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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価   5. 第5研究分科会<持続可能な社会・政策研究>
i. 環境問題対応型研究領域

研究課題名: 【E-0901】気候変動の国際枠組み交渉に対する主要国の政策決定に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 亀山 康子(独立行政法人 国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究は、次期枠組みに関する国際交渉の最終段階における政策立案者への具体的なインプット、及び、合意達成後の各国内での効果的な実施過程への移行に向けた政策提言を最終達成目標とした。この目標達成のため、主要国(米国、欧州、アジア新興国、ロシア)の国内政策決定(政治、経済、エネルギー政策、外交政策等)を踏まえた政策研究、及び主要国にとって受け入れられる国際制度構築に関する研究を実施した。サブテーマは以下のとおり。
(1)総括班:主要国の政策決定の比較分析
次期枠組みに対する主要国の態度を踏まえた結果、合意可能な国際制度を検討した。
(2)総括班:気候変動政策の国際法的検討
交渉の結果として構築される国際合意の内容を、国際法的観点から分析した。
(3)米国:国内政治が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
新大統領の下での米国政治が同国の気候変動政策に及ぼす影響を分析した。
(4)米国:エネルギー技術開発・投資が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
米国のエネルギー技術が気候変動政策決定に及ぼす影響を分析した。
(5)欧州・米国:国内排出枠取引制度が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
両国・地域にて独自に進展しつつある炭素市場形成が、気候変動に関する国際交渉過程に及ぼす影響を分析した。


図 研究のイメージ        
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(6)欧州:域内政治が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
欧州の政治経済的動向を中心に、同地域の気候変動政策の決定過程分析を行った。
(7)アジア新興国:国内政治および政策が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
中国とインドの政治、経済発展パターン、エネルギー政策、外交政策等諸事情が、両国の態度に及ぼす影響を分析した。
(8)ロシア:国内政治が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
ロシアの政治経済的動向を踏まえ資源・環境政策および国際交渉での態度を説明した。
(9)ロシア:エネルギー政策が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
ロシアのエネルギー政策・貿易政策が気候変動政策に及ぼす影響を分析した。
(10)主要国:森林政策が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
米国、欧州、アジア新興国、ロシアでの森林政策を横断的に分析し、次期国際枠組みにおける森林が果たす役割を検討した。

■ E-0901  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/h-091.pdfPDF [PDF 333 KB]
※「 H-091 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の実施結果

(1)総括班:主要国の政策決定の比較分析
次期枠組みに対する主要国の態度を踏まえ、合意可能な国際制度を検討した結果、国・地域ごとの特徴を明らかにすると同時に、今後の課題や、気候変動政策の進展方向を提示した。短期的には多国間合意は困難だが、長期的には合意可能な条件が存在することを示した。
(2)総括班:気候変動政策の国際法的検討
交渉の結果として構築される国際合意の内容を、国際法的観点から分析した。次期国際枠組みの、国際環境法の中での位置づけあるいは意義について国際法的観点から検証した結果、法形式の違いが国際制度の性質にも差異を生じることを明らかにした。
(3)米国:国内政治が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
オバマ大統領の下での米国政治が同国の気候変動政策に及ぼす影響を分析した。気候変動に関する次期国際枠組みの、米国政治の中での位置づけについて検討した結果、共和党寄りの議会の強い反発により、気候変動への支持が失われていることを示した。
(4)米国:エネルギー技術開発・投資が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
米国のエネルギー技術が気候変動政策決定に及ぼす影響を分析した。気候変動に関連するがエネルギー分野の技術として支持されているものの中に、炭素回収・貯留やスマートグリッド等が挙げられた。
(5)欧州・米国:国内排出枠取引制度が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
欧米にて独自に進展しつつある炭素市場形成が、国際交渉過程に及ぼす影響を分析した。欧米間で詳細なルール設定に違いがあり、これらの市場を統一化するような国際制度への導入は容易ではないものの、炭素市場の利用は受け入れられていることを示した。
(6)欧州:域内政治が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
欧州域内の気候変動政策の決定過程分析を行った。気候変動に関する次期国際枠組みと、欧州域内での諸政策との長期的な協調のあり方を検討した結果、EU加盟国間で、排出枠取引以外の観点でも協調が進んでいることを示した。
(7)アジア新興国:国内政治および政策が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
中国とインドの政治、経済発展パターン、エネルギー政策、外交政策等諸事情が、両国の態度に及ぼす影響を分析した結果。同じ新興国でも中国とインドで国内での気候変動政策に大きな違いがあり、それが国際交渉での態度の違いに表れることを示した。
(8)ロシア:国内政治が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
ロシアの政治経済的動向を踏まえ資源・環境政策および国際交渉での態度を説明した。ロシアでは、大統領の個人的資質や省庁間の政治経済的動向が、気候変動交渉での同国の態度に影響を及ぼすことを示した。
(9)ロシア:エネルギー政策が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
エネルギー資源大国としてのロシアのエネルギー政策・貿易政策が気候変動政策に及ぼす影響を分析した。気候変動政策は、ロシアのエネルギー効率改善に寄与すると期待されるものの、エネルギー産業界の強い反発が存在することを示した。
(10)主要国:森林政策が気候変動政策に及ぼす影響に関する研究
米国、欧州、アジア新興国、ロシアでの森林政策を横断的に分析し、次期国際枠組みにおける森林が果たす役割を検討した結果、主要国に受け入れられる途上国での森林保全(REDD+)や京都議定書第2約束期間における森林カウントルールを提示できた。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0901
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0901.html

