課題名

C-2 酸性・汚染物質の環境−生命系に与える影響に関する研究

課題代表者名

佐竹 研一 (環境省国立環境研究所地球環境研究グループ酸性雨研究チーム)

研究期間

平成8−12年度

合計予算額

178,554千円(うち12年度 24,551千円)

研究体制

【平成810年度】

(1) 根圏環境の酸性化が微生物及び養分バランスに与える影響に関する研究

(農林水産省林野庁森林総合研究所)

(2) アルミニウムの環境中動態に関する研究

  .▲襯潺縫Ε爐硫蹴愀疎屬氾攵蹇水−植物系影響機構に関する研究

(環境庁国立環境研究所、東京大学、群馬大学)

 ◆.▲襯潺縫Ε爐寮限瞭眞濱儺擇啾綣嫣乏乙々修亡悗垢觚Φ

(通商産業省工業技術院物質工学工業技術研究所)

(3) 東アジア地域における陸水魚類生態系に与える酸性雨影響評価技術の開発と応用

(農林水産省水産庁養殖研究所日光支所、農林水産省水産庁中央水産研究所、
東京大学海洋研究所、北里大学、長崎大学)

(4) 環境酸性化の腐朽菌に及ぼす影響に関する研究(環境庁国立環境研究所)

(5) 集水域の酸中和能力の評価手法の改善と応用(環境庁国立環境研究所)

【平成1112年度】

(1) 酸性汚染物質の環境中動態に関する研究

  〇誓汚染物質の化学形態と土壌・水−植物系影響に関する研究

(環境省国立環境研究所、群馬大学、筑波大学、東京女子大学)

 ◆〇誓汚染物質の生体内蓄積及び代謝阻害機構に関する研究

(経済産業省物質工学工業技術研究所)

(2) 東アジア地域における陸水魚類生態系に与える酸性雨影響評価技術の開発と応用に関する研究

(農林水産省養殖研究所日光支所、農林水産省中央水産研究所、
東京大学海洋研究所、長崎大学、北里大学)

(3) 集水域の酸中和能力の評価に関する研究(環境省国立環境研究所、弘前大学)

研究概要

1.序

 東アジア地域では近年エネルギー需要、金属資源需要の増加に伴い酸性汚染物質の排出量が急激に増大し、その生態系(環境−生命系)影響が大きな問題となっている。東アジアの生態系を構成する生物種はこれまでに酸性雨被害の報告されている欧米のそれとは異なるが、基本的に森林や湖沼や河川などの環境−生命系の中では、生物、土壌、水、大気の間で物質代謝が行われており、酸性汚染物質の影響は直接間接に及んでいることには変わりがない。酸性雨と被害の関係を明確に捕らえるためには、このような環境−生命系構成要素とその相互関係に関する基本的な理解がまず不可欠である(Satake 2001, Water Air and Soil Pollution)。本研究では生態系の理解に必要な生物地球化学的研究手法の検討開発を行う一方、酸性物質の生態系影響と言う観点から特に森林生態系の物質循環において重要な役割を果たしている微生物への影響、土壌、陸水酸性化に伴って溶出する有害金属アルミニウムの化学形態と分布、日本の陸水酸性化の予測手法の開発に基づく酸性化予測と魚類影響、そして更に、酸性汚染物質の化学形態と土壌・水−植物系影響や生体内蓄積及び代謝阻害機構、東アジア地域における陸水魚類生態系に与える酸性雨影響評価技術の開発と応用、集水域の酸中和能力の評価ならびに森林生態系に負荷される窒素化合物の動態に関しての各サブテーマについて研究を行った。

 

2.研究目的

 本研究課題では環境生命系を構成する諸要素への酸性汚染物質の影響を評価する上で、必須と考えられる項目をリストし、以下に掲げる6つの目的に添って研究を行った。

(1)樹木の衰退と酸性降下物の関係を調べる上で土壌微生物との関係を解明することは不可欠の要因である。従って、林地に人為的に窒素系の酸性物質を負荷し、土壌、土壌微生物、樹木というつながりにおいて、窒素の動きを中心にして生物の反応を調べ、酸性降下物が樹木の衰退現象に対して関与する可能性があるのか、あるとすればどのようなメカニズムであるのかを究明すること。

