第6節 調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興等


1 調査研究及び監視・観測等の充実


(1)研究開発の総合的推進
平成17年6月に総合科学技術会議によって決定された「平成18年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中では、環境分野については、政策課題に対応した研究開発の分野として、特に重点を置くべき分野とされています。
この方針の下、持続的発展を可能とする社会構築に資する観点及び環境と経済の両立に資する観点から、わが国の環境問題への対応及び国際社会への貢献に資する研究開発を推進することとしており、具体的には、表7-6-1の課題を含む研究開発関連施策を展開します。
また、第3期科学技術基本計画においても、環境分野は重点推進分野の1つとされていることから、総合科学技術会議がリーダーシップを発揮しつつ、関連府省との連携のもと、基本計画に基づく環境分野の分野別推進戦略に沿って、積極的に推進します。また、科学技術連携施策群のテーマの一つである「バイオマス利活用」について、各府省の連携の下、積極的に推進します。

表7-6-1	研究開発の総合的推進に関する施策の例


(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
ア 独立行政法人国立環境研究所
第2期中期計画に基づき、4つの重点研究プログラムを重点的に進めるほか、基盤的調査・研究、知的研究基盤の整備等の環境研究を推進していきます。また、環境情報の提供を進めます。
イ 国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関するわが国の経験の蓄積を活用し、WHO協力センターとしての活動、海外の水銀汚染に関する調査研究等の国際協力を行うとともに、水俣病発生地域に所在するという特性を生かした研究を実施しており、特に、平成18年度からは水俣病被害者やその家族の高齢化が進展する中で喫緊の課題となっている介護予防や胎児性水俣病患者への取組を進めます。また、水俣病情報センターにおいては、資料の収集・整理・提供を実施します。

(3)公害防止等に関する調査研究の推進
環境省に一括計上する平成18年度の関係行政機関の試験研究機関の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額10億4781万円です。8省庁19試験研究機関等において、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等幅広い領域にわたり、64の試験研究課題を実施します。その内容は表7-6-2のとおりです。

表7-6-2	公害防止等に関する調査研究


(4)地球環境研究に関する調査研究等の推進
地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定し、調査研究、観測・監視等の総合的な実施体制を確保します。また、地球温暖化の現状把握と今後予想される自然や社会・経済の影響、それらに的確に対応するための各種技術や方策について、政府一体となって戦略的・集中的に調査研究を行います。
「地球環境研究総合推進費」については、引き続き学際的、国際的な観点から地球環境研究の総合的な推進を図ります。
また、地球温暖化の防止に関する研究の中でも、特に政府としての推進・調整が重要である関係行政機関等の行う研究を、政府として強力かつ効果的に進めます。

(5)基礎的・基盤的研究の推進
環境技術開発等推進費による「基礎研究開発課題」等に対して引き続き研究開発を支援することにより、環境研究・技術開発の推進を図ります。

(6)地球環境に関する観測・監視
観測・監視については、世界気象機関(WMO)の全球大気監視(GAW)計画の一環として、温室効果ガス、CFC、オゾン層、有害紫外線等の定常観測を引き続き実施するとともに、日本周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を継続します。
災害状況把握等を行うことを目的とした陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の運用、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)、全球降水観測(GPM)計画主衛星に搭載する二周波降水レーダ(DPR)、気候変動・水循環を全球規模で継続的に観測する衛星システムである地球環境変動観測ミッション(GCOM)搭載センサの開発等、人工衛星による観測・監視手法等の開発利用を一層推進します。また、文部科学省の海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を引き続き推進するとともに、深海地球ドリリング計画を推進し、地球規模の諸現象の解明・予測等の研究開発を推進します。さらに、地球規模の高度海洋監視システムの構築を目指すARGO計画を引き続き推進します。「地球観測システム構築推進プラン」では、競争的研究資金制度のもと、地球観測システムの構築に貢献する研究開発事業等に効果的に取り組んでおり、地球温暖化・炭素循環分野及びアジアモンスーン地域水循環・気候変動分野等における研究開発事業を推進します。
第48次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、南極地域において、地球環境や地球システムに関する各種のプロジェクト研究観測とモニタリング研究観測を実施します。また、南極地域観測の継続のため、南極地域観測船「しらせ」後継船等の建造を引き続き推進します。
地球変動予測研究については、地球温暖化分野で、統合的な観測を推進するため、関係府省・機関からなる連携拠点を立ち上げ、環境省と気象庁が共同で事務局を設置します。連携拠点では、政策ニーズを踏まえた地球観測を、国際的な連携のもと統合的・効率的に推進する体制整備に貢献します。また、温暖化影響に対して脆弱なアジア太平洋地域の途上国における監視・影響評価を推進することにより、途上国の取組に寄与し、気候変動対策に係る将来の国際枠組み構築にも貢献します。また、引き続き、世界最高性能のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等を推進します。
全国の気象官署における観測開始以降の観測資料の利用を促進するなど、地球温暖化の状況等に関する調査研究を推進し、地球温暖化予測の精度向上を図ります。また、国内の影響・リスク評価研究のさらなる進展のため、日本付近の詳細な気候変化のより精度の高い予測結果を更新・提供していきます。また、GPS装置を備えた検潮所において精密型水位計による地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続します。