3.環境政策への貢献

①国際的な気候変動交渉における支援:交渉において争点となっている議題(先進国の緩和策、途上国の緩和策、途上国のNAMAやMRVに関する具体的な手続き、柔軟性メカニズム、先進国の森林吸収源の吸収量カウント方法やREDD+、合意が目指される制度の法形式等)について、必要な情報を収集し各提案を評価することで、我が国の交渉を後方より支援することができた。また、本研究課題の参画者や研究協力者のうち数名は、COPやAWG等の国際交渉会議に政府代表団として出席し、環境省ならびに行政府を支援した。
②気候変動枠組条約の下での交渉が停滞する中でも、多くの国では、エネルギー安全保障等、気候変動以外の目的で、排出削減に資する対策が講じられていることを示すことができた。また、これら国内対策の進展が、中長期的には国際交渉の推進に役立つことを示唆した。
③本研究参画者の多くが、中央環境審議会地球環境部会、その他環境省が担当する検討会、都道府県および自治体レベルでの環境審議会等の委員となっている。そのような会議において、本研究課題で取り上げた主要国の国内動向を取りまとめて得られた知見をふまえた発言を行うことにより、我が国内の気候変動対策検討に貢献できた。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究期間を通じて、適時に、国際交渉支援のための有用な情報の提供が行われた研究であったといえる。多国間協議のもとでの国際交渉がとん挫する現実のもとで、短期的に各国が自主的に気候変動対策を実施していくための条件は何か等々に修正を余議されたが、うまく対処され分析結果をわかりやすく整理されているのは評価できる。気候変動条約という複雑・難解な国際レジームの各国の立場を、多様な文献ソース(一次資料も含めた)の調査や各国の関係者とのコンタクトを駆使して、合意内容を整理できたこと、また、交渉において、「首脳レベルが気候変動問題を正確に理解し判断する能力を持つこと」が重要であった等が明らかにできたことなど評価出来る。各サブテーマがすべて同程度の水準の研究成果をあげているとは評価しがたく、EUの域内政治とのタイトルにもかかわらず域内各国ごとの動向にはあまり触れられていない報告となっている点などに不満が残る。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
サブテーマ(1):a
サブテーマ(2):a
サブテーマ(3):b
サブテーマ(4):b
サブテーマ(5):b
サブテーマ(6):b
サブテーマ(7):b
サブテーマ(8):b
サブテーマ(9):b
サブテーマ(10):a


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研究課題名: 【E-0902】里山・里地・里海の生態系サービスの評価と新たなコモンズによる自然共生社会の再構築(H21〜H23)
研究代表者氏名: 渡邉 正孝(国際連合大学)

1.研究計画

研究のイメージ

 日本の里山・里地・里海がもたらす生態系サービスを対象とし、これにミレニアム生態系評価(MA)の概念的枠組みを適用し、生態系サービス(供給機能、調整機能、支持機能、文化的機能)の変化、その直接的・間接的要因、人間の福利への影響といった要素を総合的に評価することにより、生物多様性を損なわずに生態系サービスを最大化できる人為的関与の程度を明確化させ、これに基づき、持続可能な自然共生社会の再構築に向けた政策提案を導くことを目的とする。

■ E-0902  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/h-092.pdfPDF [PDF 508 KB]
※「 H-092 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


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2.研究の実施結果

(1)里山・里地・里海の生物多様性・生態系サービスの保全・利用の戦略展開
 生態系サービスの利用を支える新たなコモンズ(税制や生産保障、社会組織変革、流通・消費者の行動革新等)について政策評価を実施し、生態系サービスの持続的な利用に不可欠な社会制度や技術的革新への提言を導いた。
(2)生態系サービスの変化に関する直接・間接的要因の分析
 生態系サービス勘定体系を国内の里山・里地・里海に適用し、里山の生態系サービス経年変化を定量的に評価した。
(3)長期的・広域的な視点からみた里山・里地・里海の定量的な評価
 モザイク状の景観構造が日本の里山・里地・里海の特徴の一つであるとする根拠を、地形、土地利用、植生等から解明し、共同管理の成功例と失敗例から有効性の条件を抽出し、新たなコモンズの提案に結びつけた。
(4)里山・里地における生物多様性と多面的機能の統合的な評価
生物多様性—調整サービス—供給サービスの統合評価モデルを完成させ、生物多様性および調整サービスの維持を考慮した場合の供給可能な各種資源利用形態の最適な配分および、それらの持続的利用を可能とする最適管理基準を定量的に示した。
(5)里山・里地・里海の文化的価値の評価
 全国アンケートの結果について統計解析を行い、多岐にわたる文化的価値観の関係を定量的に整理した。この文化的な価値判断を含んだ里山・里地・里海の公益的機能が市場メカニズムによって持続的に担保されるか否かを個別に診断する簡易診断マニュアルを策定し、単純な市場メカニズムで解決されない場合の新しいコモンズのあり方(土地所有権と使用権、および管理責任)を提案し、関連法令について検討した。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0902
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0902.html