(2).▲襯潺縫Ε爐瞭或∧に対する毒性はその化学形態に強く依存している。そこで、アルミニウムのスペシエーションの方法を開発し、それらの方法を土壌抽出液の分析に応用し、アルミニウムの土壌中での挙動を明らかにすることが重要である。従って、アルミニウム分析用ポストカラムHPLCシステムを開発し、アルミニウム化学種をその電荷により3種類(AlLx+1AlLx2+Al3+)に分離することを可能にすると共に、8−キノリノール抽出速度法を検討し、アルミニウム化学種の動植物に対する毒性に強く影響を与えると言われているアルミニウム化学種の「反応活性度」(水和Al3+になりやすさ)を評価し、更に反応活性度が低いアルミニウム化学種が具体的にどのような性質をもつ化学種であるかを明らかにすること。

土壌の主成分であるアルミニウムはその生体に対する毒性から酸性雨による溶出の影響が問題とされているが、生体への取り込み等詳細については不明であり、酸性環境で溶出するアルミニウムの生体内への取り込みや蓄積経路等を明らかにしていくことが重要である。そこで、植物体に含まれるアルミニウムについて酸性、中性水域から水生植物を採取し染色法及びXMA法により細胞内アルミニウムの分布を調べること。

(3)環境の酸性化に対する魚類の生物応答反応を明らかにするため、“某9堝阿傍擇椶恒洞繊↓¬髪峙’修傍擇椶恒洞繊↓B兒誓機構、せ澄Ρ基平衡調節機構に及ぼす影響に関して、生理・生態学的な変化を明らかにし影響評価指標の探索を行うこと。

(4)酸性雨の病原菌や物質循環機能への影響を通して植物に及ぼす影響を明らかにするため、樹木の代表的な病原菌であるナラタケを取り上げ、ナラタケの樹木の立ち枯れへの寄与、それに及ぼす酸性雨の影響について引き続き日光及び丹沢の山岳地帯の立ち枯れ樹木に感染しているナラタケを単離し、その培養的性質について検討しA. melleaとの違いを明らかにすること。

(5)酸負荷に伴う陸水のpH低下を予測する必要があるため、現在、陸水の酸中和能を評価する手法の開発とこの手法に理論的な考察を行い、そしてこの手法を用いて、渓流河川や山地湖沼の酸中和能を予測・評価することを行うこと。

(6)杉衰退に関連する最終シナリオの構築すること。

 

3.研究の内容・成果

【平成810年度】

(1)関東平野のスギ林で衰退の見られる地点の土壌を調べたところ、pHの低下とともに硝酸態窒素の集積しているものが認められたので、苗木をこのような窒素過剰ないしは酸性化という状況においてその生育を調べたところ、このような養分環境の変化は根菌の微生物に対して影響が大きいことが明らかとなった。また微生物と共生した状態の苗木は、このような窒素過剰状態で地上部と根のバランスに変動を起こしてくることも認められた。さらに窒素過剰が進んだ状態では伸長成長の減退、針葉の含水率の変動等の症状も見られた。

 このような結果を受けて、実際の林地における窒素系酸性化物質の負荷が、林木にどのような影響を及ぼすかを平地のスギ林において調べた。2年間の処理により、土壌pHは対照に比べると低下傾向を示していた。土壌水成分では、硝酸イオンの増加(窒素量の増加)に伴ってカルシウムやマグネシウム濃度の増加が見られた。林地でも窒素化合物の処理は短期的には根圏の細菌類の増加をもたらした。また窒素化合物の処理によりスギの針葉に含まれる様々な成分の一時的な増加が見られた後に、リンやカリウムの濃度低下が見られた。一方、光合成や蒸散などの生理活性にはほとんど差が認められておらず、このような含有成分の変化が直ちに衰退につながるものか否かは不明である(山中他1999、日林論)。

