地球環境・国際環境協力

気候変動の科学とわたしたちの未来~IPCCと長崎県民の対話~(2015/01/23)

IPCCと長崎県民の対話

日時
2015年1月23日(金) 13:00~16:00(12:30開場)
会場
長崎ブリックホール
主催
環境省、共催:長崎県

プログラム

挨拶

亀澤 玲治
環境省 九州地方環境事務所 所長
立石 一弘
長崎県 環境部長

基調講演

Nirivololona Raholijao(ニリヴォロローナ・ラホリジャオ)
(IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第2作業部会副議長、マダガスカル国立気象水文局 応用研究部門長)

「IPCC第5次評価報告書 統合報告書」

 9月に発表されたIPCC 第5次評価報告書統合報告書の主な内容について解説が行われた。気候システムに対する人間の影響は明瞭であるとともに、最新の将来の気候変動予測の結果、二酸化炭素の累積排出量によって全球平均気温がほぼ決定されることが分かり、行動に向けたタイムリミットが迫りつつあることが説明された。また、将来の気温上昇を2℃までに抑えるには排出量の大幅な変化が必要であり、我々の緩和策次第で地球の未来は大きく異なるということが強調された。
 後半は、マダガスカルにおける健康分野での気候情報の活用と題して、世界気象機関(WMO)による実践型学習プロジェクトが紹介された。感染症予防やその対応に向けて、効果的・効率的に気候データを活用するためにマダガスカル気候・健康作業部会が設立されたことが述べられ、相互理解や気候と健康の問題に関する理解の促進を通じて、特定のニーズに対する直接的なサービスができるようになったことや、気象データが疫学的データ(過去、現在、将来)と合わせて分析可能になったこと、素早い意思決定が可能となったこと等が紹介された。本取組の長期的な成功のための課題として、共同事業に対する一般の関心および気候情報とサービスのニーズに関する健康の専門家の認識の向上、各グループの協働を促進する外部機関(WMO等)の維持、パイロットプロジェクトの初期費用支援、の4つの要素が挙げられた。

橋爪 真弘
(長崎大学 熱帯医学研究所 小児感染症学分野 教授)

「地球温暖化と健康影響」

 地球温暖化がもたらす健康への影響についての紹介があった。まず地球温暖化はすでに起こっており、健康影響もすでに発生していることが紹介された。極端現象の頻度が増加し洪水や熱波が多発することや、生態系への影響により節足動物媒介感染症等が拡大する可能性があることが指摘された。将来の影響予測の不確実性が大きいため、今後さらなる調査研究が必要であることが示された。
 また、世界中で影響は起こりうるが、その中でも開発途上国で最も顕著な影響が予測されているとの説明があった。東南アジアでの洪水に伴うコレラの流行や、温暖化に伴うデング熱やマラリアの流行が事例として紹介された。また、子供や貧困層、ライフスタイルを変化させにくい人々が特に影響を受けやすい集団として紹介された。
 最後に、日本における影響として、デング熱や熱中症の危険性が紹介された。緩和策に加えて適応策も必要であり、行政、個人、研究者それぞれのレベルで適応策が必要であることが強調された。最後に、緩和と適応に資するco-benefitsの一例として自転車の活用や肉(特に反芻動物)の消費削減等が紹介された。

佐藤 郁
(戸田建設株式会社 価値創造推進室 開発センター エネルギーユニット 次長)

「浮体式洋上風力発電実証事業と企業による気候変動対策の今後」

 長崎県五島の椛島で行われている浮体式洋上風力発電実証事業の紹介があった。長崎は風速が確保でき水深も適度に浅い海域が多いため、浮体式風力発電に有望なエリアであることが紹介された。一方、生産地と消費地を結ぶ電力網の増強の必要性が強調された。
 また、電気の新たな使い方として燃料電池車(FCV)について紹介され、浮体式洋上風力発電なら4万基で自動車燃料をすべて国産にできるという概算が示された。
 また、企業が行う実証事業のためには立地地域の理解と協力が最も大切であり、住民の応援が不可欠であることが示された。再生可能エネルギー設備は長期間使用され続けるため、長期的な更新計画を作る必要があるということが示された。
 消費地域の省エネ・再エネが重要であり、中東からの輸入にかかっている9兆円をできるだけ国内に回すべきということが強調された。地域活性化の切り札としての再生可能エネルギーの可能性、および「地産地消」を第一歩とした「地産都消」の可能性が強調された。

パネルディスカッション「気候変動をチャンスに~今後の気候変動対策」

ファシリテーター

田辺 清人(IPCCインベントリータスクフォース(TFI)、技術支援ユニット(TSU)ヘッド)

パネリスト

Nirivololona Raholijao(ニリヴォロローナ・ラホリジャオ)(IPCC第2作業部会副議長(マダガスカル)、マダガスカル国立気象・水門研究室 応用研究部門長)
橋爪 真弘(長崎大学 熱帯医学研究所 小児感染症学分野 教授)
佐藤 郁(戸田建設株式会社 価値創造推進室 開発センター エネルギーユニット 次長)
安藤 忠(独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所 資源生産部 主幹研究員)
藤井 麻衣、橋口 祥治(環境省 地球環境局 総務課 研究調査室)

 パネルディスカッションを始める前に、IPCCの中のTFI(インベントリータスクフォース)およびIPCCの中での日本の貢献について、田邉氏よりご紹介いただいた。
 前半は気候変動の緩和策(温室効果ガス削減対策)についての議論が行われた。藤井氏より、政府の緩和策に対する取組の紹介があったのち、パネルの間で意見交換が行われた。ラホリジャオ氏より、開発途上国における緩和策としては森林および生態系の保全であることが示され、佐藤氏より、日本の技術力を生かして緩和対策を進めていくための企業の役割について紹介された。安藤氏からは、水産分野の緩和策、特に漁船の消費燃料削減についての紹介があった。
 後半は気候変動適応策についての議論があった。橋口氏より、政府の適応策に関する取組の紹介があったのち、安藤氏より、地球温暖化が海産養殖に与える影響についての紹介があった。養殖魚の成長悪化や、魚同士の喧嘩による商品価値低下の可能性が説明された。その後、パネルの間で意見交換が行われ、ラホリジャオ氏より、適応策が歴史や文化にも多大な影響を受けること、および、橋爪氏からは、健康分野での適応には個人レベルと行政のレベルがあることが示された。佐藤氏より、土木の歴史はまさに水害への適応の連続であり、今後は台風が強大化する可能性があるため河川のハード対策が難しくなること、並びにソフト対策の重要性が指摘された。
 その後、会場との質疑およびパネリストの間のディスカッションが行われた。