課題名

B-8 大気の酸化能と温室効果ガスの消滅過程をコントロールする反応性大気微量気体の大気質へのインパクトに関する研究

課題代表者名

畠山史郎 (独立行政法人国立環境研究所大気圏環境研究領域大気反応研究室)

鷲田伸明 (環境省国立環境研究所地球環境研究グループ)(平成11,12年度)

研究期間

平成11−13年度

合計予算額

83,880千円(うち13年度 26,758千円)

研究体制

(1)NOy化学種の生成・変質・除去過程の研究

  .僉璽キシナイトレートの生成消滅と、熱帯域の光化学汚染に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所)

 NOy化学種の吸着、表面反応に関する研究

(独立行政法人産業技術総合研究所、同志社大学)

  高級アルコキシラジカルとナイトレート生成に関する研究

(独立行政法人産業技術総合研究所、豊橋技術科学大学)

 ぁ〕機硫黄化合物の光酸化反応に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所)

(2)NOy、オゾン、エアロゾル等の離島における地上観測研究

  ヽね寮気団領域における地上観測研究

(独立行政法人産業技術総合研究所)

 ◆々皹洞僧琉茲筏っ銚鯊緡琉茲砲ける地上観測研究

(独立行政法人国立環境研究所、大阪府立大学)

研究概要

1.序

 地球温暖化の解析を行うには温室効果ガスによる効果とともに、エアロゾルによる温暖化、寒冷化の両面を捉えることが必要である。2001年に報告された新しいIPCCのレポートでは、今でも不確定性が高いファクターとしてエアロゾルが大きな地位を占め、特に有機エアロゾルが重要なファクターとして新たに加えられた。

 地域的な規模にとどまらず、東アジアは現在世界でも有数の大気汚染物質放出地域であり、ここからの大気汚染物質の流出が、東アジア・北西太平洋地域の大気環境に大きな影響を及ぼしているだけではなく、地球温暖化物質の面からも酸性雨原因物質の面からも、いまや世界の大気環境に重大なインパクトを与えている。この地域の大気の特徴は、莫大な人為起源大気汚染物質とともに自然起源汚染質(たとえば天然炭化水素等)も高い割合で含まれていること、寒帯から熱帯までの広い気候領域が含まれていること、硫黄酸化物系汚染質の寄与が大きいこと、窒素酸化物系汚染質の寄与が増大していること、黄砂のような不均一反応の場となるエアロゾル粒子の輸送があることなどであり、欧米とは異なるこの地域特有の化学過程が存在する。自然起源の有機硫黄化合物もエアロゾルの生成に重要な役割を果たしている。このような、地域特有の化学過程はその重要性にもかかわらず、まだほとんど研究されていない。

 一方、アジア地域においても対流圏オゾンの濃度や、エアロゾルの分布や化学組成の変化は重要な環境変動要因となっているものと考えられる。また、前記のような窒素酸化物系汚染質の増加は特に大気化学過程に大きな影響を与えるものであり、これとオゾンやエアロゾルの空間分布を捉えることは対流圏大気化学全般にとっても非常に重要である。モンスーンなどの自然要因と、増加する大気汚染物質の排出や進行する大陸での砂漠化に対応した黄砂の増加など人為的な要因とが複雑に絡み合っている地域でもあり、時間のかかる仕事ではあるが、確実に把握しておかなければならない問題が多い。

 

2.研究目的

 以上の観点から、東アジア・北西太平洋地域に特有の大気化学過程を解明し、対流圏大気環境の現状を把握することは緊急の必要性を持っている。そこで本研究では次のような次のような諸点を明らかにすることを目的とした。

(1)大気の酸化能など大気化学過程を支配する最も重要なNOy化学種の生成過程、大気中での変質過程、及び除去過程の研究。特に、今後深刻化すると懸念される熱帯地域での光化学大気汚染現象の予測。黄砂や天然炭化水素の影響の大きいアジア地域の特性から、表面での反応に着目したNOyの反応性の解明、高級アルコキシラジカルの検出及びNOとの反応機構の検討、芳香族炭化水素からの有機エアロゾル生成の温度依存性の評価、海洋に由来する有機硫黄化合物からのエアロゾル生成およびハロゲン原子とオゾンとの反応の解明。(2)大気の酸化能を支配するNOy化学種と、その大気化学反応によって生成し、重要な酸化性物質でありかつ温室効果ガスである対流圏オゾンの分布を明らかにすること。またその前駆物質である炭化水素類の動態を把握すること。特に大陸の影響と海洋性気団の影響を明確にとらえること。