(2) .▲襯潺縫Ε爐離好撻轡─璽轡腑鵑諒法を開発し、それらの方法を土壌抽出液の分析に応用し、アルミニウムの土壌中での挙動を明らかにすべく、アルミニウム分析用ポストカラムHPLCシステムを開発した。この方法を用いると、アルミニウム化学種をその電荷により3種類(AlLx+1AlLx2+Al3+)に分離することができる。またアルミニウム化学種の動植物に対する毒性に強く影響を与えると言われているアルミニウム化学種の「反応活性度」(水和Al3+になりやすさ)を評価するために、8−キノリノール抽出速度法を検討するとともに、抽出速度法とHPLC法を組み合わせることによりアルミニウムのさらに詳しいスペシエーションを試みた。一方、こうした方法の問題点として、1)結合型のAlの定量性に疑問が残る、2)アルミニウムの情報しか得られない、3)感度が不十分、等の問題もある。そこで、これらの問題の解決を期待してHPLC-ICP-MS装置の開発を行った(Tsunoda et al1997, Anal. Sci.)。この方法を用いて宇曽利湖(pH3.6)、猪苗代湖(pH5.0)および天竜川(pH7.7)から採取した水に含まれるアルミニウムのキャラクタリゼーションを行った結果、酸性湖における溶存態アルミニウムの水中での化学形態は無機能のA13+、有機物と結合しているAlL2およびAlL1+であり、水中の溶存態アルミニウムの総量は宇曽利湖0.51mgl-1、猪苗代湖で0.05mg-1、そして天竜川では0.0lmgl-1以下であること。そして宇曽利湖ではその90%以上がA13+の形で存在し、猪苗代湖ではその大部分がAlL2+の形で存在していることが明らかとなった。

◆\限瞭發離▲襯潺縫Ε爐領未多くの場合極めて微量であるため、分析上の問題があって正確な定量値が得られないことが多い(高津他1998、ぶんせき)。そこで本研究では試料の採取−前処理−分析に至る諸過程におけるアルミニウムの汚染を極力抑え、また高感度アルミニウム分析装置(ゼーマン効果バックグラウンド補正及びグラファイトファーネィス原子化装置付属原子吸光分析装置)を用い、酸性湖(宇曽利湖:pH3.4-3.8)、微酸性湖(猪苗代湖:pH5.0)及び中性河川(天竜川:pH7.0)より採取したウグイ(Tribolodon hakonensis)についての生体を構成する各組織別のアルミニウム含有量及び水中のアルミニウムの量と存在状態について測定を行った。その結果、宇曽利湖から採取したウグイの組織中のアルミニウムは湿重量当りエラの中に42μgg-1、筋肉の中に4.2μgg-1、胃の中に6.9μgg-1、肝臓の中に12.7μgg-1、腎臓の中に6.0μgg-1、そして腸の中に6.0μgg-1含まれ、特にエラの中に多量に蓄積していた。また猪苗代湖から採取したウグイの各組織中のアルミニウムの量は、宇曽利湖と猪苗代湖の間でpHや水中の溶存態アルミニウムの量や化学形態が大きく異なるにもかかわらず、宇曽利湖から採取したウグイのそれとほぼ同様の傾向を示していた。一方、中性河川である天竜川から採取したウグイのエラの中のアルミニウムの量は約2μgg-1であった。このような結果から酸性湖に分布するウグイの生体へのアルミニウムの蓄積には何らかの制御機構が存在するのではないかと考えられた(高津他1997Biomed. Res. Trace Element Analyst)。

(3)環境の酸性化が魚類の生理・生態に及ぼす影響に関し研究を推進し、死に至らない弱酸環境でもエラの塩類細胞におけるイオン代謝機能の不全、繁殖機能の低下、免疫機能の低下、忌避行動の誘発、産卵行動や母川回帰行動の抑制等が水素イオン濃度依存的に生ずることが明らかとなった。また、酸性雨影響を解析するための評価指標を実験室レベルで確立した。これらの成果は恐山湖のウグイや奥日光五色沼のドジョウ等で一部応用され始めたところであり、酸性環境中の魚類ではエラの塩類細胞に特異的な形態変化が生ずること等を発見している。またヒメマスはpH6という極めて微弱な酸性環境でも産卵行動を中止することが明らかとなり、現在我が国で降っている程度の酸性雨によっても、野外生態系では産卵行動の遅滞等により、繁殖能力が低下し資源の再生産に影響が徐々に現れている可能性が高いことが明らかとなった。この他、酸性環境は魚類に強いストレスを与え、免疫グロブリンの生産を抑えることが明らかになっており、直接魚体に影響が及ばなくても免疫力の低下により感染症等にかかりやすくなることによって、資源量に影響がでている可能性も高い(生田1998、環境技術)。

