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化学物質と環境円卓会議(第16回)議事録

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■日時:平成17年12月18日(日) 13:00~16:00
■場所:ビッグパレットふくしま コンベンションホールB(1F)
■出席者:(敬称略)
<ゲスト>
  木村 光政 福島県生活環境部環境保全領域大気環境グループ参事
  須能 則和 株式会社クレハいわき工場総務部長
  丹野 正恭 川俣精機株式会社取締役社長附
  河合 直樹 化学物質アドバイザー・環境カウンセラー
<学識経験者>
  北野 大 淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
  原科 幸彦 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授
  安井 至 国際連合大学副学長
  <市民>
  有田 芳子 主婦連合会
  大沢 年一 日本生活協同組合連合会環境事業推進室長
  後藤 敏彦 環境監査研究会代表幹事、環境報告書ネットワーク代表幹事
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議事務局長
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金ジャパン シニア・オフィサー
  <産業界>
  岩本 公宏 (社)日本化学工業協会環境安全委員会委員
  瀬田 重敏 (社)日本化学工業協会・広報委員会顧問
  吉村 孝一 日本石鹸洗剤工業会環境・安全専門委員長
  越智 徹 (社)日本電機工業会2005年化学物質総合管理専門委員会委員長
  八谷 道紀 (社)日本自動車工業会環境委員会・地球環境部会部会長
  <行政>
  片桐 佳典 神奈川県環境農政部次長
  佐々木 弥生 厚生労働省医薬食品局審査管理課化学物質安全対策室長(黒川達夫代理)
  藤本 潔 農林水産省大臣官房環境政策課長(吉田岳志代理)
  獅山 有邦 経済産業省製造産業局化学物質管理課長(塚本修代理)
  上家 和子 環境省環境保健部環境安全課長(滝澤秀次郎代理)
   (欠席)
崎田 裕子   ジャーナリスト、環境カウンセラー
角田 季美枝   バルディーズ研究会運営委員
中塚 巌   (社)日本化学工業協会 ICCA対策委員長
嵩 一成   日本チェーンストア協会環境委員
   (事務局)
神谷 洋一 環境省環境保健部環境安全課課長補佐
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1  福島県における化学物質対策について(木村さん講演資料) [PDF(386KB)]
資料2  株式会社クレハにおけるリスクコミュニケーションの取組について(須能さん講演資料) [PDF(254KB)]
資料3  川俣精機(株)リスクコミュニケーション(丹野さん講演資料) [PDF(282KB)]
資料4  地方におけるリスクコミュニケーションのあり方(河合さん講演資料) [PDF(198KB)]
○事務局が配布した参考資料
参考資料1  第15回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
参考資料2  化学物質と環境円卓会議リーフレット [HTML]
○円卓会議メンバーが配布した資料
滝澤さん資料1 「化学物質の内分泌かく乱作用に関するホームページ」開設について [PDF(112KB)]
滝澤さん資料2 チビコト(特集:ロハス的環境ホルモン学)


■議事録

1.開会

(神谷) 本日は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。時間がまいりましたので、第16回化学物質と環境円卓会議を開催させていただきます。化学物質と環境円卓会議は、化学物質による環境リスクについて、国民的参加による取組を促進するため、市民、産業、行政、学識経験者による化学物質の環境リスクに関する情報の共有と相互理解を進めることを目的として、平成13年に設置されたものです。前々回まで、東京都内で開催していましたが、幅広い方々にこの円卓会議に御参加いただく機会を作り、化学物質に関するリスクコミュニケーションをより推進していくために、前回は愛知県において開催し、今回は福島県に御協力いただきつつ、福島県郡山市において開催することといたしました。本日は、原科さんに司会をお願いしています。今後の進行につきましては、原科さんにお願いします。

(原科) 寒波襲来の大変寒い中、たくさんの方にお集まりいただきまして、ありがとうございます。本日この会場では、WARM BIZ(注、環境省が推進する地球温暖化防止のための取組。暖房時のオフィスの室温を20℃とし、暖房に頼り過ぎず、働きやすく暖かく格好良いビジネススタイルを指す)を推進するということで、皆さんには厚着をして来ていただいているかと思います。私も今日はチョッキを着てまいりました。これでベスト(Vest、チョッキのこと)ドレッサーです。
 それでは、ただ今から第16回化学物質と環境円卓会議を開催します。まず、福島県より、本円卓会議の会場風景等を撮影して県の広報に活用したいとの申し出をいただいております。委員の皆さん、よろしいでしょうか。
 (全員、了解)
 それでは、福島県におかれましては、写真撮影を行っていただいて結構です。続いて、本題に入ります。今回は、「リスクコミュニケーションへの取組を広げるための方策」について、地域の方々の御意見を聞きながら、意見交換を行うこととしています。これに当たり、福島県生活環境部環境保全領域大気環境グループ参事 木村光政さん、株式会社クレハいわき工場総務部長 須能則和さん、川俣精機株式会社取締役社長附 丹野正恭さん、化学物質アドバイザー(注、化学物質に関する専門知識や、化学物質について的確に説明する能力などを有する人材であり、中立的な立場で化学物質に関する客観的な情報提供やアドバイスを行う人)・環境カウンセラー(注、市民活動や事業者の中での環境保全に関する専門的知識や豊富な経験を有し、環境保全活動に関する助言などを行う人材。)の河合直樹さんから、それぞれ質疑応答を含めて20分程度、御講演いただきます。その後、フロアーからの質問も踏まえ、メンバーで意見交換をしたいと思います。まず、事務局の方から、本日のメンバーの出席状況等と資料の確認などをお願いします。

(神谷) まずはメンバーの交代をお知らせします。産業側の山下光彦さんから八谷道紀さんに交代しました。次に、代理出席についてお知らせします。行政側の吉田岳志さんの代理で藤本潔さん、黒川達夫さんの代理で佐々木弥生さん、塚本修さんの代理で獅山有邦さん、滝澤秀次郎さんの代理で上家和子さんが出席します。本日の御欠席は、市民側の崎田裕子さん、角田季美枝さん、産業側の中塚巌さん、嵩一成さんです。
 次に配付資料の確認を行います。資料1は、木村さん講演資料「福島県における化学物質対策について」、資料2は、須能さん講演資料「株式会社クレハにおけるリスクコミュニケーションの取組について」、資料3は、丹野さん講演資料「川俣精機株式会社リスクコミュニケーション」、資料4は、河合さん講演資料「地方におけるリスクコミュニケーションのあり方」です。その後ろに、資料番号は付いていませんが、河合さんの補足資料があります。次に参考資料について、参考資料1「第15回化学物質と環境円卓会議議事録」は、本円卓会議のメンバーのみに配布しているものですが、既にメンバーに御確認いただき、環境省ホームページに掲載済です。参考資料2「化学物質と環境円卓会議リーフレット」は、毎回必要に応じて改訂しながら配布している最新のものです。次に、滝澤さん資料についてです。滝澤さん資料1「化学物質の内分泌かく乱作用に関するホームページ開設について」、滝澤さん資料2は環境省が作成協力をしました「チビコト(特集:ロハス的環境ホルモン学)」です。さらに、会場入口には、環境省が作成した、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック-平成15年度集計結果から-」を、前回、参考資料1、2、4として「化学物質ファクトシート-2004年度版-」、「かんたん化学物質ガイド」、「PRTR対象化学物質の排出削減に向けた取組事例集」を置いていますので、御自由にお持ち帰りください。また、(社)日本化学工業協会と経済産業省から御提供いただいた化学物質に関するパンフレット等も会場入り口に置いています。こちらも御自由にお持ち帰りください。以上です。

2.議事

(原科) それでは、早速、議論に移りたいと思います。今回の議題は「リスクコミュニケーションへの取組を広げるための方策」ということで、会議冒頭にもお話ししましたとおり、福島県庁の方からお一人、事業者の方からお二人、市民の方からお一人にお話いただき、簡単な質疑応答をします。その後、休憩に入りますが、休憩時間が終わるまでに、フロアーの皆さんから、それまでの講演を聞いた感想や質問を紙に御記入いただきたいと思います。休憩時間後、フロアーからの感想や質問をいくつかまとめて御紹介した上で、それを踏まえてさらにメンバーで意見交換をしたいと考えていますので、よろしくお願いします。
 それでは、はじめに、福島県生活環境部環境保全領域大気環境グループ参事の木村さんより御講演いただきたいと思います。木村さん、よろしくお願いします。

(木村) 
 皆さんこんにちは。福島県生活環境部環境保全領域大気環境グループの木村です。福島県の化学物質対策について御説明します。

 これは福島県の地図です。右が太平洋側で浜通り、中央が中通り、左が会津地方です。中通りのちょうど真ん中に今日のこの会場があります。

 本日は、福島県のこれまでの取組について触れながら、現在の取組や今後の取組に関する考えを述べます。

 これまで、個別化学物質の対応、県庁内に連絡会議の設置、福島県独自の取組として昭和62年から開始した化学物質情報整備に取り組んでまいりました。これらについて詳しく御紹介します。

 まず、個別化学物質の対応について御説明します。カドミウムや水銀は重金属として皆さん御存じだと思います。カドミウムについては、農用地の土壌汚染対策地域の指定を行っています。指定された地域では、地域対策協議会の方と行政が、被害を受けた方々と情報を共有しながら、対策を考えていきました。しかし、これは協議会の中だけで行われましたので、広く一般に伝えていくということはありませんでした。