 

3.研究の内容・成果

 

(1)NOy化学種の生成・変質・除去過程の研究

 .僉璽キシナイトレートの生成消滅と、熱帯域の光化学汚染に関する研究

光化学オゾン生成に対する温度依存性:1770℃の温度範囲でトルエンの光酸化反応における光化学オゾンの生成量(最大オゾン濃度、[O3]max)に対する温度依存性を大型光化学チャンバーを利用して測定した。オゾン生成時間はプロピレンの場合と同様、トルエンの光酸化においても、温度の上昇と共に短縮される事が確認された。これは、HO2NO2HO2 + NO2反応が加速される事により、反応初期のHOxラジカル濃度が増大する事で説明できる。一方、プロピレンやアルカン類の場合、光化学オゾンの最大濃度は温度に殆ど依存しないのに対し、トルエンからのオゾン生成では温度が上昇すると最大オゾン濃度が減少する傾向を見出した。最大オゾン濃度に対する温度依存性の要因を、簡略化した化学モデルで解析した。観測された最大オゾン濃度に対する温度依存性はトルエンの光酸化開始反応であるOHラジカル反応の反応経路(OH付加反応と水素原子引き抜き反応)の分岐比に対する温度依存性に加えて、OHラジカル反応の主要なチャンネルで生成するOH付加ラジカル(MHCHD)の後続反応に対する温度依存性(MHCHD+O2«MHCHD×O2平衡反応の温度依存性)によって説明し得ることがわかった。上記の仮説を確かめるために、MHCHDラジカルと同じく共鳴安定化したラジカルと酸素分子の反応に関して、その平衡反応の温度依存性を速度論的手法で測定し、MHCHDO2の平衡が室温で十分に起こり得る事を確かめた。 

光化学エアロゾル生成:トルエンの光酸化反応で生成する2次エアロゾル濃度を照射時間の関数として測定した。測定結果はエアロゾル生成には時間的遅れがあり、その遅れは光化学オゾン生成と関連がある事が認められた。トルエンの消費量に対するエアロゾルの生成量を簡略化した反応スキームで解析した結果、エアロゾル生成に対し、トルエン光酸化の初期生成物と光化学的に生成するオゾンとの反応が重要である事が分かった。これは従来の光化学反応モデルで用いられている二次エアロゾル生成反応スキームとは異なるもので、エアロゾル生成とオゾン生成がリンクしている事を初めて示したものである。 

植物起源有機化合物の光酸化とその大気質へのインパクト:最近大気中で高い濃度が観測されている植物起源有機化合物である2-メチル-3-ブテン-2-オール(MBO232)の光酸化の大気質へのインパクトを、反応生成物の同定と生成収率、光化学オゾン生成、エアロゾル生成の立場から、代表的な植物起源炭化水素であるイソプレンと比較した。その結果、MBO232は上部対流圏での有力なHOxソースと考えられているアセトンの生成源となりうる事、イソプレンに比べ、効率よく光化学オゾンを生成し得る事、エアロゾル生成効率は低い事、が明らかとなった。

 

NOy化学種の吸着、表面反応に関する研究

 気固界面での不均一過程がNOyの大気挙動において果たしている役割を評価するため。PANや硝酸など比較的不活性といわれているNOy化学種の、エアロゾル等への吸着による除去、またはエアロゾル表面での不均一反応による亜硝酸など活性なNOyへの変換過程について検討した。パージ法により、PANのヘンリー定数と加水分解速度を主要な溶存成分が共存した条件で測定した結果、水への溶解は有意な大気中過程でないことがわかった。また、硝酸の拡散反射可視紫外スペクトルが、粘土鉱物に吸着した場合長波長側にシフトすることがわかった。大気中の粒子と反応性気体の動的濃度変化、それら反応性気体の凝縮、核生成、および粒子の凝集を修正したGDEREMECHによるモデルに従って数値的にシミュレートし、NOyに関連した大気中での微粒子反応性・相互作用の予測を行った。相対湿度により、エアロゾル粒子へのNOy大気汚染物質の除去量の増加することがわかった。