(4)‘光及び丹沢の山岳地帯の立ち枯れ樹木に感染しているナラタケに注目し、ナラタケの中でも最も感染力の強いとされ、すでに純粋培養が確立し菌株が培養保存されているArmillaria mellea株との培養比較を行った。∋誓土壌での窒素の循環について調べた。日光及び丹沢の立ち枯れ樹木から計11点のナラタケの菌糸を採取し、その培養的性質について検討した結果、これらのナラタケはPDA培地で根状菌糸束を形成せず、培地を着色するなど、感染力の最も強いArmillaria melleaの形状と大きく異なった。このことから、山岳地帯の立ち枯れ樹木に感染しているナラタケは、健全な樹木にも感染するA. melleaではないかと考えられ、衰退しつつある樹木に感染し枯死させていると推定されたが、さらに日光及び丹沢から採取したナラタケについて分類上の同定を行うため、培養を継続し同定上必須のプロセスである子実体の形成に成功しA. melleaとの違いが明確になった。しかし胞子体の形成に至らず、その同定には至らなかった。(また、硫化水素の影響で酸性化した土壌での窒素の循環過程を調べた結果、有機体窒素の無機化はpH3以下の強酸性土壌でも起こるが、アンモニアから硝酸への変化はpH3.5以下の土壌ではほとんど起こらないことが明らかになった。)(服部1999、酸性環境の生態学、環境問題と微生物)

(5)現在、酸性雨に関係する陸水の測定項目としては、アルカリ度が一般的に用いられているが、アルカリ度で陸水の酸性雨による影響を評価することは難しいことから、前年度までに陸水の酸中和能を評価する手法の開発を行った。今年度は、この手法を用いた渓流河川の酸性化の予測手法について検討を行った。段階別酸中和能における0.001Nの酸添加でpHの値が6.0以下になる場合は酸性化の可能性が大きい河川とした。このような河川においては、現時点においても降雨時等に容易にpH6.0以下になることが予測される。さらに、0.01Nの酸添加でpH6.0以上になった場合は今のところ酸性化の可能性がない河川、この間の0.001Nの添加でpH6.0以上、0.01Nの添加でpH6.0以下の範囲に入る河川は酸性化の可能性がある河川として、3段階に区分した。この評価基準を用いて、今までに調査を実施した下北半島、近畿北西部、国東半島、九州中部、屋久島の渓流河川の評価を行った。酸性化の可能性があると判断された河川は、下北半島、近畿北西部、九州中部、屋久島の渓流河川にみられた。このうち、屋久島では酸性化の可能性が大きいと判断される河川も数多くみられた。また、屋久島の河川の多くはpH6.5以下と低く、全島的に河川の酸性化が進行している可能性も否定できない結果になった(Satake et al. 1998, Environmental Pollution)。

 

【平成1112年度】

(1)-1スギの重度衰退地域(I:埼玉県)、軽度衰退地域(II:茨城県平地)、及び健全地域(III:茨城県山地)において、スギ葉を毎月採取し、見かけのクチクラ蒸散速度、エピクチクラワックス量、濡れ性(接触角)などの生理特性を分析した。また、葉面に沈着したエアロゾルを分離し、中性子放射化で分析してアンチモン(Sb)量を定量した(Takamatsu et a1., 2000, Global Env. Res.)。クチクラ蒸散速度とその葉齢に伴う増大は地域IIIIIに比べ地域Iで大きかった。エピクチクラワックスの流亡は地域IIIより地域IIIで速かった。葉齢に伴う接触角の減少は地域IIIより地域IIIで速い傾向を示した。葉面へのエアロゾル-Sbの沈着速度は、地域I≫地域II>地域IIIの順であった。クチクラ蒸散速度は、エピクチクラワックス量とエアロゾル-Sb量を変数とした一次二項式から得られる値と良い相関を示した(r0.855, P0.01)。スギの衰退が著しい地域I(埼玉県)では、葉面に沈着した多量のエアロゾルが、エピクチクラワックスの流亡を加速すると同時に気孔の機能不全(気孔の不完全閉鎖)を引き起こし、見かけのクチクラ蒸散(制御不能な蒸散)を約50%も増大させて、スギに慢性的な水ストレスを与え、衰退させていることが明らかになった(Takamatsu et al. 2001, Can. J. For. Res., Water air Air and Soil Pollution)。

