自然環境・生物多様性

ジュゴンと藻場の広域的調査手法検討会(第2回)議事要旨

開催日時

平成14年2月8日(金) 13:30~16:00

開催場所

虎ノ門パストラル「オーク」の間(東京都港区虎ノ門4-1-1)

議題

ジュゴンと藻場の広域的調査手法(案)について

出席委員

出席委員以下の6名の全委員と、アドバイザーとしてオーストラリアからジュゴン研究者のプリーン博士が出席。

  • 相生 啓子 青山学院女子短期大学 講師(前東京大学海洋研究所)
  • 井田  齋 北里大学水産学部 教授
  • 内田 詮三 国営沖縄記念公園水族館 館長
  • 粕谷 俊雄 帝京科学大学理工学部 教授(前三重大学教授)
  • 香村 眞徳 (財)沖縄県環境科学センター 専務理事(琉球大学名誉教授)
  • 山田  格 国立科学博物館 動物第一研究室長

議事要旨

環境省自然環境局野生生物課長による開会の挨拶の後、オーストラリアから招聘したジュゴン研究者(Dr.Anthony R. Preen、別記参照)により、スライドをまじえたジュゴン調査事例等に関するプレゼンテーションが行われた。その後、事務局よりジュゴンと藻場の広域的調査手法案に関し資料に沿って説明し、質問や意見交換を行った。
(注 □:環境省・事務局((財)自然環境研究センター)発言、○:委員発言、*:プリーン博士発言)

プリーン博士による主なコメント

  • *ジュゴンを管理する上でのポイントは、生息場所、生息数、分布状況、生息に対する脅威、どれだけ脅威を減らすことが可能かということ。
  • *漁師へのインタビューにより、ジュゴンの分布について、相対的な生息数、この何十年の間の生息数の増減の傾向についても知ることができる。
  • *海岸で実施する航空調査は安価な調査手法で、比較的簡単に貴重な情報を得ることができる。また、漁網などを空から確認できる。
  • *沖縄ではジュゴンの分布に関するデータは限られているので、個体数ではなく分布を調べるべき。
  • *ジュゴンの分布についての現在あるデータは調査努力量を反映しており、ジュゴンそのものの分布は反映していないという印象を持った。これだけの情報では、どこに保護区をもうけるのかを判断することはできない。沖縄のジュゴンの分布についてもっとデータを入手する必要があると思う。調査手法としては、トランゼクトと海岸線部の航空調査の組み合わせが有効だろう。沖縄ではジュゴンの生息数が少なく非常に困難だと思うが、発信機による行動追跡調査の準備をしておき、漁師と協力して実施するのも良い方法だ。
  • *海草藻場の地図化は重要だが、ジュゴンの保護という観点からは他の調査よりも重要性は低い。
  • *オーストラリアでジュゴンの行動追跡調査を行ったところ、50kmから150kmという距離を移動していることが分かった。ある特定のジュゴンは600kmも一度も止らずに泳いだ。沖縄の保護区を検討する場合にも、かなり移動する動物であることを考慮する必要がある。
  • *海草藻場の分布について、地図化の意味がないと思われるような海草がまばらにしかない場所で、ジュゴンが餌を食べていることがある。
  • ○以前、オーストラリアの方と沖縄のジュゴンの保護について議論したが、例えばオーストラリアの調査研究の成果を使えるもの、借りられるものは借りれば、特にジュゴンに対して危険を冒してまで、調査をすべきではないという一般的な理解であった。その点で、行動追跡調査用の発信機を付ければ非常に重要な情報を得られることは解っているが、行動追跡調査の結果もオーストラリアから借りてしまえばよいだろうという理解だった。それで伺いたいが、沖縄ではジュゴンが何頭いるのか誰も知らないが、非常に少ないのは間違いない。そういう状況でも行動追跡調査を行うべきか。
  • *オーストラリアでの行動追跡調査の情報を利用することはできるが、実際に沖縄でジュゴンはどこで生息しているのか、沖縄にとってどこが重要なのかということは解らない。リスクを伴う調査ではあるが、行動追跡調査による追加情報が必要だと思う。ジュゴンに対していろいろと圧力があると思うので、リスクを冒しても今情報を得なければ、10年後にジュゴンが生息しているかどうかは解らないと思う。
  • ○それについては少し意見が違う。オーストラリアの行動追跡調査から分かるように、ジュゴンはふだんは余り動かないとしても、時には数百キロも動く場合もある。ジュゴンは沖縄の海岸を動き回っていると仮定して保護対策をたてる必要はあると思う。沖縄全体を認識して保護対策を立てるのであれば、さらにその中での細かい動きは急いで知る必要はないと思う。生物学的な知見はたくさんあればすばらしいことだが、ある結果が出てきたときに保護対策に変化が有るのか無いのかを評価して調査をする必要があると思う。
  • *沖縄の全体でジュゴンを保護できるのであれば一番良いが、それは沖縄から漁業をなくすことになり、できないことだと思う。従って、現実的な観点から、保護区を設定する必要があり、そのためにはどこが重要かを知る必要があり、そのためには行動追跡調査による追加情報が必要。
  • ○私の発言が少し誤解されているようだが、日本政府に沖縄の漁業を停止する能力が無いことは認識している。従来の航空機の調査でもジュゴンを発見しているのは沖縄の東海岸の北半分。西海岸の北三分の一の部分だけ。その中での動きをさらに調査することがそれほど重要かどうかについては疑問に思っている。
  • *もちろん現実的に政治的な環境の中で何が現実的なのかを知らなければならない。ご存じのとおり、ジュゴンを守るためには漁網に対応する必要があると思う。ジュゴンは漁網に大変影響を受けやすく、数が少ない場合は1年から3年の間に一頭ずつネットに捕まるだけでもそこの個体群が絶滅してしまうことがある。だから保護ということは漁網に対する保護ということになるわけだが、広い地域で漁網をなくすことはできないと思う。それで、特定の場所での保護が必要だと思う。
  • *ジュゴンの採餌場所で深いところは水深約30~34m。私がレコーダーで調べていたものでは15~20mのところが多い。

