ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

改修ZEB事例の技術情報

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建物概要

改修
事例9
東急建設技術研究所東急建設株式会社

東急建設技術研究所の写真

総合建設業として、地中熱ヒートポンプや水素エネルギー供給システム等先導的な技術の実証を目的に自社保有物件の改修を実施。

ZEBの分類
ZEB Ready
  • 都道府県(地域区分):神奈川県(6地域)
  • 新築/既築:既築
  • 竣工年:2017年
  • 延床面積:3,873.65㎡
  • 階数(地上/地下):地上5階、地下1階
  • 主な構造:鉄筋コンクリート造
  • 建物用途:事務所
  • 一次エネ削減率(創エネ除く/含む):57%/60%
東急建設技術研究所の写真

導入したZEB技術

建築省エネルギー技術

導入したZEB技術の表

※(本施設のエネルギー使用量)/(同仕様の建物のエネルギー使用量)を示した値であり、数値が小さいほど省エネ性能が高い。

 

外壁の外断熱の写真
外壁の外断熱
採用した外断熱工法の写真
採用した外断熱工法
複層ガラス化の写真
複層ガラス化
太陽熱集熱システムの写真
太陽熱集熱システム
空冷、地中熱ヒートポンプの写真
空冷、地中熱ヒートポンプ
太陽光発電パネル(壁面設置)の写真
太陽光発電パネル(壁面設置)
地中熱ボアホールの写真
地中熱ボアホール
水素エネルギー供給システム
H2OneTMの写真
水素エネルギー供給システムH2One™

 

ZEB化検討にあたって苦労したこと/工夫したこと

【建築主様のご意見】


建物を使いながら改修するため、採用技術の施工可能性を事前に検討

課題

当社は総合建設業のゼネコンであり、自社で保有する施設のZEB改修を通じて、お客様に『脱炭素』に対する当社の取組みをご覧頂くこと、そして今後のZEB普及を見据えて先導的な技術を実証することを目的とした。
そのため、先導的な要素技術には計画の初期段階から、外皮の断熱性能向上として「外断熱、開口部の断熱性能向上」、再生可能エネルギーの利用として「地中熱と太陽熱、自然換気」、熱電供給による高効率化として「燃料電池もしくはコージェネレーションシステムの採用」、設備の高効率化として「熱源機器の更新、デシカント外調機の導入」などの採用を検討した。このなかで、既存建物の中や周辺を問わず新たな機器を設置するためには、設備機器を配置する位置とそれら機器の接続に必要な配管や配線のルートが確保できることが大前提であった。さらに、執務者に対する工事の騒音・振動の影響や作業動線を考慮して、土日や長期休暇にしかできない工事の項目とその量を想定し、全ての工程が滞りなく完了できることを確認する必要があった。

解決方法

  • 外部から施工可能な外断熱工法による断熱強化を採用した。
  • 短時間で施工可能な「アトッチ」を採用した。
  • 熱源機器の入替えを中間期に設定した。
  • 長期休暇中に実施する工事の抽出と早期の手配を行った。
  • 配管ルートの詳細な計画立案と新規に設ける躯体貫通位置のX線撮影を行った。

増床のため確認申請が必要となり、既存不適格を解消した

課題

建屋北側の正面にはアトリウム空間があり、その外装はシングルガラスカーテンウォールである。外皮性能の向上にはこのカーテンウォールに対して外側からもう1層のカーテンウォールを設けてダブルスキンとする計画とした。この計画では、建物を使いながら施工すること、夏期に温められたダブルスキン内の空気を屋外に排出する機能を持たせるため、外部からの工事となったが、その代わりに床面積が増える結果となり、確認申請が必要となった。

解決方法

建築確認を申請する際、既存建物に対して現行の建築基準法が適用されるため、各階エレベーターの乗入れ部に防煙スクリーンを新たに設置した。

【事業者様のご意見】


建物の積載荷重の確認

課題

機器の新設と外断熱の施工により、建物全体の積載荷重は竣工時に比べておよそ2t増えることとなった。

解決方法

改修による積載荷重の増分について、改めて構造設計をやり直すことは費用と検討期間の面でも現実的ではない。よって、この重量の増分を解消するため屋上防水の押えコンクリートを撤去し 、 露出防水に改修することとして、竣工時に想定した積載荷重を超えないことを確認した。

空調熱源のトリプルハイブリッド

課題

太陽熱、地中熱、燃料電池廃熱の3つを熱源機器に組み込む基本計画に対し、蓄熱槽を設置する必要があった。

解決方法

計画建物には雨水貯留槽があり、現在は中水利用をやめていたため 、断熱防水を施し温水槽として利用することとした。

新設機器の設置位置の確保

課題

1階アトリウム空間の温熱環境を改善するため、デシカント外調機を設置する基本計画に対して、機器の設置スペースが課題となった。

解決方法

1階の空調系統はアトリウム空間と会議室の2系統に分かれており、2台のAHUが地下機械室にあった。2階空調をマルチパッケージ空調に変更し、2階空調のAHUを会議室用に切り替えて地下のAHU1台を撤去したスペースにデシカント外調機を設置することとした。