 次に、県庁内の連絡会議について御説明します。連絡会議には多くのものがあります。昭和47年のPCBから始まり、昭和61年にはアスベストについて連絡会議を作りました。平成17年にもアスベストに関する連絡会議を立ち上げました。様々な情報を共有し、最も効果的な対策を検討するという趣旨で連絡会議を設置しました。また、お互いの役割を分担しています。こういった連絡会議を県民の皆さんに知っていただくことが一番大事だと考え、平成17年7月に立ち上げた「化学物質環境対策連絡会議」からは、すべて公開で行っています。

 それから、昭和62年度から行っている化学物質の情報整備事業について御説明します。多くの様々な化学物質が事業者に使用されていることから、事業者をはじめ、化学物質に関する情報を御存じの方に情報を共有していただくことを目的に、アンケート調査のような形で始めました。対象物質には、規制対象以外の化学物質も含んでいます。

 次に、現在の取組を御説明します。現在の取組には、化学物質適正管理指針、PRTR法による排出・移動量の把握、化学物質に関するリスクコミュニケーション、化学物質環境対策連絡会議があります。平成17年度に立ち上げたアスベストに関する連絡会議については、ここでは省き、残りのひとつひとつについて御説明します。

 化学物質適正管理指針は、化学物質情報整備事業を引き継いでいます。化学物質の適正管理について、きちんとした位置づけをした上で事業者の方に御協力をお願いしています。福島県生活環境の保全等に関する条例で、化学物質の適正管理を明確に位置付けており、この指針を作り、平成10年に対象物質や対象工場を整理しました。そして事業者の方には、現在の使用量について御報告いただいています。平成14年度には、938事業所にお願いをし、約8割から協力を得ました。自主管理の促進ということで行っています。

 平成13年度にPRTR制度(注、Pollutant Release and Transfer Register;化学物質排出移動量届出制度)が始まりましたが、この図は、それに基づいて平成15年度に届出のあった1,084事業所の分布を示しています。浜通り、中通り、会津地方に分かれていることで、福島県の地域性が表れています。

 この図は、平成15年度の排出量として届出のあった1,084事業所の業種の割合です。燃料小売業、つまりガソリンスタンドが多くあります。化学物質の排出量から見ると、製造業からの排出が圧倒的に多くなっていますが、事業所数は、全体の32%です。

 この表は、平成15年度のPRTRデータの概要です。環境への排出量と移動量について、福島県と全国の比率を示しています。平成15年度では、約1万8千トンの届出がありましたが、その99%が製造業からとなっています。製造業では、製造品出荷額と排出量が比例関係にあります。福島県の排出・移動量の合計は、全国で11位です。また、製造品出荷額は全国で19位でした。それから考えると、排出・移動量の合計は、全国的な平均からやや上にあることが分かります。

 平成13、14、15年度の推移状況です。届出事業所数はいったん減少しましたが、15年度に増加しました。これは、平成15年度から事業所ごとの対象化学物質の年間取扱量が5トン以上から1トン以上に引き下げられたため、対象事業所が増えたことによります。しかし、化学物質の排出量は減少しています。届出事業所数が増え、排出量が減少しているということは、自主管理が少しずつ定着していることが分かります。

 この図では、平成13、14、15年度の業種毎の排出量の変化を示しています。ほとんどの業種で右肩下がりになっています。これは、自主的な管理で環境への負荷をできるだけ少なくしようというPRTR制度の趣旨が、化学物質を管理されている方々に徹底されてきているのだろうと考えられます。

 これは、大気への排出量を市町村毎に示した図です。福島県環境情報管理システムで作成しました。最も排出量が多いのは、いわき市だと分かります。

 福島県では、平成16年度からリスクコミュニケーションに関する事業を開始しました。具体的には、リスクコミュニケーション推進セミナーや意見交換会の開催、事業者へのアンケートの実施、ホームページの開設を行っています。

 平成16年度では、基礎編と実践編の2つに分けてセミナーを1日ずつ行いました。実践編では、事業活動の中で率先して環境活動に取り組んでいる事業者に与えられるISO14001(注、ISO(国際標準化機構)が定めるISO14000シリーズの中の環境マネジメントシステム規格)を取得した事業所に案内を出し、60事業所94名の方に御参加いただきました。また、これ以外の事業所には、化学物質の管理に関する基礎的な説明からする必要がありましたので、基礎編として案内し、64事業所89名の方に御参加いただきました。意見交換会には、実際にリスクコミュニケーションに取り組んでいる事業所や、今後どのようにリスクコミュニケーションを行えばよいかを考えている事業所の方々、9事業所16名に集まっていただきました。今日の講演者である化学物質アドバイザーの河合さんにも御出席いただき、適切なアドバイスを頂きました。

 平成17年度には、リスクコミュニケーション推進セミナーを1回開催しました。より実践的な取組を講義していただく趣旨で、66事業所92名の方に御参加いただきました。また、意見交換会は、県内の福島、郡山、いわきの3地域で行い、24事業所38名に御参加いただきました。具体的には、「どのような情報を公表すればよいのか」、「化学物質に対する住民との認識にずれがあるのではないか」、「リスクコミュニケーションのやり方がわからない」、また、「過激な意見が出た場合にどのようにすれば良いのか」という意見が出ました。過激な意見の歴史をたどると、発生源者と被害者があったことに始まる対策協議会がありますので、そのような考え方が出てくるのかなと受け止めています。

 この写真は、意見交換会の模様です。

 次に、ホームページの内容を示します。化学物質やリスクコミュニケーション等について事業者の方々に具体的な悩みや意見、考え方を書いていただこうということで掲示板を設けました。

 平成16年度に事業者に対して行ったアンケート結果です。「ISO14001」は、実践編に参加された方、「他事業所」は、基礎編に参加された方を示します。「環境対策について地域住民に情報提供」といった内容については、若干割合が異なっています。総じて、実際にISO14001を取得し、環境活動を行っているグループの方が進んでいるように思います。「リスクコミュニケーションについて前向きに対応する」という点では、両者同じような割合になっています。

 リスクコミュニケーションを普及させていく上での課題として、「実施方法がわからない」、「地域住民の関心が低い」、「地域住民との認識のずれがある」、また、「本社で環境報告書を作っていると、どうしても工場や事業所まで環境活動に携わる人材育成ができない」ということが挙げられます。

 推進セミナーや意見交換会とは別に、平成17年度に行ったアンケート結果です。「今後どのような形でリスクコミュニケーションを推進していくか」という質問をPRTR法対象事業所である202事業所に対して行いました。地域説明会の開催について、16年度は3事業所しかなかったのが、17年度では、6事業者が開催を予定しています。数字だけ見ると少ないですが、倍に増えていることは、取組が進められているように考えられます。

 化学物質適正管理の推進における県の仕組みです。規制的手法だけでなく、自主的手法で事業者の方に取り組んでいただき、地域説明会の開催や情報開示によって住民の方々と情報を共有し、相互理解を図ることが非常に重要だと考えます。こういう全体の枠組みがあってこそ、化学物質の適正管理があり得ると考えます。

 福島県では、安全・安心の確保を行政の取組の柱としています。「安心」の中には、災害対策や個人情報保護法など様々なものがあります。特に、福島県は浜通りに原子力発電所を抱えていますので、「安心」が大きなテーマとなっています。そのためには、リスクコミュニケーションの取組が非常に有効になってくると思います。しかし、事業者と県民と行政が対話集会を通じていきなり相互理解が進められるわけではありません。第1段階として、自治会との会合や工場見学会等といった催事への参加、そして第2段階、第3段階とステップアップしていけばよいのではないかと考えます。そういった意味で、我々は行政側として支援できればと考えています。

 福島県では以上のような取組を行っていますが、事業者や地域の方々がそれに対してどのように応えてくれるか、また、事業者と住民との間でどのような役割を持てるのか、といったことを考えています。そして、皆さんの御協力を得ながら今後も進めていきたいと考えています。以上です。御清聴ありがとうございました。

(原科) ありがとうございました。フロアーからの御質問は、用紙に御記入いただくことといたしますので、まずはメンバーから、木村さんのお話に対し、質問等はございますか? 瀬田さん、どうぞ。

(瀬田) 私は、福島県は全国でも環境意識の非常に高い県の一つと考えています。今のお話を伺っていて、いろいろな取組を地道に行われていることがよく分かりました。今日のこの会議のテーマはリスクコミュニケーションの進め方についてですが、今のお話には、リスクコミュニケーションに特化した考え方や実例、また、具体的にどのようなことで悩んでおられるか、といった内容はなかったように思います。そういうことがないのであれば良いのですが、将来の問題として考えていかなければいけないのかなと感じました。

(木村) 行政として問題を出し切れていないのではないかという気がします。事業者の方々に自主的な取組として地域の方々と対話集会を行ってもらうことを考えると、その場に行政が入らない方が良いのではないかと考えます。個別の化学物質に関しては、行政、事業所、地域住民の間で情報の共有化がなされているかと思います。しかし、「安心」ということについては、そこには信頼できる関係がなければ伝わっていかないように認識しています。お互いにどのように理解し合えるかというところが問題です。意見交換会などで、事業者からは「情報を伝えたい」という意見を聞きます。その気持ちを住民の方々に受け止めてもらえるかどうか、ということが心配されています。一方で、いろいろな経験を踏まえながら、実際に取り組まれている事業所もあります。それは、須能さんや丹野さんから御説明があるかと思います。私が今話していることをどの程度信頼して聞いていただけるかが今後のテーマになるかと考えます。

(原科) ありがとうございました。信頼関係をいかに形成するかというお話でした。後藤さん、どうぞ。

(後藤) リスクコミュニケーションは、化学物質の問題だけには限りませんが、化学物質がかなり中心になると思います。質問です。福島県に事業者はどれくらいありますか?また、平成15年度のPRTR届出事業所が1,100弱とありますが、推定で本来届け出るべき事業者数がどのくらいあるのか、そして、この1,100弱という数字は、どれくらいの割合に該当するのでしょうか?本来届け出るべき事業所が未だ届け出ていないことに対して、どのような施策をお考えでしょうか?

