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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価  2. 脱温暖化社会部会(第2部会)

研究課題名:【A-1002】日本海深層の無酸素化に関するメカニズム解明と将来予測(H22〜H24)
研究代表者氏名:荒巻 能史((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)溶存酸素濃度の高精度時空間マッピングによる日本海深層の無酸素化の将来予測
(2)日本海深層における海水混合と水塊変質過程の解明
(3)マルチトレーサーを活用した日本海底層水の起源推定と循環機構の解明
(4)鉛直多層ボックスモデルを用いた日本海底層水の海水年齢と漸減する溶存酸素濃度の再現実験

2.研究開発目的

研究のイメージ過去数十年にわたって日本海深層水塊中の溶存酸素濃度が漸減し、水温も上昇しているという日本海における近年の環境変動は、温暖化の影響によって日本海底層水の新たな形成が停滞したためであると評価されてきた。しかし、その変動と原因を繋ぐプロセスに関する具体的な研究は皆無である。日本海底層水は、海水特性を決定する水温・塩分のみならず、溶存酸素を含む様々な化学成分が極めて一様な特徴を持っているが、奇妙なことに過去の数〜十年間隔で得られた観測データはその特徴である鉛直一様性を保持したまま“変動”している。日本海全域の30%以上の体積を占める底層水に含まれる化学成分が鉛直的に濃度勾配を持たずに“変動”するためには、これを維持する底層における何らかのメカニズムが作用しているに違いないが、例えば、その物理学的過程すら解明されていない現状がある。そこで本研究では日本海を対象とした大規模な海洋観測を利用し、(1)歴史的資料及び本研究で得られる高精度分析データを用いて、溶存酸素濃度の高精度時空間マッピングを行い、日本海深層における無酸素化の将来予測を実施し、(2)海水特性や流速の三次元的な分布の観測と係留系による流速の長期観測を通して深層における海水混合と水塊変質の物理過程を解明、(3)海水流動の「化学トレーサー」として利用可能な複数の化学成分を組み合わせて解析することから、底層水の起源や循環過程を解明、(4)過去の観測結果ならびに本研究で得られた物理・化学観測データを鉛直多層ボックスモデルに組み込んで(1)〜(3)で得られた解析結果を検証することから、日本海底層水の無酸素化プロセスを解明するとともに、その将来予測を行うことを目的とし、温暖化に伴う地球規模での海洋環境変動に関するシミュレーションモデル等への貢献を最終的な研究目標とする。


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■A-1002 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/a-1002.pdfPDF [PDF1286KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究で得られた結果は、日本海の深層循環像に新たな知見を加えるものである。具体的には、まず日本海底深層水における長期的な溶存酸素の低下傾向が、2010年代も継続していることを確認した。次に、最新の観測データと歴史データを組み合わせることで、これまでその要因が明確でなかった溶存酸素濃度の一時的な増加と間欠的に発生する新底層水形成イベントとの関係を結びつける「仮説」を提案した。さらに、水塊トレーサーである放射性炭素14の経年変化量から、日本海底層水中の、見かけではなく真の溶存酸素消費量として約2µmol/kg/yearという値を世界ではじめて見積もった。これらの成果は「地球温暖化に対して脆弱な縁辺海」としての日本海を再確認すると同時に、「仮説」を検証するための今後の観測計画の立案、得られた観測結果と「仮説」との整合性の確認という作業を通じて、日本海における海洋循環研究を次のステップに推し進めるための基礎となり得る。
大和海盆底層水の変質に寄与する2つの大きなパラメータ(水平移流と鉛直拡散)を実測によって定量的に評価できたのは大きな成果である。特に日本海盆から大和海盆への底層流は、これまで理論的には予測されていたが、その存在が観測によって証明されたのは初めてである。また、水平移流のメカニズム(回転系での密度流をともなうestuary-likeな海水交換)や、鉛直拡散に寄与する物理現象(鉛直波長150〜200m程度で、下層から上層に向かって伝播する近慣性周期の内部重力波)を特定できたことも特筆すべき成果である。将来的には、これらの物理過程を組み込んだモデルを開発することによりに、日本海深層での水塊変質を精度よく予測できることが期待される。
小型化及び省電力化を目的にECD-GC1台で、海水にごく微量に溶存するCFC-11、CFC-12、CFC-113及びSF6の4成分を世界最高レベルの高感度分析するシステムを開発したことは、今後の化学海洋学の発展に大きく寄与するものである。また、CFCs比によって最近40年の日本海の熱塩循環が以前の15〜40%程度にまで弱化しているという解析結果は、温暖化に伴う海洋循環のような地球システムそのものの変化を定量的に明らかにした希有な成果である。また、炭素14の広範な空間分布観測では、本課題で物理的解析が進む東部日本海盆〜大和海盆の境界における底層フロントについて、日本海盆から大和海盆へ海底を這うように流入する底層水が日本海全域で見かけ上最も古い、少なくとも1979年以前に表層水が底層に沈み込んだ水塊であることを見いだした。さらに、2000/2001年の底層水の大規模形成直後に西部日本海盆南端〜対馬海盆上で得られた海水のΔ14C測定から、同水塊の流動について新たな知見を得た。2000/2001年の底層水形成イベントについては、国内外の研究者によって化学、物理学的解析が行われており、これらの成果とともに解析を進めることで日本海深層循環の解明の一助となる。
鉛直一次元の多層モデルは単純なモデルではあるものの、日本海深層水の水温やδ14Cの鉛直プロファイルの特徴を表現できる。そのモデル結果から、①日本海深層水の海水年齢(最大で平均年齢160年程度)を決める要因は沈降量ではなく、主に鉛直拡散係数であること、②1℃以下の深層へ沈降する海水量はp=4%/yr程度と推測され、この値は深層体積1×106 km3から流量換算にすると1.3Sv程度(対馬暖流の流量に匹敵)となること(なお、冷却に寄与する底への沈降量は0.05Sv程度)、③海洋観測の立場からは未知である深層域の鉛直拡散係数は、2cm2/s前後であろうこと、が推定された。さらに、鉛直一次元モデルを3次元モデルに拡張した結果から、現在でも観測される鉛直均一で水温上昇する底層水(BW)が過去の一時期多量に形成された鉛直混合水の名残ではなく、海盆間の深層密度流により常に維持されていることが明らかになった。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会A-1002(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究では、日本海底層水中の真の溶存酸素消費量が約2µmol/kg/yearであることを世界ではじめて見いだした。2012年現在の日本海底層水の溶存酸素濃度が195〜200µmol/kgであることを考えると、今後100年で底層水から酸素がなくなってしまうことになる。さらに、CFCsの高感度精密分析を用いて、温暖化に伴う熱塩循環の規模が最近40年ではそれ以前の15〜40%程度にまで減少していることを突き止めた。温暖化に伴う海洋環境の変化の状態把握は種々のモニタリングによって明らかになりつつあるが、本研究のように海洋循環の変化、すなわち地球システムの変化そのものを定量的に明らかにした例はほとんどない。これらの成果は、日本海が温暖化に対して脆弱な縁辺海であることを改めて浮き彫りにしただけでなく、日本海は国民にとって最もなじみ深い海のひとつであることから温暖化問題や海洋環境保全に対する国民への啓蒙を図る上で重要な役割を担うものとなる。
太平洋や大西洋の深層においても水温上昇が報告されており、地球規模での海洋循環の将来予測が喫緊の課題となっている。本研究で得られた知見は、例えばIPCCによるいくつかのCO2増加シナリオによって全球の熱塩循環が将来的にどのように変化するのかを予測する際に、有益な情報を提供すると考えられる。また、本研究の本質は「大気圏あるいは海洋表層における環境変化が、海洋深層にどのような影響を及ぼすか」という問題である。例えば福島原発事故により拡散した放射性物質の日本海深層への影響の有無を求められたとき、本モデルをImpulse応答問題として使用すれば、第一次近似的なレベルではあるものの、今後の予測は可能である。また、日本海深層水の現状把握という観点において、本研究で実施したような日本海全域を対象にした調査の継続は経費・時間・外交等の関係上、現実的には不可能であろう。本研究では、底層水が水温上昇しつつも、その水温鉛直均一性や一定層厚を維持する要因として、大和海盆-日本海盆間の浅瀬上に形成されたBenthic frontが大きく関与していることを明らかにした。この研究成果は、日本の領海内で最小限の経費で実施可能なモニタリング候補として、日本海深層水全体のリトマス試験紙的役割を演じるBenthic front近傍底層水の継続的なモニタリングを提案するものである。

