造の質的、量的変化が難分解性有機物の供給に大きく影響している可能性が明らかしたことは高く評価される。水質管理目標の検討、湖沼管理政策立案に貢献できる点でも評価される。
各テーマの結果を総合し定量性を持った成果としてまとめること、残された課題(CODと BODの乖離現象への内部生産の影響、内部生産の難分解性物質への寄与、難分解性物質の正体等)の検討、論文発表が今後の課題。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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研究課題名: S2-01 外場援用システム触媒による持続発展可能なVOC排出抑制技術に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 尾形敦((独)産業技術総合研究所環境管理技術研究部門)

1.研究概要

図 研究のイメージ 環境触媒の活性成分や燃料電池の電極として用いられている白金、パラジウム等の貴金属は、世界的な環境意識の高まりから、使用量が増大している。一方で、貴金属系触媒ほど性能は高くないが、次候補として卑金属系触媒も考えられている。しかしながら、一部の重金属成分は、触媒の製造・廃棄時の環境中への排出、すなわち「ライフサイクルにわたる環境リスク」が懸念されている。これらは中長期的に使用の制約・制限が予想されるが、ポスト貴金属系触媒の開発は民間では大きなリスクを伴うため進んでいない。
本研究では、環境に負荷が少ない材料を用いた新規触媒、並びに触媒機能を補強・増幅させる外場援用システムを用いて、従来型触媒と同等あるいはそれ以上の性能を持つ次世代型触媒の開発を行う。

図 研究のイメージ        
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酸化触媒は固体表面に VOCや酸素などを吸着させることにより反応場を提供する。活性成分とされる金属元素は、活性酸素を生み出す機能やそれが VOCと反応するまで固体表面上に安定化させる役割を担っている。従来の活性成分を用いず、これらの特徴を発現できる材料を見出すことができれば、次世代酸化触媒の創製が可能となる。そこで、不足する機能を補強・増幅するために、プラズマやマイクロ波等の外場を援用し、
[1]プラズマ援用シリカ系触媒システムの開発と、
[2]マイクロ波援用ペロブスカイト系触媒システムの開発を行う。

■ S2-01  研究概要
./pdf/s2-01.pdf PDF [PDF 249 KB]

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ プラズマ援用シリカ系触媒システムの開発では、 Mn系触媒がオゾンを用いた VOC分解用触媒(オゾン援用酸化触媒)として知られていたが、本研究を通して Ag系触媒が Mn系触媒よりも副生成物の抑制に優れていることを明らかにした。さらに、種々の単純酸化物の担体に Agを担持し、 Ag活性種を活かすための触媒設計指針として、担持された Ag活性種が酸化物であるよりも金属である方が、副生成物の生成の抑制と CO2選択率の向上に効果的であり、金属状態の Ag微粒子活性種を得るには、担体として塩基性の強い金属酸化物 (ZrO2, MgO)が有効なことを明らかにした。その結果、 Ag/ZrO2触媒が従来型燃焼触媒(Pt触媒)では実現が難しかった 100°Cの低温における高い VOCの酸化能を発揮することを示した。
この成果をもとに、 Zrを一定量の Ceで置換した複合酸化物とシリカ相から成るメソ構造体が、 Ptに代わる新たな酸化触媒となる可能性を見出した。また、触媒の効果的な活用法として、完全酸化能力に優れた Ag/ZSM-5触媒をトルエン転化率の高い ZSM-5触媒に後置して二層化し、触媒反応器の中に充填することで、総合的な処理効率が高められることを見出した。
一方、一段式の吸着−酸素プラズマサイクルシステムにおいて、金属ナノ粒子を担持したゼオライト系酸化物が有用な触媒であること、ならびに触媒上の金属ナノ粒子がプラズマ領域を触媒表面に広く拡散させる役割を担っていることを実験的に示した。