3.環境政策への貢献

日本の里山・里海評価、SATOYAMAイニシアティブ、IPBES等における生物多様性・生態系サービス評価の取り組みにおいて、生態系サービスを如何に価値付けするかが政策的な課題となっており、その課題解決のための学術的知見の蓄積、評価手法及び政策提言に貢献した。また、白山ユネスコエコパーク(人間と生物圏MAB計画)地域において、消滅危惧のランク付け等、里山資産や生態系サービスを多種多様な角度から分析・評価し、移行地域ゾーニングのための基礎情報を提供した。今後収集した里山資産についてはデータベース化し、保全事業や地域ビジョンの策定等、環境政策や地域振興の基礎資料として広く提供していく。漁業協同組合のみの意見や合意だけでなく、地域住民や自治体を巻き込んだ合議制を可能にするための法的整備が重要であり、共同体が基盤となって漁業資源を自主的に管理する試みを可能にする法的整備が環境政策にとって重要であることを提言した。里山里海の生態系サービスを維持するために、都市住民が都市での仕事で培ってきた技能を維持しつつ、里山里海の生業と両立を可能とする政策の必要性を提言した。

4.委員の指摘及び提言概要

「生物多様性・生態系サービス」をどのような指標とアプローチで評価すべきか、という政策的な課題に応えられる研究成果となったことは評価できる。しかし、日本の近代の農業政策が生産性を上げるため何をしてきたのか、それがなにを生み出してきたのか、これを反省することなくして研究が成り立つのかどうか。また、人口を減らす政策と生物資源あるいは生活水準維持との関係こそ研究課題とすべきではないのか。生態系サービスの評価指標をそれぞれに提案しているが、その相互の関係を考察して、最終的には統合的指標を作成するというフレームが見えない。サブグループが担当した主題に連結性がなく、またそれを一連のストーリーとして統合化する努力がなされた痕跡も見られなかった。世界の潮流を的確に受け止め、研究の方針を革新する点で弱い。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c
サブテーマ(1):b
サブテーマ(2):b
サブテーマ(3):b
サブテーマ(4):b
サブテーマ(5):b


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研究課題名: 【E-0905】バイオ燃料農業生産を基盤とした持続型地域社会モデルに関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 久留主 泰朗 (茨城大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究は、地域社会の持続性と自立性に資するバイオ燃料の生産と利用の地域システムを構築し、地域社会での環境影響と有効性評価を行うことを目的とする。そのため、本研究ではバイオ燃料の原料として非食料作物である「スィートソルガム」に着目し、耕作放棄地を利活用して、栽培から収穫・バイオ燃料生産・残渣利用までのプロセスを開発する。そして、食料安全保障とバイオ燃料生産の両立を図る農業システムの評価を行う。具体的には以下の3つのサブテーマで構成される。
(1)食料経済リスク低減型燃料作物の展開・栽培に関する研究
 イネ科植物であるスィートソルガムの栽培管理方法を検討し、効率的安定生産技術を確立する。また、アルコール原料となる糖の含量が増大したスィートソルガムの開発およびスィートソルガムに共生し栄養供給の働きを担う菌類を用いた生産性向上を図り、粗放的でも可能な栽培方法の確立を目指す。


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(2)農地オンサイト型バイオ燃料生産系システムの開発に関する研究
 スィートソルガムの搾汁液中の糖類から酵母を用いた効率的なエタノール生産方法を確立する。また、スィートソルガム搾りかす残渣の効率的分解条件を検討し、二次発酵への再利用と家畜飼料への利用を図り、持続可能なバイオ燃料生産システムの確立を目指す。さらに、スィートソルガム搾汁液を用いて次世代バイオ燃料であるブタノールの効率的生産方法を開発する。
(3)食料安全保障とバイオ燃料生産の両立を図る農業システム解析
サブテーマ(1)のスィートソルガム生産の環境負荷の定量化と生産コストの算定によりコスト面を評価し、またサブテーマ(2)のエネルギー変換効率を元にエネルギー生産量の試算によりエネルギー生産面を評価する。そして、地域におけるバイオ燃料生産システム導入による代替エネルギーの効果を経済的に評価するモデルシミュレーションを実施し、バイオ燃料作物の経済・社会影響評価を行う。