ZEB検討の手順

ステップ1

採用する技術を検討

先導的かつ検証が必要な技術を含め、リストアップした。

 

ステップ2

採用する技術の規模・仕様と位置を検討

採用する技術ごとに、設置・施工可能な位置と配管・配線ルートが確保できるか検討した。

 

ステップ3

省エネルギー性能の確認

施工可能な仕様と数量をもとに、必要な機器構成を計画し一次エネルギー消費量を算定した。

 

ステップ4

導入可能な省エネ項目を追加

既存設備で比較的容易に省エネ性を改善できる項目を洗い出し、概算金額を考慮して計画に追加した。

 

ステップ5

スケジュールの検討

補助金申請の日程を踏まえ、詳細な実施工程表を作成。

 

ZEB化実現までのスケジュール

ZEB化実現までのスケジュールの画像

運用改善・チューニング

運用改善の実施状況

補助事業完了後の運用実績の報告義務もさることながら、自社で設計した改修計画の実績を検証するため、用途ごとにエネルギー使用量を集計した。特に、空調用途については機器ごとに消費電力量と供給熱量を集計し、要素技術別、かつ季節別の効率性を確認した。他にも各階執務フロアにおける自然換気の換気量やダブルスキン化したカーテンウォールによる改善効果を確認するため、アトリウム空間において温熱環境と省エネルギー性能など、様々な実測を行った。

 

各種実測の結果、熱源系統を中心にいくつかの改善点が見出された。

改善した事例

  • 熱源機器の送水温度変更
    空冷のヒートポンプチラーは送水温度を緩和(冷房時は高く、暖房時は低く)することで、熱源効率(COP)が向上するため、初期設定値の50℃から外気温を目安として40~50℃の範囲で随時変更した。平均で3.0程度だったCOPは送水温度40℃で概ね4.0を超えて運転する時間帯を増やすことができた。
  • 地中熱ヒートポンプの熱源系統へのバイパス設置
    地中熱(水冷)ヒートポンプの熱源は基本的に地中熱ボアホールであるが、冬季には太陽熱集熱~温水槽の系統から熱交換器を介して太陽熱を加算できる仕組みを設けていた。太陽熱集熱による供給熱量が増して水冷ヒートポンプの熱源系統の循環水が地中温度を超えると、逆に地中へ放熱される状態が確認されたため、ボアホール入口にバイパスを設けて地中への放熱を回避するよう改善した。

 

  • 温水槽配管の見直し
    蓄熱槽(温水槽)には、太陽熱集熱パネルで製造した熱と燃料電池の廃熱がそれぞれ温水として供給される。温水槽に貯めた熱は熱回収ヒートポンプを介して、夏期はデシカント外調機のデシカントローターの再生熱に、冬期は外調機の温水コイルに使用している。この温水槽は地中梁を挟んだ2槽で構成されており、この2槽は人通孔を介して繋がっている。設計時は、槽内水温がほぼ均一になると想定していたため、太陽熱と廃熱からの供給温水と熱回収HPからの戻り水を「投入槽」に、太陽熱への戻りと熱回収への熱源水を「排出槽」としていた。運用後、槽内の上下温度や2槽の温度に差がみられたため、配管ルートを修正して「高温槽」と「低温槽」に切り替え、太陽熱を投入する「高温槽」から熱回収HPへ熱源水を送ることとし、「低温槽」は太陽熱への戻りと熱回収HPからの戻りとした。

 

ZEBの効果

CO2削減量

63t-CO2/年(設計値)
※(ZEB改修前のCO2排出量)-(ZEB化改修後のCO2排出量)

ランニングコスト
削減額

309万円/年(改修前後の設計値)
※電気料金を24円/kWhとして算定

総工費

総工費:6億8,500万円
うち、ZEB化に資する工事費:3億2,600万円
ZEB化に資する実質負担額:1億7,800万円

ZEB実証事業補助金:1億3,100万円
神奈川県ZEB導入費補助金:1,760万円

投資回収年数

58年
(実質負担額)÷(ランニングコスト削減額)
※先導的技術の検証を目的としたため、一般より大きい値となっている

その他の効果

  • 水素エネルギー供給システムは、余剰電力を用いて水を電気分解して作った水素を貯めるため、蓄電池に比べると蓄エネルギー時のロスが少なくなった。
  • 太陽光発電と蓄電池により、災害時の事業継続性が向上した。
  • 中間期に自然換気を利用することにより、空調用途のエネルギー消費量が削減された。
  • 複層ガラス化によりガラス面での結露が解消された。
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