-2主として、1)Alの配位子なりうるフッ化物イオンなどの無機イオンや有機酸の測定法の開発とその土壌抽出液の分析への応用、2)土壌中に含まれる代表的有機高分子であるフルボ酸とAlの錯形成平衡の解析、の2点について検討を行い、土壌溶液中のAl化学種の化学的性質を検討した(Tsunoda et al. 2000, Water Air and Soil Pollution)。

-3花崗岩の分布域は13%を占めており、その中でも斜長石に乏しくカリ長石の多い花崗岩地域や降水量の多い地域では、酸性雨の影響が現われやすいと懸念される。一方、人間活動により発生する硫黄酸化物や窒素酸化物は、大気環境、植物−土壌環境、水環境のなかで、様々な(中和)反応を行いながらその性質を変化させる。従って、酸性物質の動態は塩基性物質の動態と併せて考察する必要があり、そのためには安定同位体をトレーサーとして利用する方法が有効である。そこで本研究では、花崗岩地域に焦点をあて渓流水や土壌の性質について元素およびSr-Pb同位体をトレーサーに用いた比較と解析、特に酸性雨が多量に降る屋久島において集中的な検討を行ってきた。更に花崗岩より中和能の低い礫岩地域においても同様な検討を実施した(Nakano et al. 2001, Water Air and Soil Pollution他)。

環境の酸性化は土壌中のアルミニウムの溶出をもたらし、これらのアルミニウムの生態系に与える影響が問題とされている。本研究では環境の酸性化に伴って溶出するアルミニウムと生物との関係を明らかにするために、火山性酸性湖である宇曽利湖及び猪苗代湖のウグイ試料を用いて酸性環境に生息する生物体内アルミニウム含有量とその蓄積形態について検討を行った。特に、これまでの研究で酸性環境である宇曽利湖および猪苗代湖に生息しているウグイの各臓器のアルミニウム濃度はどちらも酸性ではない天竜川のウグイに比べて高濃度であり、特にエラ中のアルミニウム濃度が高いことを明らかにしたが、今回、さらに組織内でのアルミニウムの蓄積形態等についての検討を行うため、アルミニウムの蛍光プローブ剤を用いて、ウグイ各臓器中アルミニウムの組織内での局在を明らかにする計測方法について種々の検討を行った。その結果、アルミニウム濃度の高かった宇曽利湖および猪苗代湖のウグイのエラについて、アルミニウムの蓄積を視覚的に観察することが可能になった。また、宇曽利湖と猪苗代湖のウグイのエラでは、アルミニウム濃度でみると値はほぼ等しかったのに対し、蛍光像では猪苗代湖のウグイのエラでは局所的に強い蛍光が見られアルミニウムが局在していると考えられたのに対し、宇曽利湖のウグイのエラでは猪苗代湖と同様な局在と共に全体的に明るい蛍光像が得られ、局在のありようがやや異なると考えられた(Takatsu et al. 2000, Jap. J. Limnology)。

