地球環境・国際環境協力

気候変動の科学とわたしたちの未来~IPCC議長団・執筆者を迎えて~(2015/01/29)

IPCC議長団・執筆者を迎えて

日時
2015年1月29日(木) 13:00~16:00(12:30開場)
会場
一橋講堂
主催
環境省、共催:文部科学省、経済産業省、気象庁

プログラム

挨拶

関 荘一郎
環境省 地球環境審議官

基調講演

Thomas Stocker(トーマス・ストッカー)
(IPCC第1作業部会共同議長 (スイス))

「IPCC第5次評価報告書 第1作業部会報告書の概要」

 IPCC第5次評価報告書の自然科学的根拠(第1作業部会)の結果概要について講演がなされた。本報告書の要点としては、気候システムへの人的影響は明らかであること、気候変動は自然システム及び人間システムに影響をもたらすこと、継続した温室効果ガス(GHG)の排出がさらなる温暖化をもたらし、リスクを増幅すること、温暖化を2℃未満に抑制する道筋は複数あること、が指摘された。人間活動によるCO2排出量はかつてない水準に達しており、大気中のCO2濃度は過去80万年でも類のない水準に達していることが分かった。このままGHG排出量が増加すれば、さらなる温暖化が深刻化し、気候システムのあらゆる要素で変化をもたらすことになるだろう。2℃目標を達成するためには、7900億tCに抑制する必要があるが、このうち、すでに5450億tCはすでに大気中に排出されており、我々は残り2450億tCしか排出することができない。2℃の世界へ進むか、4.5℃の世界に進むか、まさに我々の選択にかかっている。

Chris Field(クリス・フィールド)
(IPCC第2作業部会共同議長 (米国))

「IPCC第5次評価報告書 第2作業部会報告書の概要」

 IPCC第5次評価報告書の統合報告書の関連資料を使用し、影響評価と適応を中心にご講演をいただいた。気候変動による影響はすでに広がっており、重大な問題だとの指摘があった。また、適応策はすでに導入されているとし、防災対策、マングローブ植林、水資源管理等の具体的な事例の紹介があった。さらに、今以上の温暖化が進んでいくと、深刻な影響が大きくなるとの指摘があった。最後に一つのアイデアとしてお話があった。気候への挑戦は、リスクを減少させ、マネジメントする一つの方策だとお伝えした。もしみなさんがそのことに同意するなら、この問題をより強靭な世界や未来を構築するためのチャンスだと捉えることができる。我々が前に進めるべきことは、科学とチャンスをもっと利用することだろう。

Leon Clarke(レオン・クラーク)
(第3作業部会 第6章CLA、パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL) シニアリサーチエコノミスト(米国))
(代理講演)杉山 大志
(一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員)

「IPCC第5次評価報告書 第3作業部会報告書の概要」

 フライトの都合で、急遽、来日がキャンセルとなったClarke氏に代わり、杉山氏が代理で講演を行った。
 IPCC第5次評価報告書の統合報告書を使って、第3部会に関連するCO2排出削減対策のコストや技術を中心に講演が行われた。これまでに、過去、様々な政策が導入されてきたが、世界の排出量は増えて、1970年から2000年までは年間1.3%だったのが、その後2000年以降は年間2.2%と増加割合が高くなっている。
 温暖化を抑えるタイミングについては、ある意味当たり前だが、早めに排出削減すると、後で楽になるとの指摘がなされた。同様のことがいわゆる低炭素エネルギー、再生可能エネルギー、原子力、CCSのシェアについても言え、対策を遅らせると、後になっていっそう急に対策をしないと450ppmの目標は達成できないとされている。
 また、温暖化対策を通じたコベネフィットという考え方もあり、温暖化以外にも便益のあがる場合もある。具体的には、排出削減の対策をやると汚染が減る場合は、単に化石エネルギーの使用量が減るだけでなく、高効率な使用で燃料が燃えき、その燃料の燃えかすが大気中に出てこないということで、クリーンになることも含まれている。

パネルディスカッション「気候変動をチャンスに~今後の気候変動対策」

ファシリテーター

沖 大幹(東京大学 生産技術研究所 教授)

パネリスト

Thomas Stocker(トーマス・ストッカー)(IPCC第1作業部会共同議長 (スイス))
Chris Field(クリス・フィールド)(IPCC第2作業部会共同議長 (米国))
Leon Clarke(レオン・クラーク)※欠席(第3作業部会 第6章CLA、パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL) シニアリサーチエコノミスト(米国))
江守 正多(独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 室長)
杉山 大志(一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員)
田辺 清人(IPCCインベントリータスクフォース(TFI)技術支援ユニット(TSU)ヘッド)

 大事なことの一つとして、IPCCのような科学コミュニティが、重要な課題に対してわれわれに何を教えてくれているか、明確な絵で理解することがある。科学は非常に大きな力を持っていて、最終的に正解に至る可能性をもっているが、一人一人の科学者にとって、気候変動、原子力発電、エネルギー等についてどんな研究をしているかを明確に言うことは難しい。
 次に、2℃目標に関して議論が行われた。2℃目標の達成は楽なものではないと、気候変動関連の科学者の間でも共有されているものの、統合報告書では達成手段はあると書かれている。AR5の興味深い点の一つとして、今後の変化のペースは持続可能な経済成長と一貫したものでなければならないと指摘している点にある。
 第6次報告に向けた研究ニーズについては、IPCC自ら推奨することはしないが、進めるべき課題としては3つあるとの意見が出された。一つは自然科学の領域で、地域の気候モデリングの重要性を高めていくこと。二つ目は、物理的な気候システムと生物学とのつながりで、この気候変動のフィードバックといった相互作用について理解を高めること。三つ目は、観測をより促進することで、気候の変化を正確に理解することが重要との指摘があった。
 さらに、第4次産業革命という言葉を言う人も中にはいる。第1次産業革命は機械化、第2次は電力化、第3次はデジタル産業革命だった。第4次はどんな革命かまだわからないが、持続可能性に向けたイノベーションにつなげていくことになるとの意見が出された。これらは、21世紀における最大の経済チャンスでもある。つまり、2060年代、70年代、それ以降にエネルギーソリューションを提供するといった、最大の経済チャンスにもなる。日本がそうした役割分担を果たすことが期待されている。