 

 

 高級アルコキシラジカルとナイトレート生成に関する研究

 アルコキシラジカル類似の構造を持ち、燃焼・大気化学的に重要な反応中間体であるビノキシラ

ジカル(CH2CHO)ついて、酸素分子との反応速度を測定し、生成物を定量した。反応速度定数は10-200Torrの範囲で圧力に依存し、fall-off領域にある。測定された速度定数は、過去に測定された比較可能な値と良い一致を示したが、異なる方法を用いて測定された比較的広範囲の圧力領域で測定された別の報告値とは相異がある。この反応による生成物としてヒドロキシラジカル(OH)が検出された。OHの生成速度はCH2CHOと酸素分子の反応速度とほぼ一致し、直接的な生成物である事が示唆された。OHラジカルの定量を行い、OHラジカル生成経路の反応分岐比を求めたところ、10-40 Torr 0.2-0.1 程度と推定された。OHラジカルの生成量は圧力に依存し、高圧になるほど減少した。これは、OHラジカルの生成経路がビノキシラジカルと酸素分子の再結合反応で生成されるホルミルメチルペルオキシラジカルの第三体による安定化経路と競合していることを反映していると考えられる。このように、ビノキシラジカルと酸素分子の反応はアルコキシラジカルよりむしろアルキルラジカルに類似した反応経路を示すが、室温程度の低温度領域においても直接的なラジカル再生過程が存在する点がアルコキシ・アルキルラジカルとは異なり、大気化学モデリングに一定の影響を与える可能性がある。

 

ぁ〕機硫黄化合物の光酸化反応に関する研究

 大気中における有機化合物の光酸化反応の機構を検討するために、光化学反応ボックスモデルおよび光化学チャンバー実験の両面から大気中での反応を調べた。

 まず、最初に光化学ボックスモデルを構築し、プロペン−NOx−空気系光化学反応の実験データが再現できることを確認した。さらに、この基本モデルに塩素原子の反応を加えて、光化学スモッグ反応に塩素原子が加わったときに、光化学オゾンの生成にどのような影響が現れるかを検討し、光化学チャンバーを用いたプロペン−NOxCl2−空気系の光照射実験の結果を定性的に再現することができた。

 次に、大気中におけるエアロゾル生成反応として重要な有機硫黄化合物の光酸化反応を調べた。DMSの気相酸化反応をNOxの存在下及び非存在下に行った。NOx過剰の条件下では大量の粒子の発生が見られた。粒子生成は必ずしも高湿度でなくてもみることができた。このことは不均一過程のみが粒子生成に与っているのではないことを示している。メタンスルホニルペルオキシナイトレートが粒子を形成する。この化合物が海洋周辺の低汚染地域で生成しているものと考えられる。

 DMS及びDMSO両方の気相酸化において新たな粒子を生成するソースとしては、SO2が最も重要である。SO2の酸化はH2SO4形成を経由して進行し、次に均一又は不均一核形成が起こることがわかった。エアロゾル形成への温度の影響を調べたところ、NOx不在下では、温度が298Kから318Kに上昇すると、粒子形成の抑制が確認された。化学的特性からというよりも、核形成過程及び副産物の分割取り込みに関連する物理的特性からの方がよく説明できる。

 これらの結果、海洋境界層における雲凝結核の形成及び生長成長のイメージが、明確になった。

 

(2)NOy、オゾン、エアロゾル等の離島における地上観測研究

  ヽね寮気団領域における地上観測研究

 東アジアからの大気汚染物質が、北西太平洋上の清浄大気に与える影響、特にエアロゾル粒子の光学特性の変動を掌握する目的で、小笠原諸島父島において地上観測を実施した。これまで集積された観測データの解析を進め、地上オゾン濃度変動の要因について後退流跡線解析を実施、またパーティクルカウンタの出力粒径値に対するエアロゾルの複素屈折率の影響などを調べた。検証作業を経た後、パーティクルカウンタで測定された粒径分布を対数正規分布にフィッティングさせ、"大陸起源気団に影響された海洋性エアロゾル"のモデル化に必要なパラメータを得た。さらに、春期に卓越する土壌粒子とblack carbonなどの汚染物質の同時輸送時における双方の粒径分布を調べるため、ロープレッシャー・インパクターによる粒径分別捕集を実施した。

