温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告

温室効果ガスインベントリの概要

 本ページでは、我が国が国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)事務局に毎年提出している温室効果ガスインベントリ(温室効果ガス排出・吸収量)の概要について解説しています。

温室効果ガスとは?

 太陽の光は、地球の大気を通過し、地表面を暖めます。暖まった地表面は、熱を赤外線として宇宙空間へ放射しますが、大気がその熱の一部を吸収します。これは、大気中に熱(赤外線)を吸収する性質を持つガスが存在するためです。このような性質を持つガスを「温室効果ガス(Greenhouse Gas)」と呼びます。大気中の温室効果ガスが増えると、温室効果が強くなり、より地表付近の気温が上がり、地球温暖化につながります。
 温室効果ガスには様々なものがありますが、人間の活動によって増加した主な温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスがあります。なお、温室効果の大きさは気体によって異なり、例えばメタンは二酸化炭素の28倍、一酸化二窒素は265倍の温室効果があります。

温室効果ガスの削減に向けて

 20世紀半ば以降、世界の平均気温は上昇し続けています。18世紀後半の産業革命以降、人間が大量の化石燃料を消費し、これに伴い大量の温室効果ガスが排出され、大気中の温室効果ガス濃度が急激に上昇したことが地球温暖化の要因であると考えられています。2015年に採択されたパリ協定では、産業革命以降の気温上昇を2℃ないし1.5℃に抑制することが長期目標として掲げられました。その後、2021年に開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の成果文書であるグラスゴー気候合意では、1.5℃目標を追求することが決意されました。この長期目標を達成するためには、人間活動に伴う温室効果ガスの排出量を大幅に削減していくことが必要です。
 地球温暖化の抑制に向けては、現在または将来の温室効果ガス排出量が気温の上昇にどのように影響するのかや、どのような対策によりどの程度排出量が削減可能なのか、といった情報を基に、温室効果ガス排出量の削減に向けた様々な政策を講じていくことが必要となります。ここで、温室効果ガスがどのような排出源からどの程度排出されているのかを把握するために重要な役割を果たしているのが、温室効果ガスインベントリです。

温室効果ガスインベントリとは?

 インベントリとは、一定期間内に特定の物質がどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたかを示す一覧表のことです。気候変動・地球温暖化の文脈では、一国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータのことを、一般的に「温室効果ガスインベントリ(Greenhouse Gas Inventory)」と呼んでいます。温室効果ガスインベントリは、世界全体や各国における温室効果ガス排出量を把握するために作成されています。
 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)の第4条1及び第12条1に基づき、我が国を含む附属書I締約国(いわゆる先進国)は、毎年自国の温室効果ガスインベントリを作成し、4月15日までに条約事務局へ提出することが義務付けられています。また、パリ協定においても、第13条7(a)に基づいて温室効果ガスインベントリを提出することが義務付けられています。我が国も毎年温室効果ガスインベントリを作成し、直近年の温室効果ガス排出・吸収量を推計・公表するとともに、排出・吸収量データ及び関連情報を含む温室効果ガスインベントリを条約事務局に提出しています。

国連気候変動枠組条約及びパリ協定における規定

温室効果ガスインベントリの構成

 条約事務局に提出する必要がある温室効果ガスインベントリの構成及び内容は、パリ協定下の透明性枠組みにおけるモダリティ・手順・ガイドライン(Decision 18/CMA.1, Annex) (Modalities, Procedures and Guidelines: MPGs)(2023年提出インベントリまでは(第19回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP19)で採択された改訂UNFCCCインベントリ報告ガイドライン(Decision 24/CP.19, Annex))で規定されています。各国が提出すべき温室効果ガスインベントリは、以下の2つから構成されています。
  • ・共通報告表(Common Reporting Table: CRT):排出・吸収量の定量情報(数値情報)を報告するためのデータテーブル。CRTはMicrosoft Excelのスプレッドシートであり、条約事務局が開発した電子報告ツール(CRTを作成するためのウェブアプリケーション)を用いて作成されます。
  •  ※2023年提出インベントリまでは、共通報告様式(Common Reporting Format: CRF)

  • ・国家インベントリ報告書(National Inventory Document: NID):排出・吸収量の算定方法や使用データの出典等について説明した報告書です。
  •  ※2023年提出インベントリまでは、国家インベントリ報告書(National Inventory Report: NIR)

対象ガス

 温室効果ガスインベントリでは、二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF₆)、三ふっ化窒素(NF₃)の7種の温室効果ガスの排出量を算定するとともに、CO₂と比較した場合の各温室効果ガスの温室効果の強さを示す地球温暖化係数(Global Warming Potential: GWP)を用いてCO₂等量に換算した温室効果ガス総排出量を算定することが求められています。

 なお、国の温室効果ガス総排出量には含めないものの、温室効果ガスの前駆物質である一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、非メタン揮発性有機化合物(NMVOC)、及び硫黄酸化物(SOx)に関する情報も提供すべきとされています。一方、メタン、CO及びNMVOCが大気中で酸化されることによって生じるCO2については、国の温室効果ガス総排出量に含めてもよいとされています。

