ホーム > 環境研究総合推進費 > 評価結果について > 研究課題別評価詳細表

中間評価 5.第5研究分科会<持続可能な社会・政策研究>

研究課題名: E-1001 アジア低炭素社会の構築に向けた緩和技術コベネフィット研究(H22-24)
研究代表者氏名: 内山 洋司 (筑波大学院 システム情報工学研究科 )

1.研究概要

図 研究のイメージ中国やインドなど経済成長が著しいアジア諸国におけるエネルギー需要の増加が著しく、エネルギー供給施設の整備には先進国で開発された性能に優れた発電技術などの技術移転が欠かせない。先進国から新興国への技術移転は、温室効果ガスである二酸化炭素を削減するだけでなく、都市の大気汚染などの環境改善にもなる。
本研究は、アジア諸国において低炭素社会の構築に向けて、今後、導入が予想される各種発電技術について、その経済性を二酸化炭素削減のクレジットだけでなく大気汚染物質削減による外部コストを含めたコベネフィットを考慮して分析することを目的とする。分析は、アジアの国をさらに地域別に区分し、それぞれの地域のエネルギー・環境・経済データを基にして、アジア諸国のCDMプロジェクトとして導入が期待されている各種エネルギー技術オプションについてコベネフィットを含めて経済性を明らかにするものである。
研究によって得られる成果は、技術面ではアジア諸国における環境技術開発に対して技術選択を支援するだけでなく、日本の環境技術移転・普及の政策判断にも役立つものである。また、2013年以降の新しい国際枠組みの制度設計に不可欠な温暖化緩和技術の政策判断に寄与する資料を提供することができる。
本研究は、次に示す4つのサブテーマから成っている。
(1)エネルギーチェーンLCAモデルおよび地理情報システムによるアジア主要地域における各技術オプションの検討
(2)緩和技術に関わる社会的認識についての調査・分析
(3)新オフセット・メカニズムにおける緩和技術のコベネフィットを考慮した技術的経済的評価
(4)アジア地域におけるコベネフィットを考慮した緩和技術の導入分析

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

■ E-1001  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/e-1001.pdfPDF [PDF 279 KB]

2.研究の進捗状況

サブテーマ(1)は、地域のエネルギー供給システムに導入される温室効果ガス緩和技術を総合的に分析するボトムアップ・アプローチ手法(エネルギーチェーンLCAモデル)に必要となる各種データを文献調査および現地ヒアリングにて収集した。地理情報システム(GIS)を用い中国全土を対象とした石炭産出の分布と発電向けの石炭需要分布データの構築ならびに石炭輸送フロー分析と石炭輸送最適化分析を実施し、石炭輸送に起因する消費地域別CO2排出原単位と最適化による排出低減見込、および先進火力発電技術導入効果を明らかにした。これらに加え、中国における都市域発電所排出SO2拡散評価および再生可能エネルギー導入評価についてGISデータの整備を進めると共に、カザフスタンにおける風力発電導入についても評価を進めている。
サブテーマ(2)では、緩和技術によって発生する副次的効果の評価を行うため、環境汚染の経済評価手法について検討を行った。CDMプロジェクトが実施されると期待される地域の一般公衆を対象として、大気汚染影響に起因する健康被害を回避するためのコスト負担に関する予備的な社会調査を実施し、支払意志額の推定のための予備データを得た。調査は、訪問面接法により実施し、中心となる設問には仮想評価法による質問を用いている。
サブテーマ(3)では、アジア地域における温暖化によるコベネフィットを定量的に分析するためのライフサイクル影響評価手法(LIME)の高度化を目指しており、温暖化も含めた環境外部性の暴露応答関係に最新の科学的知見を反映するとともに、環境被害の経済評価をアジア地域全体に適用することを意図して、コンジョイント法による中国・インドにおける支払意思額の予備調査を実施した。得られた指針に基づいて、本調査の準備を進めている。
サブテーマ(4)では、排出クレジットだけを考慮する現行CDMと、大気汚染に関するコベネフィットも考慮するCDMを比較するために、地域別・技術別CDMポテンシャルの評価手法を改良した。中国をホスト国とする先進的発電技術CDMを想定した試算により、コベネフィットがCDMのポテンシャルを拡大する可能性を示した。現在、インド等に対象地域を広げるためにモデルの拡張を進めている。

