自然環境・生物多様性

小笠原陸産貝類20種

1.分類(20種全て)

  • 異鰓目 キセルモドキ科、オカモノアラガイ科、ナンバンマイマイ科
  • 絶滅危惧Ⅰ類(環境省第4次レッドリスト)

2.種ごとの概要

種名(学名)

種の概

1.ハハジマキセルモドキ

Boninena callistoderma

ハハジマキセルモドキ

①種の特徴:殻長11.4mm、殻径6.5mm程度で、薄質、短大で円錐形状卵形、緑褐色を呈する。螺層は6.0層。体層と螺層はやや膨らむ。殻表は刻点状の螺状溝と顆粒状の波状肋脈からなる。殻口唇縁は広がって、白色の滑層がある。小笠原諸島の本属3種1亜種のうち、大きさの比較ではオガサワラキセルモドキ(B.ogasawarae)に類似するが、より短大で殻径が幅広いことで識別される。乾性低木林の樹上で生活する。

②生息地 :父島、兄島、弟島、母島、向島、姉島、妹島

③生息状況:生息個体はごく少数で、減少傾向。一部の属島では多産

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(ネズミ類による捕食、貝食性陸生プラナリア類による捕食(父島))、気候変動による乾燥化

※現在は大きな影響要因となっていない

2.チチジマキセルモドキ

Boninena hiraseana chichijimana

チチジマキセルモドキ

①種の特徴:殻長9.0~11.0 mm、殻径5.0 mm程度で、厚質で堅固、円錐形状。殻色は栗褐色を呈する。体層は殻長のほぼ半分を占める。殻口縁は白色で外に向かって反曲する。基亜種のヒラセキセルモドキ(B.h.hiraseana)は聟島列島の聟島と媒島に分布し、貝殻は小さくて短大、やや殻質が厚いことで区別される。樹上性で、尾根部や台地状の地形の生育する乾性低木林に生息する。

②生息地 :父島、兄島、弟島、妹島

③生息状況:弟島は絶滅。生息個体はごく少数で、減少傾向。

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(ネズミ類による捕食(兄島)、貝食性陸生プラナリア類による捕食(父島))

※現在は大きな影響要因となっていない

3.ヒラセキセルモドキ

Boninena hiraseana hiraseana

ヒラセキセルモドキ

①種の特徴:殻長8.5~9.0 mm、殻径5.0 mm程度で、堅固、卵円形状で短大、殻径が大きく、黄褐色を呈する。螺層はほぼ6.0層。螺層の膨らみは強い。殻表には不明瞭な刻点列状の螺状脈を持つ。軸唇は垂直的。殻口縁は白色で広がり、多少は反曲する。チチジマキセルモドキ(B.h.chichijimana)は本亜種よりもやや細長い。乾性林の樹幹に生息する。

②生息地 :聟島は絶滅、媒島

③生息状況:残存する生息範囲が狭く、生息個体はごく少数。

④減少要因:外来種による影響(ノヤギによる植生破壊、タケ・ササ類による森林植生の減少、ネズミ類による捕食)。

※現在は大きな影響要因となっていない

4.オガサワラキセルモドキ

Boninena ogasawarae

オガサワラキセルモドキ

①種の特徴:殻長13.0 mm、殻径5.2 mm程度で薄質、茶褐色、細長い紡錘形状。螺塔は高く、その螺層の膨らみは小さい。殻表に密な点刻列をめぐらす。小笠原諸島には本属の種類は3種1亜種が知られているが、本種は中でも一番細長い殻を持つこと、さらに螺塔のプロポーションがあまり膨れずに直線的であることで、他種とは識別できる。乾性低木林の樹幹に生息する。

②生息地 :父島、兄島

③生息状況:生息個体はごく少数。

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(ネズミ類による捕食、貝食性陸生プラナリア類による捕食(父島)。)

※現在は大きな影響要因となっていない

5.オガサワラオカモノアラガイ

Boninosuccinea ogasawarae

オガサワラオカモノアラガイ

①種の特徴:殻長約10.0mm、殻径8.0mm程度で、殻は薄くて半透明。螺塔はきわめて低く、ほとんど突出しない。殻口は大きく殻長の約9/10を占める。殻表に弱く螺状溝をもつが、点刻列とならない。生時には、外套膜が殻の周縁部を覆う。腹足の背面は白い。標高の高い森林の葉の裏などに付着して生活する。

