ビルは“ゼロ・エネルギー”の時代へ

特に既存改修ZEB化の場合

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特に既存改修ZEB化の場合

①ZEB化改修は既存技術の組み合わせでも実現が可能

既存の汎用技術でZEB化改修が可能

ZEB化を実現する、特に現在のエネルギー性能が低く、新築に比べて導入可能な技術には限りがある既存建築物での改修においては、ZEBを目指すためには、「最先端の技術を導入しなければいけない」という印象があるかもしれません。しかし、実際の事例としては、汎用技術の組み合わせによってZEB化が実現されているケースも多く存在しています。

下図は環境省の補助事業に採択された既存建築物のZEB化改修の際に導入された技術を整理した表です。80%以上の建築物で導入されている省エネ技術は外皮断熱、高効率空調機、LED照明、太陽光発電ですが、いずれも既存の汎用的な技術を活用しています。もちろん、これらの技術を導入するだけでZEBを実現できるわけではなく、他の技術との組み合わせが必要となりますが、いずれにしても必ずしも先進技術を豊富に導入する必要がないことがわかります。

なお、太陽光発電については、省エネで50%の削減というZEB Readyの水準を目指す場合には、必ずしも導入が必要な技術ではありません。

改修ZEBに導入されている主な要素技術
改修ZEBに導入されている主な要素技術の画像

具体的に汎用技術の組み合わせによって公共建築のZEB化改修を実現した事例を紹介します。久留米市では、築30年の環境部庁舎の改修に際して断熱材吹付や窓ガラス交換による外皮断熱強化、空調設備のダウンサイジング、LED照明、蓄電池の設置等を行っています。これらはいずれも汎用的な技術ですが、省エネで67%のエネルギー削減、これに再エネ購入による39%削減を加え、エネルギー消費量がゼロとなる『ZEB』認証を取得しています。

また、久留米市は既存建築物のZEB改修を実証した取り組みが評価され、2021年度(令和3年度)省エネ大賞を受賞しています。環境部庁舎の改修は、これからZEB化改修を目指す上で大変参考になる事例となっています

久留米市環境部庁舎の事例紹介はこちら

久留米市環境部庁舎の導入技術
久留米市環境部庁舎の導入技術の画像

設備容量の最適化による省エネとコスト削減の両立

改修でZEB化を実現する際に効果的な技術として、設備容量の最適化(ダウンサイジング)が挙げられます。

ダウンサイジングとは:
設備の改修時に空調・照明・換気などの設備容量を最適化すること。
新築の建築物に導入される設備は、将来の使用実態がわからないことから、本来必要とされる設備の能力(容量)に対して余裕を見込んだ過大な容量の機器が選定されている場合が多くあります。そこで、改修の際にこれまでの使用実態やエネルギー消費量の実態に基づいて設備容量が小さい機器に更新することで、エネルギー消費量(ランニングコスト)を削減することに加えて、ダウンサイジングを行わない通常の設備更新を行うのに対してイニシャルコストを削減することにもつながります。

ダウンサイジングによるエネルギー消費量の削減と設備更新コストの削減は、ZEB化を目指すことによって、コストアップではなくコストダウンにつながる可能性があることを意味しており、多くの既存建築物における取組として重要であると考えられます。

また、ダウンサイジングして導入した機器の省エネ効果を定期的に確認しながら運用を改善することで、ランニングコストを更に削減することも可能となります。

ダウンサイジングによる省エネとコスト削減の両立の画像

②ZEB化改修による様々なメリット

CO2の削減効果と光熱費の削減効果

仮に日本全体の既存建築物が、今後改修によるZEB化を実現した場合、一定の仮定を基に分析を行うと、2030年時点では900万tCO2/年程度、2050年時点では1,900万tCO2/年程度の削減効果が得られると試算されます。2020年度の業務その他部門のエネルギー起源CO2は約1億8,000万tCO2であり、これに対して、2030年時点では5%程度、2050年時点では11%に相当する排出量が削減できることになります。

