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 みちのく潮風トレイルを思いっきり楽しみたいなら、その道のスペシャリストに聞くのが近道!
 ロングトレイルの達人「シェルパ斉藤さん」と、アウトドア女子の憧れ「四角友里さん」に、みちのく潮風トレイルの楽しみ方とアドバイスをいただきました。

 

シェルパ斉藤(しぇるぱ・さいとう)
紀行作家 / バックパッカー
1990年に東海自然歩道を踏破。以降、アウトドア雑誌を中心に紀行エッセイを長期連載中。トレイルの名がつく日本のルートをもっとも多く歩くバックパッカーであり、年に1度は海外のロングトレイルにも。日本ロングトレイル協議会のアドバイザーも努め、ロングトレイルを旅する魅力を伝え続けている。歩く旅に関する著書多数。

壮大な太平洋を眺めながら、自然豊かな海のアルプスを歩く。
 みちのく潮風トレイルの魅力は、やっぱり海。風光明媚なリアス海岸や急峻な断崖沿いを歩く区間もあります。びっくりしたのは「海のアルプス」。想像以上にしんどい。とんでもなく登らされて、下って、また登る。その繰り返しは山のアルプスに負けていない。それにルート上の標識のいくつかは動物にかじられた痕跡がありました。たぶんクマでしょう。ミサゴやノスリなどの猛禽類も多くて、海沿いのトレイルなのにワイルド。壮大な太平洋の景色を眺めつつ豊かな自然を歩く、本格的なハイキングが楽しめます。八戸線や三陸鉄道など列車が走っている区間もあるからレイル・アンド・ウォークもいいでしょう。初めてみちのく潮風トレイルを歩いたときは息子と犬2頭を連れていったのですが、その方法で旅しました。駅の駐車場に車を停めて、ある地点の駅までみんなで歩いたら、息子と犬を駅舎に待たせて僕は列車で戻って車をピックアップ。そのあと車に乗って温泉に行ったり、食事に行ったりして楽なスタイルで旅をしました。同じコースを、歩き・鉄道・車のそれぞれで移動するから、非常に濃厚な旅になった気がします。山登りではできない、海のトレイルならではの楽しみですね。旅のおもしろさに満ちたトレイルなんです。


自由に歩き続ければ見つかる自分のスタイルと旅のリズム。
 北山崎自然遊歩道にある手掘りのトンネルは感動的。漁師が通路として堀ったのかと思ったら、そうじゃない。昔、国立公園に指定された時に遠方からこんなところまで来てくれるんだからと、歩きが楽しめるようにおもてなしのために作ったそうです。歩いてみたら真っ暗だし、岩肌がゴツゴツしていてかなりスリリングに楽しめました。僕は全行程踏破が目標だから、八戸の蕪嶋神社から設定されたルートに従って歩いているけれど、何が何でも設定されたルートを行かなくてもいいと思う。ロングトレイルの宿命として、土の道だけじゃなくて舗装道路もあるし、子連れで歩くにはつらい交通量が多い道路もある。そういう場合は公共交通機関に乗ったりしてパスすればいい。逆におもしろい発見や出会いがあったら時間をかければいい。フレキシブルかつ自由な発想で自分に合ったスタイルで歩けばいいんじゃないかな。海外のロングトレイルだってそう。アメリカのアパラチアン・トレイルなんて全長約3500kmもあるけど、全行程を一気に歩くスルーハイカーは全体の1~2割程度しかいない。それぞれが休みの期間や体力などを考えて、どこのルートがいいかを自分で決めて自己責任で歩いています。それでいいと思う。私は私。自分にあった道を行けばいい。とはいえ、ロングトレイルの旅は1日より2日、2日より3日、3日より1週間というように長ければ長いほどおもしろみが増していくことも事実。どんどんその世界にはまりこんで、旅のリズムができてくる。自分のスタイルも確立してくる。そうなったらやめられなくなるんだよね。


その人にしかできない出会いとドラマが待っている。
 人との出会いもロングトレイルの楽しみ。ラブラドール・レトリーバーと柴犬の2頭の犬を連れて歩いたときに、地元のじいさんが柴犬を見て「めんこいな、エサあげてもいいか」とやって来た。話を聞けば、10日くらい前にじいさんの犬が死んじゃったらしい。いつもじいさんが車に乗っけていた、その犬は柴犬。じつは僕が連れていた柴犬は、1ヶ月前に亡くなった義父から引き取った犬なんです。その話をしたら、「この犬、俺にくんねえか!」。さすがにそういうわけにもいかずに断ったけど、別れる段になっても「いいんだぞ、もらってやっても」って(笑)。最後は、僕らが見えなくなるまで見送ってくれて……。あれは強烈な思い出ですね。でも僕だけじゃない。誰にでもそういう出会いはあるはずです。東北の人は概してシャイだから、向こうから話しかけてくるケースは少ないけど、こちらから声をかければ応じてくれる。道を聞いたりするのが一番。教えてもらったあと「どこから来た? どこまで行くんだ?」という話になる。海沿いに住む人は、海のチカラを多くの人に知ってもらいたいと思っているはず。津波の厳しさも含めて、海の豊かさをね。震災の話も腫物にさわるような感じじゃなくて、普通に聞いてみたら、本音を語ってくれると思いますよ。