4.委員の指摘及び提言概要

本課題では、日本海深層水の溶存酸素現象に関して、高感度分析システムや数値モデルを開発するとともに、14C年代測定や化学トレーサーなどを用いてその海域特性、濃度減少のメカニズムの把握を進め、日本海深層循環メカニズムの一端を特定すると同時に真の溶存酸素減少量を見積もるなど、サブテーマ間の連携をよく取り、学術的に意義のある成果を上げたことを高く評価する。今後、環境政策に生かすためにも、査読付き論文発表などにより当該分野の研究者による評価を得ることが不可欠である。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【A-1003】北極高緯度土壌圏における近未来温暖化影響予測の高精度化に向けた観測及びモデル開発研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:内田 昌男((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)土壌有機炭素分解の実態把握と生物地球化学的メカニズムの解明に関する研究
(2)微気象・物理・水文プロセスの総合観測と変動量評価に関する研究
(3)温室効果ガスのフラックス観測とその起源の定量的評価に関する研究
(4)土壌炭素動態モデルの開発および高精度化に関する研究

2.研究開発目的

本研究では、近年温暖化影響が顕在化している北極域における、温暖化による土壌炭素蓄積量の変化とそのメカニズム解明のための観測とそれらのデータを用いた北極土壌炭素動態モデルの開発と高精度化を目指す。具体的には、北極高緯度域を代表する生態系(タイガ・ツンドラ)を縦断する観測ラインを設定し、各観測点で炭素分解をコントロールする土壌温度、水分量等の土壌の物理状態を把握するとともに、土壌の化学組成、有機炭素現存量、平均滞留時間(分解率)、土壌から温室効果ガス放出速度(CO2やCH4)などを観測し、炭素動態モデルの開発を行う。また開発したモデルの検証・改良を行うため、放射性炭素(14C)を用いて土壌有機炭素の平均滞留時間を実測する。土壌有機炭素の滞留時間は、温度などの環境条件や有機炭素の質によって変動すると考えられているが、北極域における平均滞留時間実測データは皆無である。さらに、北極域土壌炭素特有の炭素動態を考慮にいれた観測とそのモデル化にも取り組む。具体的には、北極域に特有の永久凍土・融解に伴う物理プロセスや、凍土土壌中の炭素の活性化といった化学プロセスの導入である。凍土融解とそれに伴う古土壌の有機物分解の活性化を評価するために、土壌有機物、土壌内CO2、土壌内微生物脂質レベルの14C測定を行い、温暖化に伴い土壌有機物の滞留時間(分解率)がどのように変化していくのか、滞留時間の異なるプールの有機物の形態も考慮にいれた最先端のモデルのさらなる高精度化を進める。また、fossil carbon分解の活性化のメカニズムの解明においては、土壌有機物の14C測定と微生物代謝活性、微生物群集構造の関係を解析し、微生物生態学的視点からの考察も行う。加えて、自然火災によって土壌炭素の一部が焼失したタイガでも他の観測点と同様の観測を行い、自然火災によって、土壌炭素蓄積・分解のプロセスがどのような影響を受けうるのかについても、14Cを指標に用いて検討し、その結果をモデルに反映させる。

研究のイメージ

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■A-1003 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/a-1003.pdfPDF [PDF443KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究では、凍土土壌からなる北極高緯度土壌圏における土壌炭素の温暖化による気候変動による脆弱性評価の為のモデル開発にとって重要なパラメータとなる土壌炭素の平均滞留時間の実測に成功した。得られた滞留時間は、北方林、遷移帯、ツンドラ生態系毎に実測され、炭素蓄積量の試算と相まって、過去数千年以降の炭素蓄積量と平均滞留時間が明らかとなった。平均滞留時間の長い、ツンドラには、生産量が低い環境であるにもかかわらず、分解量が小さいことから北方林よりも多くの有機炭素が存在していることがわかり、北極土壌圏の温暖化による影響評価の調査研究の重要性を示すものとなった。また北方林における自然火災による炭素焼失量の推定からは、一度の火災により失われる炭素量を実測するための手法開発に成功し、自然火災の多発する北極地域における炭素動態モデルの開発にいて重要な定量的データを提供することに成功した。さらにサブテーマ1〜3の観測データを下に、土壌圏の炭素動態・蓄積・分解のメカニズムを解明するための観測研究と連動する生物地球化学的プロセスと気候へのフィードバックを含めた土壌炭素動態モデルの開発研究を実施することにより、実態に即したシミュレーションモデルの開発を行うことが可能となった。その結果、アラスカ北方林地帯での土壌有機炭素の広域シミュレーションの信頼性を向上させ、将来予測を行うことができるようになった。時間発展をコンピュータ上でシミュレーションすることにより、長い期間をかけて形成される有機質土壌のダイナミクスを再現することに成功した。アラスカ中部における非連続な永久凍土分布地帯における永久凍土の有無を物理的な熱・水収支からの積み上げで推定することも可能となった。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会A-1003(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究では、北極土壌圏の温暖化影響を予測するためのモデル開発において、特に実用とされている北極土壌特有のパラメータとメカニズムに関する多くの知見を得た。特に土壌炭素の平均滞留時間により得られる土壌炭素の分解率の試算は、世界初の試みで有り、開発されるモデルの精度検証において重要な知見を提供するものとなる。また凍土という低温環境下での有機物分解の温度特性を評価するための培養実験を行った。これらの知見は、モデル開発の精度向上において極めて重要なデータとなる。また本研究で構築された観測網は、アラスカ大学北極環境センターとの共同で実施したものであるが、今後、国内外の研究機関による長期モニタリング等の実施において重要な研究インフラへと発展して行く基盤作りに貢献できたといえる。加えて、複雑な地表面プロセスが相互作用を起こしているため将来予測が困難であった北極高緯度地域の気候変動への影響・気候変動から受ける影響の双方を定量予測するための重要なステップとなるシミュレーション研究への取り組みを行った。特に、土壌有機炭素蓄積を的確に再現するために欠かせない土壌の垂直構造の明示化と土壌物理条件と土壌炭素ダイナミクスの結合によりシミュレーションモデルの性能を格段に向上させることに成功した。アラスカ中部における非連続な永久凍土分布地帯における永久凍土の有無を物理的な熱・水収支からの積み上げで推定できたことからも見られるとおり、定量的な将来予測において世界的にも注目されるべきものである。