(7)廃棄物処理等科学研究の推進
総合科学技術会議の「ごみゼロ型・資源循環型技術研究イニシャティブ」に基づき、引き続き競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、研究事業及び技術開発事業を実施します。
研究事業については、「循環型社会構築を目指した社会科学的研究」、「効率的で信頼性のある静脈物流の構築に関する研究」、「アスベスト問題解決をはじめとした安全、安心のための廃棄物管理技術に関する研究」を重点テーマとし、社会的・政策的必要性に応じた廃棄物処理等に係る研究を推進します。
技術開発については、「廃棄物適正処理技術」「廃棄物リサイクル技術」「循環型設計・生産技術」の各分野において実用性、経済性が見込まれる次世代を担う廃棄物処理等に係る技術の開発を図ります。
また、廃棄物の無害化処理と再資源化を図るとともに、影響・安全性評価及び社会システム設計に関する研究開発を産学官の連携で行う「一般・産業廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト」を引き続き推進します。

(8)環境保全に関するその他の試験研究
環境省では、ナノテクノロジーを活用した環境技術開発を引き続き推進し、5年程度での実用化を目指します。
警察庁では、よりきめ細かな信号制御を行い交通の円滑化を図るため、平成18年度から、プロファイル信号制御方式による信号制御高度化モデル事業を実施し、その結果を踏まえて全国整備のあり方について検証します。
総務省では、電磁波を利用した地球環境観測技術の研究について、GPM搭載2周波降水レーダの開発、ライダーによるCO2観測技術の研究を実施します。また、風速や大気汚染物質等の環境情報を都市規模で詳細に計測するセンシングネットワークの研究を開始し、天候等に左右されずに災害把握に効果があるレーダを使用した高精度地表面技術可視化技術の研究開発を実施します。
また、ブロードバンドインターネットの普及による情報通信ネットワーク設備の大容量化に伴って増大する電力需要を抑制するため、光の属性を極限まで利用するフォトニックネットワーク技術による、低消費電力光ネットワークノード技術等、極限光ネットワークシステム技術の研究開発に着手します。
国土交通省では、ライフサイクル(製造から廃棄までの全期間)を通じたCO2と廃棄物に関する建築物の環境性能を定量的に評価する手法の開発、及びその対策技術の開発、効果的なヒートアイランド対策の推進のために、都市空間に様々なヒートアイランド対策を導入した場合の総合的な効果を定量的に評価可能にするシミュレーション技術の開発等を引き続き実施します。
また、下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT21)において、下水汚泥有効利用の新技術開発を図る下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)を、平成17年度から20年度の最大4年間で集中的に技術開発を行います。
また、次世代内航船(スーパーエコシップ)の普及を図るとともに、より環境負荷低減効果の大きいスーパーエコシップ技術の一層の研究開発を引き続き実施します。また、超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)について、引き続き普及促進を図ります。さらに、船舶からの大気汚染防止を図ることを目的に、排出ガスに含まれるSOxを大幅に削減する活性炭素繊維(ACF)を活用した高機能排煙処理システムや、NOx及びCO2の排出を同時に削減させる超臨界水を活用した舶用ディーゼル燃焼技術といった新たな環境負荷低減技術の研究開発を引き続き実施するとともに、クリーンエネルギーである天然ガスの供給拡大に寄与する天然ガスハイドレート(NGH)輸送船の開発を推進します。
農林水産省では、環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発として、地球温暖化が農林水産業に与える影響を、将来予測を含めより高度に評価するための研究開発を新たに行い、農林水産生態系の炭素循環の解明などを進めます。そして、eDNA(土壌より直接抽出したDNA)の解析により、土壌中の微生物多様性を把握し、土壌の生物性を評価するための基盤技術の開発についても新たに取り組みます。また、種々のバイオマスの変換・利用技術の開発とバイオマスの総合利用による地域循環システムの実用化に関する取組を引き続き強化するとともに、流域圏における水・物質循環の機構及び農林水産生態系の機能の解明による流域圏環境の総合的管理手法の開発、農林水産生態系における有害化学物質の動態把握と生物・生態系への影響評価と分解・無毒化等を通じたリスク低減技術の開発、アジアモンスーン地域における水循環変動を考慮した食料需給モデルの開発、水循環変動の影響の評価・予測、変動の影響を最小化するための対策シナリオの策定等を引き続き推進します。
経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料や高機能タンパク質等の高付加価値物質を生産する高度モノ作り技術や、廃棄物や汚染物質の生分解・処理技術の開発を拡充するとともに、生物機能を活用した物質生産に係る実用化開発を推進する観点から、「バイオプロセス実用化開発プロジェクト」を引き続き実施します。また、これらの開発を支える基盤整備のための生物遺伝資源の収集に係る技術開発や、バイオテクノロジーの産業利用における安全管理充実のための遺伝子組換え体のリスク管理に関する基盤研究等を引き続き実施します。