(木村) 平成15年度の福島県内の届出事業所数は、1,084です。しかし、母体数について県では調べていませんので、詳しい数字は出していません。ただ、4人以上の従業員がいる製造事業所は5,473あり、この数字を基本に考えると、製造業の届出事業所は約350ですので、約6%にあたると考えられます。また、事業所と化学物質の排出・移動量の相関については、今後さらに経験を踏まえていけば、傾向をつかんでいけるのではないかと考えます。実際に届出された化学物質の99%以上は約350の製造業が占めています。福島県には化学物質適正管理指針があり、事業所数やどの化学物質がどの程度出ているのか、ということに関してアンケート調査を行っています。化学物質に着目した形で事業者数を抑えていけばよいと考えます。また、未届出事業者については、各業界にお願いをしたり、全県的にそれぞれの担当部局に情報を提供したりして、徹底しています。

(原科) ありがとうございました。今のお話では、届出すべき事業者の大多数は届け出ていると考えてよろしいでしょうか?

(木村) はい。

(原科) それでは、続いて、株式会社クレハいわき工場総務部長の須能さんより御講演いただきたいと思います。須能さん、よろしくお願いします。

(須能) 
 皆さんこんにちは、株式会社クレハいわき工場の須能です。よろしくお願いします。クレハいわき工場は、浜通りの南端のいわき市にあり、中でも茨城県に程近い場所にあります。これまで3度の地域対話集会を開催しました。本日はその御報告と共に会議のメインテーマであるリスクコミュニケーションの取組を広げるための方策と事例についてお話しします。レスポンシブル・ケアとは、化学物質の開発から、製造、物流、消費、廃棄、リサイクルといったライフサイクル全般において環境安全を確保していくために、自己責任で継続的な改善を図りながら、なおかつその成果を社会に公表し、対話を持ちながらより良いものを求めていく、という考え方です。この考え方に立って、地域の対話集会を行いました。

 まず、クレハの紹介を簡単に行います。今年の10月1日、創業60年を機に呉羽化学工業株式会社から株式会社クレハに社名を変更しました。また、企業理念を定めて走り出しています。理念の最初には「人と自然を大切にします。」としています。

 クレハいわき工場では、周囲約4km、面積112万m2の中におよそ千人の従業員が働いています。製造品目は約110品目あります。クレラップを始めとする包装材や医薬品、エンジニアリングプラスチックス、炭素繊維等をこの事業所で製造しています。

 これからクレハにおけるリスクコミュニケーションの取組を御説明します。

 平成7年にRC(注、Responsible Care;レスポンシブル・ケア)の実施を社会に宣言しました。以来、保安防災や環境保全、労働安全衛生、製品安全、品質保証などの課題に自主的かつ積極的に取り組んできました。いわき工場においても、昭和19年の創業以来、地域社会との共生をテーマに開かれた工場を目指し、総力を挙げてRCに取り組んできました。そうした取組の延長として、これまで一生懸命取り組んできたRC活動やその実績について、ぜひ皆さんによく御理解いただきたい、そして皆さんの御意見をお聞きしたいとの考えのもとに地域説明会を企画しました。そのような活動を通じて、信頼感をより高めたいと考えました。

 地域説明会は継続して3年間行っています。これは、初年度の次第です。初年度は、日本レスポンシブル・ケア協議会の方からRCについてお話いただき、私どもからは3つの報告をしました。その後、質疑を行いました。1年目、2年目、3年目ともに7、8名の方から質問をいただき、理解を深めることができました。初年度においては、より理解を深めるという見地から、当初の段階で5名の方に御意見や御感想を述べていただきたいとあらかじめお願いしました。このことは結果的に御参加いただいた皆さんに理解を深めていただけたという感想を持っています。

 この地域説明会では、地区役員や諸団体の方々を含め、参加者は第1回で89名、第2回は100名近い方々に御参加いただき、本年11月に開催した第3回では、110名の参加がありました。このことから、説明会は定着しつつあるように思います。

 初年度の地域説明会で説明した内容をダイジェストに御紹介します。化学工場の近隣に住む住民にとって最大の関心は、保安であり、防災です。私どももこのことは日常的に大事に考えています。防災訓練等を含め、このことをまず御説明しました。

 錦工場(注、現いわき工場)における環境負荷の全体像について、原材料のインプットから、大気、水域への排出量や廃棄物としての移動量等を細かく説明しました。

 PRTR法対象物質の排出削減についても丁寧に説明しました。PRTR制度は、2001年の届出が最初ですが、私どもJRCC(注、日本レスポンシブル・ケア協議会)では、それ以前から自主的に取り組んでいます。1995年設立時の排出量の値を1999年までに3割減にするという目的をもって取り組みました。これにより、PRTR制度ができる以前の段階で3割削減が果たせました。この活動はPRTRの取組をさらに加速させ、2005年度まで排出量を削減することができています。単年度の数値だけでなく、継続的に見ていただくことで、地域住民の信頼感をより高められると考えて間違いありません。

 水質汚濁防止を目的に、2001年に総合排水処理設備(ジャリッコ)を、従来設備を更新し設置しました。微生物の食物連鎖を通じて工場排水をきれいにし、水域に返す仕組みです。

 これにより、2001年以降はBOD(注、Biochemical Oxygen Demand;生物化学的酸素要求量)の排出を大幅に削減することができました。以上を含め、初年度の地域説明会では
2時間40分程説明を行いました。終了後にはアンケートに答えていただき、これを生かしながら第2回、第3回へと続けています。

 第2回の対話集会では、化学物質の削減量を経年変化で示すだけでなく、削減した方策についても説明しました。新たに装置を設置したことにより、排出量が削減できた、というように具体的に説明をしたことが地域住民の方々により信頼感を生み、我々の意図したことが伝わった要因だと考えます。

 排出削減の具体策についてはこのようなスライド7、8枚を使用し、詳しく説明しました。

 これは臭気発生源と対策状況について説明したスライドです。

 本年度の11月に第3回を開催しました。第2回のアンケート結果を踏まえて取り組みました。

 第2回地域対話集会で行ったアンケート結果です。説明内容に関しては、8割の方から「判りやすい」という評価を頂きました。

 具体的な対策を報告したことに関しては、非常に好意的に受け止めていただけたと理解しています。

 また、「対話の形ができていた」、「双方向での理解ができるよう、判りやすく説明してほしい」という意見があり、このことからも、地域の方々の意図するところが「対話」だということが分かります。

 その他の意見として、「今後オールクレハとしてRCをどう考えていくのか次回で説明してほしい」というものや、「廃棄物を処理しているグループ会社の取組について説明してほしい」、という意見があったことを受け、第3回は、呉羽環境(株)や(株)クレハエンジニアリングといったグループ会社を含めた3社で対話集会を行いました。

 リスクコミュニケーションを一言でいうと、関係者相互のコミュニケーションによる理解と信頼の向上、また、地域・行政・事業者による安心づくりです。これは、企業の社会的責任や地域社会との共生の考え方と何ら違いはありません。こういった考え方で今後ともリスクコミュニケーションを行っていきたいと考えます。また、重要なことは、日頃から地域社会とコミュニケーションを図り、信頼感を高めることに尽きると思います。今後の化学産業は、環境への配慮なくして事業運営は成り立ちません。環境とワンセットで運営を考える段階にきています。このことを感じながら、対話集会を少しずつ変化させていきながら、今後更に継続していきたいと考えます。以上です。御清聴ありがとうございました。
 
(原科) ありがとうございました。須能さんのお話に対し、メンバーからの質問等はございますか? 中下さん、どうぞ。

(中下) 大変熱心な取組を伺い、とても感心しました。リスクコミュニケーションには信頼が大事だということは、その通りだと思います。3つ伺います。まず1つ目の質問ですが、私は、本当に信頼を得るためには、成果の紹介といったポジティブな情報だけでなく、成果に結びつかないという難しさや失敗例といったネガティブな情報も含めて提供しているかどうかが大事だと考えています。ネガティブな情報を開示されることについてどのようにお考えでしょうか? 3回の対話集会においてネガティブな情報を開示されたことがあれば、どのように開示されたのかお聞かせください。2つ目の質問として、対話集会には、地域の方々が多く参加されているようですが、地域住民の方々はどういった点について不安に感じていらっしゃると認識されていますか? 3つ目の質問として、これまでの3回の対話集会を通じて積極的な評価をされていますが、課題があれば教えてください。

(須能) まず、1つ目の御質問に対して、ネガティブな情報の開示についてお話しします。その年々にそういう問題が起これば、対話集会の場を待たずして、その情報を開示し、対応します。例えば、本年、事業所で運転操作を誤り、水系に基準の1.7倍のダイオキシンをおよそ3時間排水してしまいました。このことはすぐに行政当局に報告するとともに、改善命令を受け、対応しましたが、先日の第3回対話集会の場においても、地域の方々にこのことをつぶさに報告し、かつ、現在は設備改善のこの段階にある、という具体的な説明をしました。この姿勢は今後も変えるつもりはありません。2つ目の御質問に対してですが、地域の方々が最も不安に感じられていることは、保安・防災だと私は認識しています。また、3つ目の御質問の、対話集会の課題と考えるものは、今後は化学物質そのものの安全性、例えば、人体に対する摂取の問題等に取り組んでいきたいと思います。ただ、現時点では、地域の方々の関心がそこにはまだないように思いますが、あまり拙速にせず、取り組んでいきたいと思います。