復興の道は、イマジネーションの道。
祈りを捧げながら歩こう。

 みちのく潮風トレイルは、復興の道でもある。未来に向かって立ち直っていく被災地を応援する。それが歩くきっかけの1つにもなるでしょう。復興の道はイマジネーションの旅、かもしれない。震災以前の風景と今では風景が違うわけです。津波が来る以前はどうだったのか、どんなことが起きたのか、想像して、祈る。ここを歩くことがどういう意味があるのか、ハイカーたちは自然と考えることになるでしょう。みちのく潮風トレイルは、将来的には巡礼の道になればいいと思います。津波の遺産として、人々に祈りを捧げながら歩くようなトレイルです。たとえばスペインのサンチャゴ巡礼路なんかは距離が約800kmで、みちのく潮風トレイルの全長と同じくらいです。みちのく潮風トレイルも世界中から旅人がやってくるサンチャゴ巡礼路のようになったらいいなあ。そもそも日本には1200年前から四国八十八カ所のお遍路があって、熊野古道もある。巡礼路を歩く文化が根づいているわけです。日本の場合は百名山をめざすような垂直方向の移動に憧れる登山志向が強いけど、水平方向に歩く旅にもっと出てもらいたい。ロングトレイルは、歩ける人なら誰でも行けるけど、その人にしかできない出会いやドラマが待っている。だからこそ、歩く価値があるんです。

初心者へのアドバイス
 計画を立てるために、まずはこのサイトからトレイルマップを取り寄せましょう。地図を見て、どこをどう歩くか、あるいはここは省略しようか、というプランを決めます。地図は地形図をもとにしてあるので標高差もわかるし、食料が調達できそうな集落などの目星もつく。そして時刻表などを見て、行き帰りの予定を考えたらいい。ウエアは重ね着が基本。着たり、脱いだりすることで温度調整がしやすくなる。意外に大事なのが靴下。綿素材だと汗でガビガビになってしまうから、化繊やウール素材をセレクト。休むときは靴下を脱いで汗を乾燥させる。足が洗えたらなおいい。疲れがとれてマメもできにくくなる。こまめに履き替えることも大切です。長旅の場合は、洗濯してリュックに吊るしておけば歩いている間に乾きます。

シェルパ斉藤 おすすめグッズ!

ハイドレーション
 ザックに収納して歩きながらこまめな水分補給が可能。脱水症状が防げるうえ、休憩時にまとめて水分補給するよりも消費する水の量が少なくて済む。


防水デジタルカメラ
 夏場は海に入ることもあるので、塩水をかぶっても落としてもOKなタフなカメラが便利。雨天時は地図を撮影しておけば、紙の地図代わりにチェックできる。


海用スリッポンサンダル
 休憩時は靴を脱いでサンダルで寛ぎたい。足先が保護されているタイプなら岩場を歩くこともできる。ずっと歩き続けることはおすすめできないけどね。


 

四角友里(よすみ ゆり)
アウトドアスタイル・クリエーター
「山スカート」を世に広めた登山ブームの立役者として、全国での講演活動、執筆、ウェアの開発などを通しメッセージを発信。着物着付け師の顔ももつ。4年間のニュージーランド生活を経て、現在は拠点を日本に移し、四季の山歩きを楽しむ。2016 年3月現在、みちのく潮風トレイルの八戸市、洋野町、宮古市、大船渡市、新地町・相馬市区間を歩いている。
四角友里 -よすみゆり-|ホームページ

東北の自然と風土を肌で感じることができる。
 みちのく潮風トレイルは、目の前に海が広がるオーシャンフロントの道がほとんど。海を高い場所から眺めるだけでなく、海辺の砂浜を歩ける道もあるので、一日中、海の存在をちかくに感じて、潮風が耳に響き続けるようなトレイルハイクができます。八戸の種差海岸を歩いたとき、私は1日目にトレイルとキャンプ、2日目に陸奥湊の朝市と遊覧船を楽しみました。1日目は歩きながら陸に暮らす人にとっての海を感じて、2日目で旬のウニを食べたり波の上をたゆたったりして、海そのものを味わったわけです。その2日間は、陸と海、2つの自然のはざまにいたようでした。このときの季節は夏。東北の太平洋側では、6月から8月にかけて冷たい風、「やませ」が吹くそうです。そのやませによって生まれた、海辺に高山植物が咲くという不思議な景色に目を奪われました。同時に、特別な気候をもつ土地に根付いた“言葉”も知ることができました。それは、海とともに暮らしてきた人たちが受け継いできたもの。厳しさと美しさがつつみ込まれています。ここに来ると、そんなふうに東北に根付いた風土を日本的な情緒として感じられる。みちのく潮風トレイルは、広い意味で「旅」なんだと思いました。