図 研究成果のイメージ        
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マイクロ波援用ペロブスカイト系触媒システムの開発においては、マンガン、鉄などの比較的安価な成分で構成されたペロブスカイト複合酸化物を基盤材料とした触媒とマイクロ波を組み合わせることにより低環境負荷型触媒反応プロセスを開発した。 ABO3型ペロブスカイト型複合酸化物(A=La, B=Fe, Mn, Ni, Co)の昇温特性、 CO酸化触媒特性は Aサイト、 Bサイトの金属種を変えることで制御できること、外部加熱に比べて反応温度領域が低温化することがわかった。
ベンゼンの酸化反応についてはマンガン系ペロブスカイトが有効であり、 LaMnO3を低温焼成することで触媒表面の酸素種の反応性とベンゼンの吸着容量が増大し、酸化反応速度が向上することが明らかとなった。マイクロ波加熱下では LaMnO3の急速昇温により速やかにベンゼンを CO2に酸化分解し、外部加熱下に比べて低温領域での反応特性が向上することを見出した。また、半導体型の VOCセンサの開発では、形状異方性の大きな酸化チタンナノチューブを用いることで、焼結性を抑えたポーラスなガス感応膜の作製に成功した。これにより、 VOCのような大きなサイズのガスの膜内部への拡散が容易になり、感度の飛躍的な向上につながった。さらに、金ナノ粒子を高分散で担持することでより高感度かつトルエンに対して選択的な VOCセンサの開発に成功した。固体電解質として、低温で高い酸素イオン導電性を有する BiCuVOx(Bi2V0.9Cu0.1O5.35)を用いて電気化学セルを作製し、燃焼触媒を電極上に取り付けることで、ホルムアルデヒドやエタノールに対して高い感度を示す小型平板センサの開発に成功した。また、固体電解質 CO2センサと燃焼触媒を組み合わせ、標準ガス中の VOCの濃度を分析できるシステムを開発し、 VOCの連続的な濃度分析が可能となった。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-01
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/S2-01 .html

3.委員の指摘及び提言概要

触媒システムと高感度で選択的な VOCセンサの開発において研究計画に沿った成果は得られたと評価されるが、コスト面には課題が残った。実用化に向け、コストや効率等の基礎データの整理、省エネルギーで低コストな処理技術にしていくこと、現場で使用可能な技術にしていくことが必要。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: S2-02 二酸化炭素を排出しない排ガス中VOCの循環効率的な除去処技術の開発(H20−H22)
研究代表者氏名: 田中茂(慶應義塾大学理工学部)

1.研究概要

図 研究のイメージ 2006年 4月より、 VOC(揮発性有機化合物 )の排出抑制に向けて大気汚染防止法が改正され、 VOC排出規制が開始された。当初は、大規模な排出施設が対象となるが、 2010年からは、多くの排出施設において VOCの 30%削減が義務づけられており、 VOC削減対策技術の開発は緊急の研究課題である。その一方で、エネルギー・コスト的に合理性を持ち、この問題を解決できる VOC削減対策技術の開発は進んでいないのが現状である。
そこで、様々な固定発生源から排出される排ガス中 VOCを削減する為に、革新的なガス除去処理技術である拡散スクラバー法を用いて、従来法の燃焼方式とは異なり温暖化対策で問題となるCO2を排出せずにエネルギー・コスト的にも優れた排ガス中 VOCの循環効率的な除去処理技術を実現する。

図 研究のイメージ        
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具体的には、 VOC除去液を用いた多孔質 PTFE膜平行板型拡散スクラバーと活性炭繊維シート平行板型拡散スクラバーを使用して排ガス中 VOCを効率良く除去する。更に、 VOCを除去した除去液、吸着剤を再生使用するリサイクルの技術開発を行った。
本研究で実用化した費用対効果が高い拡散スクラバー法を用いた循環効率的な VOC除去処理システムにより、今後、多くの中小企業に導入され、塗装・印刷工場などの固定発生源からの VOC排出量を大幅に削減できる。その結果、我が国の環境大気中オキシダント濃度を低下させ、更に、 VOC削減のため CO2を新たに発生することなく温暖化対策を同時に進めることができる。

