保健・化学物質対策

米国の新たなEDSP21イニシャティブ

米国環境保護庁(EPA)化学物質安全性・汚染防止局
上席生物学者
レスリー W.トゥアート
(2012年1月17日 掲載)

レスリー W.トゥアート氏


 米国環境保護庁(EPA)は、1996年の食品品質保護法(FQPA)の成立及びその後の連邦食品医薬品化粧品法(FFDCA)と飲料水安全法(SDWA)の修正を受け、内分泌かく乱化学物質スクリーニングプログラム(EDSP)を策定した。具体的には、EPAはこれらの法律により「特定の物質が天然のエストロゲンと同じような作用、またはその他EPA長官が指定する内分泌作用を人体に及ぼすかどうかを判定するため、妥当性検証済みの適切な試験系及びその他の科学的関連情報を用いて、スクリーニングプログラムを策定すること」が求められ(FQPA, 1996)、また「EPA長官は、飲料水源で検出されるその他の物質に対して人口の相当数がばく露する可能性があると判断する場合には、……当該スクリーニングプログラムの下でその物質の試験を実施することができる」とされた(SDWA, 1996)。EPAは「内分泌かく乱化学物質スクリーニング及び試験法諮問委員会」(EDSTAC)の勧告(EDSTAC; 1998)に基づくとともにEPA長官の上記裁量権に従い、スクリーニングと試験に関する2段階式のスクリーニングプログラム(EDSP)を採用した。その対象を拡大して内分泌系のアンドロゲン経路や甲状腺ホルモン経路もプログラムに含め、かつ生態影響にも対応するようにした。

 EPAは2009年に農薬を中心とした第1次リストを対象にTier 1(第一段階)試験命令の発出を開始し、受領した試験データの審査に着手した。現在、新たな試験命令に向けて飲料水汚染物質も含めた第2次リストをまとめているところである。こうした中でEPAは、EDSP21という新たなイニシャティブを開始した。これは、内分泌かく乱作用試験の対象となる化学物質の優先順位設定を助けるハイスループット・スクリーニング(HTS)ツールを開発して改良を加え、最終的には優先順位設定にとどまらず、Tier1スクリーニングでの使用に向けて確固たる信頼性を築くことを意図している。

 このイニシャティブでは目標として、既存データの最大限の活用、的を絞ったin vivo毒性試験の活用、段階式の試験・評価枠組内での各種ツールの活用、新しいツールや試験法の体系的導入、内分泌毒性経路での主要イベントに関する理解の向上を掲げている。このイニシャティブは、多くの有害影響が考えられる多数の化学物質に対する評価力などのさまざまな課題に対処し、限られた資源と時間の活用を最適化し、科学的健全性、透明性及び適時性に対する国民の期待に応えるものであると期待されている。内分泌かく乱作用の評価に用いる科学的ツールはますます変化して複雑になり、リスクの評価や管理に関して常に新しい課題が生じるものである。

 提案されたEDSP21の作業計画には多段階の統合的なアプローチが盛り込まれている。このアプローチの全体概要を図1に、具体的な検討内容を図2に示す。化学物質がエストロゲン、アンドロゲン、あるいは甲状腺ホルモンと相互作用する可能性があるかどうかを判定するEDSPのTier1スクリーニングに関して、この作業計画では次の3つの主要目標を掲げている。

(1)優先順位の設定

短期目標(2年未満)は、農薬以外の対象化学物質群と、登録審査を受ける農薬活性成分に関する情報の必要性について、優先順位を設定することであり、化学物質の相対的なスクリーニング順位を決める際には、既存のデータ、in silicoモデル、個別または一連のin vitro HTP試験を用いる。

(2)スクリーニング(Tier 1)

中期目標(2~5年)は、妥当性検証済みの現行in vitroスクリーニング試験を、妥当性検証済みのin vitro HTP試験に置き換え、その試験結果をエストロゲン用またはアンドロゲン用の現行in vivo試験の選定に役立て、可能であればスクリーニング目的での実験動物の使用を削減することである。

(3)置き換え

長期目標(5年超)はin vivoスクリーニング試験を妥当性確認済みのin vitro HTP試験に完全に置き換えることを検討し、スクリーニング目的での実験動物の使用を排除することである。

 EDSP21により、EPAは直面している科学的課題に対処し、法的義務を円滑かつ効果的に遂行する能力を高めることができると期待されている。

図1:EDSP Tier1の展開


 農薬以外の化学物質群はHTP試験群(バッテリー)を用いて分析することも可能である。プレスクリーニング方法として、コンピュータモデルを適宜用いることができる。この段階で特定された化学物質については、現行のTier 1スクリーニング(T1S)試験群に基づく試験命令を優先的に発出する。中期的には、化学物質はin vitro HTP試験とin silicoモデルで特定した生物活性に基づいて示されたT1S試験のみを受ける。また適切であれば、in vivoによるT1S試験の代わりに、検証済みのin vitro試験またはin silicoモデル、あるいはその組み合わせを用いる。長期目標は動物実験を排除するように、現行EDSP T1S試験群の代わりにin vitro試験、in silicoモデル及びin vivo試験のデータから得た情報を使用することである。
(WOE-:どの化学物質がEDSP Tier2試験を必要とするかを判定するために用いる、証拠の重み付けによる評価 )


図2:短期目標、中期目標の実現に向けた作業計画

英語原文

参考文献

略歴

 トゥアート博士は米国環境保護庁(EPA)の化学物質安全性・汚染防止局の上席生物学者である。ジョージ・メイソン大学にて環境生物学と公共政策の博士号を取得。内分泌かく乱物質スクリーニングプログラムの生態毒性試験を開発するリーダーであり、経済協力開発機構(OECD)との新たな生態毒性試験ガイドラインの開発とハーモナイゼーションに参加している。