碁石海岸で見つけた、私とおとうさん達の出会い。
 大船渡・碁石海岸のトレイルでは、素敵な出会いもありました。私は、BRT(バス高速輸送システム)の碁石海岸口から入り岬をぐるりと周って、穴通磯まで行く4時間ほどの計画を立てていました。三面椿を見た後、ふと鮮魚店に立ち寄ったんです。そこで働くおとうさん・おかあさんと「どこまで行くの?」「穴通磯まで行きます」というやりとりをしたら、「遠いから車で連れて行ってあげようか?」と言われました。せっかくのご好意でしたが、歩くために来たのでお断りして、碁石海岸を歩いていたら、鮮魚店のおとうさんとは別のおじさんに車から話しかけられたんです。その方は、鮮魚店のおとうさんの同級生だそうで、私が立ち去った後に、「やっぱり車で乗せていってあげたほうがいいと思う」と3人で話し合ったことを伝えてくれました。おじさんは、「震災で東京の若い人がたくさん来てくれて、お世話になったから」と言って。私は、自分がいなくなった後にそんな会議をしてくれたこと、ボランティアに来たのは私ではないのにやさしくしてくださった温かさに胸がいっぱいになり、その気持ちに甘えて車に乗せていただくことにしました。だから、正直に言うと、碁石海岸エリアはそんなに歩いていないんです(笑)。でも、とってもいい思い出です。私はこの町に「また、必ず歩きに来ますね」と伝えました。


自分の好きなことで東北とつながっていたい。
 みちのく潮風トレイルは、震災の記憶をたどり、東北の今を知ることができる場所でもあります。宮古のトレイルでは、浄土ヶ浜から震災メモリアルパークのある中の浜まで足を伸ばしました。浄土ヶ浜の景色は圧巻で、続く森も豊か。三陸特有の松林と海の織りなす美しい景色には感激しましたね。その後、中の浜に着くと、津波が15mの高さまで迫った施設が残されていました。みちのく潮風トレイルでは、見渡すと何もないさら地を目にすることも多く、胸が苦しく重くなります。でも、それも含めて、自分の足で歩き、見て、知れたことに意味がある。ここで心に焼きつけた現実、山と海の美しさに感動した気持ち……その両方を大事に受け止めたいと思いました。自然をただ怖れるのではなく、畏れ敬い生きてゆけたら、と。私は震災当時、海外に住んでいたこともあって、報道を見たり、募金したりすることでしか東北と接点が持てずにきました。でも、今はみちのく潮風トレイルで等身大の接点をみつけることができた。私は歩くのが好きだから、それをとおしてつながっていくのは一番“自然なこと”だと感じています。だから一度歩いて終わりじゃなくて、何度も長く通う道にしようと決めました。トレイルに足あとを残すことは、訪れた地に自分の魂のかけらを置いてくることなんだと思うんです。


観光とトレイルをくっつけて、東北をまるごと楽しんで!
 初心者の方や女性向けには、みちのく潮風トレイルと観光をくっつけて、アウトドア旅として広く楽しんでみることをおすすめします。例えば、宮古市区間ならば1日は盛岡観光をして、もう1日は浄土ヶ浜を歩く。食も私にとっては旅の大切な要素。盛岡には喫茶店の文化があるので自家焙煎の珈琲豆を買ったり、浄土ヶ浜でウニラーメンを食べたりしました。また、歴史・伝統に触れるのも楽しみのひとつ。八戸には八幡馬(やわたうま)や南部裂織(なんぶさきおり)、仙台にはこけしなど、東北には北欧雑貨なんて目じゃないくらいにかわいい民芸品がたくさんあって、その土地で生まれ、根づいた文化もたくさんある。帰ってから眺めると、旅の思い出に包まれるようで楽しいんです。買い物や食も楽しんで、東北をまるごと満喫してみてはいかがでしょうか。私は山登りもしますが、草花などはもちろん摘んで帰れないし、山からたったひとつだけ持ち帰れるのは《胸の中に宿る》思い出です。それに里や街での旅の要素を加えて、自分だけの物語を作ってゆけることが、みちのく潮風トレイルの良さなんだと思います。

初心者へのアドバイス
 トレイルマップを取り寄せて計画を立てるときは、食事ポイントやトイレポイントをチェックしておいてください。逃がすと当分ない場合もありますし、冬季閉鎖していることもあります。服装は、観光ではなく、歩く旅なので、遠足に行くくらいのイメージで。海風に1日中さらされることになりますので、それなりの防寒対策も必要です。また、ウエアは写真を見返して旅を思い出す大切な要素になります。海の青がきれいなので、補色の黄色は映えますよ。逆に同じ青を身にまとえば海の色とひとつになれるし、シックに着こなせますね。2日以上のトレイルの場合、リバーシブルウエアなら荷物もへらせますし、気分も変えられるのでおすすめです!

四角友里 おすすめグッズ!

ウインドシェル
海風が強いときの体温調整に重宝します。軽量でコンパクトに折りたためるものだと荷物にもなりません。


魔法瓶
風にさらされると体が冷えるので、温かい飲み物を入れて持っていきました。私は、白湯や薄めた葛湯を入れていましたね。


サコッシュ
登山や自転車用のサコッシュをリュックとは別に用意すると便利。おやつや地図、小銭入れが、立ち止まらずに片手でサッと取り出せますよ。