■ S2-02  研究概要
./pdf/s2-02.pdf PDF [PDF 249 KB]

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 拡散スクラバー法による排ガス中 VOCの循環効率的な除去処理技術に関しては、多孔質 PTFE膜を用いた平行板型拡散スクラバーによる排気ガス中 VOC除去処理装置の基本設計と試作を行い、 VOC除去処理装置の最適化を検討した。実際に、塗装工場の排気ダクトへ装置を接続し、 VOC除去の性能評価実験を行った結果、排気ガス処理風量 3600m3/hにおいて、 TVOC(11種類のVOCの総計)で約 50%の除去効率を得ることができ、中小企業の自主的目標値である 30%VOC削減をクリアーすることができた。

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-02
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/S2-02 .html

3.委員の指摘及び提言概要

拡散スクラバー法を用いCO2 を排出せずエネルギー・コスト的にも優れた排ガス中VOC の除去処理技術とVOC を除去した除去液と吸着剤の再生使用技術の開発が目的の研究。実用化に向けた開発は概ね研究計画に沿い達成されている。現場テストを実施し、性能評価だけでなく、コスト効率等の把握を行ったことは評価できる。
一方、内容的に、除去効率の向上、コストの削減、除去液がどの程度持つか、回収VOC の活性炭による吸着処理のコストとエネルギーの問題、など開発した処理技術に関わる多くの課題があり実用化に向けさらなる検討が必要。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: S2-03 クリーン開発メカニズム適用のためのパームオイル廃液(POME)の高効率の新規メタン発酵プロセスの創成(H20-22)
研究代表者氏名: 原田秀樹(東北大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ パームオイルの生産に伴って排出されるパームオイル圧搾廃液(POME: Palm Oil Mill Effluent)は、 COD濃度が 70,000〜80,000 mgCOD/Lもある典型的な高濃度有機性廃液で、その半分以上が固形性有機物、かつ脂質由来の COD物資も 1/3以上占める、メタン発酵にとってもっとも手強い廃水種でもある。現状では POMEの大部分(9割方)が、ラグーン(安定化池)と呼ばれる素堀の池で極めて長い滞留時間(60日以上)で嫌気的に処理されている。その結果、 2890万トン CO2等量(メタンの GWPを CO2の 21倍として計算)もの大量のメタンが大気中に放出されている。一方、 POMEの処理過程で放出されるメタンガスを適切に回収した場合、 5億 7800万 US$の炭素クレジット(20 US$/トン CO2として計算)が取引可能となる。
したがって、メタンガスを高効率に回収可能な POME処理システムを開発し、 CDM事業を展開することは、途上国側と先進国側の双方にメリットがある事業であるといえる。本研究は
(1)可逆流嫌気性バッフル反応器(RABR: Reversible flow Anaerobic Baffled Reactor)による POME廃液の高性能メタン発酵技術の開発、
(2)プロセス安定化・効率化のための微生物群のコミュニティ解析・コントロール技術の 2つのサブテーマを立て、高性能メタン発酵技術を軸とした POME処理システムを創成しようとするものである。

図 研究のイメージ        
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■ S2-03  研究概要
./pdf/s2-03.pdf PDF [PDF 578 KB]