 Aethlometerに測定されたBC濃度から換算された吸収係数と、積分型Nephelometerにより得られた散乱係数より単一散乱アルベドが計算され、アジア大陸起源の単一散乱アルベドが0.8前後の強吸収性のエアロゾルが北西太平洋地域に間欠的に輸送されていることが判明した。大気エアロゾルの消散係数を気柱全体にわたって鉛直積分した値である光学的深さは春期に最大値を持つ季節変動を示し、地上におけるBCなどの汚染物質濃度とは位相が僅かに異なっていた。

 BC濃度の変動は、実際には46日程度の周期での通過する汚染気塊によってもたらされており、10月から6月初旬までの高濃度期にはこのような気塊の通過頻度が高いとともに気塊中のBC濃度も高い。一方、夏季の北太平洋高気圧の支配下ではエアロゾル濃度の低い清浄期であるが、ときおり汚染気塊が流入してくることがあった。高濃度期、または清浄期においても汚染気塊が流入した場合、パーティクルカウンタのデータから推定した粒径分布曲線では0.2mm付近にモードを持つ微小な粒子が卓越していた。

 

◆々皹洞僧琉茲筏っ銚鯊緡琉茲砲ける地上観測研究

 東アジア縁辺地域は大陸性気団と海洋性気団の影響を交互に受け、大陸からの吹き出し流による汚染が懸念される地域である。本研究では、日本海の隠岐島及び東シナ海と太平洋を分ける沖縄本島において、大気の酸化能や温室効果ガスの寿命をコントロールする含窒素酸化物や炭化水素類などの大気中の反応性微量気体の連続観測を通じて、これら微量気体の動態解明を行った。

 含窒素酸化物のうち、パーアセチルナイトレート(PAN)や有機硝酸エステル類は本来、汚染・発生源のない清浄地域まで窒素酸化物を輸送する担体化合物である。したがって、東アジア大陸からの窒素酸化物汚染が大陸縁辺地域及び太平洋全域に及ぼす影響を把握するための重要な指標物質であり、また地球規模での光化学オゾン生成の前駆物質として対流圏大気化学反応の中で重要な役割を果たす物質でもある。そのため、本研究ではPANの動態把握のために、その自動濃縮・分析システムを製作し、隠岐島で連続測定を試みた。また、窒素酸化物と同様に、対流圏大気化学反応を促進させる役目があり、大気の人為汚染質の指標物質でもある炭化水素類の動態把握のために、沖縄本島最北端の辺戸岬近傍で大気を自動連続採取し、炭化水素類の測定を行った。

 隠岐島で測定したPANの日内変動を調べた結果では、有意な濃度変動は認められなかった。発生源近傍でおこる都市型光化学スモッグ現象においては、光化学反応が進行した午後に極大となる日内変化を示すが、隠岐島での測定では濃度変動が認められなかったことから、隠岐で測定されているPANはその場で生成したものでなく、発生源近傍で生成したPANが大陸から長距離輸送されてきた結果であると推定した。

 北西風の卓越する12月から4月にかけてのPANの月平均濃度は約2030pptで、変動幅も5から15pptと相当小さかった。このことは北〜北西方面のアジア大陸北部の比較的人為汚染の少ない大気が冬場の隠岐に支配的に入ってきていることを示唆していると思われるが、突発的に100pptを越えるPANが測定されることもあり、アジア大陸中緯度の汚染大気も流入してくることが推測された。なお、この高濃度の観測時は、これまでの飛行機観測で観測された日本海上空での高濃度PANの測定時と同様な大気の動態状況であったと思われる。

 沖縄本島辺戸岬における軽炭化水素類の連続測定結果から、これらは夏季に低濃度になり、冬季に高濃度となる季節変動を示すことがわかった。流入大気の後方流跡線解析から夏場には太平洋中央部からの海洋性大気の流入が支配的であり、冬場は西北からの大陸性大気の流入が支配的であることがわかった。この季節による流入大気の違いと、大気の光化学活性の違いによる炭化水素類の大気中寿命の違いが、このような夏に低く、冬に高い季節変動の原因であると推定した。このような大きな季節変動だけでなく、同一季節においても気団の入れ替わりによる数日程度の濃度の周期的な変動も観察された。また、炭化水素類が高濃度を示す大陸性大気が流入したときには、同時に測定しているオゾン濃度も同期して高濃度を示していた。このことから、反応性気体濃度の高い大陸性大気は酸化能も大きく、結果としてオゾン生成能も大きくなっていることがこの観測から裏付けられた。