(原科) ありがとうございました。それでは、続いて、川俣精機株式会社取締役社長附の丹野さんより御講演いただきたいと思います。丹野さん、よろしくお願いします。

(丹野) 
 川俣精機の丹野です。当社のリスクコミュニケーションの取組について報告します。

 報告の順序は、1~6のようになっています。

 当社は、伊達郡川俣町に立地しています。人口16,900人、一般会計の予算が50億円の規模の町です。

 町は福島市から太平洋に向かって約20km、阿武隈山脈の中央に位置しています。

 会社の紹介を簡単に行います。

 創立は1943年、今年で62周年を迎えました。売り上げは年間30億円、従業員数は195人の規模です。町内に2つの工場を持ち、本社工場では事務、素材加工部門を担当し、本社工場で加工した部品を富田工場に搬入し、組み立て、完成、出荷を行います。ISO14001は1999年に取得し、今年6月には2004年版に更新しました。

 当社の基本方針です。安全、環境、遵法、地域貢献はすべてに優先することを基本とし、会社経営を行っています。

 環境保全基本方針の骨子です。まるいち環境保全を経営の重要課題の一つとして取り組みます。まるに環境負荷の低減、汚染の防止を図ります。まるさん環境保全に関する法令を順守します。まるよん規制化学物質の削減、産業廃棄物の低減、省エネルギーを推進します。まるご製品については、環境調和型製品を開発します。まるろくグリーン調達を推進します。まるなな取引先などに対して指導・支援を行います。まるはち阿武隈の美しい自然を守るため、地域社会との協調・連帯を図って活動します。以上の基本方針に基づき環境管理活動を実施しています。

 これは、当社の主力製品である、直流のモーターです。製作範囲は、手のひらに乗る5ワットから、総重量10トンに達する1,200キロワットまで製造し、鉄鋼、製紙、化学工業などに使用されています。

 このモーターの製造工程で、樹脂、塗料、溶剤等の化学物質を使用しています。その化学物質の使用量は、2004年度で総使用量が24.1トン、うち溶剤が48%、樹脂が36%、塗料が16%です。

 当社が取り扱うPRTR法対象物質と、その排出量です。2004年度はトルエンを4.6トン、キシレンを2.7トン排出しています。

 リスクコミュニケーションの取組について、セミナーへの参加が取組のスタートになります。昨年6月にPRTRデータ活用セミナーが仙台市で開催され、同時にリスクコミュニケーションの指導がありました。我々は、この時点ではまだ、将来方向の取組として捉えていました。同じく、昨年9月に福島県主催のリスクコミュニケーション推進セミナー、また11月の意見交換会で進め方や先進企業の事例発表があり、取組の必要性を認識しました。また、今年7月にはリスクコミュニケーション推進セミナー、11月には意見交換会があり、取組の状況を交換し合い、企業間の交流も行われるようになりました。

 リスクコミュニケ-ションについて社長に報告した結果、次の指示がありました。企業には種々のリスクがあるが、その一つとしてリスクコミュニケ-ションは大切な活動である。この機会に、地域とのコミュニケ-ションを図っていきたい。以上を基本に、具体的には総務・環境担当間で進めるとの方針が示されました。

 地域とのコミュニケ-ションの経過として、当社は、過去30年に渡り盆踊り大会を開催し、町の一大イベントとして地域の皆さんと交流を図ってきました。平成5年に「からりこフェスタ」という町の夏祭りが開催されるようになり、実行委員会の要請で町に合併され、地域との直接的な交流は途絶えていました。現在は、当社稲荷神社の例大祭にあわせ、春のレクリェ-ションを開催していますが、地域の皆さんは招待していませんでした。

 具体的にどう取り組むかを検討した結果、盆踊り大会以降長期のブランクがあることから、初めからリスクコミュニケ-ションに進むには無理があると判断しました。しかし、県の推進セミナーで「できることから始めてほしい」との指導を基に取り組むことにしました。具体的には、第1段階の例として、工場見学会、夏祭り、自治会との定期会合を、第2段階の例として、環境報告書を基にした説明、意見交換を、第3段階の例として、PRTRデ-タに基づくリスクに関する意見交換等、県の指導に基づき段階を踏み進めることにしました。 

 第1段階の取組は、1.地域とのコミュニケ-ション、2.環境活動の公表、3.地域との交流・貢献の3つの視点から開始しました。

 まず、地域とのコミュニケーションですが、春のレクリェ-ションには工場に隣接する地域住民の皆さんを招待し、工場見学、環境施設見学後、イベントに参加していただきました。

 次に、環境活動の公表についてです。当社の環境活動を環境報告書にまとめ、その公表先を県・町・消防署・関係会社・学校・取引先にまで拡大しました。また、当社のホームページに環境活動を追加し、紹介しました。県に活動状況を報告し、県のホームページにも掲載していただきました。

 また、従来から取り組んでいた地域との交流と貢献を更に積極的に行いました。行政、地域、学校等の行事への積極的な参加や、地域行事への援助、会社駐車場・グランド場の開放、地域行事への社有車の貸し出し等を行いました。地域に隣接する当社施設の清掃を定期的に実施しました。また、工場見学や体験学習の受け入れなど、各種行事への援助等を行っています。

 このポスターは、川俣小学校5年生の広瀬川をきれいにする活動の呼びかけで、右上が役員全員で参加した清掃風景です。右下は工場に隣接する側溝の清掃風景です。

 第1段階の取組の結果です。春のレクリェ-ションに招待した地域の会社OB、取引先の皆さんには全員参加いただきましたが、地域住民の皆さんは数名の参加に留まりました。交流が途絶えていたブランクの大きさと、開催条件等に課題が残りました。参加できなかった地域の皆さんに用意した品をお届けした時、「今度は出っかんない」と言う言葉をいただき、次回に繋がる接点ができたと考えます。

 第1段階の課題の取組です。今回は総務・環境主導だったので、全社の取組という点では不十分でした。そこで、部課長研修会を開催し、リスクコミュニケ-ションの理解と協力を要請しました。また、会社幹部には地域に貢献し、リ-ダー的な活動をするようお願いしました。主管する総務・環境担当は、地域の皆さんが参加できるイベントの企画を行います。また、自治会長さんや組長さんたちとの交流を図り、誘い合って参加いただく体制を準備しています。

 第1段階の課題のうち、リスクコミュニケ-ションの部課長研修会の様子です。

 リスクコミュニケーションの今後の進め方です。計画通り、春のレクリェ-ションをリスクコミュニケ-ションの定期開催日として準備し、次のステップで実施していきます。第1段階の実施の課題を改善し、継続していきます。第2段階は、環境活動の紹介や意見交換を行い、環境と化学物質に対する理解を深め合って、安心感・信頼感の醸成を行い、第3段階にスパイラルアップを図りたいと思います。そして、会社の方針である地域に信頼される企業として努力していきます。

 以上、取組途上でありますが報告させていただきました。御清聴ありがとうございました。

(原科) ありがとうございました。丹野さんのお話に対し、メンバーからの質問等はございますか? 上家さん、どうぞ。

(上家) 地域の取組を大変活発にやっておられるのを聞いて感心しました。地域とのコミュニケーションを積極的に図ろうとされて、地域住民の皆さんを招待されていますが、あまり御参加がなかったということでしたが、参加された方々はどんな方だったのでしょうか?

(丹野) 今回は、工場に隣接する方々をお招きしました。当初は12戸の御家庭に案内を差し上げましたが、参加いただいたのは4名です。

(上家) それから、環境報告書を積極的に公表されていて、とても素晴らしいと思います。環境報告書を読まれた方からの反響や御感想はありましたでしょうか?

(丹野) 非常に難しい数字を並べると、近所の方々はとっつきにくいという感想を持たれます。ですから、近所にある山や川などといった身近な話題を取り上げることが、コミュニケーションのきっかけになるように思います。

(原科) ありがとうございました。北野さん、どうぞ。

(北野) スライドの25についてです。今日は第1段階のお話を伺いましたが、最終的には第3段階が中心になってくるように思います。第3段階に進むに当たって、どのような準備を考えていますか?

(丹野) ISO14001にはいろいろな規定があります。皆さんに工場や環境施設などを御見学いただく際に、どのような管理を行っているのか、ということを目で分かるような取組を行っています。

(原科) ありがとうございました。それでは、最後に、化学物質アドバイザー・環境カウンセラーの河合さんより御講演いただきたいと思います。河合さん、よろしくお願いします。

(河合) 
 皆さん、こんにちは。化学物質アドバイザーの河合です。私は普段、山形県で民間の環境分析機関を経営しています。私どものお客様は、ほとんどが中小企業です。そういった経験を元に、また、化学物質アドバイザーでのわずかな経験を元に、今日は地方における、主に中小企業のリスクコミュニケーションのあり方についてお話ししたいと思います。なお、スライドに出てくる様々な専門用語に関しては、参考資料に簡単なコメントを記していますので、必要な方は御覧ください。

 リスクコミュニケーションの必要性については、今更申し上げるまでもありません。例えば、PRTRやCSR(注、Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)、環境配慮促進法(注、正式名称は「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律」。平成16年6月2日制定。環境報告書の普及促進や信頼性向上を制度的な枠組みとして整備し、環境報告書を社会全体で活用していくことで、事業者の積極的な環境配慮の取組を促進するための条件整備を行うことを目的とする。)、ISO14001など、様々な法制度や企業の自主的な取組によって、私たちの身の回りには、有害化学物質に関する様々な情報が溢れるようになってきました。さらに、昨今のアスベスト問題や中国で起きた化学工場の爆発事故のように、環境汚染や漏洩事故、廃棄物の不法投棄などの報道が連日のように行われています。そういった中で市民の方々は、私たちの健康に影響はないのか、あるいは、地域の環境は大丈夫なのか、と不安に感じられる方が増えてきていることも事実です。リスクコミュニケーションの必要性が叫ばれている理由には、そのような社会背景があるからに他なりません。