3.委員の指摘及び提言概要

コベネフィット分析と技術シナリオ評価モデルを用いた、アジア諸国とのCDM評価研究であり一定の成果が期待できるが、CDM自体とコベネフィットの効用が、より直接的かつ政策的に有効となるように結びつくよう進行させるべきである。
サブテーマ(2),(3)で実施されるアンケート調査については、調査対象国の政治的環境等の事情等も考慮して、説得性のあるデータを得られるよう慎重に方法・内容等を検討して実施・解析し、またサブテーマ(1)と(4)のような技術モデル分析においては、抽象化や理想化と各地域特有の諸要因による現実的動態との折り合いを十分に考慮して研究を進展させることを要望する。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

目次へ

研究課題名: E-1002 地域住民のREDDへのインセンティブと森林生態資源のセミドメスティケーション化 (H22-24)
研究代表者氏名: 小林 繁男 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

1.研究概要

図 研究のイメージREDDにおいて、天然林、二次林、焼き畑休閑林などを完全に荒廃地化させない、あるいは焼き畑ローテーション期間を確保するためには地域住民の森林生態資源に対するインセンティブが最も重要である。インセンティブは地域住民にとって森林資源の利用と直結していることから、ラオス・ルアンナムター県、エチオペア・ナスレト、ペルー・ウカヤリ州の各地域において、伝統的知識に基づいた地域住民の熱帯林生態資源の利用実態を明らかにし、非木材林産物の持続的生産を目指すセミドメスティケーション化技術に開発を行い、地域住民のセミドメスティケーション化に参加する方法を検討し、その結果、カーボンクレジットがどれほど生まれるかを評価する。そのため下記のサブテーマを設定した。
(1) 伝統的知識に基づいた地域住民の熱帯林生態資源の利用評価
東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカにおける二次林、休閑林や薪炭材採取林の生態資源の伝統的利用実態を解明する。
(2) 熱帯林生態系資源のセミドメスティケーション化の開発
[1]植物生態資源のセミドメスティケーション化技術
伝統的に利用されている植物資源の繁殖特性を明らかにし、焼き畑休閑地や荒廃林地に粗放的に植栽する。
[2]動物生態資源のセミドメスティケーション化技術
伝統的に利用されている動物資源の繁殖様式を明らかにし、半家畜化を行う。

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

(3) 地域住民の森林生態資源利用の住民参加システムの検討
[1]移住-定着関係と生態資源利用における住民参加
移住-定着関係における地域住民の生活・家計に占める生態資源の価値と貨幣経済に依存しないコモディティーを評価する。
[2]環境保全政策と生態資源利用における住民参加
調査対象国で行われている環境保全政策をもとに、生態資源利用における住民参加システムを検討する。
(4) 地域住民のREDDへのインセンティブと森林生態資源利用によるカーボンクレジットの評価
二次遷移植生資源の利用を通したカーボンクレジットに対する地域住民の認識とREDDやCDMに対する問題意識を総括する。また、セミドメスティケーション化によりカーボンクレジット量を評価する。

■ E-1002  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/e-1002.pdfPDF [PDF 455 KB]