4.委員の指摘及び提言概要

これまで詳細なデータがあまり得られていない北極圏土壌(北方林、遷移帯、ツンドラ等)における有機物分解に関し、サブテーマ1および4において土壌試料採取・分析や炭素動態モデル開発により、自然火災の影響も含めて実態の把握とモデルシミュレーションがなされ、炭素蓄積量や平均滞留時間などを明らかにした他、土壌炭素動態の再現可能性が示されるなど学術的・政策的に意義の高い成果が得られている。環境政策へのさらなる貢献の観点からは、炭素動態の変化に対する長期的な観測計画につなげていく必要があろう。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【E-1001】アジア低炭素社会の構築に向けた緩和技術のコベネフィット研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:内山 洋司(筑波大学)

1.研究実施体制

(1)エネルギーチェーンLCAモデルおよび地理情報システムによるアジア主要地域における各技術オプションの検討
(2)緩和技術に関わる社会的認識についての調査・分析
(3)新オフセット・メカニズムにおける緩和技術のコベネフィットを考慮した技術的経済的評価
(4)アジア地域におけるコベネフィットを考慮した緩和技術の導入分析

2.研究開発目的

研究のイメージ 本研究は、現行のクリーン開発メカニズム(CDM: Clean Development Mechanism)を想定して先行研究で開発した「アジア地域における緩和技術の統一的な評価手法」を、新しいクレジット・メカニズムに対応させた経済的価値付け手法であるコベネフィット分析に発展していくもので、重点的に公募する行政ニーズとして挙げられている『気候変動対策のための2013年以降の国際枠組みに基づく国内・国際対策の推進に関する研究』に取り組むことを目的としている。2013年以降の新しい国際枠組みで実施される可能性がある新メカニズムを視野に入れて、さまざまな技術オプションについてコベネフィットと時間的な展開の両面から分析・評価した結果を提示する。アジア低炭素社会の構築に向けた、2013年以降の国際対策の意思決定に求められる成果を提供する。


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■E-1001 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/e-1001.pdfPDF [PDF279KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

①コベネフィットを考慮した環境外部性の統合評価手法を開発した。
CDM技術のエネルギーシステムについてCO2排出量の緩和だけでなく大気汚染など環境影響の外部コストの評価を可能とした。"点"データから"線"ネットワーク、そして"面"マクロな評価へと展開する手法を提案しケーススタディを実施した。
②アジア諸国を対象に分析し、あわせてデータベースを構築した。
中国やインドなど経済成長が著しく、エネルギー消費が増大しているアジア諸国・地域で分析し、データベースを構築した。
③各種環境影響因子に対する支払意志額による外部コストの推計を行った。
PM2.5など大気汚染物質による健康影響だけでなく、社会資産、生物多様性、一次生産の外部コストについて、CVMならびにコンジョイント法を用いて、アジア諸国を対象に分析したのは初めての試みであった。
④各種CDM技術についてのコベネフィット効果を評価した。
先進石炭火力発電(超々臨界圧、IGCC、CO2回収)、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電などの発電技術について、2030年までのコベネフィット効果を分析することが可能となった。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会E-1001(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
平成22年度に、環境省 水・大気環境局 水・大気環境国際協力推進室が(株)富士通総研に委託して実施しているコベネフィット型温暖化対策・CDMの推進に関する検討会において、調査の中国での実施と分析について報告を行い、資料として活用された。また、低炭素地域社会の構築を目標とするつくば3Eフォーラムにおいて、本研究で開発したモデルであるエネルギーチェーンLCA及び地理情報システム評価法が活用され、つくば市ならびに茨城県における緩和技術オプションの選定に貢献した。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究成果において構築されたモデルは、茨城県のエネルギープラン作成資料として利用されることが見込まれている。また、地理情報システムを用いたミクロなエネルギー技術ライフサイクル評価と緩和技術に関わる社会的認識についての調査および緩和技術のコベネフィットを考慮した技術的経済的評価を基にしたマクロなエネルギー需給モデルによる分析結果は、CDMのみならず先進技術の普及、アジア地域と連携した緩和技術の展開などを推進する観点から、コベネフィット・アプローチに関する先進的研究としてわが国の地球環境政策へ貢献するものである。具体的には、以下に示す研究成果は行政への政策的含意として活用が期待される。
○高効率石炭火力発電プラント(USC、IGCC)の積極的な導入と、石炭から天然ガスへの燃料シフト
・中国の新しい大気汚染の環境基準を基にして外部コストを推計し、それをCDMベースラインに取り入れた分析を確立した。
・超々臨界圧石炭火力は天然ガス火力よりも経済的な効果が大きい。IGCCは、経済的に見てUSCに比べ不利であることが判明した。中国では2040年程度まではUSCは導入されるがIGCCは導入されなかった。インド政府が目標とするCO2制約に基づいて分析した結果、電源の多様化が進み、石炭から、次第に天然ガス、原子力、水力の導入量が増加していく。IGCCの導入は見られなかった。
・今回の分析で想定した現在のCO2排出目標の下では、CCSは天然ガス火力よりも経済的に不利である。
・既存石炭火力の性能とコストは、グリッド毎に地域差を考慮して分析した。輸送については、石炭価格をグリッド毎に変えて実際に近い形での分析が実施できた。
・在来石炭火力のリプレースが重要である。n○燃料輸送と電力供給網など社会基盤施設の改善と整備
・火力に関しては輸送網により面展開を試みた。結果として省などの行政単位の差のみならず、行政単位内における地域差を明確にすることが可能になった。
・中国国内では石炭の有効活用を積極的に実施することが重要になる。燃料輸送での削減余地は大きく、先進石炭火力導入に伴う石炭需要の抑制効果とあわせ、輸送インフラの改善が望まれる。
○再生可能エネルギーのコスト削減と積極的な導入支援策
・中国、インドで実施されているFITに準じて再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス)の導入量が評価された。FITはベースライン効果として導入に大きく貢献することが明らかになった。
・GISで面展開を実施した。省内での分布があり、面展開をしながら点データの収集の重要性が求められる。省単位のデータではなく地域毎のデータ整備が将来的な課題として望まれる。
・中国では地域差が大きく、地域ごとの最適オプションの検討が必要になることが明らかになった。SWOT分析で導入障壁を分析し、地域ごとにCDM事業による技術移転の在り方を明らかにした。
○環境外部性について:
・環境価値の妥当な経済的な評価行うために、中国において支払意志額調査を実施した。大気汚染による健康被害回避のための支払意志額のおおよその値が推定され、これに影響を及ぼす要因について判明した。このことはその環境評価に係わる科学的基礎的知見の整備に貢献すると共に、得られたデータの今後の分析により所得が上昇途上にあり、急速に進む中国における環境意識形成についての知見を与えることが期待される。
・コンジョイント分析を用いた、海外における複数同時の社会調査の実施例はなく、世界全体の環境影響問題へ適用しその有効性を検証した。数が少ないサンプル数で広域的な環境外部コストを分析できた。個別の環境要因のコスト評価としてはまだ課題は残されるが、概ね評価できた。
○コベネフィットを考慮した技術移転のあり方
・インドでは環境汚染の影響が大きいため、高効率技術や再生可能エネルギーのコベネフィット効果は大きい。一方大気汚染の改善が先行して行われている中国では、再生可能エネルギーの導入は温暖化対策としての効果が大きく、大気汚染改善のコベネフィットは小さい。再生可能エネルギーの導入は、コベネフィットの有無にかかわらず重要である。
・先進火力発電の場合は、CO2排出低減効果に比べてコベネフィットの価値が相対的に高まる傾向がある。しかし近年になって新規建設プラントの脱硫率は90%前後と高く、その効果は薄れつつある。今後は、脱硫率がまだ低い既設プラントの改造およびリプレースとして、わが国の技術によってコベネフィットの価値が発揮されることが望まれる。
・石炭輸送の最適化を実施し、鉄道などへのモーダルシフトの効果が大きいことを明らかにした。今後は供給部門以外にも、運輸・民生部門など幅広い部門において、わが国の技術移転を検討していくことが重要となる。

