自然環境・生物多様性

第65次南極地域観測隊同行日記5

第5回:自然保護官(レンジャー)、東オングル島を行く

2023年12月27日(火)

みなさま、こんにちは。お元気にしていますか?
私は今、昭和基地のある東オングル島にいます。




南極観測船しらせから昭和基地へのヘリコプター第1便が到着したその日、私は第4便に乗って昭和基地に入りました。 
私は「南極は常に氷に閉ざされた白い世界」と考えておりましたが、夏の南極は地面が見えている場所も少なからず存在しています。
そして日本で生活していた感覚で見ると不思議な景観が待っていました。


この写真、一見すると雲海の広がる高山の山頂のようです。
でもここはヘリポートのすぐ隣、標高20m程度の場所なのです。
ガレ場のような地面、雲海に見えるものはすべて海氷、冷たく澄んだ空気が高山らしさを出しているのかもしれません。
 
そしてやはり南極は特殊な環境です。
南極にも水があります。川があります。水溜まりもあります。しかし生き物の気配を感じません。
この気温なら、水溜まりにエゾアカガエルの卵があってもおかしくないですし、雪の上をセッケイカワゲラが歩いていたり、根雪の切れ間からフキノトウが顔を出していたりしても良いのです。
日本の高山の山頂では高山植物がガレ場に根をはり、細々とでも土を作ろうとするものです。
しかしこの東オングル島にはそれがありません。もしかするとコケ類を保護しているエリアであればもう少し何かを発見することができるかもしれませんが、
今のところ発見できた生物の気配は風で運ばれた鳥の羽根のみ。
氷に閉ざされた環境の特殊性を肌で感じております。



 
さてさて感動もそこそこに、昭和基地周辺で環境省が行う調査・作業はたくさんあります。
今回は以下の活動を行いました。
 
・南極地域活動実態把握調査
「昭和基地へ飛ぶ」の記事(第65次南極地域観測隊同行日記4 参照)でその1として挙げたものです。
南極は南極条約および環境保護に関する南極条約議定書と呼ばれる国際的な取り決めがあり、日本も批准しています。
環境省では条約の担保として南極環境保護法を制定し、日本国民が南極で活動する際のルールを定め、環境保護の促進を図っているのです。この調査は、南極地域観測隊の各種調査が南極環境保護法に基づき適切に行われているかを環境省職員が確認するものです。 
 
この活動は、自然保護官(レンジャー)の巡視業務に似ています。
全国の自然保護官も、それぞれの自然環境を守るため、それぞれの法律のもと日々巡視を行っています。
私も初めて赴任した自然保護官事務所でのことを、巡視した日々のことを思い出しながら、まずは昭和基地まわりを一周しました。

                    


・南極地域環境資質調査(南極史跡記念物(福島ケルン)の確認)
「昭和基地へ飛ぶ」の記事(第65次南極地域観測隊同行日記4 参照)でその4として挙げたものです。
南極では、人間の活動の中でも特に歴史的に価値があるものは「南極史跡記念物」として国際的に定められ、保護されています。もしこれが大きく破損していたり、さらなる保護のために移設が必要になった場合などは南極条約の国際会議で報告しなければなりません。
日本の関係で指定されているものは第2南極史跡記念物であり、「福島ケルン」と呼ばれているものです。
これは第4次観測隊の活動中に亡くなられた福島隊員を悼むために作られたケルン(石塚)であり、毎年南極観測隊で慰霊と安全祈願を行っていると聞いています。
 
私も南極にやってくる前に発熱でダウンした身(第65次南極地域観測隊同行日記1 参照)、これ以上の怪我や事故を起こしたり体を崩したりしないように、改めて安全な活動を誓ったのでした。

 

                  
これで8つの調査・作業のうち2つ実施できました。 
 

ただいま2023年12月27日ですが、このあとは野外調査も予定されており、昭和基地に帰ってくるのは年末になりそうです。
みなさま、良いお年をお過ごしください。
                      

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