2.研究の進捗状況

ラオス・ルアンナムター県、エチオペア・ナスレト、ペルー・ウカヤリ州の各地域をコアサイトとして決定し、他の周辺諸国からはサブテーマ(1)、(2)、(3)、(4)に直接関連する情報の入手をするという研究方針を定めた。
(1)伝統的知識に基づいた地域住民の熱帯林生態資源の利用評価
ラオス・ルアンナムターでは生態資源として、主にラタンシュート(食用)、ブルームグラス(箒)、カルダモン(香辛料)、アルピナ(香辛料)、ビターバンブー(食用)、サッパン(薬用植物)、バイライ(薬用植物)が利用されていた。また、薪炭材利用は焼き畑耕作の伐根(80から100 cm高)を利用していた。さらに、この伐根からのぼう芽による休閑林の再生を促す方法は伝統的知識と認められた。しかし、非木材林産物の過剰採集から、生物資源の枯渇が問題化していた。ギニア・ボッソウ村のオイルパームは天然分布をしており、意図的に焼き畑に残す方法は、伝統的なセミドメスティケーション と考えられた。エチオピアではアフリカカルダモンやエンセーテが利用されており、タンザニアは5種のタケ(1種は酒作り)が利用されていた。ペルー・プカルパとブラジル・ベレンでは木炭の生産・利用や果樹を主体としたアグロフォレストリー(カカオを中心に多様な果樹)のシステムが広く行われていた(二次遷移を利用したカブルンカ・システム)。 伝統的に利用されてきた非木材生産物の中に、既に枯渇化された動植物があり、それについての情報を収集する必要があるとともに、地域住民の伝統的知識についての情報をさらに収集する必要がある。
(2) 熱帯林生態系資源のセミドメスティケーション化の開発
[1]植物生態資源のセミドメスティケーション化技術
東南アジアのラオス・ルアンナムターでは4年目の休閑林にカルダモン(香辛料)、アルピナ(食料)、サッパン(薬用)を植栽した。 インドネシア・リアウでは泥炭湿地林択伐跡地にジュルトン樹下植栽(ガム採取) した。試験地(非木材林産物の植栽とカーボンクレジット測定)の設定は完了した。ラテンアメリカではペルー・プカルパで、3年目の6樹種混植地に果樹(アグアフェ、カムカム、ピフアヨ)の樹下植栽を本年度に行えるように準備をし、炭素の固定量は継続調査を行っている。 ブラジル・アルタミラではカブルンカ・システム(二次遷移を利用したアグロフォレストリーの1形態)へのカカオの樹下植栽地に試験地を設定し、計測を継続している。 アフリカ(試験地選定完了、非木材林産物選定)ではエチオピア・オモ県で、択伐跡地を選定した。本年度にアフリカカルダモンとエンセーテを植栽する。 タンザニア・イリンガでは、択伐跡地選定した。アビシニカタケ(酒採取)の植栽を本年度行う。地域住民が非木材林産物のセミドメスティケーション化によりインセンティブを得るようにすることと過剰採取から生物多様性を保全することを目指す。
[2]動物生態資源のセミドメスティケーション化技術
毛皮生産はペッカリーの毛皮(collaredとwhite-lipped)が商品価値が高く、ペルー・アマゾンでは、ロレト県、ウカヤリ県の生産が多かった。毛皮収集・販売はプカルパに、毛皮を集める3軒の店があり、18年間から43年間にわたりこの仕事に従事してきた。毛皮流通は1年間におよそ1万枚近い毛皮がリマやアレキーパーに運ばれ、この毛皮の一部はドイツにも輸出されて、ゴルフ用の手袋などになっていた。 国内にはプカルパのほかにイキトス、タラポト、ティンゴマリアなどにおいても毛皮を扱う店があり、その集散地は主にアマゾン川の流域(ウカヤリ川ほか多数)であり、日本の国土面積ぐらいに相当する。 ペルー・アマゾンが、アマゾンのなかで最大の毛皮集散地である。これらの生産(商業的狩猟)が、持続可能であるのか否か。とくに、ペッカリーの生息数の変動を調査継続していく。
(3) 地域住民の森林生態資源利用の住民参加システムの検討
[1]移住-定着関係と生態資源利用における住民参加
調査地の側道に至る直前までの移動経緯を図化し、ブラジルアマゾンで起きている開発の同様な過程を明らかにした。住民はプカルパの市街・郊外、トカチェ周辺に移住した。土地は、占拠・購入により入手し、0〜350ha、平均46ha(65件)であった。購入が多いが、今日でも土地の占拠がみられた。トカチェ周辺では80年代中〜90年代初にコカノキ栽培のための移住が多かった。80年代後半〜90年代前半にテロを逃れて調査地へ来た人も多かった。移住と定着において、新たに形成された村落の住民参加は住民の履歴を元に参加システムを構築する必要がある。
[2]環境保全政策と生態資源利用における住民参加
ラオス・ルアンナムター県のDAFO(農林業地域局)の局長カミセン博士とナムハー村の副村長に非木材林産物の利用実態を聴取し、今後の地域住民参加への協力が得られるようになった。ネパール・ポカラ市とチャリカット市周辺の村落では、NPOをメディエータとして、コミュニティーフォレストリーグループ(複数の村から参加)が創られ、グループリーダがファシリテータの役割を担って、コミュニティーフォレストリー管理システムが作られていた。タイのサイヨークとラチャブリの周辺村落でのコミュニティーフォレストリーの聴取では、グループは村落単位であり、メディエータは、王室林野局、ファシリテータは村長。共用林の管理は主に、環境保全を目的としていた。 ウカヤリ州では、ペルー・アマゾンの森林で、多様な非木材林産物の利用が行われているが、いずれも個人単位であった。一方、ブラジル・トランスアマゾン・アルタミラ市周辺の村落では、地元NPOとICRAF(世界アグロフォレストリー研究センター)がメディエータとなり、村落の篤農家がファシリテータとなって、二次林の遷移を利用して、そこにアグロフォレストリーシステムを導入する方法(カブルンカ・システム)が行われていた。コミュニティーフォレストリーシステムについては様々な方法・システムがあるが、森林資源のセミドメスティケーション化の担い手としての機能を持つ。NPOや地方自治体も重要なメディエータとしての担い手であることが分かった。
(4) 地域住民のREDDへのインセンティブと森林生態資源利用によるカーボンクレジットの評価
セミドメスティケーション化はブラジルで行われているカブルンカ・システム(アグロフォレストリーの一形態で、二次遷移を利用)を用い、住民参加としてはネパールで行われているコミュニティーフォレストリーを適用する方針を選定した。研究代表者の従来の研究成果からREDD+モデルの構築を行った。これらの成果をREDD(+)モデルを使って、カーボンクレジットの評価とセミドメスティケーション化した非木材林産物のコストーベネフィットの評価の試算を行った。プロジェクト全体におけるREDD(+)とセーフガードを検討する。