②生息地 :父島、母島

③生息状況:父島では絶滅。母島では個体数が減少傾向。

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(貝食性陸生プラナリア類による捕食、ネズミ類による捕食)、気候変動による乾燥化

※現在は大きな影響要因となっていない

6.テンスジオカモノアラガイ

Boninosuccinea punctulispira

テンスジオカモノアラガイ

①種の特徴:やや大型のオカモノアラガイ類で、殻長約15.0 mm、殻径約10.0 mm、殻色は黄褐色。螺塔はやや高く明瞭に突出、殻口は大きく殻長の約4/5を占める。殻表に弱い点刻列がある。生時に外套膜が殻の周縁を覆うことはなく、腹足の背面正中線上に黒い帯がある。標高の高い森林の葉の裏などに付着して生活する。

②生息地 :兄島、父島、母島

③生息状況:兄島、父島では絶滅。母島では個体数は大幅な減少傾向にある。

④減少要因:外来種による影響(貝食性陸生プラナリア類による捕食、ネズミ類による捕食)、気候変動による乾燥化

7.アニジマカタマイマイ

Mandarina anijimanaアニジマカタマイマイ

①種の特徴:殻長18.0mm、殻径24.0mm程度で、やや円く、硬質、螺層はやや膨れる。体層周縁は円い。殻表はほぼ平滑。殻色は淡黄褐色で、色帯の有無に関して、変異がある。臍孔は狭く開くが、時に閉じることもある。殻口は厚く肥厚・反転する。乾性低木林の落葉下に生息する地上性種で、繁殖はおもに冬から春にかけて行われると考えられる。

②生息地 :兄島

③生息状況:生息密度が低下

④減少要因:外来種による影響(クマネズミによる捕食、ノヤギによる植生破壊

※現在は大きな影響要因となっていない

8.コガネカタマイマイ

Mandarina aureolaコガネカタマイマイ

①種の特徴:殻径24.0mmほどで、やや腰高で周縁は円く、殻表は平滑で、光沢がある。殻色は変異に富み、黄、黄白、橙、褐色、黒褐色などの地に1~3本の色帯をめぐらす。外見はアケボノカタマイマイやヌノメカタマイマイと類似することがあるが雄性生殖器の形態から区別することができる。オガサワラビロウ、アカテツ、テリハハマボウ等が混生するやや乾燥した林内の林床に生息する。林内のうち、林床の表層を利用する地表性の生態型を示す。

②生息地 :母島中部・南部

③生息状況:中部ではほとんど生息が確認できていない。南部では生息密度が低下。

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(クマネズミによる捕食、貝食性陸生プラナリア類(コウガイビル)による捕食)

9.チチジマカタマイマイ

Mandarina chichijimanaチチジマカタマイマイ

①種の特徴:殻長20.0mm、殻径24.0mm程度で、やや円く、硬質、螺塔は高く、螺層はやや膨れる。体層周縁は円い。殻表はほぼ平滑。殻色は淡黄褐色で、殻に4本の色帯をもつ。臍孔は閉じる。殻口は厚く肥厚・反転する。おもにオガサワラビロウ等が多い湿性林の林床に生息する地上生活性の種である。

②生息地  :父島南部、巽島

③生息状況:父島では生息地が大幅に縮小。個体数は著しい減少傾向。

④減少要因:外来種による影響(貝食性陸生プラナリア類(ニューギニアヤリガタリクウズムシ)による捕食、クマネズミによる捕食)

10.ヒシカタマイマイ

Mandarina exoptataヒシカタマイマイ

①種の特徴:殻長14.0mm、殻径23.0mm程度の亜菱形、薄質、螺塔は低く、螺層はわずかに膨れる。体層周縁に強い竜角をもつ。殻色は淡黄褐色で、色帯をもたない。殻表には細密な縮み状の螺状肋がある。臍孔はやや広く開く。殻口は肥厚・反転する。生息地は、雲霧帯になる高標高の湿った森林内に限られる。樹上から地上までを利用する半樹上性の生態型を示す。

②生息地 :母島

③生息状況:生息密度は高くない

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(アカギやモクマオウによる植生変化、貝食性陸生プラナリア類による捕食)

11.ヒメカタマイマイ

Mandarina hahajimana

①種の特徴:殻長13.5mm、殻径16.0mm程度で、やや薄質、螺塔はやや低く、螺層はわずかに膨れる。体層周縁は円い。殻色は淡黄褐色から濃褐色で、さまざまな様式の色帯をもち、時にこれを欠く。殻表には極めて細かい螺状肋がある。殻表には弱い光沢がある。臍孔は狭く開くことが多いが、閉じたり、広く開いたりする個体群もある。殻口は厚く肥厚・反転する。高標高地域に多く、林内の樹上にて生活する生態型を示す。