■ E-0905  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/h-095.pdfPDF [PDF 373 KB]
※「 H-095 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の実施結果

(1)食料経済リスク低減型燃料作物の展開・栽培に関する研究
イネ科植物であるスィートソルガムの栽培管理方法を検討し、最適品種の選抜および栽培方法等の効率的安定生産技術を確立した。また、アルコール原料となる糖の含量が増大したスィートソルガム高次倍数体の開発法を確立した。さらに、スィートソルガムに共生し栄養供給の働きを担う菌類を選抜し、粗放的でも可能な栽培方法を確立した。
(2)農地オンサイト型バイオ燃料生産系システムの開発に関する研究
 スィートソルガム搾汁液を直接原料とし、汎用性酵母を用いた効率的なエタノール生産方法を確立した。また、スィートソルガム搾りかす残渣の効率的分解条件を検討し、二次発酵への再利用と家畜飼料化への利用法を開発し、持続可能なバイオ燃料生産システムを確立した。さらに、スィートソルガム搾汁液を直接原料とし、次世代バイオ燃料であるブタノールを生産する新奇な微生物を分離し、効率的ブタノール生産方法を開発した。
(3)食料安全保障とバイオ燃料生産の両立を図る農業システム解析
 サブテーマ(1)のスィートソルガム生産の環境負荷の定量化と生産コストの算定によりコスト面を評価し、またサブテーマ(2)のエネルギー変換効率を元にエネルギー生産量の試算によりエネルギー生産面を評価した。さらに、地域におけるバイオ燃料生産システム導入による代替エネルギーの効果を経済的に評価するモデルシミュレーションを実施し、バイオ燃料作物の経済・社会影響評価を行った。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0905
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0905.html

3.環境政策への貢献

 茨城県A町を対象とし、耕作放棄地栽培のスィートソルガムを原料としたバイオエタノール生産システムにおいて、算出エネルギー/投入エネルギーの値は1.9であり、エネルギー収支については原料栽培方法の検討が必要となったが,CO2の削減効果があることが判明した。 
 また、経済評価において、1L当たりの製造コストは、スィートソルガムを原料とする本システムの場合は118.3円であり、近年の平均的なガソリン販売価格を下回ったが、茨城県全体の耕作放棄地を対象とした場合はスケールメリットがあることが判明し、ある程度の価格競争力を持つことがわかった。

4.委員の指摘及び提言概要

 初期の目標を達成するためにとった方法が、育種と栽培法の研究に終始したのが期待はずれである。耕作放棄地の利活用のための社会的困難性の分析やこれを克服するための手立てといった社会システム構築に関しての検討が全く見られない。都市圏の耕作放棄の実態に即して、営農意欲を生む分散型の栽培と収穫、搬送を想定すべきなのに、収穫労働の効率化、搬送の効率化等に加えて、装置の稼働を平準化して効率を上げる等のリアリティをほとんど考察してない。さらに排水処理、エネルギー利用、等のファクトリマネジメント等を展開する構想もなく、実験とフィールド調査に終わっている。主たる成果はスイートソルガムの育成、エネルギー収支、経済性等に関してフィージブルで実用化が期待できるということであるが、より現実的には、他のバイオマス品種と比較した優越性が存在するのかどうか分析・評価がほしい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
サブテーマ(1):b
サブテーマ(2):b
サブテーマ(3):b


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研究課題名: 【E-0906】国際都市間協働によるアジア途上国都市の低炭素型発展に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 加藤 久和(財団法人 地球環境戦略研究機関)

1.研究計画

研究のイメージ

アジア途上国都市における低炭素型発展、とりわけ民生、交通、廃棄物分野での家庭・中小企業における省エネ、環境調和型の行動がいかなる施策、インセンティブ手段によって可能になるかを明らかにし、アジアの低炭素社会構築の効果的方策を明らかにする。その上で、神奈川県や北九州市などの日本の自治体との国際協働によって、アジアの発展段階が異なる都市における低炭素型発展施策のボトムアップ型の取り組みを促進するためのメカニズムについて、具体的な方策を提案する。(1)アジア途上国都市における低炭素型発展施策とその推進メカニズムに関する研究、(2)日本の自治体における低炭素社会構築及び地球環境問題への取り組み促進施策に関する研究、(3)アジア途上国都市と日本の都市との低炭素型発展パートナーシップの形成・推進に関する研究の3つのサブテーマを設け研究を実施する。

■ E-0906  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/h-096.pdfPDF [PDF 290 KB]
※「 h-096 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


