ページの先頭です。
エコツーリズムのススメTOP > 環境省など国の取り組み > 講演会等 > 平成18年度エコツーリズムシンポジウム開催記録

講演会等

ページの本文です。

平成18年度エコツーリズムシンポジウム開催記録

第1部 エコツーリズム大賞表彰式

(写真) エコツーリズム大賞表彰式

エコツーリズム大賞は、エコツーリズムを実践する地域や事業者の優れた取組を表彰し、広く紹介することで、取り組みへの更なる質の向上や継続に意欲を与えるとともに、関係者の連携、情報交換などによる連帯意識の醸成を図ることを目的とした環境省による表彰制度です。

第2回目の今回は76件の応募の中から、エコツーリズムの有識者で構成されるエコツーリズム大賞審査委員会によって、環境保全、観光振興、地域振興などの総合的な観点から選定されました。次の団体、事業者の方の授賞が発表されました。

【大賞】
ホールアース自然学校
【優秀賞】
特定非営利活動法人 霧多布湿原トラスト
白神マタギ舎
特定非営利活動法人 黒潮実感センター
【特別賞】
特定非営利活動法人 たてやま・海辺の鑑定団
加賀市観光協会・加賀市観光情報センター
富士山登山学校ごうりき
特定非営利活動法人 信越トレイルクラブ
松本電気鉄道株式会社・濃飛乗合自動車株式会社
海島遊民くらぶ(有限会社オズ)

審査委員長である東京大学大学院農学生命科学研究科下村彰男教授からの講評が行われ、 続いて、エコツーリズム大賞を受賞したホールアース自然学校代表広瀬敏通氏から、ホールアース自然学校の取り組みの発表が行われました。自然学校の草分けとして富士山の麓を拠点に活動を始めた1982年からの25年間の歩みが紹介されました。
現在では、全国各地でエコツアー、体験活動、教育旅行、環境学習などの自然体験プログラムを年間8万人に提供するだけに留まらず、調査や研究事業、地域振興事業、人材養成、企業の社会責任を実現する支援事業、国際協力、災害救援などの活動を、エコツーリズムの考え方を発展させて取り組んでいる様子が紹介されました。また、ツアー事業者が地域に一定額を寄付する環境負担金の導入、環境に対する影響を継続的に調査するモニタリング手法の研究と普及などの活動、全国的なエコツアーガイドの人材養成事業などの取り組みについても紹介されました。最後に、日本の地域の再生、過疎問題、少子高齢化問題などを解決する手段として、エコツーリズムが有効なのではないかという投げかけもなされました。

第2部 エコツーリズム推進オリエンテーション

類型1【豊かな自然の中での取り組み】 知床地区/白神地区/小笠原地区/屋久島地区

類型1.モデル事業実績報告(各モデル地区担当者による発表)

(写真) 類型1.モデル事業実績報告
■発表者
知床地区:財団法人 知床財団 田中直樹
白神地区:秋田県藤里町事業課 田代文久、青森県西目屋村総務課 西澤彰
小笠原地区:財団法人 日本交通公社(支援機関)岩城智子
屋久島地区:屋久島観光協会 事務局長 椎葉伝四郎
■司会
財団法人 日本交通公社 寺崎竜雄

知床地区では、新たな観光資源として漁業体験・見学プログラムを企画・試行し、実施2年目には地域主体で運用することができました。また、自然ガイドが守るべき共通のルール「知床エコツーリズムガイドライン」を策定しました。今後は、統一したインフォメーション窓口の構築により、ガイドラインの運用、ルール・マナーの普及、推進協議会推奨プログラムの販売などを通して、独自財源の確保を進めます。

白神地区では、「白神山地エコツーリズム」の考え方に基づいたエコツアープログラムを多数開発しました。また、平成19年3月に白神山地におけるエコツーリズム推進の指針となる「白神山地エコツーリズム推進基本計画」を策定する予定です。今後は、策定した基本計画に基づき、また確立した各種仕組みを効果的に機能させることでエコツーリズム推進を発展的に継続していきます。

小笠原地区では、観光関連団体で構成されていたエコツーリズム推進団体が発展的に解散し、村内の広い関係団体をメンバーとする協議会が設置されました。平成18年度からはこれまで村内で論じられてこなかった陸域の利用ルールの設定について検討が始まりました。今後も地元主体のエコツーリズム推進体制が継続されますが、協議会事務局の調整機能の強化が今後のエコツーリズム推進のカギのひとつであると考えています。

屋久島地区では、屋久島ガイド登録制度がスタートしたほか、地域住民を活動主体とした里のモデルツアーを実施しました。また、エコツーリズム推進活動に対する地元関係者の関心も高まりました。今後は、里の集落活性化、西部地域の利用ルールづくりをすすめたいと考えています。

▲ ページの上部へ

類型1.類型別エコツーリズム推進モデルの検討(3つの類型ごとのパネルディスカッション)

(写真) 類型1.類型別エコツーリズム推進モデルの検討
■コメンテーター
株式会社 知床ネイチャーオフィス 松田光輝
環境省自然ふれあい推進室長 岡本光之
■コーディネーター
財団法人 日本交通公社 寺崎竜雄
■発表者
知床地区:知床斜里町観光協会長 上野洋司
白神地区:秋田県藤里町事業課 田代文久、青森県西目屋村総務課 西澤彰
小笠原地区:財団法人 日本交通公社(支援機関)岩城智子
屋久島地区:屋久島観光協会 事務局長 椎葉伝四郎

◆ガイダンス(エコツアー)の実施について
ほとんどの地域では、モデル事業前から何らかのかたちでエコツアーが実施されてきました。地域内の特定エリアにおいて、利用を分散する目的も含めたエコツアーづくりの取り組みがみられます。