2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ [サブテーマ 1]前段 DAFユニット(実容積 4.56 m3、有効容積 4.26 m3)と後段 RABR(実容積 50 m3、有効容積 37.8 m3)からなる実証試験プラントを設計・製作し、マレーシアのパームオイル工場内に設置し、約 2年間の連続処理実験を行った。前段の DAFユニットで、 POME中に含まれる固形分及び脂質のおよそ 50%除去し、 COD容積負荷 7.3 kgCOD/m3.d、HRT 8日の条件において全システムでの COD除去率 85 %以上を達成した。最大運転 COD容積負荷 12 kgCOD/m3.d時においては COD除去率の低下が確認された。この値は、我々が調査した現行の嫌気性消化槽やラグーンに比べ、 5-10倍の高速処理を達成していた。提案システムは運転に電力エネルギーを要するが、発生ガスを回収・利用可能であるため、必要エネルギーを十分に賄うことができる。また、本開発システムは高速処理が可能なため、リアクター容積のコンパクト化によるイニシャルコスト削減が可能である。 RABRによる温室効果ガス削減効果を評価するため、マレーシアのパームオイル工場の嫌気性ラグーンからのメタンガス放出量の調査した結果、メタンガス放出量は 1日当たり 7,100 m3(平成 20年度)および 4,580 m3(平成 21年度)であった。この値は、 1年当たり 25,100〜39,000トンの CO2と等量の温室効果ガスが放出されていることが確認された。

図 研究成果のイメージ        
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これを基にマレーシア・インドネシアで生産されている CPOから換算される両国の POME処理嫌気性ラグーンから発生する温室効果ガス量は、日本の削減目標量 (1990年の 25%削減 )の 6〜9%分に当たると試算され、本研究開発システムなどによる POME処理プロセスからの温室効果ガス発生抑制の必要性が示された。
[サブテーマ 2] POMEを処理する 3つのシステム (ラグーン・消化槽・ RABR)の網羅的解析の結果、主要な微生物群として Bacteriaでは Firmicutes門に属する微生物群が大きく貢献していることが考えられた。この門には高級脂肪酸を分解することで知られている Syntrophomonadaceae科が属する他、 POME分解に重要な微生物群が存在していることが明らかになった。また Archaeaにおいては Methanosaeta属が優占した。集積培養試験から、メタン生成古細菌等への阻害性は、 POMEの主要成分である C18:1がより強いことが示唆され、安定運転管理には、 C18:1濃度のモニタリングが重要である。
高級脂肪酸阻害は、酢酸資化性メタン生成菌が水素資化性メタン生成菌に比べ阻害を受けやすく、また C16阻害は微生物コミュニティの違い、特に Archaeaの構造が阻害耐性に大きく関係していることを明らかにした。一方、 C18:1阻害においては、このようなことは見られなかった。迅速・簡便なモニタリングツールの開発においては、金ナノ粒子および分子量分画膜を用いた方法を開発した。また、機能解明ツールの開発には、未培養微生物の機能を遺伝子レベルで推定するために、シングルセルレベルで機能遺伝子の視覚的検出が可能なポリヌクレオチドプローブを用いた two-pass TSA-FISH法を開発した。
これら開発技術は、 POMEの様なプロセスが不安定になりやすい廃水のモニタリングおよびプロセス安定化のための微生物機能解明に有効である。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-03
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/S2-03 .html

3.委員の指摘及び提言概要

前段の加圧浮上装置(DAF)で POME中の固形分および脂質を取り除き、後段の可逆流嫌気性バッフル反応器(RABR)で高速のメタン発酵を行うシステムで、試験プラント的にはほぼ所定の成果をあげたと思われる。特にメタン醗酵における微生物群集の解析に関しては多くのデータが得られているものと判断される。加えて、ラグーン(安定化池)におけるバイオガスの発生挙動(量や組成)についての実測データが得られており、今後に有用な情報を提供することになった。
しかし、油分を含む搾り滓のスカム利用(ボイラー燃料とした発電)の実現性やラグーンから排出される二酸化炭素、メタンガス等のバイオガス(温室効果ガス)への対策などプロセスの実用化の可能性については未だにやや不明であり、課題として残った。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: S2-04 干潟機能の高度化システムによる水環境改善技術及びCO 2固定化技術の開発研究(H20-22)
研究代表者氏名: 木幡邦男((独)国立環境研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 富栄養化した閉鎖性内湾での水環境改善対策は喫緊の課題であるが、一方、温暖化対策の推進が求められていることから、エネルギー使用量を増加させることは出来ない。
本研究では、干潟の持つ自然水質浄化機能のうち、二枚貝による水質浄化能を高度化し、システム化することで、この課題を解決することを目的とした。温排水などの余剰エネルギーや CO2を用いて二枚貝の増殖や微細藻類への CO2固定化の増加を有効に実現する技術を開発することで、コベネフィット技術として、海域での水質浄化に貢献すると共に、食糧としての二枚貝の供給を可能とする