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2.研究の実施結果

(1)アジア途上国都市における低炭素型発展施策とその推進メカニズムに関する研究
平成21年度、民生部門の低炭素型発展を実現するための課題の特定、そのための調査地の選定、主要ステークホルダーに対する調査、データ収集、モデル施策のシミュレーションを行った。また、これらの課題のアジアにおける共通性と、都市による相違性、特に経済発展段階による違いの整理を行った。これらの基礎調査について関係者と意見交換を行い、調査の方向性の検証と内容の高度化を図った。22年度は、21年度に行ったモデル調査を検証し、アジアの複数の都市において調査を行い発展段階別のシナリオを整理した。また、アジア途上国都市において低炭素型発展施策を実施する上でのインセンティブ付与及びオーナーシップ醸成のためのメカニズムの検討を行った。これらを踏まえ、低炭素型発展施策において中央政府、地方政府、市民、企業やメディアの役割について制度設計にむけた検討を行った。最終年度は、サブテーマ(3)と共同でアジア途上国都市、日本の都市、国際開発機関等のステークホルダーを参加者とするプラットフォーム構築に関するワークショップを開催し、具体的な制度導入のための設計を行った。家庭・中小企業における低炭素型発展施策を促進するメカニズムについて更なる検討を行い、提言を取りまとめた。
(2)日本の自治体における低炭素社会構築及び地球環境問題への取り組み促進施策に関する研究
平成21年度、国内現地調査及びワークショップ開催により日本の都市における低炭素施策の現状等を踏まえて、二酸化炭素排出構造と施策要因等を把握するとともに、市民の国際的連携に対する意識調査を実施した。22年度は、21年度の成果を踏まえ、低炭素都市施策の指標づくり及び市民生活の低炭素化への応用方策を検討した。個別の低炭素施策に関してアジア途上国の適用事例調査を行った。23年度は、日本の都市における低炭素施策の国際的協働を調査した。協働の内容として環境技術、政策制度、モニタリング・評価手法、資金等の連携の可能性と課題を抽出した。
(3)アジア途上国都市と日本の都市との低炭素型発展パートナーシップの形成・推進に関する研究
平成21年度、国際都市間ネットワークの果たす役割とその効果、またその効果に影響を及ぼす要因についての研究のレビューを行った。また、アジア途上国の地方政府を支援する上で動員可能な国内・国際における補助・協力資源を特定した。国際ワークショップを開催して国際協働の検討を試行した。22年度は、低炭素型発展施策の実施とモニタリングに関する都市レベル、国レベル、または国際レベルでのプラットフォームの構築可能性を検討した。また多様な協力アクターの中での、日本の自治体のバイ、またはマルチでの協働の内容を検討した。本研究で施行するプラットフォームと既存の2都市間協力関係との連携について検討した。23年度は、アジア途上国都市が低炭素型発展施策を実施していく上で必要となる環境技術および規制・政策・制度上の能力強化、必要な資金等の特定を行った。国際フォーラムでの討議を継続する。アジア途上国都市と日本の都市との低炭素パートナーシップのメカニズムに関する提言を取りまとめた。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0906
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0906.html

3.環境政策への貢献

アジア各都市は低炭素化に向けた政策を実行し始めている状況であり、今回の対象都市であるバンコク、ホーチミンでも温暖化行動計画を策定している。今回の研究成果は、国際共同研究機関と共催した国際シンポジウム(バンコク、ホーチミンで開催)などを通じて、両都市の担当者をはじめ、関係者に報告、提供された。今後、両都市での温暖化行動計画の実施に向けてより具体的な提言を行っていく予定である。
また、日本都市における低炭素施策に関する調査では、行政レベルで応用可能な低炭素施策の促進モデルを構築・提案し、我が国で初めてとなる低炭素施策指標を開発し、自治体行政を対象として施策指標を試行し、課題抽出と点検・見直しを実施することを通じて、実装可能な低炭素施策指標の運用に係る有効な知見を集積した。国際連携に関しては、日本の都市における環境分野の国際連携に係る促進要因と障壁を解明し、日本側から発信・提供しうるヒト、モノ、情報等に係る行政資源を明確化したことにより、アジア都市の低炭素施策における国際連携手法に関する知見を集積し、今後の都市間連携の具体的イメージを明示する等の成果が得られた。また、アジア都市を招聘した国際ワークショップ等によりアジア都市版低炭素施策指標(案)の適用可能性を分析し、今後の普及に向けて課題と効用を解明し、今後、アジア都市レベルの一層の低炭素型発展に積極的に貢献することが可能となった。
本研究によって得た知見は、既に国際都市間連携を実施している大都市や先進都市のみならず、海外とのネットワークを持たない都市や低炭素施策の導入が進んでいない都市にとっても、低炭素施策の具現化と相互利益を含めた国際連携の可能性拡大に貢献する。本研究で培った日本・アジア都市とのネットワークに加え、IGESが設立・運営に関わる環境的に持続可能な都市(ESC)ハイレベルセミナー等、既存のネットワークに、本研究で示された都市の特性別連携手法を活用し、低炭素化に必要な資源の補完機能を強化し、低炭素化を促進する都市間の相乗効果を高めるものである。