広域的調査手法案に対するコメント

  • ○藻場の調査を緊急にやらなければジュゴンの保護ができないとは思わない。長期的に海草藻場の調査を行うことは良いことだが、今はジュゴン保護対策が必要である。
  • □調査よりも保護対策を緊急に講ずるべきではないかとの意見だが、ジュゴンや藻場のデータを踏まえた上で何をすべきかを考えていきたい。例えば種の保存法に基づく国内種の指定、モニタリングや傷病個体のリハビリなど保護増殖事業の実施などが想定される。また、環境省だけでジュゴン保護はできないと思っている。水産庁や地元の理解を得つつ、保護方策について検討したい。
  • ○発見された死亡個体の収容と調査の体制を早急に確立しておくべき。
  • □沖縄県などの関係機関と連携して、素早く対応をとれるようにしたいと思う。
  • ○漁業活動の実態を調べる必要がある。免許だとか書類にあるものと実態と両方を調べるべきだ。
  • □漁業活動の実態を調べる必要がある。免許だとか書類にあるものと実態と両方を調べるべきだ。
  • ○藻場で底質や水質も調べるべきではないか。
  • □藻場の調査では底質まで実施する計画であり、文献による調査と合わせて考察する予定。
  • ○航空機によるジュゴンの分布調査を北西部を中心に行うとあるが、なぜ北西部だけに限ってしまうのか。もっと広い範囲でもいいのではないか。
  • □調査手法案にあるジュゴンの分布調査を沖縄本島北西部を中心とするという記述は、今までの目視例が東海岸に偏っているので、今回は情報の少ないところを補う意味での提案である。北西部に限った調査ではない。
  • ○浅場の海草藻場調査について、具体的に調査計画を立てる段階で、実際に調査を担当する人たちの意見を聞くべきである。
  • □浅場の海草藻場調査については、どういうセクターが調査を行うか決まっていないが、いくつかの海域に分けて同時に調査する必要があると思われるため、調査実施マニュアルを作成し、調査者の研修のようなものを実施して調査の精度を合わせる必要があると思う。
  • ○西表に情報がないのは調査不足のため。久米島や石垣島で目視例はある。八重山の方も調査すべき。
  • □八重山にも大きな関心を持っているが、予算面で厳しいものがある。
  • ○ジュゴンの分布調査の船舶による海上調査について、ジュゴンが見つかったら近づいて写真撮影をするというような調査はしない方が良い。
  • □船舶による海上調査(ジュゴンの分布調査)は、調査項目から省くこととしたい。
  • ○混獲したときのレスキュー体制を作るべきだ。
  • □今後、関係省庁、沖縄県等と体制づくりについて検討したい。
  • ○ロボットを使った実験を見たところ、水深30mから50mくらいのところでも海草群落が確認できるようだ。底質もだいたい分かる。
  • *一番深いところで確認した食跡は、水深34mだった。深場の食跡は浅場の食跡と特に大きな違いはないが、深くなれば海草がまばらになるので、確認しづらくなる。

その他の意見等

  • ○定置網にかかった個体は、一旦収容し、飼育下で十分な知見を得た後に、海に放しても良いのではないか。
  • ○環境から切り離して、水族館に入れることは家畜を作るようなもので、自然保護の最終目標ではありえない。飼育による研究も否定するものではないが、それを沖縄でやるべきではない。
  • ○本調査を行う際、併せて漁業活動がいつ、どこで行われているのかも記録しておけば、今後の保護に役立つはずである。
  • ○ジュゴンを保護するため、漁業関係者との話し合いを水産庁、環境省などの関係省庁や沖縄県が一緒になって進めるべき。

今後の方向

  • □検討会での意見を踏まえ、調査手法を早急にとりまとめ、2月中にも調査に着手する予定。
  • □来年度から、この調査手法検討会を「ジュゴンと藻場の広域的調査委員会」という名前に変え、先生方には引き続きご参画をいただき、ご指導をお願いする。

別記

Anthony R. Preen, Ph.D.
 オーストラリア、ケンプシー生まれ。1982年ジェームズ・クック大学卒業(学士号、海洋生物学・動物学専攻)、1992年ジェームズ・クック大学博士課程修了。長年、オーストラリア、サウジ・アラビア、イエメン、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、パラオ、ケニア、タイなど世界各国でジュゴンの調査、研究に携わってきた。
 最近はコンサルタントとして、Regional Organisation for the Conservation of the Environment of the Red Sea and Gulf of Adenやアラブ首長国連邦のCommission for Environmental Researchなどのために、海生哺乳類などの調査手法に関する指導を行っている。ジュゴンの生態や保全に関する著書多数。