図 研究のイメージ        
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■ S2-04  研究概要
./pdf/s2-04.pdf PDF [PDF 186 KB]

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 本研究課題は
サブテーマ (1)「高機能干潟システムにおける栄養塩削減と CO2固定高効率化モデル開発研究」、
サブテーマ (2)「CO2固定リアクターによる微細藻類大量培養技術の開発研究」、
サブテーマ (3)「二枚貝高生産増殖技術の開発研究」により構成され、
各サブテーマの連携により本課題を遂行した。
サブテーマ (1)においては、微細藻類増殖モデルと二枚貝成長モデルを作成し、サブテーマ (2)、(3)で得られたパラメータを用いて微細藻類から二枚貝へと移行する栄養塩に基づいて水質浄化量を推定した。

図 研究成果のイメージ        
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サブテーマ (2)においては増殖モデルのパラメータの取得として CO2濃度と成長との関係を把握した。また、大量培養の技術開発として長期にわたる半連続培養を成功に導いた。
サブテーマ (3)としては、二枚貝稚貝の大量増殖技術として、砂を用いないアップウエリング飼育手法を開発した。また、従来データが無かった稚貝の成長特性について明らかにした。
さらに、本手法を用いて成長モデルのパラメータデータを取得するとともに、二枚貝の炭素、窒素、リンの餌料転換効率を定量的に明らかにすることで、水質浄化機能の改善についても検討を行った。
以上の結果から、本研究では、富栄養化海域の窒素・リン削減という水質浄化技術の開発において、二枚貝の生産という水産的技術と環境技術を一体化できるコベネフィット技術の開発が達成できた。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-04
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/S2-04 .html

3.委員の指摘及び提言概要

微細藻類大量培養技術と二枚貝生産技術の統合による水質浄化と食糧生産および CO2固定の個々の研究は個別研究としてほぼ計画どおり遂行され、所定の成果をあげた。
しかし、東京湾のような閉鎖性内湾の干潟環境では様々な要因が関係するので、単純化した実験系での成果をどの程度適用できるのか検討と検証が重要であり、もう一歩の工夫によって、より精度の高い、また、多角的な評価が可能になったものと思われる。
干潟における生物機能を利用して水質改善及び二酸化炭素固定を図るシステム構築の目標には全体として到達していない。なお、学術誌へ成果の発信が望まれる。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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事後評価 2.第2研究分科会<環境汚染>
ii. 革新型研究開発領域

研究課題名: RF-0904 POPs候補物質「難分解性PPCPs」の環境特性と全球規模での汚染解析(H21-22)
研究代表者氏名: 中田晴彦(熊本大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 近年、医薬品および生活関連物質 (PPCPs)の一部に環境中で難分解かつ生物蓄積性を有し、既知の難分解性有機物質(POPs)と類似の分布挙動を示すものの存在が明らかになった。ストックホルム条約(POPs条約)における指定物質の拡充や、欧州共同体が推進する REACHの制定等により、難分解性化学物質の国際管理が厳しく問われる中、新たな POPs候補物質を探索し、その環境特性を理解することは、日本を含む全球的な汚染リスクを早期に削減する上で重要な意味をもつ。
本研究では、難分解性 PPCPsであるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤に着目して調査研究を行い、 POPs条約附属書 Dおよび Eの各項目に関する科学的知見を収集、解析することを目的とした。実験およびデータ解析の結果、 UV-327 (CAS #: 3864-99-1)はストックホルム条約への申請条件を概ね満たし、新たな POPs候補として今後注目すべき物質であることが示された。