◆ルールの策定について
豊かな自然資源を持続するためのルールは、どの地域でも必要性が関係者で認識されています。知床地区では、知床エコツーリズムガイドラインが策定され、小笠原地区では、観察する対象ごとの自主ルールがみられます。白神地区(白神山地ガイドのルール)や屋久島地区(ガイド登録・認定制度)では、ガイドの活動についてのルールづくりの取り組みがみられました。
ルールを策定する目的は、共通の利益を継続して得るため(知床地区)、対象となる資源の保全(小笠原地区)、地域に関わる役割と責任の明確化(屋久島)、ガイドの質の向上や自然保全(白神地区)、などの意見がありました。さらに、ルールづくりで重要なことは自分たちでルールを決めることで、関係者間の話し合いが不可欠である点がどの地区からも指摘されました。
コメンテーターの松田氏は、ルールの目的は地域の実情によって異なる可能性もあること、関係者で目指すべきものを共有するためにルールの目的を明確にすることが大切であることを指摘されました。
外部から訪れるガイドがルールを守らない事態も考えられます。多くの地区では、ルールの遵守をすすめる上で、外部ガイドへの対策が必要であることが認識されています。松田氏からは、案内する資源を守る役割と責任を果たせるか、という視点で外部ガイドを採用するべきかどうか考えてはどうか、という指摘がありました。

◆エコツーリズム推進組織について
各地区ともに、来年度も引き続き協議会が開催され、協議会の活動・機能の強化や改善を図りながら、エコツーリズム推進の議論が継続されます。松田氏は、地域内で継続して議論をすることが大切で、協議会の継続的な活動の実現こそが、3ヶ年のモデル事業の大きな成果のひとつだろう、と指摘されました。

▲ ページの上部へ

類型2【多くの来訪者が訪れる観光地での取り組み】裏磐梯地区/佐世保地区/六甲地区/富士山北麓地区

類型2.モデル事業実績報告(各モデル地区担当者による発表)

(写真) 類型2.モデル事業実績報告
■発表者
裏磐梯地区:北塩原村観光政策課 井上健
六甲地区:神戸市国際文化観光局観光交流課 岡野真也
佐世保地区:佐世保市観光商工部エコツーリズム推進室 林健二
富士山麓地区:山梨県観光部観光資源課 川元修
■司会
NPO法人日本エコツーリズム協会理事 海津ゆりえ

裏磐梯地区は、自然環境の保全に配慮した自然体験活動を推進しており、総延長80㎞のトレッキングコースの整備や、裏磐梯ビジターセンターの開設などが行われてきました。また、資源調査、基本計画の策定、プログラムの開発、ツアー評価、人材育成等も進めてきました。今後は、民間主導のエコツーリズム、活動の安定的発展、採算性、モニタリングシステム等の面を強化していきたいと考えています。
六甲地区は、大都市神戸に隣接した環境の中で、「おしゃれに自然を楽しもう、みんなの六甲摩耶・有馬」という基本コンセプトのもと、夜景鑑賞ツアー、六甲山 氷の祭典、ガイド推奨制度の検討、エコツーリズムパスの発行支援などを行ってきました。推進体制の自立等に課題は残りますが、関係者のモチベーションの向上や、地元住民の参加等の成果がみられました。
佐世保地区は、蘇った自然(ハウステンボス)と残された自然(九十九島)が特徴的な地域です。多様な資源を活かして、民間主導でツアープログラム化を進めています。今後は、課題であるランドオペレーター機能の構築等の解決に向けた取り組みを含めて、関係者間の合意形成のもとに事業を進めていきたいと考えています。
富士山北麓地区は、日本の代表的観光地として多くの観光客が訪れます。このような従来型の観光地において、どのようにエコツーリズムを進めていくかが大きな課題でした。資源の概括調査、意識調査を踏まえた基本計画の策定やエコツアーの開発を進め、研究機関や観光事業者との連携が活発になっています。今後は、エコツーリズム推進に関わる関係者の増加や、継続的かつ自立的な組織体制の確立に向けた取り組み等を進めていきたいと考えています。

▲ ページの上部へ

類型2.類型別エコツーリズム推進モデルの検討(3つの類型ごとのパネルディスカッション)

(写真) 類型2.類型別エコツーリズム推進モデルの検討
■コメンテーター
株式会社ピッキオ 代表取締役 南正人
■コーディネーター
NPO法人日本エコツーリズム協会理事 海津ゆりえ
■パネラー
裏磐梯地区:裏磐梯ビジターセンター 伊藤延廣
六甲地区:神戸市国際文化観光局観光交流課 岡野真也
佐世保地区:佐世保市観光商工部エコツーリズム推進室 林健二
富士山麓地区:山梨県観光部観光資源課 川元修

◆ガイダンス(エコツアー)の実施について
いずれの地区もエコツアープログラムの開発の前段階に重点が置かれ、地元住民にエコツーリズムを知ってもらうことや、地域資源の掘り起こしが必要とのことでした。地域資源を掘り起こす際には「その資源は価値があるものだ」ということを気付かせてあげるような提案の仕方が肝要(佐世保地区)、食文化や歴史などの中に未だ活用されていない地域資源がたくさんあるのではないか(富士山北麓地区)との意見が出されました。
コメンテーターの南氏は、地域の様々な資源を活用することは、多様な旅行者に来ていただけるだけでなく、資源利用を分散させる効果があることを指摘し、じっくり時間をかけて体験させる工夫と効果を地元の人にわかりやすくしていくことが、第2類型の命題であるマスツーリズムのエコ化につながることを示唆しました。

◆ルールの策定について
いずれの地区も基本計画が策定されていますが、ルールが守られるためには、訪れる旅行者にルールを知ってもらう必要があります。六甲地区は、エコツアーイベント実施等の機会に効果的な情報発信を実施しています。また、ルールが適切かどうか、ルールが必要かどうかの判断材料として、利用する資源の状況を把握するモニタリングも必要です。富士山北麓地区では、県の研究機関と連携してモニタリングシステムの構築に向けた調査が行われています。裏磐梯地区は、主にガイドを対象とした地元開催の講座に「保全学」が設置され、特定地域の環境負荷影響調査を実施しました。
南氏は、モニタリングには、(1)資源そのもののモニタリング、(2)利用状況のモニタリング、(3)エコツアープログラムがどのように行われているのかというモニタリングの3種類があり、モニタリングの種類によっては、外部専門アドバイザーの力が必要であることを指摘しました。