(2)陸水の酸性化が魚類生態系へ与える影響を解析するための評価手法を確立し、野外調査への応用を試みるため、魚類の酸性環境への応答反応を調べ、その生理・生態学的メカニズムを解析するとともに、それらを生物学的指標として中禅寺湖流入河川でのサケ科魚類への影響調査を行った。その結果、以下のことが明らかになった。.屮薀Ε鵐肇薀Ε箸魯劵瓮泪垢汎瑛pH6台の弱酸環境で繁殖行動に影響が現れたが、イワナはそれよりも耐性が高かった。中禅寺湖流入河川では外山沢川が最も酸性化しやすいが、現時点では酸性雨が降っても中和能によって酸性化には至らず、魚類の産卵遡上行動や生理機能へ影響は現れなかった。しかし、源流部は河口部より電気伝導度が低くイワナしか生息しておらず、さらに調査の必要がある。酸性ストレスは、未熟コイの内分泌機構を撹乱し、血中コルチゾルと同時に雌性ホルモンの分泌を促進した。け洞蘇床楚値モデルを確立し影響予測を行い、ヒメマスはpH5.5で個体群に大きな影響が出るという結果となった。ザ音蓋个梁兒誓ウグイの塩類細胞から、H+の排出機能分子の遺伝子をクローニングし、魚類の耐酸性機構を明らかにした。酸性水暴露は、ウナギの心拍を低下させることを明らかにした。Д汽叡婬の海洋への降河回遊期には酸性ストレスは免疫能を高めるが、時期を過ぎスモルトが退行すると逆に免疫能が低下することから、海水適応能と耐酸性の間に相関があることが明らかとなった。これらの結果から、魚類生態系への酸性雨影響評価指標策定に資する基礎データが集積し、実際野外調査に応用できることが明らかとなった(Ikuta et al. 2001, Water Air and Soi1 Pollution他)。

(3)現在、酸性雨に関係する陸水の測定項目としては、アルカリ度が一般的に用いられているが、アルカリ度で陸水の酸性雨による影響を評価することは難しいことから、11年度までに陸水の酸中和能を評価する手法の開発を行い、この手法を用いた渓流河川の酸性化の予測手法について検討を行った。11年度と12年度は、引き続きpH、酸中和能の低い屋久島において調査を継続するとともに、水質自動観測装置を用いた水質の連続観測を、屋久島の鯛の川上流右支川と半山川で開始した。測定項目は、pH、電気伝導率、水温、水位、降水量である。鯛の川上流部は標高約1350mに位置し、冬季に装置自体が雪の中に埋まってしまっていたと考えられるが、連続観測は可能であった。しかし、pHについては現時点で連続観測は非常に難しいことがわかった。また、酸性雨の陸水への影響を考えた場合、最初に渓流水のpHが低下すると考えられるが、その水質についてはほとんど調査がなされていない。長期間に渡って徐々に進行する現象の解明には過去のデータが貴重なものになる。この観点から面的な渓流水の水質調査をおこなうこととし、11年度に兵庫県と鳥取県の県境に位置する氷ノ山の周囲で、合計109の渓流河川の調査を行った。その結果、前年度に示した評価基準で、酸性化の可能性があると判断される河川は4河川のみであり、他の105河川は今のところ酸性化の可能性がない河川に分類された(井上、佐竹2000、酸性雨研究と環境試料分析)。

 

4.考察

 本研究の成果として日本の渓流河川の酸性化とその影響が大きな問題として登場した。日本の渓流河川の水質に関するデータが極めて不足しており、今後その水質と生物影響について更なる調査を展開する必要がある。

 

5.研究者略歴

課題代表者:佐竹研一

1945年生まれ、名古屋大学大学院理学研究科卒業、理学博士、現在環境省国立環境研究所

大気圏環境研究領域、酸性雨研究チーム、総合研究官

主要論文

1) Kenichi Satake, K. Nakaya and T. Takamatsu (1996).  pH distribution in radial section of the stem and root of Cryptomeria japonica. Can. J. Forestry. 26 (3) : 503-507.

2) Kenichi Satake, A. Oyagi and Y. lwao (1995).  Natural Acidification of lakes and rivers in Japan : The ecosystem of Lake Usoriko (pH 3.4 - 3.8).  Water Air and Soil Pollution. 85 : 511-516.

3) Kenichi Satake, T. inoue, K. Kasasaku, O. Nagafuchi and T. Nakano (1998).  Monitoring of nitrogen compounds on Yakushima Island, a world natural heritage site.  Environmental Pollution. 102 : 107-113.