3.委員の指摘及び提言概要

地域住民の知識、権利に関する研究によって森林劣化、減少を軽減し炭素クレジットを獲得しようとの意図で課題を設計し、既に丹念な現地調査を進め、セミドメスティケーション化の視点から研究を展開しており、この面では成果が期待できる。しかし単に農村経済調査や、資源の経済性、先住民・地域集落の知識調査に重点をおくのではなく、社会・文化にも視野を広げた調査をし、伝統的知識、権利と生態資源の関係を評価する,森林減少・劣化・再生と、ここで取り上げている資源の動態についての研究を行う,動物生態資源の評価は再検討する,先住民、地域集落の住民のREDD+活動への参加プロセスの検討と、そのためのインセンティブの創出を図るといった諸点を重視することが望まれる。現行のREDD+では、地域住民の知識・権利への配慮や参加等はセーフガードとして措置することとされREDD+政策・活動から地域住民の参加が排除されないようにすることをねらっている。セーフガードとしての地域住民の参加をどうしていくかについての研究を強化する必要がある。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

目次へ

研究課題名: E-1003 次世代自動車等低炭素交通システムを実現する都市インフラと制度に関する研究 (H22-24)
研究代表者氏名: 森川 高行 (名古屋大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ我が国のCO2排出の2割を占める交通部門における低炭素化を着実に誘導できるパッケージ施策と実現化手法の提案が本研究の目的である。低炭素交通システムを実現するため、本研究では、EV(電気自動車)等次世代自動車の普及促進、そしてTDM(交通需要管理)やITS(高度道路交通システム)、LRT(次世代型路面電車)、EVや自転車のシェアリングなど低無公害車両へ都市空間を優先的に再配分する施策のパッケージ的な展開が有効であると考え、これらを実現するには都市インフラや制度面からの支援が必要であるとの論点から研究を進める。また,現在の社会情勢を踏まえ、税制政策や低炭素化に向けた地方行政の着実な取組みに貢献できるなど、具体的な政策に直結する研究成果の導出を目指す。具体的には、環境税や道路利用課金(ロードプライシング)等プライシングスキームの再構築とパッケージ施策の提案、及びこれを実現するための制度設計や合意形成手法の提案を主眼とする。

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

■ E-1003  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/e-1003.pdfPDF [PDF 287 KB]