2 調査研究、監視・観測等に係る国際的な連携の確保等


(1)戦略的な地球環境の調査研究・モニタリングの推進
平成17年2月の第3回地球観測サミットで採択された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」に基づき、地球観測に関する政府間会合(GEO)の執行委員会国、GEOSSの全体構成を検討する構造・データ委員会の共同議長国として、GEOSS構築に向けた取組に積極的に貢献します。また、16年に総合科学技術会議において取りまとめられた「地球観測の推進戦略」に基づき、関係府省の連携の下、実施方針を毎年策定し、地球観測を行っています。
統合地球観測戦略(IGOS)パートナーシップにおいて、現在、8つのテーマ(海洋、大気化学、炭素循環、水循環、陸域災害、沿岸/サンゴ礁、雪氷圏、陸域)のもと、全球海洋観測及び全球水循環観測等が実施段階となっており、熱帯降雨観測衛星(TRMM)及び米国地球観測衛星(Aqua)の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)等による観測データを活用し、積極的に国際的な観測・監視計画に貢献します。
WMO温室効果ガス世界資料センターとして全世界の温室効果ガスのデータ収集・管理・提供業務を、WMO品質保証科学センターとしてアジア・南西太平洋地域における観測データの品質向上に関する業務を、さらにWMO全球大気監視較正センターとしてメタン等の観測基準(準器)の維持を図る業務を引き続き実施します。さらに、黄砂に関する情報及び有害紫外線に関する情報の発表を継続します。
全球気候観測システム(GCOS)等が推進する気候変動の検出、影響監視等のための総合的な観測システム構築に積極的に参加するほか、ドイツ気象局と共同で実施している世界の地上気候データのリアルタイム収集やその品質などを監視するGSN監視センター(GSNMC)の業務を推進します。
アジア太平洋気候センターを通じて、アジア太平洋地域各国気象機関に対し基盤的な気候情報を引き続き提供するとともに、その内容の改善と拡充を図っていきます。また、気候業務に関する研修・ワークショップ等の開催を通じて、域内各国の人材育成に協力していきます。
さらに、VLBIや、GPSによる国際共同事業に参画し、グローバルな地殻変動等を観測するほか、これと験潮・絶対重力観測等を組み合わせて地球規模の海面変動の監視等を行います。
化学物質についても、東アジア地域における残留性有機汚染物質(POPs)の汚染実態の把握を目的としたモニタリングを、引き続き主導的役割を果たしつつ強力に推進します。