 

4.考察

 地球温暖化(冷却化)に対してエアロゾルが重要な役割を果たしていることは大部分の研究者が認める所である。しかしエアロゾルの気候影響に関するデータはまだ少ない。特に、2001年のIPCCの報告書に初めて盛り込まれた有機エアロゾルに関する情報はきわめて限られている。その生成機構や温度の影響など、気候モデルに組み入れる前に解明しておかなければならない問題である。

 また、20世紀から21世紀にかけての地表オゾンの増加は、中国南部から東南アジア、インドなどの高温多湿な地域において顕著に現れると予測されている。これらの地域では、SO2などの酸性雨原因物質の排出も多く、自然起源の炭化水素の放出量も多いなど、従来精力的に研究が行われてきた北米や欧州などの冷涼地域とは明らかに異なる環境条件を有している。アジアにおける大気環境の変化はアジアにとどまらず、世界の気象にも重大な影響を及ぼすことは周知のことである。従って我々も、アジアの大気環境の改善が世界の環境の改善に結びつくものであることを意識しておく必要がある。          

 本研究では、このような状況に基づき、大気の酸化能をコントロールする酸化性化学種の生成消滅反応およびエアロゾルの生成に関する室内実験と、アジアから太平洋にかけての大気質の変動を、大陸性気塊と海洋性気塊に含まれるオゾンとその前駆体となるNOyや炭化水素、およびエアロゾルの変化から観察する野外観測との二種類の研究を行った。

 前者では、光化学オゾン生成に対する温度依存性、特に芳香族炭化水素の光化学反応の温度依存性についてモデルによる検討を進め、従来の反応機構だけでは説明できないため新しい反応機構の可能性を調べた。さらにエアロゾル生成の機構を検討した。その結果、OHラジカルが付加してできた中間体にオゾンが関与する反応機構が明らかになった。これは従来の光化学反応モデルで用いられている二次エアロゾル生成反応スキームとは異なるもので、エアロゾル生成とオゾン生成がリンクしている事を初めて示したものである。

 また自然起源の硫黄化合物であるDMSは重要なエアロゾルソースであると考えられてきた。これについても光化学反応の温度依存性、湿度の効果、NOx存在量の影響などを検討し、沿岸地域においてDMSが重要なエアロゾルの発生源となりうることを明らかにすることができた。従来エアロゾルのソースと考えられていたメタンスルホン酸は新粒子形成には与らないことがわかった。 大気中では粒子表面などにおける不均一反応が重要な役割を果たすことが多いが、その解析に必要となる溶解現象の温度依存性に対するデータが得られた。PANや硝酸など比較的不活性といわれているNOy化学種の、エアロゾル等への吸着による除去、またはエアロゾル表面での不均一反応による亜硝酸など活性なNOyへの変換過程について検討した。またこれまで直接的な方法による信頼性の高いデータのなかった高級アルコキシラジカルの反応速度定数が、レーザー誘起蛍光法による直接的手法によって精度高く求められた。これらの研究から芳香族炭化水素や有機硫黄化合物(いずれも重要な有機エアロゾルのソースである)からの有機エアロゾルの生成に関与する重要なプロセスが明らかになった。またさらに、エアロゾル表面などの不均一な場における反応を解析する為の手法が整えられつつある。

 一方、沖縄及び小笠原における地上観測の結果は、炭化水素やエアロゾルに対しても大陸性の気塊と海洋性の気塊による違いが顕著に現れることを示した。東アジアにおける経済発展が、大気汚染物質の人為的放出の増大をもたらし、これが太平洋からさらには世界全体の気候にも影響を与えることが懸念されている。本研究に基づく観測ではこのような大陸起源のNOy化学種とその光化学生成物であるオゾンやエアロゾルの変動をもとに、この地域の大気の酸化能の変化を解析した。大陸起源気団に影響された海洋性エアロゾル"のモデル化に必要なパラメータを得ることができた。また、沖縄における炭化水素の観測からは、同一季節においても周期的な濃度の変動が認められたが、これは気団の入れ替わりによる結果であり、流入大気の後方流跡線解析結果から、大陸性大気が流入してきた時に高濃度を示すことがわかった。この傾向はオゾンでも同じであり、反応性気体濃度の高い大陸性大気は酸化能も大きく、オゾン生成能も大きいことが観測から裏付けられた。日本を含む北西太平洋上空の大気は、少なくとも冬季には東アジアからの輸送の影響を大きく受けていることが明らかであり、今後広域モデルを用いた総合的な解析と、東アジアの発展途上国に適した大気汚染対策の供与・普及が非常に重要である。

