地球環境・国際環境協力

気候変動の科学とわたしたちの未来~IPCCと兵庫県民の対話~(2014/12/18)

IPCCと兵庫県民の対話

日時
2014年12月18日(木) 13:30~16:30(13:00開場)
会場
ANAクラウンプラザホテル神戸
主催
環境省、共催:兵庫県

プログラム

挨拶

秀田 智彦
環境省 近畿地方環境事務所 所長
梅谷 順子
兵庫県 環境部長

基調講演

David Wratt(デイビッド・ラット)
(IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第1作業部会副議長、ニュージーランド国立大気水圏研究所(NIWA)チーフサイエンティスト)

「気候変動 IPCC第5次評価報告書の重要な知見」

 9月に発表されたIPCC第5次評価報告書の主な内容について解説が行われた。
 IPCCの組織及び第5次報告書を取りまとめるに至るまでの経緯について簡単な言及があったあと、まず、同報告書についてのキーメッセージとして、パチャウリ議長の記者会見の言葉「気候システムに対する人間の影響は明瞭である。我々が気候を破壊(disrupt)すればするほど、我々は深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を受けるリスクにさらされる。我々は、気候変動を抑制し、より豊かで、持続可能な将来を構築する手段を有している。」が引用された。その後、同報告書の内容について、気候変動の状況及びその影響、予測について、科学的データを用いた解説がなされた。特に日本を含む東アジアにおける気温や降水量、変化の予測についても具体的に紹介された。また、気温上昇を2℃までに抑えるための緩和策について説明があった。IPCCの結果から導かれる強いメッセージとして、我々人類は複数の選択肢を持っており、その選択によって、気温上昇が2℃以下に抑えられ、影響も限定的となり得ることもあるが、4℃以上の気温上昇になった場合、非常に深刻な影響があり得ることが説明された。最後に、結論として、気候システムに対する人間の影響は明瞭であり、気候変動を抑制するには、大幅かつ持続的なGHG排出量の削減が求められること、さらに、それを前提としても、適応策も必要であることが強調された。

高橋 潔
((独)国立環境研究所 社会環境システム研究センター 総合評価モデリング研究室 主任研究員)

「地球温暖化影響・適応に関する最新の科学的知見-IPCC第5次評価報告書・S-8研究プロジェクト成果をふまえて-」

 まず、IPCC第5次評価報告書に記載されている影響の部分について紹介があり、後半では、国内の影響について調べるS-8研究プロジェクトについての解説があった。
 IPCC報告書から、作物収量について収量減を予測する分析ケースが次第に増えてきていること、21世紀を通じて強い降雨は増加すると推測されていること、排出量の抑え方が高くなった場合、大きな河川洪水に曝される年あたり人口数が増えると推測されることなどが具体的な影響として紹介された。
 また、日本への影響として、S-8プロジェクト報告書から、気象災害、熱ストレスなどの健康影響、水資源、農業への影響、生態系の変化などを通じて、1)国民の健康や安全・安心、2)国民の生活質と経済活動、3)生態系や分野などに影響が広がること、が具体的に示された。さらに、世界規模で緩和策が進めば,日本における悪影響も大幅に抑制できること、その場合でも、適応策を講じないとほとんどの分野において現状を上回る悪影響が生じると考えられること、今後の気候変動リスクに対処するためには、緩和策と適応策の両方が不可欠であることが強調された。

新澤 秀則(兵庫県立大学 経済学部 教授)

「IPCC報告書と日本及び兵庫」

 IPCC第5次評価報告書の概要について言及された後、京都議定書の第一約束期間及びその後の日本の概況について解説があり、これを踏まえて兵庫県及び神戸市の排出量の状況や政策的な取り組みについて具体的な説明があった。また、都市の取り組みの参考事例として、全世帯の45%、全就業者数の85%を都心部に集めようと目標を掲げる、シアトル市の温暖化対策計画の紹介があった。
 その後、適応がIPCCの中でも大きな比重を占めるようになってきていることが示され、その中で兵庫県・神戸市も計画の中に適応策を含めようとしていることが紹介された。また、自治体における政策課題として、何から実施すべきかという順位付け、さらに、適応に費用がかかる場合、それを誰がどのように負担すべきか、既存の行政の予算の中でできないようなことになった場合、資金調達をどのようにするのかといった予算の問題の2点が示された。
 最後に、IPCC報告書から、適応を機会(opportunity)として捉えようという考え方についての引用があった。

パネルディスカッション「今後の気候変動対策」

ファシリテーター
平石 尹彦(IPCC インベントリータスクフォース(TFI)共同議長)
パネリスト
David Wratt(デイビッド・ラット)(IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第1作業部会副議長、ニュージーランド国立大気水圏研究所(NIWA)チーフサイエンティスト)
高橋 潔((独)国立環境研究所 社会環境システム研究センター 総合評価モデリング研究室 主任研究員)
新澤 秀則(兵庫県立大学 経済学部 教授)
佐藤 郁(戸田建設株式会社 価値創造推進室 開発センター エネルギーユニット次長)
竹本 明生(環境省 地球環境局 総務課 研究調査室長)

 前半は気候変動の緩和策(温室効果ガス削減対策)についての議論が行われた。竹本氏より、政府の緩和策に対する取組の紹介があったのち、佐藤氏より、洋上風力発電の概要についてビデオを用いた解説が行われた後、同施設の立地地域である長崎県の地元関係者のコメントが具体的に紹介され、同施設が地域の活性化にも期待されていることが示された。次に平石氏より、IPCC報告書に関する補足の説明と、同月にリマで開催されたCOP20の決議についての最新情報の提供があった。その後、パネルの間で意見交換が行われた。
 後半は気候変動適応策についての議論があった。竹本氏より、政府の適応策に関する取組の紹介があった。その後高橋氏より、適応策や緩和策に伴う相当の痛みやデメリットについても一般の理解がないと、長期にわたって大規模な対策を続けるということは難しく、研究者としても情報提供に注意していきたいとの言及があった。さらに、ラット氏より、適応に関しては、多くのメリットやベネフィットもあり、レジリエンスを高めることにつながるとの意見が示された。また、適応に関しては、日本が、途上国支援についても資金提供を行っていくことで国際貢献するということが、平石氏、竹本氏より報告された。新澤氏からは適応のコストに関連して、具体的に兵庫県の事例として米の栽培についての紹介があり、自治体の支援も重要であるとの指摘があった。
 その後、パネリストの間でディスカッション、会場との質疑が行われた。