◆エコツーリズム推進組織について
各地区ともに、モデル事業終了後に、どのようにエコツーリズム推進体制を継続させ、資金を調達していくかという点で悩みがあります。資金の調達については、ガイドブックの販売益を推進組織の活動資金とする構想がみられました(六甲地区)。その他推進組織の継続のためには、受け皿組織としてのランドオペレーター機能を構築することが目標(佐世保地区)、エコツーリズムを意識した取り組みに向けて域内の観光事業者等が連携協力していくことが必要(富士山北麓地区)との意見でした。

▲ ページの上部へ

類型3【里地里山の身近な自然,地域の産業や生活文化を活用した取り組み】田尻地区/飯能・名栗地区/飯田地区/湖西地区/南紀・熊野地区

類型3.モデル事業実績報告(各モデル地区担当者による発表) (類型3の発表は2部屋に分かれて実施しました)

(写真) 類型3.モデル事業実績報告(1) (写真) 類型3.モデル事業実績報告(2)
■発表者
田尻地区:大崎市田尻総合支所産業振興課主査 加藤 忠明
飯田地区:NPO法人ふるさと南信州みどりの基金 竹前 雅夫
飯田市産業経済部観光課エコツーリズム係 宮内 稔
飯能名栗地区:財団法人 日本生態系協会 地域計画室長 城戸基秀
■司会
財団法人 日本生態系協会 地域計画室長 城戸基秀

田尻地区は、マガンの渡来地として有名な蕪栗沼周辺での自然観察ツアーや、農薬も化学肥料も使わない米農法を体験、見学するツアーを実施しました。また、ものづくりや歴史文化における資源発掘、葦など新たな商品開発の検討、地元ガイド育成などを実践しました。地元住民や団体の自立的な取り組みに関する意識の向上、エコツーリズムに関する認識の共有などが成果としてみられます。エコツーリズムの運営組織の安定化、継続的な財源確保、モニタリング、ツアー客の通年化・宿泊滞在化への転換等が課題で、今後の展開では、第三セクターのたじり穂波公社がエコツーリズム推進の中心的な役割を担うことが期待されています。

飯田地区では住民が主体になり、地域資源を取り入れたプログラムづくりや、地域内外の交流も盛んになりました。地域や各団体を越え、点を面にした新しいネットワークができてきました。今後は、その担い手育成や、情報発信が課題です。(現在200を超える体験プログラムが実施されていますが、選択と分散の考え方で地域資源に負荷をかけない手法によるツアーの展開も試されています。ランドオペレーターである南信州観光公社の役割が確立していますが、一方住民が主体になり、地域資源を取り入れたプログラムづくりや、地域内外の交流も盛んになりました。そして、地域や各団体を越え、点を面にした新しいネットワークもできはじめました。NPOや自立的なむらおこしグループによる「語り部養成講座」なども開催されましたが、課題は地域の農林業を中心とする里地里山の担い手の後継者づくりとより高質な地域づくりのための認証基準の創設です。)

飯能・名栗地区のモデル事業の主な成果は、エコツアーの企画・実施やガイドを養成する住民主体の組織が構築できたこと、事前協議制度などの基本方針に沿ったエコツアーを実現するための仕組みができたこと、また、地域住民自らが企画して約50のエコツアーが実施できたことです。エコツーリズムの取り組み効果として、人の交流とネットワーク化、地域の人的資源や魅力の再発見、地域全体のイメージアップ、新しい客層の確保、エコツアー導入による里山保全の仕組みづくり、バスの日常的増発等の山間地域振興があげられます。常設コースの設定や定番化などによる効率的なエコツアーの提供、効果的な広報・情報発信、持続的な推進組織の構築等が課題です。

■発表者
湖西地区:高島市企画調整課 辻信孝、財団法人日本交通公社 菅野正洋
南紀・熊野地区(三重県):三重・紀南振興プロデューサー 橋川史宏
南紀・熊野地区(和歌山県):和歌山県自然環境室 河原竜義
■司会
NPO法人日本エコツーリズム協会理事 広瀬敏通

湖西地区では、モデル事業期間でのエコツーリズム推進の取り組みを踏まえて、様々な地元主体の参画による協議の場が実現したこと等の成果がみられました。一方で、エコツーリズム推進協議会での合意形成がまだまだ不十分である等の課題がみられました。今後は、組織・土壌づくり、計画づくり、プロデュース・プロモーション活動の3つの分野でのエコツーリズム推進計画を進めていくことを考えています。

南紀・熊野地区(三重県)は、目的、テーマ、ガイド、動機、保全、目標の6つの項目について事業初期の取組み姿勢を明確にして、地域の人々と共にエコツーリズムをすすめてきました。結果として、各種媒体での情報発信による広報の充実、70以上のモデルツアーの実施、熊野地域を極めた18名のガイド養成、シンポジウムの開催等の実績を、過去3年間であげてきました。今後は、ガイドが主体となって「三重・紀南エコツーリズム推進会」で自立的な活動を続けていくことを考えています。

南紀・熊野地区(和歌山県)は、「南紀熊野地域ならではのエコツーリズムの概念」を策定し、この概念を分かりやすい形で具現化したパイロットプランを熊野古道・中辺路、串本沿岸海域、田辺・天神崎、熊野の森の4地域で作成・試行しており、その結果と評価について取りまとめました。今後の課題・展望として、事業実施の成果を地元に還元していく仕組みづくりを進めていくことを考えています。

▲ ページの上部へ

類型3.類型別エコツーリズム推進モデルの検討(3つの類型ごとのパネルディスカッション)

(写真) 類型3.類型別エコツーリズム推進モデルの検討
■コメンテーター
NPO法人日本エコツーリズム協会理事 広瀬 敏通
■コーディネーター
財団法人 日本生態系協会 地域計画室長 城戸基秀
■パネリスト
田尻地区:財団法人日本生態系協会グランドデザイン総合研究所副所長 遠藤 立
飯田地区:NPO法人 ふるさと南信州みどりの基金 竹前 雅夫
飯能・名栗地区:飯能市環境部エコツーリズム推進室長 安藤 泰雄
湖西地区:財団法人日本交通公社 研究調査部 菅野 正洋
南紀熊野地区(三重県):三重・紀南振興プロデューサー 橋川 史宏
南紀熊野地区(和歌山県):和歌山県自然環境室主査 河原 竜義