(2)国際的な各主体間のネットワーキングの充実、強化
アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)の枠組みを活用し、平成17年に策定された、APNの第2次戦略計画に基づいて、神戸市内のAPNセンターを中核として、地域内の研究活動等の支援を積極的に行います。特に、日本がヨハネスブルグ・サミットにおけるパートナーシップ・イニシアティブの一つとして提唱した「持続可能な開発のための科学的能力向上プログラム(CAPaBLE)」を着実に推進します。
また、GEOSS10年実施計画に基づき取り組んでいる、アジア太平洋地域の地球観測と能力開発ニーズにかかわる研究支援について、APNが貢献する方向性を探っていきます。
世界155の国・地域の国家地図作成機関と協力し、引き続き地球地図を整備・提供するとともに、地球地図データの更新のための技術開発を行います。また、国連アジア太平洋地図会議の決議に基づき、アジア太平洋地域の各国と協力しつつ、引き続き基盤的地理情報の整備、国際共同観測プロジェクト等を推進していきます。
アジア太平洋環境イノベーション戦略プロジェクト(APEIS)については、引き続き、第IIフェーズのなかで、持続可能な開発に資する政策オプションの研究を推進します。また、気候変動影響評価モデルに関する研修・ワークショップ等の開催を通じて、域内各国の人材育成に協力していきます。

3 技術の振興


(1)環境技術の開発支援
環境省では、環境技術開発等推進費において、大気中アスベスト濃度の迅速な測定分析技術等、アスベスト飛散抑制対策に資する技術の研究・開発を対象とする研究開発領域を創設するとともに、実用化研究開発課題等に対して引き続き研究開発の支援を行います。
また、地球温暖化対策に資する技術開発事業を引き続き実施するとともに、新たな地球温暖化対策技術の開発・実用化・導入普及を進めます。
地球温暖化対策技術開発事業(競争的資金)は、「LEDの材料開発等低コスト化技術の開発」、「小規模かつ高効率なバイオマスエネルギー転換システムの開発」、「エリアエネルギーマネジメントシステムの開発・実証」を重点テーマとして実施します。また、製品開発段階に移行した温暖化対策技術について、民間事業者等における当該技術の市場投入を促進するための支援も併せて行います。
環境技術実証モデル事業では、一部の技術分野について受益者負担を導入し、望ましい技術実証の手法・体制を確立することで、引き続き先進的環境技術の普及に向けた取組を推進します。
また、さらなる環境測定分析の精度向上等を目指して、引き続き地方公共団体の環境測定分析機関等を対象とした環境測定分析統一精度管理調査を実施します。

(2)技術開発等に際しての環境配慮及び新たな課題への対応
先端技術に関する環境保全施策を推進するため、引き続き、バイオテクノロジーと環境保全に関する基礎的な調査を行います。また、「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」に基づき、事業者の求めに応じて、事業者の作成した浄化事業計画が、本指針に適合しているか否かについて確認を行う等、引き続き適切な制度の運用を行います。

4 国による基盤整備等

文部科学省においては、大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所が地球環境問題の解決に向けて実施する人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を総合化する研究プロジェクトなど、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や研究施設の整備・充実への支援を行います。また、科学研究費補助金や私立大学との環境分野等の共同研究を支援する学術フロンティア推進事業等により、環境に関する基礎研究を推進します。
環境省においては、大気粉じん等の環境試料や絶滅のおそれのある生物の細胞・遺伝子を長期保存し、環境研究の知的基盤としていくための「環境試料タイムカプセル化事業」を引き続き実施します。

5 地方公共団体、民間団体等における取組の推進

地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動も活発に推進しています。
また、これらの地方環境関係試験研究機関との緊密な連携を確保するため、地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するほか、環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進を図ります。

6 成果の普及等

地球環境保全等試験研究費、地球環境研究総合推進費、廃棄物処理等科学研究費等の競争的研究資金により実施された研究成果について、引き続き、広く行政機関、民間企業等に紹介し、その普及を図ります。


前ページ 目次 次ページ