4.委員の指摘及び提言概要

中国における石炭火力発電の合理化の分析や、緩和技術に関しその立地や交通インフラ戦略の重要性を定量的に示した点、総合的な緩和戦略の必要性を客観的に示唆した点など、個々のサブテーマの担当範囲内ではよく成果を出していると評価できる。一方で、アンケート調査の方法論や結果の信頼性に疑問が残る。一部のサブテーマでは政策への貢献度が不明確であり、課題全体としての政策目標への貢献という点でやや不満が残る。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【E-1003】次世代自動車等低炭素交通システムを実現する都市インフラと制度に関する研究 (H22〜H24)
研究代表者氏名:森川 高行(名古屋大学)

1.研究実施体制

(1)低炭素交通システムを実現するモビリティデザインの方向性に関する研究
(2)ライフスタイル(生活・交通行動)を考慮したパッケージ施策に関する研究
(3)低炭素交通システムにおけるエネルギーと都市環境の総合評価に関する研究
(4)低炭素交通システムの実現に向けた制度設計と合意形成手法の開発

2.研究開発目的

国民のライフスタイルに即した実現性と効果の高い低炭素交通システムの提案に向け、以下の研究を行う。
①次世代自動車の普及やTDMを実現するプライシングスキームの提案
次世代自動車と従来型自動車を対象とし、保有税と利用税の両視点から最適な課税手法を提案することで、次世代自動車への買い替え促進とTDMを効果的に実現する課税スキームを提案する。具体的には、現在欧米諸国が環境対策として注目しているロードプライシングに着目し、研究代表者が提案する受容性の高い、新しいロードプライシングスキームである「駐車デポジットシステム(PDS)」やCO2排出量に着目した自動車税等の導入スキームを提案する。
②効果と実現性が高い低炭素交通システムとその実現化手法に関する提案
次世代自動車の普及をインフラ面から支援するため、充電施設の最適配置計画や再生エネルギー利用を念頭に置いた充電施設への電力供給システム、及びこれら支援インフラの整備手法を提案する。またEVシェアリング、及び超小型車両や自転車等無公害車両の専用レーン等、低炭素社会における都市交通システムのパッケージ施策ついて、導入効果を踏まえながら実現手順を提案する。
③低炭素交通システムの構築に向けた環境・モビリティ教育やプロモーション等合意形成手法の開発
低炭素交通システムの構築にあたっては、従来型自動車とは異なった新しいモビリティ観念を醸成するとともに都市交通システムの再構築に向けた各種施策の実現に対する国民、行政機関、企業等の理解と協力が必要不可欠である。そこで、環境・モビリティ教育やプロモーション等の効果的な合意形成手法を開発する。

研究のイメージ

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■E-1003 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/e-1003.pdfPDF [PDF287KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