図 研究のイメージ        
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■ RF-0904  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/rf-094.pdf PDF [PDF 565 KB]
※「 RF-094 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 4種のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を対象に、 POPs条約附属書 Dの 3項目(残留性 [環境半減期 ]・生物濃縮性・長距離移動性 [広域汚染 ])と附属書 Eの 2項目(発生源・監視に基づく資料 [汚染の経年変化 ])に関する科学的知見を収集、解析した。 UV-327の堆積物中半減期は 540日であり、附属書の基準(180日)を大幅に超過していることがわかった。 UV-327は、日本沿岸で採取したイルカや鳥類など海洋生態系の高次生物や国内外の人体脂肪から検出された。海水¬魚類、海水−イルカ間の濃縮係数 (BCF)は、代表的な POPsであるヘキサクロロシクロヘキサン (HCH)のそれとほぼ同等で、 UV-327が高い生物残留性を有することがわかった。アジアと米国西海岸産のイガイを分析したところ、その大部分から UV-327が検出され、環太平洋域における広域汚染の存在が明らかになった。
過去 30年間に日本近海で採取されたイルカと、東京湾の柱状底質試料をそれぞれ分析したところ、 UV-327は 1970年代の試料から検出され始め、濃度値は 1980〜 1990年代にかけて上昇した。その傾向は 2000年以降の試料にも認められ、 UV-327による環境負荷は現在進行形である様子が窺えた。排水処理施設の汚泥から比較的高濃度の UV-327が検出された。また、国道の複数地点から採取した道路ダストにも UV-327が認められ、生活排水や車の部品(タイヤやプラスチック部等)が UV-327の環境排出に寄与する様子が窺えた。
急性および慢性毒性等、現段階で十分な情報が得られない項目もあるが、 UV-327は概ね POPs条約附属書 Dおよび Eの各項目の基準を満たしている。

図 研究成果のイメージ        
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さらに、 2010年度の UV-327国内製造・輸入量は、前年度比 98%減の 3トンに激減している。このことは、 UV-327の代替品が開発され、国内市場に流通していることを意味し、 POPs条約附属書 Fの項目「代替となるものの存在」の条件を満たしている。
以上の結果は、 UV-327が新たな POPs候補として今後注目すべき物質であり、ストックホルム条約の追加物質として申請可能な環境が整いつつあることを示唆している。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0904
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/RF-0904 .html

3.委員の指摘及び提言概要

広く流通している紫外線吸収剤について、 POPsの要件である蓄積性、難分解性、長距離移動性を、生物を含めた各環境媒体で検討を行い、生物への高い蓄積性、環境残留性、広域汚染を明らかにした。特に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、 POPs条約の追加物質候補となることを詳細な調査研究により明確にしており、海外の環境省庁等からの関心も惹いており、高く評価される。
さらに分析に関しても、高精度分析法の確立、新規 /既存 POPsに関しても、広くモニタリングし、政策基盤となる有用な情報が得られたと判断できる。これらは POPs条約や REACHの議論に貢献できる成果である。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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研究課題名: RF-0905 黄砂粒子上で二次生成する多環芳香族炭化水素誘導体による越境大気汚染と健康影響(H21-22)
研究代表者氏名: 亀田貴之(金沢大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 黄砂の輸送過程における変質や大気汚染物質との相互作用の解明は、未だ充分になされていない。とりわけ黄砂粒子表面を反応場とする有害有機化学物質の生成反応に関しては、現象そのものの理解が不充分であることに加え、その結果もたらされる有害物質による健康被害についての評価・予測は全くなされていないと言ってよい。
本研究は、黄砂表面における多環芳香族炭化水素(PAH)誘導体の二次生成反応、とりわけ発がん性を有するニトロ PAHや、呼吸器・循環器疾患やアレルギー疾患増悪作用を有する PAHキノン等の非意図的生成に関わる反応について模擬大気実験系を用いた実験を行い、黄砂表面が関与する大気内 PAH誘導体生成反応過程を明らかにするとともに、実大気観測ならびにバイオアッセイによって、長距離輸送中の黄砂表面における有害 PAH誘導体生成と、その生体影響の実態を明らかにすることを目的とした。