2.研究の進捗状況

初年度は4つのサブテーマごとに研究・調査を行い、全体の調整・連携を図るために全体会議を開催してきた。各サブテーマの研究進捗状況は次の(1)〜(4)の通りである。今後は、サブテーマの研究成果を入力データ・条件とし、低炭素交通システムの数値分析、実現化手法の検討を綿密な連携のもと行う予定である。
(1)低炭素交通システムを実現するモビリティデザインの方向性に関する研究
サブテーマ(1)では、次世代自動車をはじめとする低炭素交通社会が目指すべき方向性を明確にするため、以下の4項目を実施した。[1]電気自動車の普及・活用策、ロードプライシング等低炭素交通に係る国内外の先進施策事例を調査しデータベース化するとともに、専用WEBを開設し情報公開を行った。(http://www.trans.civil.nagoya-u.ac.jp/kankyo/
[2]環境問題、高齢社会等数多くの課題を抱える将来、市民が求める新しいモビリティ像を解明し、低炭素交通社会の方向性に関する分析を行った。
[3]低炭素交通社会を実現する施策に関する市民の合意形成手法の開発検討を行った。
[4]施策によるCO2削減とヒートアイランド緩和効果を視覚的に訴求でき、合意形成支援ツールとなり得る"3D都市環境評価システム"を開発した。この他に、国際貢献の観点から、次世代自動車に関する日中共同セミナーを開催した。
(2)ライフスタイル(生活・交通行動)を考慮したパッケージ施策に関する研究
サブテーマ(2)は、世帯の自動車保有状況や個人の交通行動を予測できる交通需要予測モデルを用いて、環境改善効果と効率性が高い次世代交通システムを提案することを目的としている。本年度は「次世代自動車の保有形態等に関する研究」として、エコカー減税・補助金施策によってハイブリッドカー購入者は高収入世帯からより広い世帯層に分布し、モデル分析から高齢者世帯の購入確率は低下するなど世帯属性別の影響を把握した。また、EV購入意向には販売価格や航続距離、乗車定員は影響するが、充電施設整備水準はほとんど影響しないことをアンケート調査の基礎分析とモデル分析から明らかにした。「充電施設の最適配置計画に関する研究」では、交通需要予測モデルにて保有者属性別のEV利用パターンをシミュレートし、主婦のセカンドカー的利用よりも就業者が利用した方が環境改善効果は高く、幹線道路でEV交通量が多く、都心部で駐車台時が長いことから充電施設整備の潜在的なニーズがあることを示した。「CO2削減効果を踏まえたパッケージ施策の提案」として、環境改善効果はEVが普及する程高くなるが、EV走行費用の割安感から走行台時は増加するため道路課金政策などとの施策のパッケージ化が必要であること、EV専用レーン導入は10%程度の普及率では社会的便益を低下させること、その対策としてEV/Tollレーンを提案し、一般車両の通行料金収入により社会的便益は改善し、EV保有インセンティブ創出効果や環境改善効果も有するため効率的な施策であることを示した。
(3)低炭素交通システムにおけるエネルギーと都市環境の総合評価に関する研究
サブテーマ(3)では、低炭素交通システムの構築に向けて、エネルギーと都市環境の総合的評価を踏まえた再生可能エネルギー供給体制を提案することを目的としている。本年度は「エネルギー評価に関する研究」では、EVをバッファとして考える(供給変電所エリア内のみならず、エリア外からの交通も含む)再生可能エネルギー普及促進シナリオの検討を行った。「都市環境評価に関する研究」では、名古屋都市圏を対象として、現行のガソリン車の交通排熱がEVの交通排熱に置き換わった場合に温熱環境に及ぼす影響をシミュレーションモデルにより解析・評価した。夏季の名古屋においては、EVへの代替に伴う排熱量の減少により、一ヶ月平均値として最大約0.3℃の気温低下が見られた。
(4)低炭素交通システムの実現に向けた制度設計と合意形成手法の開発
サブテーマ(4)の研究目的は、[1]次世代自動車への転換など低炭素交通システムの実現に向けた自動車関係諸税、プライシングスキームのあり方を提案すること、[2]低炭素交通システムの実現に向けた合意形成手法としての「プロモーション・プログラム」の開発、である。低炭素交通システムの実現に向けた制度設計のため、日本における現行の自動車関連諸税等を調査し、1台当たりの課税額及び2020年にEV70万台が同規模のガソリン車に代替する場合の税収の変化、CO2削減量等を試算した。さらに、ドイツの税制改革を参考にし、
[1]自動車税(軽自動車税を統合)の課税標準をCO2と車体重量に応じたものに変更する、
[2]自動車取得税、自動車重量税を廃止する、
[3]揮発油税・軽油引取税・石油ガス税の税率を引き上げる、
低炭素自動車への代替促進のための税制改革試案を作成した。
低炭素交通システムの実現に向けた合意形成手法としての「プロモーション・プログラム」の開発のため、試乗会を併せたワークショップを開催し、一般生活者の意見を収集した。この結果、参加者の関心は、費用、充電、次世代自動車の特性の3つの内容に集約された。また、ガソリン車との使い分けや車の新しい使い方、生活者の行動の変化など、新しいライフスタイルが創造される可能性が伺えた。アンケート調査からは、70%を超える参加者が、試乗会を併せたワークショップの参加により、次世代自動車に関する理解が進み、身近な乗り物になると感じられたと回答した。しかし、実際の次世代自動車の購入・普及に至るためには、新たな付加価値・魅力、制度等が必要と考えられ、これは来年度の課題としたい。なお、ワークショップの様子はマスメディアに取り上げられ、広く一般に公開できた。

3.委員の指摘及び提言概要

市民のライフスタイルに則した、実現性と効果の高い低炭素交通システムの提案を目指した政策志向型の研究として順調に推移していると判断できる。今後、これまでの調査・研究で新規に分かった事項について集中した分析を行うこと、EV車の材料から生産、消費(運転)、廃棄までのLCA的なシミュレーション評価などの研究課題にも対応すること、検討対象を名古屋圏にとどめず日本全国へと広げること等が必要であり、その上で、モビリティデザインの明確な描像を構築することが望ましい。なお、現行のパラメーターによる最適配置計画の検討による研究の発展を危惧する意見があった。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

目次へ