サブテーマ(1)では、EVを活用した新しい交通サービス(コミュニティ事業)の有効性を、フランスでのアンケート調査とのその解析結果から示すことができ、一般性のある政策提言ができたと考えられる。また、EVがヒートアイランド現象に及ぼす効果を定量的に試算する温熱環境シミュレーションでは、サブテーマ(2)の交通量とサブテーマ(3)の境界条件を用いた予測を行っており、科学的整合性が図られた結果を示していると考えられる。さらに,政策受容性を高める実施手順についても、一般市民を対象としたアンケートデータを用いて,科学的分析により一般性のある結論が導出できたといえる。
サブテーマ(2)で実施した研究成果は、一般的な仮定を置き、統計的手法にてモデル構築・実行をしているため、一定の信頼性を有する。エコカー減税・補助金施策の事後的な効果検証、実都市圏を対象とした利用者均衡モデルによる現実的なEV普及率10%での環境改善効果分析、EV専用レーンやEV/Tollレーンの導入評価は特に新規性が高く、今後の次世代交通システム構築に向けた有益な科学的知見である。さらに、電気自動車をバッテリーとして利用することによる電力需要マネジメントに関する研究については、交通分野や建築設備分野と連携する横断的に研究しており、科学的な意義は大きい。
サブテーマ(3)では、エネルギー評価に関する研究については、既存インフラのキャパシティ制限からこれまで普及の上限があった再生可能エネルギー(太陽光発電)の利用をEVの普及により拡張を目指した点、EV所有者の適切な充放電行動により電力需要の削減を推進できる可能性を示した点で科学的意義が高い。都市環境評価に関する研究については、統計値として十分に信頼しうる長期解析に基づいてEVの普及による都市スケールの気温低減効果を定量的に評価した点、想定しうる将来シナリオ(将来の地球温暖化の影響をバックグラウンドとして考慮)に基づいて将来予測を行っている点で科学的意義が高い。
これまでのEVの普及に関しては、技術や個別の政策の観点からEVの導入について検討されていた、EV導入に伴うライフスタイルや街づくりなどの社会像については不明であった。サブテーマ(4)の研究によりEVが普及した「新しい社会像」の一端を提示するとともに、それを実現のための制度改革の試案を作成し、今後のEV普及を前提とした社会の姿を提示できた。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会E-1003(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
現在、松山市等多くの自治体で、EVや超小型モビリティを活用したモビリティシェアリングの検討を進めている。本研究は、このような自治体のほか、カーシェアリング事業者にとっても新しい知見を示すものである考える。
サブテーマ(4)において、日本における低炭素自動車への代替促進のための税制改革試案として、①自動車税(軽自動車税を統合)の課税標準をCO2と車体重量に応じたものに変更する、②自動車取得税、自動車重量税を廃止する、③揮発油税・軽油引取税・石油ガス税の税率を引き上げる、を提案したが、このうち、②の自動車取得税の廃止の方針が決まった。
<行政が活用することが見込まれる成果>
サブテーマ(1)では、EVシェアリングにより市民のEV購入意向が高まることを示すとともに、市民のモビリティスタイルを踏まえコミュニティEV事業とあわせた送迎サービス等EV活用ビジネスを提案した。その結果、当該事業だけでも、都市圏のCO2とエネルギーが10%から最大20%程度削減できることが示された。一方、都市温熱環境シミュレーションでは、EV社会のヒートアイランド緩和効果を定量的に試算でき、EV100%の社会では、自動車(現在の内燃機関自動車)排熱をほぼクリアする緩和効果によって、ビルの谷間等熱のたまりやすい場所で概ね2〜3℃の緩和効果があることが示された。また、受容性研究では,交通分野での低炭素効果が高いものの市民受容性が極めて低いムチの政策を実現するための政策実施手順の一般化を示すことができた。EV活用の路上乗捨て型カーシェアリングは,現在幾つかの自治体で導入可能性を検討している。そのなかで、本調査の知見が有効活用されると思われる(都市計画学会やその他誌上での発表済)。また、政策手順の実施方法についても、今後、ムチの政策の実施を想定する自治体にとって、有効な知見になるものと考えている。
サブテーマ(2)では、次世代自動車が普及すればするほど環境改善効果は高くなることを実都市圏を対象に定量的に示し、目標値の早期実現には“購入時”と“利用時”の両面からインセンティブ創出が有効であることを示した。特に新たな環境政策の選択肢として“EV/Tollレーン”を提案し、利用時のインセンティブ創出効果、通行料金収入により社会的便益は向上し、かつ購入時の補助金の原資として再分配できることを示した。さらに、電気自動車をバッテリー代わりに使用し電力需要マネジメントを行うとした場合、普及率が6%では名古屋市のCO2排出量が3.4%削減可能であることなど結果が得られている。これらの研究成果は今後次世代自動車普及や利用に向けた環境政策を検討する際に有用な知見であると考えられる。また、既に施行されている購入時の補助制度の事後的な効果検証は、今後の環境政策検討に寄与するものと考える。
サブテーマ(3)で行ったエネルギー評価に関する研究では、EVが再生可能エネルギーの普及に及ぼす影響や、EV所有者の充放電行動が電力需要に及ぼす影響を定量的に評価した。これらの研究成果は、EVと再生可能エネルギーの普及政策や低炭素社会の実現に向けた環境政策の策定に大きく貢献することが見込まれる。都市環境評価に関する研究では、EVの普及が現状および将来の都市温熱環境に及ぼす影響を定量的に評価できるシミュレーションモデルを構築した。そのような評価が可能となることは、他のヒートアイランド対策・政策の費用対効果との比較を行う上で大変有益となる。
サブテーマ(4)では、EV導入に伴うライフスタイル、街づくりなどの「新しい社会像」、また、EV導入促進のための制度改革の試案を提示しており、これらは国、地方におけるビジョンづくり、具体的制度づくりなどに大きく貢献するものと考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

低炭素都市形成の観点から、次世代自動車の普及のためのインフラと制度、環境・社会に対する総合的効果を分析・評価したもので有用な知見を見出しており、低炭素交通システムの実現に向けた具体的検討を行っていると評価できる。一方で、カーシェアリングに関するアンケート調査結果の普遍性に関する疑問、汎用的な合意形成手法の開発が不十分という点でやや不満が残る。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【RFa-1101】温暖化影響評価のためのGPS衛星を用いた高精度水蒸気量データセットの作成 (H23〜H24)
研究代表者氏名:藤田 実季子((独)海洋研究開発機構)

1.研究実施体制

(1)GPS衛星を用いた水蒸気量算出とデータセット作成
(2)再解析データ/温暖化予測モデルでの水蒸気量再現性の評価

2.研究開発目的

研究のイメージ 最新の解析ソフトを用い世界のGPS観測点生データから可降水量を算出し、データセットを作成することを目的とした。既存の各種水蒸気データを用いた検証も行い、作成されたデータセットは局地循環の解析やモデル検証など、広く利用してもらうために、データ公開向けの整備を行った。


図 研究のイメージ        
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■RFa-1101 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFa-1101.pdfPDF [PDF308KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

気候変化解析に使用可能な可降水量データセットの作成し、最近のバイアス等が既知であるラジオゾンデの可降水量との検証を行い、高精度で算出されていることが確認された。このデータから近年は日本域の可降水量が増加傾向にあることも示唆された。さらに再解析やGCMなどのモデル可降水量は、観測と比較して過少評価していることが明らかとなった。このような水蒸気量差は、各モデル内のエネルギーバランスに大きく影響を及ぼしている可能性が示唆された。

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
公開された可降水量データセットにより、水蒸気量の気候変化の詳細把握が期待される。モデル再現性評価の基準値となる、再解析データの水蒸気量の評価を示したことで、今後のより正確な解析が期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

GPS衛星観測を基に高精度の可降水量データセットを新たに作成し、公開するとともに、データセットを解析することによってその有効性を示しており、所期の成果を上げており、評価できる。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【RFa-1102】海洋からの硫化ジメチルおよび関連有機化合物のフラックス実計測とガス交換係数の評価(H23〜H24)
研究代表者氏名:谷本 浩志((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)質量分析計による硫化ジメチル等のフラックス計測
(2)フラックスブイシステムの運用とガス交換係数の解析
(3)酸素同位体比異常法によるガス交換係数の計測と評価