◆ガイダンス(エコツアー)の実施について
いずれの地区も、地域住民の理解と参加が重要な鍵であるとの意見が共通して示されました。田尻地区は当初、農作物の食害への心配から反発もありながらも、渡り鳥と共生する町を目指すという決意への理解を広げたことが、地域のブランド化に繋りました。飯田地区は、(自然も人も持続可能であるためには農林業をはじめとする里地里山の担い手、後継者づくりが不可欠であって)郷土を愛する心を育む機会(教育を通じて、後継者を育むこと)が必要とされる一方、外部に対してはマーケティングの手法を意識する必要があるとの指摘がなされました。また、エコツーリズム推進地域が共同して情報発信し、エコツーリズムの市場自体を拡大すべきとの提案がありました。飯能・名栗地区は、地元住民と膝を交えて話し、一緒に地域巡りをする過程自体を重視しています。南紀・熊野地区(三重県)は、顧客と直接ふれあえるエコツアーの直接販売を重視しています。南紀・熊野地区(和歌山県)では、エコツアーの開発では、ブランド化・差別化を重視し、少人数で小回りが利くツアーとして販路も開拓しているとのことでした。
コメンテーターの広瀬氏は、地元住民が「参加」からさらに「参画」の段階に至る必要があり、地域が「他人ごと」ではなくて「自分ごとになる」ことが、エコツーリズム推進の重要なポイントだと、まとめました。広報面では、コストを考えても、リピーターや口コミを重視すべきとの指摘がなされました。

◆ルールの策定について
それぞれの地域の事情に応じたルールづくりが報告されました。田尻地区では、地域住民とツアー客の双方に無理がないように、資源をガイドする中で理解が得られるような、緩やかなルールとしています。飯田地区では、「桜守の旅」の6ヶ条のルールや環境協力金の徴収などが紹介されましたが、一方、里地里山の荒廃はルールだけで改善できない問題であり、地域に共感・協力する人をまずエコツーリズムで招き寄せることも重要だとの意見が出されました。飯能・名栗地区からは、エコツアーの事前協議シートと事後のチェックの仕組みが紹介されました。湖西地区では、自然資源だけでなく、地域住民の生活を守るルールの必要性が報告されました。
広瀬氏は、絶滅危惧種の過半数が里地里山に集中しているため、第3類型でもルールが必要であると指摘しました。その一方、ルールを決める場合、最初から利害対立の焦点から始めると物別れになるため、一般的な共通認識から順番に始める戦略が有効であるとの意見が出されました。

◆エコツーリズム推進組織について
今後のエコツーリズム推進の大きな鍵は、地域住民のモチベーションであるとの意見が出され、田尻地区では、日本のマガンの大半を受け入れているという自信と哲学、それから「楽しみながらやる」ということが大事であるとし、南紀熊野地区(三重県)からは、地域住民が「地域のためにやる」のではなく、「面白い」と思えることが大事との意見が出されました。また、地域が自分達の意義を改めて知るために、外部の意見にふれる機会も必要としました。
推進組織に関しては、飯能・名栗地区からは、様々な分野から選んだ推進協議会の委員の大半がエコツアーに取り組んでその良さを知ったことが大きく、推進協議会が来年度以降も継続することが報告されました。飯田地区では、観光公社、観光協会、行政の3者の役割分担で今後も推進して行く体制が報告されましたが、担い手の大半を占める農林業の深刻な後継者不足も指摘されました。湖西地区からは、個別の課題や地域ごとに範囲を絞った少人数の地域協議会での推進が検討されているとのことでした。南紀熊野地区(和歌山県)では、現在の推進協議会のメンバーがそれぞれの地元で推進力になると期待され、既存の商工関係組織との連携も考えられています。
広瀬氏は、エコツーリズムの推進力は、「事業の拡大よりも理念」「売上げよりも生きがい」「自分の満足よりも共感」(橋川氏)という思いの共有であるとしました。また、地域内での争いは、地域の魅力を大きく損なうので、まず地域内での協調が重要であるとの意見も示されました。

▲ ページの上部へ

類型別エコツーリズム推進モデルの報告(同モデルの検討結果の報告) <エコツーリズム推進モデル事業の総括>

(写真) 類型別エコツーリズム推進モデルの報告

◆ガイダンス(エコツアー)の実施
類型1は、豊かな自然を有する地域で、既にエコツアーが民間事業者により商業的に展開されている地域です。全般に、ガイドも含めた過度な利用への対応や予防への取り組み課題がみられました。ただし、白神地区のように冬期の客が少なく新たなプログラム開発が必要な場合もあります。
類型2は、従来型観光に危機感を持ち、マスツーリズムのエコ化に取り組んだ地域です。エコツーリズム推進に取り組むにあたっては、ガイドの内容や人材発掘、質の確保がポイントとなりました。通過型から滞在型観光へのシフトも共通する課題としてみられました。
類型3は、日本における普遍的な価値を持つ地域と言えます。地域を元気にしたいという視点から始まったところも多くありました。これまで観光地化されていない地域だったので、情報発信不足が課題となりました。直販方式、リピーターを大事にして口コミで客を広げていくという集客方法が見られました。プログラム開発段階では、地元住民の参画の重要性があげられました。

<岡本室長総括>類型1については利用の集中、類型2は既存観光地での観光業者へのエコツーリズムの理解、類型3では資源の掘り起こしという課題をそれぞれに抱えており、地域によってはそれらが複合的になっていることがわかりましたが、3年間を通じて、各地域で一定の成果を得ることができたと言えるでしょう。特に類型3においては、観光を大々的に起こさなくては失敗ということではなく、地元の方々が活動を通して関わりを持つことで、地元に誇りを持ち、地域の元気を取り戻すというツールであることも大事で、その点は成果があったのではと思います。