 

サブテーマ代表者

【平成810年度】

(1) :赤間亮夫

1954年生まれ、東京大学農学部卒業、農学博士、現在農林水産省森林総合研究所、森林環境部植物生態科養分動態研究室、室長

主要論文

1) Akio Akama (1991). Nitrogen utilization by sugi (Cryptomeria japonica D. Don) seedlings and the influences of soil moisture.  J. Jpn. For. Soc. 73 (2) : 128-134.

2) Akio Akama (1993). Nitrogen utilization by Pinus densiflora Sieb. et Zucc. seedlings under two soil conditions. J. Jpn. For. Soc. 75 (1) : 4 1-45.

3) Akio Akama (1996). The Nutrient Translocation of Seedlings with Chemical Analyses of the Xylem Saps of Cryptomeria japonica D. Don and Pinus densiflora Sieb. et Zucc. J. For. Res. 1 (1) : 23-25.

 

(2) Ш潅欷Π譟米院‐紂

   ◆Ч眥転六

1959年生まれ、東京大学理学部卒業、理学博士、現在経済産業省物質工学工業技術研究所

計測化学部、主任研究官

主要論文

1) A. Takatsu, S. Eyama and A. Uchiumi (1995).  Determination of Aluminium in Serum by Capillary Zone Electrophoresis with Laser-induced Fluorescence Detection. Chromatographia. 40 : 125-128.

2) A. Uchiumi, A. Takatsu and Y. Teraki (1998).  Sensitive Detectin of Trace Aluminium in Biological Tissues by Confocal Laser Scanning Microscopy after Staining with Lumogallion. Analyst (London). 123 : 759-762.

3) A.Takatsu, Y. Ezoe, A.Uchiumi, K.Tsunoda and K. Satake (2000).  Aluminum in lake water and organs of a fish, Tribolodon Hakonensis in strongly acidic lakes with a high aluminum concentration, Jap. J. Limnology, 1, 3 : 158-189.

 

(3) :生田和正

1959年生まれ、東京大学農学系研究科卒業、農学博士、現在農林水産省養殖研究所日光支所繁殖研究室、主任研究官

主要論文

1) 生田和正(1999)、陸水酸性化の魚類への影響、水環境学会誌、22(3) : 181-185.

2) 生田和正、長野正嗣、鹿間俊夫、中村英史、北村章二、奥本直人(1993)、サケ科魚類の餌料生物の耐酸性評価、養殖研報。22:43-48.

3) K. Ikuta and S. Kitamura (1995). Effects of low pH exposure of adult salmonids on gametogenesis and embryo development.  Water, Air and Soil Pollution. 85 : 327-332.

 

(4) :服部裕之

1954年生まれ、東京大学農学部卒業、農学博士、現在秋田県立大学生物資源科学部、助教授

主要論文

1) 服部浩之、佐竹研一(1995)、ナラタケの発芽、生長に及ぼす酸性物質の影響、環境科学会誌、8巻:419-423

2) H. Hattori (1996).  Differences in the influence of cadmium on the decomposition of various types of organic materials in soil.  Soil Sci. Plant Nutr. 42 : 737-743.

3) Hattori, H. (1996) : Decomposition of organic matter with previous cadmium adsorption in soils. Soil Sci. Plant Nutr. 42 : 745-752.

 

(5) :井上隆信

1961年生まれ、北海道大学大学院工学研究科卒業、工学博士、現在岐阜大学工学部土木工学科、助教授

主要論文

1) Takanobu Inoue, Senichi Ebise (1991).  Runoff Characteristics of COD, BOD, C, N and P Loadings from Rivers to Enclosed Coastal Seas.  Marine Pollution Bulletin. 23 : 11-14.

2)井上隆信、海老瀬潜一(1994)、河床付着生物膜現存量の周年変化シミュレーション、水環境学会誌.17:169-177.

3) K. Satake, T. Inoue, K. Kasasaku, O.Nagafuchi and T. Nakano (1998).  Monitoring of nitrogen compounds on Yakushima Island, a world natural heritage site.  Environmental Pollution. 102 : 107-113.

 

【平成1112年度】

(1) Ш潅欷Π譟米云紂

   ◆Ч眥転六辧米云紂

 

(2) :生田和正(同上)

 

(3) :佐竹研一(同上)