 しかし、コミュニケーションをもっと深めましょうといっても、いきなりコミュニケーションが深まるわけではありません。そこには、情報量のギャップという問題があり、そのままでは、コミュニケーションは成り立ちません。そこで、企業はなるべく情報を分かりやすく加工したり、説明会を実施したり、誠意ある説明をするといった努力が必要です。また、市民のみなさんも、もっと化学物質の環境リスクに関心を持っていただいて、情報を収集する、あるいは説明会や勉強会に参加するといった努力が必要です。そういったお互いの努力の中で、コミュニケーションが成り立つ範囲まで、少しずつ、ある程度の時間をかけながら、ギャップを解消していくことが必要です。

 リスクコミュニケーションの確立に向けては、3つの段階があると言われています。第一段階は、情報の開示です。環境報告書や環境レポートを作成し配布する、あるいは、ホームページ上で公表するといった段階です。この段階では、いわば、「興味のある人は見てください」といった消極的な情報の開示です。次の段階では、その情報を市民の方に理解していただくべく、積極的に説明会や見学会を開催します。そして、第3段階になってようやく、そういった情報を共有しながら、リスクの削減に向けた話し合いが持たれるようになります。実は、この第3段階が本来のリスクコミュニケーションの姿です。この段階では、インフォメーション(情報)よりも、コミュニケーション(話し合い)が強く意識されます。私の印象では、特に、地方の中小企業においては、まだ第1段階に至らないところが大多数です。ですが、今日お話していただいた(株)クレハや川俣精機(株)のように第2段階、第3段階にステップアップしていこうという企業も増えてきています。

 これは、福島県が行ったリスクコミュニケーションに関するアンケート調査の結果をまとめたものです。一番多い意見として、「住民の理解度に問題があるのではないか」つまり、意識のずれや疑念が先行しているのではないか、というものが圧倒的でした。その他に、「リスクコミュニケーションの事例や考え方を紹介してほしい」、「地域住民や団体から(リスクコミュニケーションの)要求がない」、「そもそも住民との接点がない」という意見もありました。「リスクコミュニケーションのやり方がわからない」とか、「偏った考え方の人や問題となったときの対応」などの不安を示す企業もありました。

 これは、福島での意見交換会や普段行っている環境担当者との情報交換などから得られた本音を私がまとめたものです。市民の方には失礼な言い方ですが、「寝た子を起こすようなことはしてほしくない」という意見が結構ありました。また、ずっと同じ場所で長く操業されてきた企業の方は、過去にその場所で起こった事故や汚染を蒸し返されるのではないか、いわゆる負い目がある、という本音をおっしゃっておりました。また、極端な考え方を持つ人はけっこういますので、こういう人々にどのように対応すればよいのか、といった不安も多かったです。また、マスコミの報道に対して非常に不信感を持っている企業もありました。本当に小さい企業では、リスクコミュニケーションをやりたくても、そういった人材がいない、あるいは、今は法律を守ることだけで精一杯だという企業も現実にはたくさんあると思います。

 次に、市民と行政側の本音です。誤解のないように申し上げておきますが、別に聞き取り調査を行ったわけではありません。日頃の触れ合いの中で、なんとなく推測したものです。市民の方は、「忙しい中、時間を割いてまで参加したくない」、「化学物質の話などは難しそうで理解できそうにない」、「さしあたって自分の健康に影響がなければ関係ない」、「意見を述べても無駄ではないか」、また、これは地方では結構あるかと思いますが、工場自体が環境のよいところに立地していることが多いので、「そもそも問題になるような環境とは思えない」という意見もあると思います。一方、行政側の本音としては、「あまり波風を立ててほしくない」、「できれば関与したくない」、「自分の仕事を増やしたくない」といったものが挙げられると思います。もちろん、福島県さんのように一生懸命取り組まれている担当者も多いことも事実です。

 そこで、「地方において、本当にリスクコミュニケーションは必要なのか」という命題について、私なりの意見を述べたいと思います。これは、PRTRデータから推測したトルエンの大気濃度の分布です。「東京には空がない」というのは、智恵子抄(注、高村光太郎の詩集。1941年刊行)の一説ですが、現実に、ここに示しますとおり、大都市近辺と地方では、有害化学物質の濃度に非常に大きな差があることが分かります。濃度とリスクは比例しますので、リスクについてもこれと同じような状況になります。誤解を恐れずに言いますと、少なくとも現状では、地方において人の健康面におけるリスクコミュニケーションの必要性は工場のごく周辺部など、ごく一部の地域に限られるように思います。

 私は、リスクコミュニケーションの必要性そのものを否定しているわけではありません。地方には地方のリスクコミュニケーションがあってよいと考えています。例えば、悪くなってしまった環境を改善するといった是正的なリスクコミュニケーションではなく、今ある豊かな環境を守っていく、といった予防的な感覚でのリスクコミュニケーションが地方には必要だと思います。具体的には、論点として、人の健康影響というよりも生態系への影響や景観への配慮といったリスクコミュニケーションであり、範囲としては、化学物質に特化するのではなく、環境問題全体を取り扱い、開催の形態は、中小企業単独でというのが難しければ、工業団地単位や隣接する企業同士で協力して開催するのもよいと思います。また、人材的に難しいのであれば、外部との連携、例えば、行政や化学物質アドバイザー、NPOとの連携を模索してもよいと考えます。

 「リスクコミュニケーションが実際に難しいか」ということについて、私なりの意見を述べます。福島県でのリスクコミュニケーション意見交換会では大歳幸男先生(注、(社)環境情報科学センター 特別研究員)が作られたDVDを上映しました。そこでは、企業と市民のバトルが繰り広げられていました。DVDを見た担当者は、「本当にそうなってしまうのだろうか」という戸惑いを隠せない様子でした。そんなふうになるのであれば、できればリスクコミュニケーションをやらずに済ませたいというのは人情だと思います。しかし、「寝た子はいずれ起きる」と考えておいたほうがよいのです。なぜならば、PRTR制度の狙いは、広く情報を公開し、社会全体で監視をしようという制度ですので、いわば国をあげて寝た子を起こそうとしているわけですから。今や、ホームページを見れば、個々の企業の有害物質使用状況や地域のリスクがどのようになっているのか、といった情報までも知ることができます。もう一度言いますが、「寝た子はいずれ起きる」のです。大切なのは起こし方だと思います。アスベストのように、重大なリスクを突然発表したのでは、住民はパニックに陥ってしまいます。できるだけ、静かに機嫌よく起きてもらう方がよいのです。そのためには、普段から準備をしておくことが大切です。しかし、普段やっていないことはできません。ですから、社内でも、日頃からそのような訓練をしておく必要があります。例えば、有害物質を使用している工場では、定期的に作業環境測定を行ったり、健康診断を行ったりしているはずです。そのデータを用いて、実際に使用している作業者とのリスクコミュニケーションを行っているか、ということです。私の経験では、ほとんど行っていないように思います。社内でリスクコミュニケーションができない人が、社外で市民とリスクコミュニケーションをしてもうまくいくはずがないと私は思います。まずは、そういう身近なところから、訓練を始めてもらいたいと思います。
 リスクコミュニケーションに向けて、市民からの様々な質問を想定し、それに向けた回答を準備することは大切です。しかし、完璧さを目指すあまり、必要以上に専門的なデータを入れすぎることがあるように思います。そうすると、そのデータをもって相手を説得しがちになります。リスクコミュニケーションは、相手との合意形成を前提としてはいません。それよりは、誠意ある前向きな姿勢をとることの方がより重要です。専門家がいくら安全だと言ったとしても、市民が安心するとは限りません。安全と安心は全く違った価値観であるということを念頭に入れておかなければいけません。
 次に、偏った意見の人にどう対応するのか、ということですが、私は、「変な人は呼ばなければよい」と考えます。「無視してよい」というわけではありません。リスクコミュニケーションに呼ぶ人はある程度、企業で選別しても構わないと思います。地域で信頼のおける人や人望のある人を選べば、変な人は入ってこないと思います。普段から特定の人を環境モニターとして委嘱し、地域の情報を収集したり、地域とのパイプ役になっていただくこともよいと考えます。結論として、「指摘をしてくれてありがとう」という感謝の気持ちがあれば、リスクコミュニケーションを行っても、少なくとも悪い方向に進むということはないと思います。そういう気持ちを忘れなければ、「案ずるより産むが易し」で、リスクコミュニケーションはそんなに難しくはないと私は思っています。

 クレハさんも川俣精機さんも地域住民とのお付き合いを大変大切にされています。やはり、問題が起きてからのリスクコミュニケーションの形成は難しいので、普段からのお付き合いは大切です。情報公開に努めることはもちろんですが、逆に地域の人たちからの情報を収集することも必要です。地域の活動については、単にお金を出すだけではなく、社員の方々が積極的に参画していくといった目に見える貢献の方がインパクトはあります。また、地域には、地道に活動している環境NPOも結構あるはずです。そういったところと協働して市民を巻き込んだイベントを企画していくことも効果的です。工場見学会は、地方でも結構実施している企業は多いようですが、お堅い内容だけではなく、例えば、ビアガーデンや納涼祭といったところで杯を酌み交わしながらの「飲みニュケーション」もコミュニケーション形成の重要な手段と思います。