◆ルールの策定
類型1の地域では、急増する観光客に対応するため観光事業者による自主的なルールづくりの取り組みがみられました。ただし、法的根拠がないため、実効性、拘束性で課題が残っています。ガイドの認証・登録制度の取り組みもみられました。
類型2の地域内には、普及を重視してスローガン的なルール(ガイドライン)が適したエリアがある一方で、厳正な利用ルールが必要とされる自然度が高いエリアもみられます。既に特定のエリアの利用ルールを策定して運用している地域がみられます。また、地域に関わる研究者等による資源や利用状況のモニタリング調査もいくつかの地域で始まっています。
類型3では、絶滅危惧種に指定されている生物の多くが里地里山に生息しています。このことから里地里山においても、利用ルールの策定は必要です。また、この地域は生活の場でもあることから、自然だけでなく、地域住民の暮らしに配慮したルールである必要があります。

<岡本室長総括>全国一律ではなく、各地域の実情に合った必要なルールを設定することが重要です。類型1ではガイドの質を上げていくことが課題です。ガイドの登録制度が設置された地域がありますが、関係者の合意形成を経て策定されることで、地域の実情に合った現実的なものとしてうまく進みつつあります。類型2では、ゆるやかなスローガンで市民を巻き込むのに効果があった地域もあれば、類型1に近い自然保全を課題とする地域も見られます。関係者への理解や情報の共有化が大事です。類型3では、里地里山での耕作放棄や手入れ不足の問題があり、場合によっては種の絶滅を招くという課題があり、エコツアーにより保全の担い手となる協力者の輪が拡がるということも期待されています。いずれの地域でも、地元の方々の役割と責任が基本としてあり、それが具現化されたものがルールとなるので、共通性もあるが、地域で違いも当然出てくるものだということがわかりました。

◆推進体制について
類型1は、資源の持続可能な利用(エコツアー)を実現するため、現在の各地域に設置された協議会を何らかの形で継続したり、エコツーリズム推進を実際に進める組織が必要とされるとともに、取組みや運営を継続させることが必須であることの「気づき」が一番の成果でした。組織継続のための課題として、協議会事務局の立案機能の強化や、体制維持のための資金の確保等がみられました。
類型2はマスツーリズムからエコツーリズムへの意識や仕組みの改革が課題でしたが、モデル事業の実施により、地域の中にエコツーリズムの認知が広がりました。まだ地元住民がエコツーリズム推進を担うまでには至らず、ほとんどが行政主体の推進体制であることから、今後の牽引役をどこが担うのかが課題となっています。
類型3の地域では、行政や観光事業者に限定されず、農林業はじめ地場産業や学校、地元住民なども加わった、地域ぐるみの推進体制が多くみられました。「人ごと」から「自分ごと」へという関わりあいの連鎖から地域おこしを目指しているところもあり、経済的なものだけに縛られない考え方も見られました。「面白さ」「生きがい」「共感」が今後のモチベーション維持のキーワードになっています。また、外部からのアドバイスや、プロデューサー的役割の存在が今後も不可欠です。

<岡本室長総括>エコツーリズム推進は様々な要素が加わるため、各地域とも推進体制の組織づくりや合意形成が簡単に進まず、大変な労力と時間がかかったことが共通しています。逆に、それだけ時間をかけて議論したために、互いに共通の言葉が生まれ、エコツーリズムの共通認識が培われたことは大きな成果だと感じました。類型1では、資源の重要性の認識を共有して、今後の継続が確認されました。類型2では、行政のバックアップや既存の民間組織の活用、などが今後のエコツーリズム継続の鍵と考えられます。類型3では、エコツーリズムを地域づくりの一環と考え、グリーンツーリズムや地域活性化の流れと合流しながら、様々なパターンでの継続が考えられます。いずれの地域でも、関わったあらゆる人達に共通意識が芽生えたことは、3年間のモデル事業で培われた最大の成果であると言えるでしょう。今後の継続、発展を期待します。

▲ ページの上部へ

第3部 全国エコツーリズムセミナー

基調講演「自然を楽しむ人、支える人 〜アパラチアン・トレイルを歩いて」 加藤則芳氏(作家/バックパッカー)

類型1.モデル事業実績報告(各モデル地区担当者による発表)

(写真) 加藤則芳氏(作家/バックパッカー)

私はアメリカの東部14の州にまたがるアパラチアン・トレイルという超ロング・トレイル3,500kmを2005年に6ヶ月間かけて踏破しました。アパラチアン・トレイルは、自然がとても豊かなばかりでなく、周辺地域はアメリカ建国当初の古い歴史と文化が色濃く残る場所で、ブルーグラスをはじめとする音楽文化の発祥地でもあり、アメリカ人の心の故郷ともされています。
アパラチアン・トレイルは、国立公園局の管轄にありますが、民間のアパラチアン・トレイル協議会と31のメンテナンス団体が、3,500kmにわたるすべてのトレイルのメンテナンスを行っています。メンテナンス団体は、パトロールをはじめ、道標代わりに樹木に白いペンキでマークをつけることから、寝泊りできるシェルターの建造、オーバーユースの道を付け替える大々的な作業まで行っています。
また「トレイル・エンジェル」と呼ばれる地元の有志は、トレイルを歩く人々に、食事、宿泊、送迎、飲み物、燃料などを無料提供しています。沿線付近の町のポスト・オフィスでも、荷物を1年間預かるサービスを行っています。これにより、あらかじめ送っておいた食料をポスト・オフィスごとに補給しながら、長い距離を歩くことができるのです。峠から食糧補給のために町に降りるためのヒッチハイクにも、通りがかりの車が快く乗せてくれます。年に一度、町をあげてトレイルを歩く人のためのフェスティバルを開催する町もあります。
2000年から、長野県飯山市長の呼びかけに答えて、私は、関田山脈で信越トレイルづくりに関わることになりました。このトレイルは、全長80kmあり、そのうち現在50kmが開通しています。豊かな自然環境の保全と持続的な利用、埋もれつつある歴史や文化の継承、環境問題への意識啓発、新たな観光による地域の活性化を信越トレイルの基本的な目的としています。
アパラチアン・トレイルのように地元から愛されるトレイルを目指しています。整備や維持管理には地元ばかりではなく、全国からボランティアが参加してくださっています。2003年度にはトレイルの管理団体としてNPO法人信越トレイルクラブが設立されました。また、現在、30人が信越トレイルのガイドとして登録されています。
トレイルの設置は、スキーに代わる観光メニューとして、民宿やペンションを活性化しようという目的もあります。アパラチアン・トレイルのヒッチハイクとは違って、民宿から峠までの送迎システムを確立しようと考えています。
環境モニタリング調査の実施には、各種の専門知識を持つボランティアが数多く参加してくださいます。トレイルの状態を把握して対策を検討する委員会も設置されました。トレイルの沿線14市町村との連携もすすんでいます。
本日は、アメリカのアパラチアン・トレイルと日本の信越トレイルについて紹介いたしました。私のお話がみなさまの活動のほんの一端部分であっても、意味あるものになりますことを祈って、話を終わらせていただきたいと思います。