 

5.研究者略歴

 課題代表者:畠山史郎

 1951年生まれ、東京大学理学部卒業、理学博士、現在国立環境研究大気圏環境研究領域大気反応研究室長

 主要論文:Hatakeyama, S., I. Uno, K. Murano, H. Mukai, and H. Bandow : J. Aerosol Res. Jpn., 17, 39-42 (2002)

 "Analysis of the Plume from Mt. Sakurajima and Kagoshima City by Aerial Observations of Atmospheric  Pollutants and Model Studies -- The IGAC/APARE/PEACAMPOT  Campaign over the East China Sea --"

 Hatakeyama, S. S. Sivanesan, and T. Urabe: Chem. Lett., 2001, 1248-1249.

 "Formation Mechanisms of Peroxides in the Reactions of Ozone with Cyclic Olefins in Air"

 Hatakeyama, S., K. Murano, F. Sakamaki, H. Mukai, H. Bandow, and Y. Komazaki: Water, Air, and Soil  Pollution, 130, 373-378 (2001).

 "Transport of Atmospheric Pollutants from East Asia"

 

サブテーマ代表者

(1)“山史郎

 課題代表者と同じ

 

 ◆竹内浩士

 1955年生まれ、北海道大学理学部卒業、理学博士、現在産業技術総合研究所環境管理研究部門光利用グループリーダー、

 主要論文:K. Takeuchi and T. Ibusuki: Anal. Chem., 61, 619-623(1989)

 "Quantitative determination of aqueous-phase ozone by chemiluminescence using indigo-5,5'-disulfonate"

 S. Kutsuna, K. Takeuchi, and T. Ibusuki: J. Geophys. Res., 105, 6611-6620(2000)

 "Laboratory study on heterogeneous degradation of methyl chloroform (CH3CCl3) on aluminosilica clay  minerals as its potential tropospheric sink"

 S. Kutsuna, T. Ibusuki, and K. Takeuchi: Environ. Sci. Technol., 34, 2484-2489 (2000).

 "Heterogeneous photoreaction of tetrachloroethene - air mixture on halloysite particles"

 

B膕粟橘

 1942年生まれ、信州大学繊維学部卒業 工学博士、現在産業技術総合研究所研究コーディネータ

 主要論文:M. Ohya et al.: Bull. Chem. Soc. Japan, 67, 2311 (1994)

 "Thermal decomposition of COS"

 M. Ohya et al.: J. Phys. Chem., 100, 2136 (1996)

 "Kinetic Studies on the Pyrolysis of H2S"

 M. Ohya et al.: Tech. Clean Environment, 1, 757 (1995)

 "Reduction of Nitric Oxide by Hydrogen Sulfide at High Temperatures: Combustion"

 

と山史郎

課題代表者と同じ

 

(2)仝轍貔纂

 1962年生まれ、名古屋大学大学院理学研究科卒業、理学博士、現在産業技術総合研究所環境管理研究部門主任研究員

 主要論文:古賀聖治:月刊海洋、vol.34, No. 3 (2002)

 「硫化ジメチルからのエアロゾル粒子生成」

 S. Koga and H. Tanaka: J. Geophys. Res., 104, 13735-13747 (1999)

 "Modeling the methanesulfonate to non-sea-salt sulfate molar ratio and dimethyl- sulfide oxidation in the atmosphere"

 S. Koga, I. Nagao, H. Tanaka, H. Mouri: J. Meteorol.Sci. Jpn., 77, 155-164 (1999)

 "Methansulfonate and non-sea-salt sulfate concentratioins in aerosols at Syowa, Antarctica"

 

畠山史郎

課題代表者と同じ