4.委員の指摘及び提言概要

本研究の成果としてアジア都市レベルの一層の低炭素型発展に積極的に貢献することが可能になったと主張されているが、具体的な成果にあまり特筆すべきものはない。ヒアリング調査や文献調査などで情報を収集し、国際会議を主催して成果を発表したことはある程度評価されるが、ヒアリング対象者をもっと拡大することもできたのではないだろうか。成果はいずれもsite-specific及びhindsight的なレベルに留まり、これらを「科学的意義」及び「環境政策への貢献」として主張するには、止揚し体系化するなどの工夫が必要であった。三つのサブテーマの相互関連が薄く、三つのサブテーマが独立した研究のようにも見える。研究成果を国際会議やワークショップで発表することで終わるのではなく、研究成果を踏まえ、今後アジア途上国都市の低炭素型発展のために、日本としてどのような協力をすべきかなどの具体的な提案が少ない。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): c  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
サブテーマ(1):b
サブテーマ(2):b
サブテーマ(3):b


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事後評価  5. 第5研究分科会<持続可能な社会・政策研究>
ii. 革新型研究開発領域

研究課題名: 【RF-1012】交通行動変容を促すCO2排出抑制政策の検討とその持続可能性評価(H22〜H23)
研究代表者氏名: 倉内 慎也(愛媛大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究は、低炭素型社会を実現するための交通政策のうち、環境税等の税制や混雑課金、公共交通運賃の割引などの経済的政策に着目し、その効果と実現可能性を検討することを目的としている。具体的には、課金・割引金額やその付与タイミング、課徴金の使途等が異なる多様な経済的政策を想定した上で、それらに対する利用者の認知メカニズムを明示的に考慮した行動モデルを開発し、最終的に環境・経済・社会の3側面から各政策の持続可能性を評価することを目標としている。本研究課題は4つのサブテーマから構成され、具体の研究内容やサブテーマ間の関連性は以下の通りである。


図 研究のイメージ        
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(1)実験経済学的アプローチによる交通行動変更意向の分析ならびに政策検討
室内実験により、様々な経済的政策に対する損得勘定の認知メカニズムを明らかにし、それを明示的に考慮した交通行動モデルを構築する。
(2)実証実験による交通行動変化の分析と政策課題の抽出
アンケート調査や交通行動を詳細かつ長期的に把握することが可能なGPS機能付携帯専用端末を用いた社会実験を実施し、経済的政策実施下における個人の交通行動の変化を分析する。また、これらの結果をサブテーマ(1)で構築した行動モデルにフィードバックすると共に、サブテーマ(1)の結果も踏まえて、政策課題の抽出を行う。
(3)都市圏レベルでのCO2削減効果算出システムの開発と効果の都市間比較
都市圏レベルでの政策効果を予測するシステムを開発した上で、構築した行動モデルならびに実験データに基づいて政策効果をシミュレートし、交通サービス水準の異なる複数都市を対象として、主に環境面と経済性の観点から政策の持続可能性を評価する。
(4)政策実施下における公平性の分析と低炭素社会実現に向けた政策展開の検討
アンケート調査等を用いて各種経済的政策に対する市民の受容可能性を把握すると共に、サブテーマ(3)の結果を、個人や都市間でのモビリティの公平性の観点から分析することにより社会的持続可能性を検討し、環境・経済面での持続可能性と併せて総合評価を行う。さらには、望ましい政策を効率的に実現するための体制や制度設計の提案、都市別の政策展開シナリオの検討も行う。

■ RF-1012  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1012.pdfPDF [PDF 529 KB]