▲ ページの上部へ

基調報告「地域資源の持続的な活用にむけた諸課題」 寺崎竜雄((財)日本交通公社 主任研究員)

(写真) 基調報告「地域資源の持続的な活用にむけた諸課題」

環境省エコツーリズム推進事業実施3ヶ年において、エコツーリズムの普及と定着は、一定の成果を得たと考えます。モデル事業を通して、類型(1〜3)ごとのエコツーリズム推進における解決すべき課題がみえてきました。それは、ガイダンスが成熟した類型1と、類型2の一部では資源の適切な利用や安全管理などのためのルールづくり、類型2ではガイダンスの実施を通した来訪者に対する環境教育効果の発揮や地元関係者に対する環境保全意識への気づき、類型3では地域の活性化を目指して特徴ある地域資源を活用したガイダンスの実現です。

◆ガイダンス(エコツアー)の実施について
ガイダンスの第一段階は、資源を発掘して磨きをかけることです。自然資源だけでなく歴史的な資源や生活文化も含めて、さまざまな資源が対象になります。次段階として、資源の価値を高めるガイダンスの実施があります。ガイドの高度なテクニックや情報が資源価値を高めます。ガイダンス方法は、その地域の自然度によって異なり、豊かな自然資源を有する場所では、資源の価値が存分に伝わるような見せ方が必要であるし、身近なありふれた自然では、ガイダンスの水準を高めて付加価値をつけることが重要になります。

◆ルールの策定について
ルール設置により保全する対象は、必ずしも自然資源とは限りません。生活文化や旅行者の満足感の場合もあります。ルールは種類や規制の対象、強制力などが異なる様々なかたちがあり、設置や運用への道のりはそれぞれに険しいものです。ルールの実効性を高めるためには、関係者による合意形成が必要です。また、モニタリングを行い、適宜その結果に応じて、ルールの改定や見直しをすることが大切です。

◆エコツーリズム推進組織について
エコツーリズムの取り組みを継続していくためには、その推進組織が鍵になります。推進組織は、類型1では資源管理のための実効力に力点が置かれ、類型2では地域にエコツーリズムという新しい価値観を吹き込むこと、類型3では地域づくりの牽引力となる役割がそれぞれ求められます。

◆エコツーリズムの地域社会への効用
地域資源を核とするエコツーリズムのフレームを考えた場合、地域資源の体験的価値がガイダンスにより大きく高められ、旅行者の満足感が高まります。旅行者はそれによって環境保全への気づきを起こし、結果として地球に優しい生き方まで目指すかもしれません。この高い満足感に対する対価として地域にお金が支払われます。地域社会では住民間のコミュニケーションが生じるとともに、資源価値を保つための資源管理や保全活動がなされます。さらに雇用創出、地域経済へのプラス効果、地域の良さの再認識、地域の活性化などが果たされるというような様々な良循環が想定されます。

分科会1「ルールや制度による資源の保全 〜関係者の利害調整と、合意形成を導く勘どころ〜」

■地域に根ざした資源利用のルールづくり 〜西表島仲間川の保全利用協定が実現するまで
広瀬敏通(NPO法人日本エコツーリズム協会 理事)

■御蔵島におけるイルカウオッチングルールの運用方法
菱井徹(御蔵島観光協会)

広瀬氏からは、まず事業者間で自主的に策定・締結するルールである保全利用協定についての概要と法的背景及び3つのポイントについて説明がありました。ついで、テーマにもある「合意形成」とは「様々な意見があることを認め合うこと」との認識を示して、沖縄県最大のマングローブ林がある西表島の仲間川で保全利用協定の認定第1号となった「仲間川地区保全利用協定」が認定されるまでの経緯と協定内容について報告がありました。また、ルール作成の際には、地元関係者の合意をとりつつ、人間のモラルに基づいたルールから限定された資源についてのルールへとステップを踏んで作っていくことが必要との提言がなされました。

菱井氏からは、まず御蔵島と三宅島の事業者によって御蔵島周辺の海域で行われている、イルカウォッチングの現状について報告がありました。次に、現在行われている3つのイルカウォッチングのルールである隻数制限、操船方法のルール、ウォッチング方法のルール及び違反があった場合の罰則について説明がありました。さらに現在のルールに至る制定過程についての報告がありました。最後に今後の課題と問題点として、事業者の意識、お客様の意識をイルカとの共存を重視する方向に維持・改善していくこと及び科学的な裏付けを求めるために、モニタリング調査を継続的に実施していくことが大事との説明がありました。

▲ ページの上部へ

分科会2「地域資源の伝承方法 〜忘れられた生活文化を発掘、利用によって次世代につなぐ〜」

■地域資源の観光活用と住民参画の勘どころ 〜農業体験の観光活用の実践例をもとに
青野広明(南魚沼市観光協会 事務局次長)