2.研究開発目的

本研究では、高時間分解能で硫化ジメチル(DMS)など揮発性有機化合物(VOC)の定量が可能なプロトン移動反応質量分析計(PTR-MS)を、微気象学的フラックス計測手法の一つである空気力学的傾度法と組み合わせることで、海洋表層から大気へのDMS等のフラックスを実計測し、それにより従来法とは独立にガス交換係数を求めて、既存のガス交換係数と比較した。さらに、「酸素同位体比異常法」を用いて、海洋表層から大気への酸素分子(O2)のフラックスの実計測を行った。生物活性や気象条件の異なる赤道域、亜熱帯および亜寒帯域の3つの海域において計測される、これらDMS等VOCやO2分子のフラックス観測からトップダウン的に求められるガス交換係数を、ボトムアップ的なバルク法で得られるガス交換係数と比較してその違いを評価し、現場環境の違いがフラックスおよびガス交換係数に与える影響を考察することを目的とした。

研究のイメージ

図 研究のイメージ        
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■RFa-1102 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFa-1102.pdfPDF [PDF204KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

・これまで計測が困難であった大気−海洋間における硫化ジメチルのフラックスに関して、濃度勾配法によるフラックスの導出が可能となった。これにより、大気−海洋間のフラックスに関する新しい計測技術開発がなされ、「地球温暖化現象の解明」に関するモニタリングの精緻化とデータ利用の促進に貢献した。
・本研究で得られたデータを、海洋表層−大気下層間の相互作用研究(Surface Ocean - Lower Atmosphere Study, SOLAS)国際プロジェクトにおけるデータベースに提供することで、国際コミュニティへの貢献が期待される。これにより、海洋から大気への硫化ジメチル等のフラックスデータベースが改善され、地球システムモデルの精緻化が期待できる。
・現在の技術水準では渦相関法のような高速応答測定ができるガス成分は水蒸気、CO2等のごくわずかに限られているが、空気力学的傾度法を用いることで、高時間分解能測定が難しいメタンやN2O、VOCなどの多くの微量ガス成分のフラックス計測への適用が可能になり、今後海洋でのフラックス実計測の可能性が大いに広がった。
・溶存O2のΔ17O値が±7x10-6程度の高精度で定量出来るようになり、これを用いることで「酸素同位体比異常法」を用いた大気−海洋間のガス交換係数の算出が可能になった。ただし、これを実現するには、観測海域の総一次生産速度が大きいことが必要であることも同時に明らかになった。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFa-1102(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
ガス交換係数に関する風速依存関数の妥当性についての諸問題は、CO2の全海洋吸収量の算出に直結する。今後、IPCC AR5報告書への引用など、直接的な貢献となりうる。

4.委員の指摘及び提言概要

DMSなどの海洋−大気間フラックスの実計測手法に関し独創的な提案がなされ、その有効性が示された他、その応用として交換係数の算出が行われるなど、研究開発の所期の目的を達成している。環境政策への直接的な貢献とはならないが、地球システムモデルへの導入が期待される。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【RFa-1202】地球環境観測データとモデル統合化による炭素循環変動把握のための研究ロードマップ策定(H24〜H24)
研究代表者氏名:笹野 泰弘((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)地球環境観測データとモデル統合化による炭素循環変動把握のための研究ロードマップ策定

2.研究開発目的

地球温暖化問題への対応として、地球温暖化に伴う気候変動とその影響に関しては将来気候変化予測モデル等を用いて予測・評価するための研究が、近年、積極的に進められており、大きな成果が生み出されようとしている。一方、これと並行して、実際の地球温暖化に伴う気候変動とその影響を、実観測データをもとにして評価することが重要であり、特に地球温暖化の進行にとって重要な地球上の炭素循環の実態把握とその変動の検出、気候変化のフィードバック効果の有効な評価のための観測・評価システムの確立を図ることが必要とされている。このためには、GOSAT(後継機を含む)を始めとする種々の地球環境観測衛星のデータ、航空機観測データ並びに地上観測ネットワークのデータなど、種々のデータを統合的に評価し、また大気輸送モデルや炭素循環モデル等の数値モデルを活用することが必須であると考えられる。しかしながら、これまで多種多様な観測データの統合的な利用や、観測研究分野とモデル研究分野間の連携については、一機関内で完結させることは難しいため、必ずしも十分には実現されていないというのが実態であり、個々の研究に留まっている例が多い。炭素循環変動の把握と影響評価研究においては、多様な研究の芽が生まれつつあることから、我が国全体でこれらを十分に伸ばすことに特に留意した研究戦略を策定することを目的とした。

研究のイメージ

図 研究のイメージ        
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■RFa-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFa-1202.pdfPDF [PDF243KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

炭素循環変動の把握およびホットスポット変化の早期検出を目的とした観測・評価システム構築に関し、研究を実施すべき事項を網羅的に示すことにより、今後のわが国における本分野の研究戦略を提示した。各府省・機関が個別に研究計画を立案し実施するに当たっても、本研究戦略を参考にし、研究課題の重複や欠落を避け、また協力関係を築くことでより有効な研究が実施できるものと期待される。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFa-1202(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