2.研究の実施結果

(1)実験経済学的アプローチによる交通行動変更意向の分析ならびに政策検討
支払い・割引の方式や課徴金の使途等が異なる様々な政策を対象にインタビュー調査や実内実験を実施し、各種経済的政策に対する利用者の認知メカニズムの分析ならびにそれらを明示的に考慮した行動モデルを構築した。分析においては、メンタル・アカウンティング理論やプロスペクト理論等の認知心理学や行動経済学等における諸理論を援用し、それらを収集したデータによって検証可能な数理モデルとして定式化した上で、分析・モデル化を行った。結果、現状の多くの割引サービスは費用対効果に大きな改善の余地がある、利用者満足度は心理的な損得感の影響が大きく、また同一原資でも支払いや報酬の組み合わせ方により効果が有意に異なること等が明らかとなった。
(2)実証実験による交通行動変化の分析と政策課題の抽出
ピークロードプライシングや炭素税型の環境税、自動車利用に対する個人レベルでの排出権取引制度、それらを原資とした公共交通運賃の割引等の政策を対象に、名古屋都市圏においてGPS携帯端末を活用した社会実験を実施した。得られたデータを用いて、各政策での行動変更や移動回数などを分析した結果、移動のたびに支払う方式よりも一定期間分をまとめて支払う方式の方が自動車利用の削減効果が高い、公共交通運賃の割引を実施する場合、自動車利用抑制政策を併せて実施しない限り自動車から公共交通利用への転換はあまり期待できない等の知見を得た。また、実験データを用いて、経済的政策の実施に伴う交通行動転換モデルを併せて構築した。
(3)都市圏レベルでのCO2削減効果算出システムの開発と効果の都市間比較
都市圏レベルでの政策効果を定量的に評価するシステムとして、個々人の交通行動を時間軸に沿ってシミュレートした上でCO2排出量を算出するシステムを開発し、さらにサブテーマ(2)で構築した交通行動転換モデルを組み込んだ上で、交通サービス水準の異なる3都市(東京、名古屋、松山)を対象に政策導入効果をシミュレートした。その結果、環境税の導入は全ての都市圏において一定のCO2削減効果があることを確認した。また、それを財源に公共交通運賃の割引を併せて実施した場合、いずれの都市においても自動車利用からの転換は僅かであると共に、事業収支やモビリティの観点から当該パッケージ政策を実施できるのは名古屋都市圏のみであること等が判明した。
(4)政策実施下における公平性の分析と低炭素社会実現に向けた政策展開の検討
まずサブテーマ(1)および(2)で実施した政策に対する移動主体の受容意識に着目して分析を行った結果、公平感やCO2削減効果が期待される政策ほど受容性が高い、仮に物理的な負担額が軽減されるような政策でも、一部の人に不公平感が芽生えるなどして、受容性が低下する等の知見を得た。次に、これまでの分析結果を俯瞰し、経済的政策を、環境(CO2排出量)、経済(事業収支や費用対効果)、社会(受容性や公平性)の3側面における持続可能性の観点から総合的に評価し、現状の政策の改善点や早期導入が望まれる経済的政策、それらの都市圏別展開シナリオや実現に向けた制度設計等について提言を行った。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-1012
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/RF-1012.html

3.環境政策への貢献

 本研究における政策提言は、現状の技術レベルを前提としているため即効性があると共に、環境面のみならず経済面や社会的持続可能性についても評価を行っていることから、現政策の改善や今後の税制・交通政策の検討、ならびに合意形成等の政策展開においても大きく貢献しうるものと考えられる。また、得られた知見には、これまで交通需要予測や費用便益分析等の政策検討に際して支配的に用いられてきた方法論の妥当性に一石を投じるものもあり、今後更なる研究が不可欠ではあるが、より精確で市民感覚にも即した評価手法の確立に繋がるものと期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

サブテーマが立体的に設定されていて、目指すべき研究の着地点が見えやすい。実験経済学的アプローチによる交通行動変更意向の分析や、メンタルアカウンティングプロセスを組み込んだ交通行動モデルによる料金制度の分析など、分析手法の新しさは、若手研究者らしい新鮮さがある。料金体系などについて具体的な提案もある。まずまずの研究成果が得られたと思う。異なる都市圏での実証実験による交通行動変化の分析に一定程度成功している。今後は一層実証実験の成果を蓄積し、政策提言が期待される。「ICカードやETCによって可能となる、ポイント制やキャッシュバックなどの多様な経済的政策を視野にいれ」というのが、この研究のポイントでありきわめて現在的な研究であるが、世代別ぐらいは分析するとき考慮にいれたらどうだろうか。二酸化炭素抑制に関して、このような多様な経済手段を比較分析したものは貴重な成果といえよう。今後事例を加えて結果の信頼性を高めてほしい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
サブテーマ(1):b
サブテーマ(2):a
サブテーマ(3):b
サブテーマ(4):b


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研究課題名: 【RFe-11T1】実装可能な技術による我が国の未来エネルギーシステムの構築(H23〜H23)
研究代表者氏名: 加藤 之貴(東京工業大学)

1.研究計画

研究のイメージ

代表者と研究分担者は「実装可能なエネルギー技術で築く未来−骨太のエネルギーロードマップ2−」(実装骨太)を編纂した。本研究はこれを発展させるものである。本研究では実装可能な技術による我が国の未来エネルギーシステムの構築を目的に、各エネルギー技術の効果、比較事例との相対的評価、さらに時系列的な技術進歩、技術リスク予測を目指す。各技術に関する将来予測を精度高く進め、実装性の高いエネルギーシステム技術展開の方向性を提案する。
本研究では、5つのサブテーマ、(1)エネルギー技術のリスクの評価と解析、(2)リスク評価に基づく技術ロードマップ検討、(3)エネルギーシステム評価研究、(4)低炭素化効果の評価、(5)未来エネルギーシステム提案、で検討を進めるとした。

■ RFe-11T1  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFe-11T1.pdfPDF [PDF 529 KB]