■エコツーリズムと地元学
竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

青野氏からは、南魚沼市で展開している農業体験プログラムについて紹介がありました。
南魚沼市農業体験大学校では、一年を通じて、山菜教室、田舎体験教室、田植え教室、稲刈り教室、キノコ教室など様々な農業体験プログラムを提供しています。また、減農薬や完全無農薬の合鴨農法で米づくりもしています。参加者は年間5,000人弱で、首都圏からの客が圧倒的に多く、リピート率は6割近いとのことです。
プログラム運営には、地元の民間・行政との連携や支援によるところが大きく、JAや行政からの支援として、体験学習プログラムの人材の紹介、応援を得ているとのことです。また、園芸畜産課にはワラ工芸や畑作の後援、市の農林課にはパンフレット作成の補助をしてもらっているとのことでした。山菜採りの際には、国有林愛護組合の了解を得て、立ち入るべきでないところなどを呼びかけているそうです。さらに、財団法人都市農山漁村交流活性化機構や商工観光課、地元観光協会が体験プログラムのPRをしているとのことです。

竹田氏からは、地元学についてと、地元学から観光へのステップについて説明がありました。
自分たちが住んでいる場所の良さを再発見するため、地元を知ることを地元学としているとのことです。地元の人は案外地元の良さを知らないことが多く、地元の資源や風土が活かされていない例が多くみられるとのことです。ところが、従来の方法では地元の資源は調べた本人しかよくわからないことから、地元学では、いわゆるよそ者が質問をして地元の人が答える形式の「あるもの探し」という方法を取るようです。
具体的には、自分の家の水源を探るところから始めるそうです。水源は、水が湧き、地域の生物の6〜8割が集まり、大型動物が活動し、山ノ神が祀られ、山菜も豊かな場所です。そこから多くの発見、驚きなどが生まれ、グループの中にいる詳しい人が話を始め、達人の活動が始まり、自慢が始まります。さらには地図づくり、調べものの発表などの過程で、さまざまなコミュニケーションが生まれ、相互に地域のことを教えあう場が生まれるのです。そして、さまざまな地域の資源が活かされ、自信がある地域、暮らして良い地域となっていきます。
地元学の実践からツーリズムへのステップとして、「今」を見つめなおす第一段階、そこの地域がどんな地域だったのかの「これまで」をひもとく第二段階、外との交流を交えながら「これから」を描く第三段階、行動して「いま」を創る第四段階があり、最後の第五段階として、エコ・グリーンツーリズムの構築があると考えているとのことでした。

分科会3「環境収容力(キャリングキャパシティ)の考え方〜"何人までなら大丈夫?"は、測定できるのか〜

■キャリングキャパシティ算出の限界と新たな視点 〜米国における資源管理研究の系譜
熊谷嘉隆(公立大学法人国際教養大学 助教授)

■利用者の快適性から算出した適正収容力 〜尾瀬の事例より
安類智仁(尾瀬保護財団 企画課主任)

熊谷氏からは、まず環境収容力概念形成の背景及び自然公園における環境収容力の発想基盤について説明がありました。ついで、自然公園における環境収容力について、影響度と利用人数における相関性への疑問と社会的環境収容力の観点から問題点について説明がありました。さらに、環境収容力から導き出される利用人数制限という管理運営の方法ついての問題点について説明がありました。その後、こうした問題点をもとに再検討した結果としての「対象地域は、その生態的・社会的特性に鑑みてどういう生態的・社会的状態であるべきなのか」という目標達成型の発想について説明がありました。

安類氏からは、まず尾瀬利用の現状について報告がありました。次に尾瀬を次世代に残したいという利用者の声などを受けて社会的収容力の観点から適正収容力を求めた経緯及び様々なアンケート等の調査を実施して、利用者が不満足感に至らない「限界収容力」、心地よく満足のいく「適正収容力」の値について、算出したことについて説明がありました。また、こうした調査と結果の公表が、結果として尾瀬保護と利用のあり方に関する議論へと発展し、基本理念、基本方針の策定につながったと報告がありました。

▲ ページの上部へ

分科会4「エコツアー販売の理想型 〜地域の望み、旅行会社の望み、その接点を探る〜」

■専門分野に特化した旅行会社の考え方〜テーマ性の高い商品提案のために地域に期待する役割
水野恭一(風の旅行社 「風カルチャークラブ」 営業部長)

■旅行会社がツアーをつくる一般的な手法 〜大手旅行会社がエコツアーをつくるケース
岩本則正((株)JTB 東日本国内商品事業部企画第1課企画担当課長)

■地域から旅行会社に期待すること 〜知床の事例より
松田光輝(知床ネイチャーオフィス 代表取締役社長)

水野氏からは、風カルチャークラブの講師解説付きのツアー商品とその商品づくりについて説明いただきました。
風の旅行社の「風カルチャークラブ」のツアー商品は、必ず講師がいる「講座」と呼ばれるスタイルです。ネイチャーリング、自然を知る、アウトドア技術、民俗・宗教などの様々な分野ごとに、インタープリター、ガイド、地元研究者などの講師の特徴を引き出し、かつ地域を独特な切り口で商品化しています。ひとつひとつの商品は、それぞれ現場におもむき、つくられています。
例えば「巨樹・古木を見る里山へ」の商品づくりについては、まず、巨樹を探すところから始めます。いろいろな噂や文化財、天然記念物のリストなどを、地元行政の観光課や教育委員会に聞いて、場所を特定し、それからルートづくりが始まるとのことです。地域のバスを使ったり、タクシーを使ったり、それから歩いたりして、いろいろな情報を集めながら地図をつくり、ルートをつくり、1日で5本から6本くらいの天然記念物を拾って周るようなコースをつくっているとのことです。

岩本氏は、大手旅行会社の修学旅行とエコツアー商品づくりについて、紹介されました。
一般的な大手旅行会社の仕組みでは、パッケージツアー商品は本社ではなく地域(発地)ごとの会社の商品事業部でつくられています。修学旅行の場合は、基本的には各支店で行程表、見積もりなどを作って、企画書を各学校へ提出しますが、体験プログラムに関しては、本社が一括して管理し、学校提出用のものを作っている場合もあるとのことです。生徒が楽しく体験する中で、結果的に、環境学習になっているというようなプログラムが好評で、最近では、農家民泊や山をまるごとひとつ貸すプログラムがあるそうです。
エコツアー商品づくりでは、商品づくりをおこなう旅行会社として、インタープリター(ガイド)の質や内容、他にはないオリジナル性や地域性を求めるとのことです。また、インタープリターが組織化されていないと、急病などが起きた場合に対応が難しいためツアー実施の際には不安を感じるとのことでした。