研究テーマとロードマップの策定を目標とした課題調査型の研究であるため、現時点では直接的な環境政策への貢献はない。しかしながら、環境政策担当者が今後、当該分野における環境行政への貢献を意図した研究計画を立案する際に参照すべき研究戦略(ロードマップ)を提示することが出来た。
<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
政策決定者向けサマリーとして、本研究で得られた研究成果を環境省等の行政が行う政策立案につなげるための参考資料として以下の内容を提示する。
○統合的観測・評価システムの構築によるアジア・太平洋域の炭素循環の変化の早期検出
将来の地球環境変化を予測するため、全球気候モデルを用いた研究が進展し、大きな成果が生まれつつある。地球温暖化予測の高精度化に不可欠な全球炭素循環の不確実性をさらに低減させるとともに、炭素循環変化の早期検出、および炭素管理の意思決定が与える効果の評価が求められている。
これまでに、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)を始めとする地球環境観測衛星、航空機(CONTRAILなど)、船舶、地上観測ネットワーク等を利用した温室効果ガスの観測が行われ、多様なデータが蓄積されている。また、観測された大気中温室効果ガス濃度と大気輸送モデルを用いて、大気の側から領域毎の温室効果ガスの地表面正味収支を推定する手法(トップダウンアプローチ)や、地表付近で観測された温室効果ガス収支を衛星データや植生生態モデルを用いて広域化する手法(ボトムアップアプローチ)の研究も発展している。しかし、それぞれ空間分解能、時間分解能、速報性などに固有の限界があることから、環境政策の立案に活用されるまでには至っていない。そこで、トップダウン・ボトムアップの各手法の高精度化を図ると同時に、両手法を統合することにより多様な観測データを取り込み、温室効果ガス収支の全球分布をオペレーショナルに評価する実用的な手法を確立することが喫緊の課題である。
急ぎ実現すべき課題は、第一に、全球、特にアジア太平洋域でこれまでに豊富に得られている衛星・航空機・船舶・地上観測による多様なデータを統合し、これらのデータを解析システムに融合して観測値と計算値が最も整合するよう解析システムの各種パラメータを自動的に調整する技術を開発すること(統合炭素循環観測・評価システムの構築)である。第二に、このシステムを用いて、国別・地域別の炭素収支の精緻な評価を行うと同時に、炭素循環のいわゆるホットスポット(気候変化が炭素循環を変化させ、それが気候変化を加速させる地域)の微小な変化を早期検出することである。炭素循環の変化を早期発見しその影響の可能性を世界に向けて発信することは、国際社会に対し温暖化対策の緊急性を強く訴えることとなり、持続可能な地球環境と社会の実現に向けた貢献となる。また、例えば途上国の森林地域について空間分解能を上げた評価を行うことにより、REDD+(開発途上国における森林減少・劣化等による温室効果ガス排出量の削減)および炭素クレジット化の検討に対し定量評価と科学的知見を提供することが可能となる。
○フラックス観測ネットワーク構築によるアジア・太平洋におけるメタン(CH4)・亜酸化窒素(N2O)の動態把握
温室効果ガスのうち、二酸化炭素に次いでその温室効果が高いとされるメタン(CH4)や亜酸化窒素について、その収支の把握や将来予測に関する研究が遅れており、環境政策立案に十分な貢献が出来ていない。その中で、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)による大気中CH4濃度の観測が始まり、これまでに蓄積されてきた航空機、船舶、地上ステーション等によるCH4濃度観測データと併用し、大気輸送モデルを用いて大気の側からの地表の温室効果ガス発生量分布を推定する手法(トップダウンアプローチ)の開発・改良が進んでいる。一方、地表におけるCH4の発生源は時間的にも空間的にもきわめて非一様であることから、地表でのCH4フラックスの観測データをモデルやリモートセンシングデータを用いて広域化する手法(ボトムアップアプローチ)には未だ非常に大きな不確実性が含まれる。
こうした背景のもと、近年、応答速度が速く、従来に比べて野外でも安定にCH4濃度を連続測定できる分析計の改良が進展したことにより、渦相関法(オープンパス型)、簡易渦集積法などの微気象学的方法により、陸上でCH4フラックスを長期観測する観測点の数が増え、データの蓄積が始まっている。そこで、アジア太平洋域におけるCH4フラックスの観測サイト、およびCH4フラックスと同時に観測されることの多い亜酸化窒素(N2O)のフラックス観測サイトの情報を収集し、観測サイトのネットワークを構築し、既存のデータ収集を開始する。同時に、まだ観測手法が標準化されていないCH4・N2Oフラックスについて、観測手法の標準化とデータベース構築を行い、CH4フラックスの時空間変動を把握しその要因を明らかにするための統合解析(サイト間比較研究)を実施する。アジア太平洋域において二酸化炭素(CO2)に比べて遅れているCH4の統合解析が進むことにより、CO2とCH4を同時に用いたトップダウンアプローチ・ボトムアップアプローチの高度化が進み、CH4の発生源の評価における現状の不確実性を格段に低減することが可能になる。
○アジア・太平洋域における炭素循環の変化の早期検出、並びに炭素管理の意思決定の効果を評価する上で必要十分な長期観測システムの構築
脱温暖化にかかる環境政策推進の観点から、気候変化に伴う全球、特にアジア太平洋域における炭素循環の変化を早期検出するため、並びに炭素管理の意思決定の効果を評価するための、最適な観測・評価システムを確立する。
第一に、南・東南アジアにおける温室効果ガス観測の強化を行い、衛星観測(GOSAT・GOSAT-2ほか)・航空機・船舶・地上ステーションに基づく温室効果ガスの観測網を確立する。アジア太平洋域の炭素循環とその変化を把握する上で、南・東南アジアが温室効果ガス観測の空白域であることは、衛星観測をもってしてもこの地域が雲の影響でそのデータ取得率に限界があることから、最大の障害となっている。そこで、温室効果ガスの濃度とフラックス双方を観測する総合的な地上観測点を増強・整備すると同時に、航空機と船舶による観測も強化する。
第二に、異なる時間・空間スケールで収集される観測データを省力的に収集・品質管理し、全球及びアジア太平洋域の炭素循環を対象とした統合的観測・評価システムに短時間で提供可能にするオペレーショナルなデータシステムを構築する。
これらの体制強化に際して、炭素循環やホットスポットの変化の早期検出に必要十分な観測体制(ネットワーク)の最適化設計を行う。特に、大気・海洋・陸域における現状のデータに基づく炭素収支評価の精度限界、観測空白域の解消がもたらす精度向上の定量評価、さらに最適かつ現実的な観測体制の提案を行うため、「観測システムシミュレーション実験」を実施する。また、こうした観測システムシミュレーション実験を用いることにより、特定地域の問題解決に向けた最適な観測システムを設計することが可能となる。例えば、途上国の森林地域での炭素収支の変化を高い空間分解能で評価し、REDD+(開発途上国における森林減少・劣化等による温室効果ガス排出量の削減)および炭素クレジット化の検討に対し定量評価と科学的知見を提供するための観測システム設計などである。

4.委員の指摘及び提言概要

現存している衛星、航空機、船舶、地上観測データとモデルを統合し、炭素循環変動把握のための研究戦略ロードマップを明確に示したものである。また、従来では定量的な評価が難しいホットスポットの特定と変化の早期検出手法を示した。確実な成果が見込まれる戦略ロードマップである。本課題の結果は学術的意義があると共に、気候変動の国際交渉などにとっても、高い政策的な意義がある。進行中のフィードバックを含む地球システムモデルを一段と精緻化し、不確実性を低減するために、本課題で導かれたロードマップによる研究の具体的策定を望みたい。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【ZE-1201】震災復興におけるコミュニティベースの太陽光普及モデル事業の提案(H24〜H24)推進費復興枠
研究代表者氏名:古谷 知之(慶應義塾大学)

1.研究実施体制

(1)放射性物質汚染地域におけるメガソーラーモデル事業の検討
(2)コミュニティベースの太陽光利用事業モデルの事例調査
(3)自然エネルギーの活用による津波被災地域の復興計画の提案
(4)原発被害風評地域における観光地・農業再生モデルの検討
(5)エコビレッジモデル事業のデザイン