図 研究のイメージ        
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■ RF-0905  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/rf-095.pdf PDF [PDF 409 KB]
※「 RF-095 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ [1]反応チャンバーを用い、黄砂粒子表面における PAHと種々のガス状物質との反応や光反応を検討した。その結果、 PAHは黄砂表面において二酸化窒素やオゾンと速やかに反応し、高い収率でニトロ PAHや PAHキノンを生成することを見出した。
[2]地元汚染源の影響を受けない石川県輪島市、および黄砂通過地点の大都市である北京市で、黄砂を含む粒子状物質を捕集し、粒子中の PAHおよび PAH誘導体の分析を行ったところ、大規模な黄砂飛来時にはニトロ PAHや PAHキノンの濃度上昇が確認され、黄砂表面の反応によるそれらの二次生成を示唆する結果を得た。
[3]輪島および北京で捕集した粒子状物質の変異原性を粒径別に測定したところ、粗大粒子が示す活性は黄砂飛来時に高くなる傾向が認められた。黄砂表面における PAH誘導体二次生成との関連が示唆される。本研究により、中国都市部で排出される高濃度の有機化合物が、黄砂表面における反応でより有害な化学物質に変質し、日本に飛来することを初めて指摘することができた。

図 研究成果のイメージ        
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本研究で得られた成果は、将来的には影響地域における健康被害規模の推定やそれに伴う経済的損失の試算等への応用・展開が見込まれるばかりでなく、環境基準値の設定や関連法令・近隣諸国間における国際的な規約等の制定実現のための指針を示し、被害を緩和するための対策や予報・警報システムの構築に貢献するものと期待される。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0905
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/RF-0905 .html

3.委員の指摘及び提言概要

中国都市部で排出される高濃度の有機化合物が、黄砂表面における反応でより有害な化学物質に変質し日本に飛来することや粗大粒子が示す変異原性が黄砂飛来時に高くなる傾向と PAH誘導体二次生成との関連が示唆される成果があったことや学術的な面、行政への貢献の点でも有用な知見であることから高く評価される。
健康被害の実態と今回の結果との定量的な関連の検討がさらに必要。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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研究課題名: RF-0906 マルチサイズ解析による東アジアにおける大気中超微粒子(UFP)の動態に関する研究(H21-22)
研究代表者氏名: 宇都宮 聡(九州大学大学院理学研究院)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究は、東アジア、中国大陸〜日本に拡散する大気微粒子を対象として、 PM2.5と UFP領域の元素分布、個別粒子の化学的・物理的特性を、バルク〜ナノ分析技術を駆使して分析し、 PM2.5と UFP中有害元素の存在状態、生体摂取量予測に対する知見を与えるとともに、黄砂輸送にともなう PM2.5と UFPの東アジア越境汚染を明らかにすることを目的とした。
大気試料は中国の合肥、福州と日本の小値賀、福岡、東京の5地点において、 MCI、PIXE、と HVエアサンプラーを用いて採取した。バルク組成は ICP-MS、結晶相同定に XRD、化学種同定に放射光 XANESを用いた。一方個別粒子分析は SEM-EDS、ナノレベル分析は TEM、STEM、EDS、EELSを用いて行った。非黄砂時における都市大気微粒子中には、燃焼起源を示唆する球状でスピネル構造をもった酸化鉄のナノ粒子(数 10 nm)の凝集体が観察された。これらは Mn、Crを含有しており、 Mnが共存元素の酸化促進を引き起こし Crの酸化によって粒子毒性が高くなる可能性がある。また、鉛は Pb2+硫酸塩の二次的なナノ粒子として存在した。熱力学的考察より、これらの酸化鉄ナノ粒子は体液との接触で溶解する可能性が示唆され、ナノサイズに起因した高表面活性サイト密度のために、フェントン反応の進行と活性酸素の増産が予想される。
一方で、黄砂時のサブミクロン粒子中には、人為起源の球状鉄酸化物、鉛硫酸塩、クロマイトの存在が見られた。合肥試料の PM2.5領域では鉛の顕著な濃集と人為的な鉛同位体比を示し、黄砂輸送に伴う有害ナノ粒子の拡散を示唆した。