 企業側は、常に「環境に負荷を与えながら生産活動をさせていただいている」といった謙虚な気持ちを持っていただくことが必要です。いくらゼロエミッションだ、ISO14001だといっても、全く環境に負荷を与えない生産活動は存在しません。一方、市民側も「化学物質のおかげで、便利で文化的な生活を送ることができる」、あるいは、「私たち自身も環境に負荷を与えながら生活をしている」という気持ちを持つことが必要です。要するに、「おたがいさま」という気持ちが大切なのです。突き詰めていくと、リスクコミュニケーションとは人間関係そのものであるということを結論として申し上げて、私の発表を終わります。御清聴ありがとうございました。

(原科) ありがとうございました。河合さんのお話に対し、メンバーからの質問等はございますか? 中下さん、どうぞ。

(中下) 示唆に富む、分かりやすいお話をありがとうございました。大変参考になりました。私は、弁護士でもありますので、「変な人は呼ばなければよい」という部分について、申し上げます。私もNGOをやっていますので、お気持ちはよく分かります。いろいろな方がお見えになりますので、短時間に理解をしていただくのが難しい方がいることは、重々承知して、苦労しながらやっています。日本人はコミュニケーションが下手です。これからは討議デモクラシー(注、一般市民が議論する場を設け、その結果を政治に反映させ、活性化させるための試み。)が求められる時代になると思います。討議デモクラシーの基本的なルールすら分からない方が、残念ながら上層部にもいます。地域住民だけではありません。政治家のいろいろなお話を伺っても、討議デモクラシーを理解していないと思われる方がいらっしゃいます。日本国民全員にとってコミュニケーションを行う際のルールや新たな民主主義としての討議デモクラシーを推進するためにも、ルールを共有化しながら、お互いに学びあっていくことが不可欠だと考えます。そのような状況の中、この人はいいけどあの人はだめだ、ということを言ってしまいますと、どんどんと、閉じたコミュニケーションになってしまいます。民主主義で一番大事なところは、「少数意見の尊重」です。そのためには、討議デモクラシーを理解していない方々をいかに教育しながら、レベルの底上げをしていくかが問われていると思います。ですから、アドバイザーの立場でそのようなことを言われると問題かなと思います。また、河合さんのような化学物質アドバイザーの方が、どのくらい活用されているのか、分かる範囲で教えてください。

(河合) 「変な人は呼ばなければよい」という言葉は、私がそのように言っただけで、実際に、企業の方々は、そういった人たちにも、親切に対応しておられるようです。化学物質アドバイザーとしての私の出番についてですが、今年度は福島県で3回、岩手県で1回です。私の宣伝が不足しているのかもしれません。

(原科) ありがとうございました。有田さん、どうぞ。

(有田) 「変な人を呼ばない」ということに関してですが、先ほど川俣精機さんが御発表の際に「無理をしない」とおっしゃったことでいえば、そういう考え方もあると思います。ただ、「変な人」の考え方や価値観は様々です。ですから、「厳しい御意見をお持ちの方は、少し力が付いてからお呼びした方がよい」と説明される方が理解されやすいように思います。また、河合さんは化学物質アドバイザーとのことですので、PRTRを簡単に説明してほしいといわれた場合、どのように御説明されているのかお聞かせください。

(河合) PRTR制度とは、企業が一年間に排出したり、移動したりした化学物質の量を国に届け出て、国がその結果を集計し、皆さんに公表し、それを元に、社会全体で監視していこう、という制度です。従業員数が、21人以上で、第一種指定化学物質の354物質について1トン以上使用している事業者が届出の対象になります。

(原科) ありがとうございました。ここで、10分程度の休憩を挟みまして、休憩後にメンバーによる意見交換をしますが、事務局から何かございますか。

(神谷) フロアーの皆さんには、事前に質問用紙を配らせていただいています。これまでの4人の方の御講演と、それに対する質疑応答への御意見・御質問等、御自由に御記入いただければと思います。御記入いただいた用紙につきましては、フロアー入口両脇に置いております質問受付箱にお入れください。休憩は10分程度ですが、14時45分になりましたら、質問受付箱の中の用紙を回収しますので、それまでにお入れください。なお、本円卓会議に対する全体的な感想につきましては、お手元にお配りした黄色のアンケート用紙に御記入の上、会議終了後に、同じく質問受付箱にお入れくださいますよう、よろしくお願します。以上です。

(原科) ありがとうございました。それでは、休憩に入ります。

―― 休憩 ――


(原科) そろそろ時間になりましたので、再開したいと思います。休憩時間中に、フロアーの皆さんに質問用紙に質問等を御提出いただきました。現在、事務局が質問等を整理しているところですので、その間、まずはメンバーの間で、御講演いただいた4人のお話の内容を踏まえて、意見交換をしたいと思います。後藤さん、どうぞ。

(後藤) 今日は素晴らしい取組を聞かせていただき、ありがとうございました。リスクコミュニケーションについて、実際に問題が起きてからうまくいくケースはそんなにないかもしれません。広く言えば、リスクコミュニケーションは環境コミュニケーションの一分野になります。環境コミュニケーションについては、現在、ISO14063(注、ISO(国際標準化機構)が規格化を進めるISO14000シリーズの中の環境コミュニケーション規格。2006年発行予定)を作成しています。私は、そのエキスパートになっています。来年には発行されますので、皆さんが環境コミュニケーションを行われるときのガイドラインとしてお使いいただけると思います。地方でのリスクコミュニケーションについては、是正的よりも予防的に、というお話が河合さんからありましたが、私も同感です。皆さんにとって、産業廃棄物の問題がいずれコミュニケーションの中で大きな問題となる可能性があると思います。環境省は平成15年から産業廃棄物処理業者優良化推進事業を進めています。私も委員を拝命し、ワーキンググループの座長をしています。今月は兵庫県と山口県で事業者が優良化認定を受けました。今後はそういった問題にも目を向けていく必要があると思います。最後に、コミュニケーションの大前提として、環境への取組がなければ、いくらコミュニケーションをしてもうまくいきません。エコアクション21(注、環境省が策定したエコアクション21ガイドラインに基づく、事業者、特に広範な中小企業、学校、公共機関などのための認証・登録制度)の認証制度もありますので、環境への取組が大前提だと思います。その取組があって初めてコミュニケーションにつながります。

(原科) ありがとうございました。最後に、コミュニケーションの大前提として環境配慮の取組が大事だというお話がありました。木村さんからもう少し補足的な話があればお願いします。

(木村) 貴重な御意見ありがとうございました。事業所の方々が組織として環境に取り組むことが前提にならなければ、地域での対話集会まで進められないと思います。大事なことは、例えば、情報公開にしても、情報を提供する側が、提供される側から信頼されているかどうかです。行政としても、常日頃から信頼のある情報を提供することが最も大事だと考えます。産業廃棄物の問題にしても、福島県では大規模な不法投棄事件が起こりました。県民の負担の元に、後片付けをしなければいけません。そういうことも理解していただく必要があると認識しています。

(原科) 今の産業廃棄物の話に関連し、私の経験をお話します。長野県で第三セクターの廃棄物処理事業団の施設建設に絡み大問題が起こりました。当初県民はかなりの不信感を持っていましたが、大変透明性の高いプロセスを経て、議論の場を作りました。その中で、情報公開が進み、県がネガティブな情報を出すようになると、県民からの信頼感が増してきました。2年後の最終段階では、県が提供する情報にかなりの信頼感を持って受け止めていました。それをベースに議論されています。このプロジェクトが始まり、5年目に入りますが、今では県民が自主的にごみ対策のネットワークを作り、企業とともに自主的に対策に取り組んでいます。行政からの情報公開を積極的に進めていただければ、大変効果があるように思います。それでは、村田さん、どうぞ。

(村田) 須能さんの御発表について、化学系企業の方が積極的に取り組んで、かつ参加者からのアンケートでも前向きな評価を受けていることは、非常に素晴らしいことだと思います。スライド10に、PRTR対象物質のトータルの排出量を示していますが、例えば、T-ウォッチのホームページで検索すると錦工場(注、現いわき工場)の2002年度では、大気への排出が21種類、水域へは14種類排出されていることが示されています。こういった個々の物質についても説明会で御説明されたのでしょうか?御説明されたのであれば、参加者の方々からどのような反応がありましたでしょうか?

(須能) 全体的な排出量だけでなく、個別の化学物質についても量の多い4、5物質について細かく説明しました。また、年を追っての減少傾向や優先的に削減努力をしている物質について説明しました。ただ、そのことに関する質問などはありませんでした。

(原科) 安井さん、どうぞ。

(安井) クレハさんのような化学企業の本流にこのような場所に来ていただいてきっちりとした御発表いただくことは、大変嬉しいことです。クレハさんが出されている「レスポンシブル・ケア報告書」を拝見しましたら、2005年度版には全体としての化学物質の削減傾向が出ていますが、2004年度版までは、個々の化学物質について別々に削減傾向が載せられていました。周辺住民の方々が見て本当に分かるのは、それぞれのものが着実に減っているかどうか、ということだと思いますので、継続して個別の情報をお出しいただいた方がよいと思います。その辺りはどのようにお考えですか?

(須能) 個別の情報についても、今後継続して掲載するようにします。

(原科) 北野さん、どうぞ。

(北野) 河合さんの資料スライド5に、福島県が行った、企業に対するアンケート結果があり、約3割の方が住民の理解度に問題があると答えています。確かに、本音だと思います。この意識をどのように変えていくか、ということが今後のリスクコミュニケーションの大事な点だと思います。河合さんはこの意識をどのように変えていけばよいとお考えですか?