松田氏からは、都市部旅行会社との連携による地域のメリットについてお話されました。
地域が都市部旅行会社と連携して商品づくりをおこなうメリットとして、集客コストの低減、発地側の窓口での対応、市場との多様なチャンネルがあげられました。客側から見た旅行会社のメリットとしては、安い料金、移動手段の確保、様々な予約の手間の省略ということがあり、デメリットとしては、自由に行動できないこと、慌しいこと、ツアーグループ内に他人が多いことなどがあげられました。
旅行会社は現地の下見をあまりしないでツアー商品をつくるので、ミスマッチな客を集めているケースがみられるとのことです。また、コスト面など旅行会社の要求に地域側が応じてばかりいると、質が下がり、エコツアー全般の評判を落とすことになるので、質の維持のためには、地域の側でも要求を拒否することも、ときには必要であるとのことでした。
旅行会社に期待することは、エコツーリズムを普及させるために、もう少し広い客層が参加しやすいエコツアー商品を企画して、エコツーリストを育てるということです。また環境への配慮も、持続的な観光の当然の前提として考慮してもらいたいとのことでした。

▲ ページの上部へ

分科会5「資源の状態変化の測定方法 〜誰でも簡単にできるモニタリングの手法を考える〜」

■科学的な視点を盛り込んだモニタリングの方法 〜外部研究者との連携の実践例
南正人(株式会社ピッキオ 代表取締役)

■レクリエーション利用が自然資源に与える影響の測定方法 〜 大雪山・利尻の実践例
愛甲哲也(北海道大学大学院 助手)

■省力的かつ効果的な自然環境モニタリングの方法
茅野恒秀((財)日本自然保護協会総合プロジェクトAKAYA担当専任スタッフ)

南氏からは、モニタリングをする際には目的と実施主体について地域でよく議論し、明確にすることが大事であるとの説明がありました。また、客観的な評価をするための評価体制についての説明と実施方法について専門家がアドバイスをする必要性についての話がありました。また、外部研究者との連携方法についても実例をあげながら、幾つか紹介がありました。

愛甲氏からは、モニタリングの指標のあり方について説明がありました。次いで、大雪山の野営地と利尻山の登山道で実施してきたモニタリングの成果について発表がありました。また、併せて空中写真、コンピュータ、アンケート調査等を使った色々なモニタリングの手法についての説明がありました。

茅野氏からは、日本自然保護協会のエコツーリズムガイドラインについて説明があり、ついで自然環境モニタリングの意義としてエコツーリズムの成立要件に貢献していくこと等があげられました。その後、群馬県の赤谷の森で実際にセンサーカメラを使って撮影された定点撮影の写真をもとに、どのようなことがわかるのかについて解説がありました。

▲ ページの上部へ

分科会6「エコツーリズム運営組織のあり方〜誰が地域をマネジメントするのか、運営資金はどうやって調達するのか〜」

■エコツーリズムを取り巻く団体の活動と資金源 〜知床の理想と壁
田中直樹(知床財団 普及研修係主任)

■エコツーリズム推進組織をどう作るか 〜住民の視点から(裏磐梯の事例より)
酒井美代子(裏磐梯エコツーリズムカレッジ)

■里地里山における地域組織とその運営 〜飯能が目指す理想像と現状
安藤泰雄(飯能市環境部エコツーリズム推進室 室長)

エコツーリズム活動をささえる地元組織として、田中氏からは、知床財団について紹介がありました。
知床財団は、環境省や地元行政がカバーできない実際の公園管理を補完する役割を持つ実働部隊的な組織です。資金源は、全国の賛助会員の会費、企業などからの寄付金、環境省や町などからの受託費です。世界遺産登録により寄付金が急増する一方で、将来的に安定財源確保のために賛助会員の割合を増やすことが収入構造上の課題となっているとのことです。
知床財団はこれまで集客面の役割まで担ってしまっていたため、保全の立場から知床の観光利用をチェックする本来のスタンスと矛盾が生じていましたが、昨年、組織改革により、ガイド事業部門は外部に独立しました。さらに今後は、観光協会が利用の立場、知床財団は保護の立場、ガイド協議会はエコツアーの運用という三者それぞれの役割分担が望まれているとのことです。酒井氏からは、裏磐梯のエコツーリズム推進組織について紹介がありました。
裏磐梯のエコツーリズムの推進体制は、協議会、基本計画検討会、ワーキングなどのほか、実働組織として有志からなるカレッジ部会と情報部会があります。環境省モデル事業終了後は、推進協議会は顧問的役割となる予定で、代わって「裏磐梯エコツーリズム協会」設立に向けた準備会がつくられているとのことです。
協会の活動内容は、エコツーリズムカレッジ(人材育成事業)、モニタリング・システム運営、ホームページの運営、研究・達人ネットワークの構築などがあります。資金については、事業収益のストック、企業協賛、特産品の開発、環境協力金の徴収などが考えられているとのことです。安藤氏からは、埼玉県飯能市のエコツーリズム推進組織について紹介がありました。
飯能市では、この数年間、市の職員と支援機関(日本生態系協会)が地元住民とともに、資源探しからエコツアーづくりを一緒になってすすめてきました。この活動の場が、地元再発見の機会や世代をこえた交流の機会を生み出しているとのことです。
エコツーリズム推進体制として、現在大きく三つの組織があります。ひとつはツアーの企画や運営に対する助言、基本方針、ルールの策定、結果の検証、モニタリングなどを行う推進協議会です。2つめは、ツアーの企画、運営、広報、営業、商品開発、協議会への報告、交流会の実施等を行う活動市民の会です。そして3つめは、ガイドを養成するオープンカレッジです。将来的には、エコツーリズムセンター(仮称)を設置し、事業者との調整やエコツアーを宣伝することが検討されています。また、エコツーリズム基金の導入も検討しているとのことです。

写真・文(すべて):(財)日本交通公社(シンポジウム事務局)

▲ ページの上部へ