図 研究のイメージ        
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さらに黄砂粒子中に鉄は最大通常の 11倍程度含まれ、イライト、スメクタイトが 58.8-60.7 %と鉄重量比で最も鉄を含むことが分かり、その比較的高い溶解度のため海洋への主要な鉄供給源となっていると考えられる。また、鉄酸化物は 22.5-27.6 %、鉄水酸化物が7.52-11.1 %と比較的重量への寄与が大きい。特に鉄水酸化物は生物活性が高く海洋生物活動への影響は無視できない。
今回の結果は、環境省が施行している PM2.5規制に対してミクロレベルで初めての系統的な貢献となった。

■ RF-0906  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/rf-096.pdf PDF [PDF 279 KB]
※「 RF-096 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ これまで個別粒子解析が困難であった PM2.5と UFPの存在形態に関して、通常のバルク・個別粒子分析に加えて最先端の電子顕微鏡測定技術とシンクロトロン放射光を組み合わせたマルチサイズでの系統的解析を行うことで、より正確な有害重元素の化学種同定が可能となった。
これにより、東アジアの都市大気には燃焼起源を示唆する球状でスピネル構造をもった酸化鉄のナノ粒子(数 10 nm)の凝集体が主要であることが分かった。この鉄ナノ粒子中に固溶する Mnは共存元素 Crの酸化促進を引き起こし、 Crの酸化によって粒子毒性が高くなる可能性を示唆する。また、ナノサイズ、形状に起因した高い表面活性サイト密度が見積もられた。熱力学的考察から、フェントン反応の進行と活性酸素の増産が予想され、大気微粒子中の金属酸化物ナノ粒子の重要性が示された。
黄砂中 PM2.5粒子では、鉛は硫酸塩ナノ粒子として存在し、顕著な濃集と人為的な鉛同位体比を示し、黄砂輸送に伴う有害ナノ粒子の拡散の重要性を提唱することができた。さらに黄砂粒子中の鉄は最大通常の 11倍程度含まれ、イライト、スメクタイトが 58.8-60.7 %と鉄重量比で最も鉄を含むことが分かり、その比較的高い溶解度のため海洋への主要な鉄供給源となっていると考えられた。また、鉄水酸化物は 7.52-11.1 %と定量され、その生物活性の高さから、海洋生物活動への影響は無視できない。
これによって黄砂粒子中の鉄存在状態が明らかになり、大気−海洋−気候フィードバック機構の海洋への鉄供給形態が定量的に解明された。

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0906
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/RF-0906 .html

3.委員の指摘及び提言概要

短期間の研究であったが一定の成果が得られた。各々の分析から興味深い知見がえられているが、解析が必ずしも十分でないため基礎情報の提供にとどまっている。
いろいろな分析データはあるので、これらを羅列するのではなく、総合的に解析しどのように全体像を作っていくかを示すことが必要。査読論文発表も欲しかった

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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