2.研究開発目的

研究のイメージ 本研究は、意識調査と事例調査によってコミュニティベースの太陽光普及の要件を明らかにし、震災復興都市におけるプロジェクト実践を通して、実用可能な事業モデルを提案することを目的とする。ここで、コミュニティベースのアプローチとは、住民個人とコミュニティが一体となって地域主導の太陽光資源を事業化し、節電や売電で収益を得ると共に、エネルギーの地産地消と二酸化炭素の削減に貢献し、コミュニティの発展やまちづくりの活性化に波及効果を創出する事業モデルのことである。
研究の流れとして、サブテーマ2において震災後の国民意識調査と先行事例調査行い、コミュニティベースによる導入のメリットと課題を検討し、持続的に運営できる事業モデルの要件を明らかにする。そして、原発事故の被害を受けた福島県南相馬市、原発事故の風評被害を受けた福島県福島市、津波被害を受けた宮城県気仙沼市において、震災後の環境実態をそれぞれ調査し、住民のインセンティブに応じた事業モデルを検討した。サブテーマ1では、南相馬市において、放射性物質による汚染の実態を高精度ガイガーカウンターで空間的に調査し、太陽光、バイオマスなど再生可能エネルギーによる土地再生の方法を提案した。サブテーマ3では、気仙沼市において、地形、日射量と建物などのデータを用いて太陽光発電導入ポテンシャルを高精度で評価し、復興計画に導入する協エネ支援ツールを開発した。サブテーマ4では、福島市において、無人ヘリによる放射線物質の汚染状況を測定し、その実態に応じた土地利用のゾーニングを行い、農業と太陽光発電事業の組み合わせによる農業経営の可能性を提示した。サブテーマ5では、気仙沼市本吉町小泉地区において、行政、大学、NPO、住民によるコミュニティのもとで震災復興における課題を検討し、津波跡地や復興住宅に再生可能エネルギーを導入する事業モデルを提案した。


図 研究のイメージ        
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■ZE-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/ZE-1201.pdfPDF [PDF160KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

コミュニティベースによるエネルギーシステムは、従来の大規模集中型電力供給に依存する社会システムを打ち破る未来指向のものである。例えば、再生可能エネルギーに関する技術やインフラなどのハードな部分では、地域特性を踏また計画が必要であるため地域主権型社会の確立が求められ、また事業計画やファイナンスなどのソフトな部分では、持続的運営のため地域住民の参加が求められる。従って、それを推進するためには未来を見通した地域エネルギービジョンの作成、エネルギー問題に対する国民の広範な理解、そして地域コミュニティで実行できる事業モデルが必要である。
しかしながら、これまで再生可能エネルギーの導入は、個人や企業の経済的な利益の結びつきが強く、環境問題やエネルギー問題などに対する社会問題に対する貢献としての社会的インセンティブは、こうした社会問題に対して関心の高い一部の人に限られている。今回の震災により、これらの関心が国民全体で高まったものの、実際に行動に結びついたのは省エネ行動など身近な取り組みに留まり、太陽光発電の導入した家庭は少ない。つまり、個人やコミュニティとして太陽光発電を導入するハードルは高く、社会的なメリット(公益)のための個人の行動としての結びつきが薄いという結果が得られた。
本研究はこの事実を認め、逆に発想を取った。従来のような、個人や企業による投資/回収というインプット/アウトプットを重視する経済性の視点だけではなく、インセンティブ/アウトカムを重視し、コミュニティベースの事業モデルを提案した。このモデルにおいて、人々は経済収益だけでなく、環境貢献、社会参加、エネルギー安全もインセンティブであり、アウトカムとして求める意識がある。インセンティブ/アウトカムの視点においては、経済性、環境性、社会性、安全性という4つの指標がある。それぞれの視点は独立のものではなく、コミュニティベースのアプローチにとって相乗効果のあるものである。インセンティブをアウトカムに変えるためには、プロジェクト導入のプロセスが重要で、柔軟なビジネスモデルとそれを持続的に支える協働的プラットフォームが不可欠である。
本研究は復興という社会的な問題とエネルギーを繋げることで、再エネ事業に対する住民参加を促し、コミュニティベースの事業モデルを実践した。地域コミュニティが主体となり具体的なアクションへと繋げるため、情報が不可欠であり、そのために協エネまちづくり支援システムを開発した。この支援ツールを用いると、津波や原発事故によって空き地や耕作不適地を抱える市町村にとって、都市計画、復興計画と一体的に土地資源の有効利用策を検討でき、コミュニティベースのエネルギーアクションプランの作成とプロジェクトの検討ができる。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会ZE-1201(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

環境省は平成21年から委託事業を実施され、再生可能なエネルギーのポテンシャルに関しては研究調査が報告されている。報告書では、東北地域には巨大な太陽光、風力、地熱資源が存在すると評価している。しかし、その調査報告には不十分な点が残る。1)自然エネルギーに関して発電利用しか見ていない。2)発電、熱などエネルギーの複合利用は考えていない。3)供給サイドの視点しかなく、地元産業、居住などの需要面との連携はみられていない。4)平成22年度報告は震災復興支援を意識されたが、具体的な連携方法は示されていない。“太陽光発電に関する共通点として、「事業継続可能な適正利益が得られる発電事業」としての検討・実績事例が少ないことが挙げられる”とも指摘されている。
被災地においても広大な膨大な被災跡地があり、再エネの利用が有力であるものの、現場ではそれを利用するアイディアがなく、エネルギーに関する情報源も限られている。そのため、こうした広大な被災跡地にコミュニティが主体となり地域発電所として利用・運用していくためには、政策、制度、資金、技術、人材からの支援が必要となる。従って、本研究ではこれらの課題に対する政策提言として、政策、制度、資金、技術、人材を一体的にサポートする提言を以下に示す。
政策:再エネの賦存量はどこも大きい。導入ポテンシャルは目標次第。再エネ○○%だけを掲げては実現されないので、スマートシティ/コンパクトシティ戦略に位置づける。
制度:政策目標を自治体における地球温暖化対策に反映させ、復興計画、都市計画に主流化、事業化させ、コミュニティ共同事業に用地転換規制を緩和する。
資金:FITは再エネ事業化のインセンティブだが持続可能なビジネスモデルではない。そのため、コミュニティの参加を促し、まちづくり一体型の事業に対してボーナスや税金優遇を行う。
技術:事業推進のノウハウの普及。導入ポテンシャル、まちづくりと総合的推進による事業効果の見える化し、そのための高精度情報基盤とツールを整備して提供する。
人材:コミュニティリーダー、行政リーダー、ビジネスリーダーの育成が急務であり、リーダーを支えるサポーターとして、コミュニティにおける再エネ技術、情報技術、計測技術に詳しい人材の育成も重要である。

4.委員の指摘及び提言概要

地域の利害関係者がブレーンストーミング手法によってビジョンの検討を行ったことは、その種の政策形成経験の少ない我が国において意義があり、そのための具体的な地域マップ等が作成されている。しかし、一年間という短い研究期間であったにせよ、多くのサブテーマがサーベイの段階にとどまっており、斬新な問題提起や提案がほとんどなく、本研究の成果が具体的に復興支援にどのようにつながるかの説明が不十分である。また、新しい事業モデルを構築するためのプロセスの精緻な説明、地域住民の合意形成についての具体的な方策等が示されていない。

5.評点

   総合評点: B  ★★★☆☆  


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