(河合) すごく難しい質問です。化学物質アドバイザーの制度が始まってまだ日が浅いわけですが、呼ばれるのはほとんど企業側に対する説明です。一般市民に対してリスクコミュニケーションの説明や解説をする機会がありません。是非、行政の方で積極的にそういった企画をしていただければ、一生懸命説明させていただきたいと思っています。

(原科) 片桐さん、どうぞ。

(片桐) 神奈川県でも、事業者や地域の方々を対象に説明会等を行っています。また、リスクコミュニケーションという形で事業者に開催していただいているケースもあります。それを今後どのようにしていくのかということを悩んでいます。また、このことに関して皆さんの意見を聞く必要があると考えています。また、地方でのリスクコミュニケーションを推進するための方策として御説明がありましたが、これは地方だけでなく、神奈川県でもだいたいこのような形です。事業者の方には、環境全般について対策を行っていただきたいと考えます。コミュニケーションの中から、住民の方からPRTRデータについて話題が上がってくるようになれば一番良いと考えています。

(原科) 中下さん、どうぞ。

(中下) 先ほど、化学物質アドバイザーについて質問をし、河合さんは4回ほどしかお声が掛からなかったということ聞いて驚きました。環境省で作られた制度ですが、全国的にはどのくらい利用されているのでしょうか? また、今のように少数しか制度を利用されていないことに関して、環境省として今後制度改善にどのように取り組まれるつもりですか?

(原科) では、上家さん、お願いします。

(上家) 化学物質アドバイザーは現在全国に25人しかいません。25人しかいないにも関わらず、それぞれの方々の活躍の場は年間3、4回が精一杯という状況が未だに続いています。活躍の場が少ないのに、これ以上増やせないという状況があり、数年間足踏みをしながら宣伝を続けている状況です。私が課長になる以前から、ずっと事態は凍結したままになっていて、なんとかしたいと考えています。リスクコミュニケーションを半ば押し売りしている立場からいいますと、押し売りしている先が違ったのかなと思い始めています。須能さんのお話にもありましたが、住民の方々の関心が化学物質そのものの危険性や暴露の大きさよりも前に、保安・保全・防災である。また、後藤さんがおっしゃったように、廃棄物になったときの問題や河合さんがおっしゃったように、人への影響だけでなく、生態系への影響にもっとフォーカスを当てる。そういうことを考えると、化学物質そのものについて非常に関心がある、例えば、中下さんのような方を想定して化学物質アドバイザーが説明する図式はあまり普遍的ではなく、もっと広く環境を身近なところから考える、という進め方にしていかなければ、なかなか化学物質単独では、進まないように感じています。これについては、来年度以降に考えていきたいと思います。

(中下) 廃棄物の問題にしろ、生態系の問題にしろ、化学物質の知識は絶対に必要です。私は個別の化学物質にだけ関心があるわけではありません。子どもの健康や野生生物の存続、そのバックグラウンドに化学物質の影響があるので、心配をしています。その制度をもっと活用できるような対策を考えていただきたいと思います。

(原科) では、事務局の方で質問等の整理が終わったようですので、頂いた御質問を事務局から紹介していただきます。よろしくお願いします。

(神谷) 頂いた御意見を紹介します。まず、福島県の木村さんに対しての御質問をいくつかまとめて紹介します。「リスクコミュニケーションに関して、企業、住民の関係が重要なのはわかりますが、行政としてどのような立場でこの問題に関わっていくべきだとお考えでしょうか?」、「リスクコミュニケーションを実施している県内の工場は6工場と伺いましたが、今後100工場ぐらいまでに広げるのに何年かかると考えでしょうか?」、「福島県内でリスクコミュニケーションの第2段階以上を実施している企業の名前がわかれば教えてください。」、「PRTR及び化学物質適正管理指針の届出を徹底していただきたい、それについて、将来情報公開を検討していただきたいと思います。」、最後に、「情報公開は大事ですが、市民の化学物質に対する意識を高めるため、例えば、河川の汚染原因の50%が家庭排水にあること等を市民に認識していただくことも検討すべきだと思います。」、以上です。

(原科) ありがとうございました。それでは、すべて答えていただくと大変ですので、いくつかに絞ってお答えいただければと思います。木村さん、よろしくお願いします。

(木村) 行政がどのようにリスクコミュニケーションに関わるかということですが、基本的には、事業者と地域の方々が進めていくものだと考えています。その中で我々行政の役割は、情報を適切に伝えていくことです。行政が直接関わらなくても、皆さんに情報を共有していただき、意見交換会を通じて企業と住民がお互いに認識し合う、というスタイルを作り上げていければ、と個人的に考えています。
 100工場までに増やすまでにどのくらいかかるか、ということですが、事業者自らに取り組んでいただくことですので、特に目標を立てているわけではありません。
 具体的な事業所の名前に関しては、福島県のホームページ(http://www.pref.fukushima.jp/kankyou/taiki/risucomi_top.html)を見ていただければと思います。適正管理指針の情報公開やアンケート結果、PRTR法に基づく届出結果も公表しています。また、できるだけ見やすい形で情報提供をしていきたいと考えています。ぜひ、今後も御意見を頂ければと思います。
 私は現在、化学物質を担当していますが、他にも水域や地球温暖化の取組を担当している部署があります。現在、環境教育の推進が望まれていますので、広くそういう場も提供していきたいと考えます。以上です。

(原科) ありがとうございました。それでは、続いて須能さんへの質問について、事務局から御紹介いただきます。

(神谷) 株式会社クレハの須能さんに対する御質問をいくつかまとめて紹介します。「リスクコミュニケーションによる対話で、情報公開を行う際に、相手に誤解を生じさせない表現をどのように工夫しているのか知りたい。例えば、社内的に対応が未完のものやリスクマネジメントが不完全なものについてどうするのか?」、次に、「リスクコミュニケーションの実施頻度は毎年必要か、状況が大きく変わらない場合はどうですか?」、「リスクコミュニケーションへの参加は、地区役員以外の一般住民でも可能でしょうか?呼びかけはどのように行っていますか?」、次に、「地区住民とのコミュニケーションとして、具体的に何を行っていますか?」、「地域の対話集会で地域の方々からどのような質問や意見がありましたか?もう少し詳しく教えてください。」、「ポリ塩化ビニリデンのクレラップは焼却すればダイオキシンが出るが、ポリエチレン製のラップは製造していないのでしょうか?ポリエチレン製ラップは少し切れが悪いが環境負荷は少ないように思います。」、以上です。

(原科) ありがとうございました。それでは、須能さんから、いくつかに絞ってお答えいただければと思います。よろしくお願いします。

(須能) 誤解を生じさせない工夫については、できるだけ噛み砕くこと、そして、聞き手の目を見ながら話すことなどがあります。聞いた方が誤解をしたまま帰られることもあるかもしれませんが、できるだけの工夫をしているつもりです。
 地域対話集会では一般住民の方には今のところ参加いただいていません。工場周辺の10地区にお住まいの役員の方だけに参加していただいています。しかし、地域対話集会だけで説明をすべて行っているわけではありません。例えば、従業員も地域に帰れば一地域住民になります。その地区の役員の方に報告をすれば、従業員が地域において、それに関連した質問を受けるケースがあると思います。そのときに、従業員も何らかの答えができれば、これは力強いコミュニケーションの発展だと思います。地域対話集会を行う前段階においては、従業員に対して今年の行動計画や、レスポンシブル・ケア報告書の内容をよく説明します。もし対話集会の場で誤解が生じていたとしても、地域に帰ったときに、もう少しフランクな話の中でその誤解が消えることもあるように思います。
 状況が大きく変わらない中で、毎年対話集会が必要かという御質問に対して、私も全く同感です。毎年三分の一ずつ減少している状況だとしても、聞き手にしてみれば、去年も同じ話だったということになると、上滑りになります。そういったことを考えると、2年に1度で十分ではないかという気持ちがあります。第1回を一昨年に開催し、定着させるために昨年は連続して行いました。それから隔年にしようかと真剣に考えましたが、2回目の御意見の中にグループ会社の発表も聞きたいという御要望がありましたので、それに応える形で3年続けて行いました。今日は申し上げませんでしたが、コンビナート等では十数社が集まり、ほとんど隔年で、また、発表は持ち回りでやっているケースが多くあります。それは状況が変わらない中で毎年必要か、という御質問に通じるものがあるかと思います。
 質疑の内容については、もちろん発表したことの関連が多いのですが、中には、例えば、環境税や産業廃棄物税的なものに対してどう考えるかといった直接発表に関連しない内容もありました。
 クレラップは、処理によってダイオキシンを発生させないことが十分できます。使用が便利なものを、処分の段階で十分に対応することで有用に活用したいと考えています。

(原科) ありがとうございました。それでは、続いて丹野さんへの質問について、事務局から御紹介いただきます。

(神谷) 川俣精機株式会社の丹野さんに対する御感想を紹介します。「非常に身近なところから地域住民との交流を始め、いずれはPRTRのリスクコミュニケーションを行うというところに好感を持ちました。やはりいきなり工場説明というのではなく、まずは対話をする下地作りが大切だと思いました。」、「まとまった説明で地域とのコミュニケーションに努力しているのが伝わりました。」、以上です。

(原科) ありがとうございました。丹野さん、今の御感想に対していかがですか?

