自然環境・生物多様性

第65次南極地域観測隊同行日記11

第11回:自然保護官(レンジャー)、外来種を探す

2024年2月21日(水)

みなさまこんにちは。お元気にしていますか?
私は今、池のほとりにいます。
そして……戦慄しています!!




廃棄物埋立地の発掘が終わってすぐ、私は何度目かの南極大陸上陸を果たしていました。行き先はラングホブデ方面。今度はぬるめ池と呼ばれる池です。



                <上空から撮影したぬるめ池>

今回の目的は過去に外来種の植物が確認・駆除された場所の継続調査です。そしてこれは、私の昭和基地滞在中における最後の野外調査となりました。
 
南極においても人間の往来がある以上、外来種の問題は避けることができません。特に南極大陸の中でも比較的暖かくまた基地が密集する南極半島などでは、毎年外来植物や昆虫の確認が報告されています。
 
もちろん南極条約や南極環境保護法でも外来種対策はされており、生きている動物の南極への持ち込みは規制されています。南極物語で有名なタロ・ジロたちも、今だと同じように南極に連れて行くことはできません。
また菌やウイルスも外来種と言えます。そのため特に規制の強い南極特別保護地区などでは、ペンギンやユキドリなど鳥への感染対策として、鳥の病気を運ぶ可能性のあるものは羽毛や卵製品すら持ち込みが規制されていることがあります。
 
 
さて、ぬるめ池に到着しました。周囲を探索しましょう。
ぬるめ池はラングホブデ方面に大小多数ある池の中でも、冬に凍らないことから「温め」と命名されたそうです。



過去に外来種が確認されたといっても、もう何十年も昔、しかも草が一本というものです。またその後今まで定期的に調査が行われていて、それでも確認できていないのでおそらく今回も確認はされないだろうと思っています。
 
しかし油断は禁物です。昭和基地周辺は南極大陸沿岸の中でも特に寒冷な地域に属しますが、似たような環境が南極以外にも無いわけではなく、そのような環境に適応した生物も多々いるのです。
わかりやすい例でいえば北極でしょうか。実際、ぬるめ池で確認された外来種は北極圏で生息しているものだったと聞いております。




視界に白いものが映りました。慌てて地面を確認します。



落ちていたそれは、一見すると枯れたイネ科植物の茎のように見えます。
 
戦慄が走ります。見渡すと、似たような枯草色がたくさんあります。
これだから油断は禁物なのです。もし本当にイネ科植物だとしたら大変です。
 
(今まで見落としていたのかそんなことあり得るのか、どのように駆除するか根を残すとマズいぞ、いや待て本当に植物か……?)
過去と今と未来の事をぐるぐると頭の中で回しながら、ひとつ隣の枯草色を拾います。



……枝毛が付いていますね。よく見ると先ほどの枯草色も、鳥の羽根が風化したものでした。
ぬかおののきに安堵したものの、まだまだ油断は禁物です。まだ予定の四分の一も進んでおりませんし、今回は羽根でしたが次も同じとは限らないのです。
 
その後、このぬるめ池は鳥の通り道なのか風の通り道なのか、いくつかの地点で同じような鳥の羽根を見つけました。
そしてその度に自然保護官(レンジャー)は驚き、戦慄を駅伝大会のごとく走らせていたのでした。



       <探索途中で発見した、ちょうど半分で白黒が分かれている迷子石>


 

                                   次へ>>