②生息地 :母島北部

③生息状況:生息に適した環境が減少している

④減少要因:外来種による影響(クマネズミによる捕食、アカギやモクマオウによる植生変化、貝食性陸生プラナリア類による捕食)

12.フタオビカタマイマイ

Mandarina hayatoi

①種の特徴:殻径約20.0~24.0mm、殻長15.0~22.0mmほどで、サイズの変異に富む。黄または茶の地に2本の黒色の色帯を巻くが、色帯を欠く場合もある。偏平で小型のタイプと大型で殻長も長いタイプがあるが、遺伝的には分かれていない。ヒメカタマイマイ、オトメカタマイマイと類似するが雄性生殖器の形態から区別することができる。生息地の多くはオガサワラビロウのほかアカテツやテリハハマボウ等の広葉樹が混生する乾性林である。

②生息地 :向島、姉島、妹島、姪島

③生息状況:生息密度が低下しており、特に向島での減少が顕著

④減少要因:外来種による影響(ドブネズミによる捕食、貝食性陸生プラナリア類による捕食)

13.アナカタマイマイ

Mandarina hirasei

①種の特徴:殻長13.0mm、殻径21.0mm程度で、偏平、やや薄質、螺層はわずかに膨れる。体層周縁は円い。殻色は淡黄褐色から濃褐色で、色帯をもたない。殻表はほぼ平滑。殻表の光沢は弱い。臍孔は広く開く。殻口は厚く肥厚・反転する。タコノキやオガサワラビロウが生育する林内の樹上から地上までを利用する半樹上性の種である。

②生息地 :父島南部、巽島

③生息状況:父島ではほぼ絶滅状態。

④減少要因:外来種による影響(貝食性陸生プラナリア類(ニューギニアヤリガタリクウズムシ)による捕食、クマネズミによる捕食)

14.オトメカタマイマイ

Mandarina kaguya

①種の特徴:殻径約16.0~23.5mm、殻長11.5~17.0mmほどで、サイズの変異に富む。殻色の変異もさまざまで、黄、白、橙、紫、茶、黄緑の地に黒色または赤茶の色帯を巻くが、色帯を欠く場合もある。ヒメカタマイマイ、フタオビカタマイマイと類似するが雄性生殖器の形態から区別することができる。低標高の乾性林から高標高の雲霧林まで幅広く利用し、林内の樹上に生活する生態型を示す。

②生息地 :母島中部・南部

③生息状況:中部では高標高地域のみに生息。南部では生息密度が低下

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(クマネズミによる捕食、貝食性陸生プラナリア類による捕食)

15.カタマイマイ

Mandarina mandarina

①種の特徴:殻長21.0mm、殻径28.0mm程度で、やや円く、硬質、螺塔は低く、螺層はやや膨れる。体層周縁は円い。殻表はほぼ平滑。殻に濃紫褐色2本の幅広い色帯を持ち、むしろ体層周縁に殻色の淡黄褐色の色帯を持つように見える。臍孔は閉じる。オガサワラビロウ等の樹種が豊富に生育する湿性林の林床に多く、地上性の生態型を示す。

②生息地 :父島北部・東部、兄島南部

③生息状況:父島ではほぼ全ての地域で激減。兄島では生息密度が低下。

④減少要因:外来種による影響(貝食性陸生プラナリア類(ニューギニアヤリガタリクウズムシ)による捕食、クマネズミによる捕食)

16.アケボノカタマイマイ

Mandarina polita

①種の特徴:殻径22.0mmほどで、やや腰高なものが多く周縁は円く、殻表は平滑で、光沢がある。殻色は淡紅から紫色の地に3本の濃紫褐色の色帯を巻く。コガネカタマイマイと類似することがあるが雄性生殖器の形態から区別することができる。低標高の広葉樹を中心とした森林から高標高の雲霧林まで生息し、とくにやや湿度の高い森林に多い。林内のうち、林床の表層を利用する地表性の生態型を示す。

②生息地 :母島北部・中部

③生息状況:中部では生息密度がとても低い

④減少要因:開発等に伴う生息地の減少、外来種による影響(クマネズミによる捕食、貝食性陸生プラナリア類(コウガイビル)による捕食)