 

算定対象期間

 温室効果ガスインベントリでは、基準年(原則1990年)からインベントリ提出年の2年前まで(例えば2024年に提出する温室効果ガスインベントリの場合、2022年)の全ての年の排出・吸収量を報告する必要があります。
 なお、温室効果ガスインベントリにおける温室効果ガス排出・吸収量の標準的な算定方法を規定した2006年IPCCガイドライン では、各年の排出・吸収量を暦年ベース(1月1日~12月31日)で推計することが良いとされていますが、使用データが時系列で一貫している場合は、会計年度でも使用可能とされています。我が国は、排出・吸収量の算定の際に使用している各種統計が会計年度(4月1日~翌年3月31日)に基づいているものが多いことから、基本的に会計年度ベースで排出・吸収量を推計しています(ただし、HFCs, PFCs, SF₆, NF₃は出典統計が暦年ベースであることから、暦年で算定しています。その他のガスにおいても、使用統計の制約により、暦年値を用いている部分があります。)。

排出・吸収源

 温室効果ガスインベントリでは、原則として、その国から人為的に発生する全ての温室効果ガス排出・吸収量を算定する必要があります。2006年IPCCガイドラインでは、温室効果ガスの排出・吸収源を大きく次の4つのカテゴリーに分類した上で、各分野に属する詳細な排出・吸収源とその排出・吸収量算定方法を提供しており、各国はこの分類に基づいて排出・吸収量の算定を行い、報告を行っています。
  • エネルギー(Energy)
  • 工業プロセス及び製品の使用(Industrial Processes and Product Use: IPPU)
  • 農業、森林及びその他土地利用変化(Agriculture, Forestry and Other Land Use: AFOLU)
  • 廃棄物(Waste)

排出・吸収量の再計算

 温室効果ガスインベントリは、全ての時系列で一貫した算定方法を用いて排出・吸収量を算定することが求められています。したがって、温室効果ガス排出・吸収量の算定方法や使用データの修正・改善を行う場合は、過去に遡り、1990年から直近年まで全ての年の排出・吸収量を再計算する必要があります。
 我が国においても、新しい研究成果・調査結果の適用や、温室効果ガスインベントリの審査での指摘事項に基づく算定方法等の改善、過去の統計データの修正等により、1990年度以降各年の排出・吸収量は、毎年の温室効果ガスインベントリ作成のたびに修正されています。

温室効果ガスインベントリの審査

 各国がパリ協定下で提出した温室効果ガスインベントリは、条約事務局により編成された技術専門家審査チーム(Technical Expert Review Team: TERT)による技術的な審査を受けることとされています。この審査では、所定のガイドラインに従って排出・吸収量の算定・報告が正確かつ完全に行われているか、算定方法等について透明性のある説明がなされているか等の観点から各国の温室効果ガスインベントリが精査され、将来的な報告の改善に向けた勧告や推奨事項を含む審査報告書が作成されます。各国の審査報告書は、UNFCCCのウェブサイトで公開されています。

IPCCガイドラインの概要

 温室効果ガスインベントリにおける温室効果ガス排出・吸収量の算定は、IPCCが作成した以下のガイドラインに基づいて行うことが求められています。  上記のIPCCガイドラインでは、各排出・吸収源別に、排出・吸収源の概要、算定方法を決定するためのデシジョン・ツリー、標準的な算定方法(算定方法の算定精度や詳細さ別に、Tier1. 2. 3. 等の複数の算定方法が示されています。)、標準的な排出係数等のパラメータ、活動量の説明等が示されています。各国は、このIPCCガイドラインにおける規定を基礎としつつ、各排出・吸収源における国内の実態やデータの利用可能性、科学的知見等を考慮に入れた上で可能な限り正確な排出・吸収量の算定方法を決定し、排出・吸収量の算定及び報告を行っています。

我が国における温室効果ガスインベントリ作成体制

 我が国では、環境省が関係省庁及び関連団体の協力を得て、下図に示す作成体制により温室効果ガスインベントリを作成しています。 我が国における温室効果ガスインベントリ作成体制の詳細は、日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NID) の「第1章 序論」を御覧ください。
図 我が国のインベントリ作成体制
 

温室効果ガスインベントリの改善について

 温室効果ガスインベントリにおける温室効果ガス排出・吸収量は、パリ協定の下での2030年排出削減目標(NDC)2050年までのカーボンニュートラルの実現など、我が国が国際的に表明している温室効果ガス排出削減目標の進捗及び達成を評価するための重要な基礎データとなります。また、これら目標の達成に向けた国内の各種施策・対策を定めた地球温暖化対策計画の基礎データとしても利用されます。したがって、温室効果ガスインベントリにおける温室効果ガス排出・吸収量は、我が国における温室効果ガスの排出・吸収実態や、排出削減対策・吸収源対策の効果を可能な限り正確に反映したものとする必要があります。上記に鑑み、環境省では、温室効果ガスインベントリにおける温室効果ガス排出・吸収量算定方法や使用パラメータ等を継続的に改善していくための検討を毎年実施しています。