図 研究のイメージ        
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2.研究の実施結果

サブテーマ(1)〜(5)で連携して検討を行い、以下の成果を得た。
①各エネルギー技術の実装可能性を検討し、2050年までの技術の普及と技術リスクを精査した。
②各エネルギー技術の時系列的な進歩を、技術の競合・重複といったリスクを考慮しながら予測した。これを基に(3)、(4)と協力し、技術の導入によるエネルギー需要の変化を予測するモデルを構築した。
③需要側将来予測モデルに応じて基幹電力供給側の低コスト、低二酸化炭素排出を基準とした電力供給側モデル解析を行い、最適な電源構成の時系列予測を行った。
④得られた将来需要モデル、電源構成から低炭素化効果を評価し、2050年までのCO2削減効果の評価を行った。技術導入シナリオを検討し、各技術の低炭素化への貢献性の評価を可能にした。
⑤実装可能技術を用いた未来型のエネルギーシステムのシナリオ評価検討を行い、その実現課題を明らかにした。

サブテーマをもとに行った、統合評価より政策決定に資する、以下の成果を導いた。
①エネルギー需要・供給・省エネ技術に係る様々なオプションを設定したシナリオ解析を実現した。実装可能なエネルギー技術が進展し積極的に導入されることで、4割以上のCO2排出の低減が可能。産業排熱回収、次世代自動車導入、灯油の電化などが有効。さらに太陽光、風力発電の導入で5割以上低減が可能。また、一方GDPが基本とした一人当たり年1%成長に対し同0%成長では6割以上の低減が評価できた。原発再稼働、40年で運転終了の場合、電源構成の最適化により低炭素化が可能であることが定量的に示された。
②様々なシナリオ解析に基づく課題抽出・制度提言が可能になった。例えば、再生可能エネルギー大規模導入時には、負荷変動が大きく電力貯蔵技術が必須であることを明らかにした。併せて負荷変動が大きいゆえに垂直統合型の電力会社経営は困難であり、電事法・固定価格買取制度の見直しが必須であった。電力貯蔵技術としては蓄電池のみならず水素などのケミカルストレージが候補であった。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RFe-11T1
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/RFe-11T1.html

3.環境政策への貢献

本研究により得られた研究成果による環境政策への貢献は下記の3点である。
第一に、設備費や燃料費、負荷追従性等のデータをもとに将来の動向を推計し、電力網の発電コスト最小化の条件のもとでの電源構成を求める手法を開発し、そのツール化を行った。本ツールを用いることで、様々なシナリオのもとでの二酸化炭素排出削減効果を容易に推計可能となり、今後の削減達成目標の設定の際のエビデンスを提供することが可能となる。これにより少ないコストで再生可能エネルギー技術等の導入施策等の環境政策の実施前に、それが実現された場合の効果を推算することが可能となった。
第二に、分散電源の導入拡大により重要性がます蓄電技術が、導入量の規模により変化し得ることを指摘した。(規模は小さいうちは〜だがとの記載)具体的には、太陽光発電の導入量を150GWとしたケースでは、本研究が想定しているような電気自動車の二次電池の活用に加え、水電解水素やCO2還元による燃料合成などの、ケミカルストレージの活用を考慮する必要がある。このことは環境政策としての二酸化炭素排出削減施策の実施において、その目標値の設定次第で、研究開発や導入を支援すべき技術が変化することを意味する。
そして第三に、解析結果をもとに、環境政策、特に二酸化炭素排出抑制政策における熱技術の重要性を指摘した。エアコンなど電気機器の効率向上や屋の断熱性能の向上など熱需要抑制技術の進展に加え、低温排熱利用などの熱利用技術による二酸化炭素排出削減ポテンシャルは大きく、継続的な研究開発や導入促進策が必要であることを定量的に示すことが出来た。このことは、熱利用技術に関する研究開発などを通じた、今後の実効性のある環境政策立案時にエビデンスとして活用することが可能である。

4.委員の指摘及び提言概要

 3.11の震災と原発事故をふまえて、日本のエネルギー需給の構造が大きく変化しつつある状況をふまえた、修正を加えた研究成果が示されており、短時間に多角的な検討が要領よく行われて、成果がまとめられている点は評価する。類似の検討で見落とされがちな電力網の課題なども十分に意識している検討であり、この点も評価されてよい。昨夏の経験を踏まえると、ライフスタイルの変化がこれまで以上にキーとなる。各セクターでの行動についても考慮した結果がほしかった。また、地域による差についても考慮した結果があれば、なお政策に関与できたのでは。類似研究と比べ独自性や意義の不明瞭性、目玉のように解釈されるリスク評価についても記述的整理にとどまり、全体に不満が残る。マクロなエネルギー需給を扱う線形計画等の改良版であり、モデルの基本骨格に学術的に特に新味は乏しい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c
サブテーマ(1):a
サブテーマ(2):b
サブテーマ(3):b
サブテーマ(4):b
サブテーマ(5):b


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