環境省
VOLUME.71
2019年6・7月号

宮城県南三陸町

持続可能な地域循環を目指し海と森の恵みを未来につなげる

豊かな森と海の恵みが人々の暮らしを支える宮城県南三陸町。
震災を機に、森里川海のつながりを強めるプロジェクトが始まりました。

宮城県南三陸町

志津川湾に面した戸倉地区では、1960年代からカキ漁が盛んになった。しかし、過剰な養殖によっていつしか海の豊かさが損なわれ、カキの品質の低下が問題視され始める。さらに、2011年の東日本大震災が海の環境を一変させた。戸倉カキ部会部会長の後藤清広さんは、その時の様子をこう語る。「カキ漁のいかだも船もすべて流され、カキの養分となる微生物の減少も懸念されましたが、これを機に海と人との付き合い方を考え直すべきだと発想を切り替えました。経済性優先ではなく、持続可能な生産と自然環境の管理に取り組むべきではないか、と」。

 震災をきっかけに、地域の漁業者たちはカキ漁のいかだの数を減らす決断をした。カキに海の栄養が存分に行き渡るよう工夫した結果、それまで生育に数年かかっていたところを1年でぷっくりとした身のカキが育つようになり、味も向上したという。こうした取り組みが評価され、国内初となる養殖水産の国際認証ASCを取得した。戸倉のカキは、「南三陸戸倉っこかき」として付加価値を持ったブランドに成長しつつある。

 一方、林業でも、地域で伐採されるスギをブランド化した「南三陸杉」の価値を高めようと、震災を機に国際森林認証FSCを取得。さらに、それまで各々で活動をしてきた水産業と林業が協力しながら地域活性化を図るため、森里川海のつながりを意識した「海さ、ございん」「山さ、ございん」プロジェクトも立ち上げた。「ございん」とは、地元の方言で「いらっしゃい」という意味である。「豊かな海には、豊かな森の地下水のミネラルも影響するといわれます。森と海、そして我々の暮らしはすべて自然の循環の中で成り立っているのです。これまで以上に漁業と林業のつながりを強くしながら、未来に向けて持続可能な地域産業のあり方をお互いに模索していけたら」と後藤さん。地域ならではの海と森の恵みのファンを増やし、全国、さらには世界から人が訪れるきっかけにしたい考えだ。

宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉カキ部会部会長 後藤 清広さん

CLOSE UP!

「海さ、ございん」プロジェクト

「海さ、ございん」プロジェクト

国内で初めて養殖水産の国際認証ASCを取得した戸倉養殖場で生まれた「南三陸戸倉っこかき」を中心に、森里川海の循環のストーリーを海から発信する。「山さ、ございん」プロジェクト実行委員会とも連携しながら、南三陸の地域ブランドの確立を進めている。プロジェクト実行委員会は2016年に設立。

ASC認証マークのついた生食用カキ

「山さ、ございん」プロジェクト

「山さ、ございん」プロジェクト

国際森林認証FSC取得の地域ブランド「南三陸杉」を活用し、付加価値の高い家具などを提案しながら林業の活性化を図る。森里川海のつながりを森から発信し、南三陸の森の魅力を全国に広めるストーリーづくりのプラットフォームの役割を果たす。プロジェクト実行委員会は2015年に設立。

外壁と内装材に南三陸杉を使用した新築戸建
写真/川廷昌弘(上・下)

写真/大久保惠造

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