17.ヌノメカタマイマイ

Mandarina ponderosa

①種の特徴:殻長19.0mm、殻径23.0mm程度で、硬質、螺塔はやや高く、臍孔は閉じる。殻口は厚く肥厚・反転する。母島北部の高標高に分布する個体群は、螺塔がやや低く、体層周縁に竜角をもち、殻表の螺状肋は明瞭である。一方、周辺属島に分布する個体群は、螺塔が高く、体層周縁は円く、殻表の螺状肋が不明瞭である。母島では高標高地域の雲霧帯に生息する。向島では雲霧帯ではないが湿性の林内に生息する。湿性林の林床、その中でも落葉層の深層部を利用する地中性の生態型を示す。

②生息地 :母島、向島、姉島

③生息状況:向島では生息密度が低下

④減少要因:外来種による影響(アカギやモクマオウによる植生変化、貝食性陸生プラナリア類による捕食)

18.キノボリカタマイマイ

Mandarina suenoae

①種の特徴:殻長16.0mm、殻径20.0mm程度で、円錐形、やや薄質、螺層はわずかに膨れる。体層周縁は鈍く角ばる。殻表は平滑。殻色はオリーブ色で、表面に強い光沢をもつ。通常色帯を持たないが、時に有する。臍孔は狭く開く。殻口は厚く肥厚・反転する。オガサワラビロウ等が豊富に生育する湿性林の樹上に生息する。

②生息地 :父島北部・東部、兄島南部

③生息状況:父島ではほぼ全ての地域で激減。兄島では生息密度が低下。

④減少要因:外来種による影響(貝食性陸生プラナリア類(ニューギニアヤリガタリクウズムシ)による捕食、クマネズミによる捕食)

19.コハクアナカタマイマイ

Mandarina tomiyamai

①種の特徴:殻径20.0~23.0mm、殻長13.0~16.0mmの偏平な茶色の殻で、色帯を欠く。殻の形はアナカタマイマイと酷似するが、より殻表は滑らかである。雄性生殖器の形態から識別することができる。乾性林等の林内に生息し、樹上から地上までを広く利用する半樹上性の生態型を示す。

②生息地 :父島北部、兄島

③生息状況:父島では絶滅と考えられる。兄島では分布域が減少。

④減少要因:外来種による影響(貝食性陸生プラナリア類(ニューギニアヤリガタリクウズムシ)による捕食、クマネズミによる捕食)

20.ミスジカタマイマイ

Mandarina trifasciata

①種の特徴:殻長22.0mm、殻径26.0mm程度で、やや円く、硬質、螺層はやや膨れる。体層周縁は円い。殻表はほぼ平滑。殻色は淡黄褐色の地に細い3本の色帯を持つことが多い。表面の光沢は弱い。臍孔は通常閉じるが、狭く開く個体もある。殻口は厚く肥厚・反転する。湿性の森林の林床に生息する地上性の種である。

②生息地 :聟島、媒島

③生息状況:生息個体はごく少数

④減少要因:外来種による影響(ノヤギによる植生破壊、クマネズミによる捕食、貝食性陸生プラナリア類(コウガイビル)による捕食)

※現在は大きな影響要因となっていない

3.保護の取り組み

  • 「小笠原諸島産陸貝(ヤマキサゴ科、クビキレガイ科、カワザンショウガイ科、オカミミガイ科、オカモノアラガイ科、ノミガイ科、キバサナギガイ科、キセルガイモドキ科、エンザガイ科、コハクガイ科、ベッコウマイマイ科、ナンバンマイマイ科)」として国の天然記念物に指定されている(昭和45年)。
  • 20種の生息域のうち、多くは国立公園特別保護地区に指定されている。
  • 兄島では陸産貝類に影響を与えているクマネズミの駆除を実施している。
  • 父島の個体群は野生絶滅する可能性が非常に高いため、平成22年から父島島内における生息域外保全の試みを開始。令和33月時点で、公益財団法人東京都動物園協会とも連携しながら、カタマイマイ(H22~)、キノボリカタマイマイ(H23~)、チチジマカタマイマイ(H24~)、アナカタマイマイ(H24~)、コハクアナカタマイマイ(H27~)の飼育を実施している。
  • 母島の個体群についても野生絶滅する可能性があることから平成27年から生息域外保全の試みを開始。令和33月時点で、オガサワラオカモノアラガイ(H27~)、コガネカタマイマイ、ヒシカタマイマイ、アケボノカタマイマイ、ヌノメカタマイマイ(R1~)の試験飼育を実施している。

4.参考