自然環境・生物多様性

第65次南極地域観測隊同行日記6

第6回:自然保護官(レンジャー)、氷河に立つ

2024年1月12日(金)

みなさまこんにちは。お元気にしていますか?
私は今、氷河の上にいます。



2023年も残すところ数日となったある日、私はヘリコプターに乗って昭和基地を飛び立ちました。
行く先は昭和基地から10kmほど先にある、ラングホブデ氷河と呼ばれる氷河の上です。
そこで氷河を研究しているチームに合流するのです。



              <氷河上に小さく見える氷河チームのテント村>

そもそも、なぜ自然保護官(レンジャー)が氷河に行くのでしょうか?
もちろん、氷河チームのお手伝いという面もあります。しかしそれだけではなく、同行日記4で挙げていた8つの環境省活動のうち、その2:南極地域環境調査を行うのです。第65次南極地域観測隊同行日記4 参照)

南極環境保護法では、保護する対象である南極地域の環境を構成するものとして南極地域の大気や生物などを定めており、その中には地形・地質や景観も挙げられています。
氷河は、南極地域を代表する自然現象のひとつであり、重要な地形、景観と言えます。
自然保護官(レンジャー)として、保護すべき自然環境がどのようなものか、そしてどうなっているかを実際に確認・調査するのです。

氷河は文字だけを読むと極寒の地のように感じられます。
しかし実際には、まぶしく照り付ける太陽と風によって作られたであろう波打つ雪面、まるで白い砂漠にいるかのような錯覚を覚えます。
雪面にはいくつものクラック(氷のひび割れ)やクレバス(氷の裂け目)が青く深い口を開け、水たまりは八幡平の竜の目を彷彿とさせ、その無数の瞳が私たちを睨みます。
氷河の上は厳しく、そして美しい環境でした。





氷河チームはここでは地震波やレーダーによって氷河の下の地形を調べています。
話を聞くと、一見すると雪原に見えるここはすでに海の上で、厚さ約400mの氷の上なのだそうです。
氷の上を流れる川も、場所によっては一気に海まで落ち込んでいることがあるのだとか。
クレバスもそうですが、自分の足元がそんな地獄のウォータースライダーになっているかもしれないと思うと足がすくみます……。


また氷河の動きも調べているようで、いくつかの機器設置地点も案内してもらいました。
遠くに見える露岩帯へ、アイゼン履いてピッケル持って(氷の)丘を越え(氷の)谷を越え。


 

露岩帯の水たまりは春の小川のように見えますが、川原の石をひっくり返しても、水の中の石をひっくり返しても何の虫も痕跡も見つかりません。
そうだとわかっていてもやはり不思議な気持ちになります。



ところで、昭和基地のある東オングル島は南極大陸とは繋がっておらず、昭和基地入りしただけでは「南極大陸に上陸」とは厳密には言えません。
そのため、ラングホブデ氷河から露岩帯に入ったこの日こそ、「自然保護官(レンジャー)が南極大陸に立った日」なのでした。

なお、氷河チームの先生に「氷河の下の地形を調べたら、今回行った露岩帯は実は島だった!……とかあり得るのでしょうか?」と聞いたところ、
「意外とあり得るかもしれない」とのこと。
私は本当に南極大陸に立つことができたのか、いつかわかる日が来るかもしれません。


                      

 

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