国全体の温室効果ガスの排出量を、2030年度に46%削減(2013年度比)、2050年度にカーボンニュートラルを実現するという国の目標を実現するためには、他の取組も含めた対策の総動員が必要であるものの、改修によるZEB化を進めることは大きな効果を生む対策であるといえます。

それでは、この国全体のCO2削減効果を、建物ごとのエネルギー消費量の削減効果、さらには光熱費の削減効果としてみるとどの程度となるのでしょうか。仮に延床面積10,000㎡の事務所ビルでZEB Readyを実現した場合、40~50%程度の光熱費の削減につながります。詳細はこちらのページで「公共建築物・自社ビルの場合」、「テナントビルの場合」のそれぞれについて、光熱費の削減イメージを解説しています。

不動産価値の向上

環境性能の高い建物の不動産価値への影響に関しては、これまでにも多くの分析がなされています。(株)ザイマックス不動産総合研究所では、東京のオフィス市場における環境不動産の経済性分析を行っており、「環境認証は不動産事業に経済的なプラス効果をもたらすのか?」という問いに対する調査結果を公表しています。この調査結果として、東京オフィス市場においては環境認証を取得することは、新規賃料に対して2.0%のプラスの効果があると確認されたと報告されています。調査の詳細はこちらをご覧ください。

また、同社では健康性・快適性に優れたウェルネスオフィスの経済的価値についても分析を行っており、CASBEE-ウェルネスオフィスの認証取得有無による賃料への影響について調査結果を公表しています。東京23区のオフィス新規成約賃料データを分析した結果としては、ウェルネスが高い建物はそうでない建物に比べて6.4%賃料が高いことが分かったと報告されています。調査の詳細はこちらをご覧ください。

これらの調査結果は、ZEBへの改修によるエネルギー性能の向上や、建物の室内環境改善による快適性・知的生産性・健康性等の向上によって、不動産価値が向上する可能性があることを示唆しています。

③ZEB化改修を検討する際の留意事項

ZEB化実現までのスケジュール

一定の築年数が経過した建物を改修してZEBなどの大幅なエネルギー性能の向上を目指す場合、一度の工事で一足飛びに実現できるケースばかりではありません。そのため、現在の建物のエネルギー性能を把握し、そこからZEB等の実現というゴールに向けて、いつまでにどのような改修を進めるかについての計画を立てることで、徐々にエネルギー性能を向上させていくことも重要であると考えられます。また、徐々に改修を進めていくことで、ZEB化までにかかるトータルのコストを分散させることも可能となります。

なお、一度の工事でZEB化を目指すことが不可能ということではありません。特に公共施設や自社ビルなどのように、建物の使い方を自らで調整することが可能な場合には、一度の大規模改修によってZEBを実現することも考えられます。

いずれの場合であっても、まずは専門家である『ZEBプランナー』に相談をすることが必要です。『ZEBプランナー』と相談しながら、現状及び今後のエネルギー性能を評価するための書類(現状の図面や設備の計装図等が必要となるため、事前にその有無も含めた確認を行ってください)を整理し、負担できるコストも踏まえながら、現実的な長期計画を策定することが重要です。

短期的なZEB化実現のイメージ(築15年の建物を一度の改修でZEB化する場合の例)の画像
長期的なZEB化実現のイメージ(築15年の建物を5年後にZEB化する場合の例)の画像

認証取得の効果

長期的な計画を策定したとしても、それが絵に描いた餅で終わってしまっては、当初の見込みとして得られるはずであったメリットも限定的になってしまいます。そのため、計画の策定時に、BELSなどの認証を取得することが効果的です。

なお、認証制度にはさまざまな種類が存在(詳細はこちら)しますが、ZEB認証と直結している制度としてBELSが挙げられます。BELSでは、計画中の場合にはその予定時期を記載することで、将来のエネルギー性能に対する認証を得ることができます。そのため、策定した長期計画に基づいた認証取得を行うことで、計画の実効性を高め、策定初期のモチベーションを維持することにもつながります。

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