(丹野) 御意見ありがとうございました。私どもとしては、第1段階であると同時に企業としての基本的な活動をしっかりしていかなければいけないと考えています。これはリスクコミュニケーションだけではなく、企業全体の活動として必要だという社長の認識と我々の意識です。今後もそういうことを十分に行いながら進めていきたいと考えます。

(原科) ありがとうございました。それでは、続いて河合さんへの質問について、事務局から御紹介いただきます。

(神谷) 化学物質アドバイザー・環境カウンセラーの河合さんに対する御意見をまとめて紹介します。「変な人の取り扱いについて、第1段階では地元住民や関係者などが対象であり、全国的な活動をされている方などに御遠慮いただくということは、良いのではないかと思います。特に中小企業など体力のない会社については、人材的にも大変だと見られますから。ただし、行政の場合は、誰でも受け入れるのが原則だと思います。そういう意味で、河合さんのお考えに賛成です。」、次に、「よく分析されていて、大変わかりやすい説明でした。」以上です。

(原科) ありがとうございました。それでは、河合さんお願いします。

(河合) 先ほどから考えていましたが、もしリスクコミュニケーションの場に変な人が来たら、ファシリテーターの役割は大変重要になってくると思います。化学物質アドバイザーはファシリテーターをやってはいけない、というルールがあります。しかし、地方にはファシリテーターや化学物質アドバイザーの人材がそんなにいるわけではありません。ぜひ、化学物質アドバイザーについても、ある程度ファシリテーターの役目をやっても良いというルールにしてもらいたいと思います。

(原科) 化学物質アドバイザーはファシリテーターをしてはいけない、という趣旨はどういうことでしょうか?

(上家) してはいけない、とか、この業務に限る、と制約をしているつもりはありません。ただ、化学物質についてちゃんと伝える役目をまず担ってもらいたいというのが一義です。しかし、例えば、地方の小さな集まりにおいてその役割が大きくあるか、といえば、どうもそうではないのかなとお話を伺いながら思いました。それぞれの場面でフレキシブルに良い対応をしていただくことも必要だと思います。ただ、中立的に化学物質について分かりやすく正確に情報を伝えることのできる人が求められる、ということも一方にはあります。その部分も抑えながらやっていただければ、ファシリテーターの機能を務めていただいてもよいのかと思います。一方で、環境カウンセラーという看板も河合さんはお持ちですが、環境カウンセラー制度は相当柔軟な制度です。環境カウンセラーが大勢いて、その方々にもう少し正確な化学物質の知識を持ってもらわなければいけないという問題意識も持っています。そういう意味で、両方の立場を踏まえて、フレキシブルに対応していただいて、全く差し支えないかと思います。

(原科) 発表者四名の方々に対し御質問等を頂き、御回答を頂きました。それ以外の、全員に対する御意見があるようですので、御紹介ください。

(神谷) 円卓会議のメンバーに対する御質問等を紹介します。まず、「いろいろな話を聞いているうちに、リスクコミュニケーションとは何か、がだんだんとわからなくなってきました。市民、産業、ユーザー企業代表の方から各々のリスクコミュニケーションの考え方を教えていただければと思います。」、「リスクコミュニケーションについて、環境面で実害が発生していないが、今後のリスクが予想される課題がある場合、行政が主催すべきか、地域が主催すべきか、いずれがよいとお考えですか?」、「行政のリスクコミュニケーションに対する要望が、今回、産業、化学物質アドバイザーの方々の御講演になかったように思いますが、何かあればお答えください。」、「化学物質の低減は、いつかは下げ止まりになると思います。その時点でどのようなリスクコミュニケーションの展開が必要と考えたら良いのでしょうか?」、「企業側でさえ、理解できそうにない化学物質がたくさんあり、それを地域住民が理解することは不可能である。」、「常に地域に開かれた企業を目指すべきだと理解しました。」、「各委員に対して、化学物質の人への影響の可能性は、多くの場合、マスコミを通じて国民の知るところとなり、パニック状態になることもあります。マスコミ報道と市民の受け止め方、行動のあり方についてアドバイスをお願いします。」、最後に、「川上企業と社会のコミュニケーションが話題の中心になっていますが、産業廃棄物処理業者と川下企業とのコミュニケーションもこうして展開されるべきだと考えます。対応が難しいが、結果的に効果が出るように考えます。」、以上です。

(原科) たくさんの御質問、御意見を頂きましたので、すべてに答える時間はありませんが、リスクコミュニケーションの考え方について何かありますか? 北野さん、どうぞ。

(北野) 私は、リスクコミュニケーションはリスクの情報を共有することだと理解しています。そのリスクというのは、現在起きつつあるリスクばかりでなく、将来起こりうるであろうリスクという面も含めて情報を共有すべきだと考えます。状況が変わらなければ隔年実施で良いのではないか、という御意見がありましたが、それは違うと思います。やはり状況が同じだろうと、毎年定期的にきちんと情報を共有し合うことが大事です。何らかの問題が起きたから開催する、ということではありません。そういう意味で、日常的な情報の共有が非常に大事です。化学物質の排出量が削減していることは良いことですが、そればかりがリスクではないと考えています。

(原科) ありがとうございました。岩本さん、どうぞ。

(岩本) 安全な社会を作っていくために、安全に関する規制と化学産業界の自主的な取組、この両輪で物事が進んでいます。規制にはルールがあり、場合によっては行政が立ち入って、イエスかノーかを決めていただきます。一方、自主的な取組は、こちらから情報を出さない限り、市民の皆さんには絶対に伝わりません。私ども化学産業界では、レスポンシブル・ケアの取組を1995年から本格的に開始しました。自主的な取組だから、我々から積極的な情報を出して、皆さんの御意見を聞こうという試みを96年に企画しました。コンビナートのある地域社会や消費者団体の皆さん、また、若い世代である大学生の皆さんとの対話を繰り返しています。ここでは、リスクというよりも、我々が今の科学的な知見を持って皆さんに提供する製品を開発していることや、事業活動の安全を確保するために行っている取組について説明し、それに対する御意見を下さい、というものです。地域対話でよく出てくる御意見には、「匂いがあるのがけしからん」とか「騒音がけしからん」という話を聞きます。これは率直な意見だと思います。こういう御意見を事業活動の中に反映していっています。また、マスコミ報道が優先しパニックに陥っている、という話も出ましたが、私どもは風評被害のような形で迷惑を被りました。産業界もホームページ上でどんどん皆さんに情報を出していこうと考えています。また、ホームページの方に消費者の方からどんどん意見を頂いています。それには、丁寧にお答えするようにしています。先日も、「市の行事で川の大掃除をするが、最後に地元名物の炊き込みご飯を作るためにドラム缶の使用を検討している。しかし、中にビスフェノールAを使用しているエポキシという塗料があるようだが使用しても大丈夫か?」という御質問があり、ちゃんとお答えしました。こういった形で、自主的に産業界として生き残りをかけて安全を確保しています。こういう取組をいかに皆さんに展開するか、また逆に皆さんから分からない、ここが心配だという声をいかに受け入れようか、ということがリスクコミュニケーションの原点だと私どもは受け止めています。

(原科) ありがとうございました。中下さん、どうぞ。

(中下) 市民側から意見を述べます。化学物質にはまだまだ分からないことがたくさんあります。完全にデータがそろっている化学物質もごくわずかです。そのデータも、個別の化学物質のデータですので複合影響となると、ほとんど分かりません。その中で、少しでもリスクを削減していくために、それぞれがどういう行動をとっていくのか、という話し合いをすべきだと考えています。化学物質を規制するとなると、科学的にある程度確実なものでないとなかなか難しいと思いますが、私ども市民側からすると、不確実なものでも何らかの対策ができるのであれば、できるようなものから対策を始めていく方がよいと思います。それには社会的な合意形成が必要であり、専門家の方々だけではなく、化学物質を使用している市民自身も参加できるようにすべきです。例えば、利便性と懸念される影響とを天秤にかけて、代替品にするかどうかをせめて自己選択ができるような情報提供をしてもらうといった取組は可能だと思います。科学的証拠がないものでも悪影響が懸念されるものについては何らかの対策を講じていく必要があります。科学的証拠がないからといって対策を講じない理由にはしていけません。できることはやっていこうという「予防原則」が大事です。これは、科学を前提にしつつも、科学を補完するものとして捉えられています。そうすると、予防原則に基づいて講じるべき対策を決定するには、その中で、市民参加-市民と産業界、行政、学識経験者というマルチステイクホルダーによる意思決定が必要だと思います。その前提としてリスクコミュニケーションがある、と私は理解しています。

(原科) ありがとうございました。岩本さん、どうぞ。

(岩本) 私どもも、本日御紹介いただいたような対話集会を行ってきました。環境問題や化学物質の問題は、今の子どもたちが大きくなったらどうなるのか、あるいは、今お腹の中にいる子どもたちがどうなるのか、という意味で、何とかたくさんの女性に集まっていただきたいと考えています。本日の傍聴席を見渡しますと、九十数%は男性だと思います。私どもがこういう活動をする過程で、有識者から「女性を集める工夫をしなさい」と言われます。そうなると、開催は土曜日か、日曜日かと考えますが、結果的にこういう形になります。多分、今産業界が開催するものには、ほとんど男性が参加されるだろうと思います。ここを何とかしたい、というのが私どもの課題です。さすがに、有田さんとコープかながわを訪れた際は、全員女性でした。

(原科) 瀬田さん、どうぞ。

(瀬田) リスクコミュニケーションの条件について申し上げたいと思います。1つは、ある程度リスクが特定されないと議論にならないということ。2番目に、それに対するネガティブな情報とポジティブな情報とを偏らないできちんと出すということ。3番目は、双方向であるということ。4番目に、その結果の「検証」がある時期にきちんと行われること、この4つが条件だと考えます。特に4番目については、騒ぐだけ騒いだ後に忘れてしまうとなると、日本人としての民度がいつになっても上がりません。本当に真剣になって環境問題、特に化学物質に取り組むのであれば、そのひとつひとつの動きや活動の検証をきちんと行い、後にいかすことが必要です。それが私の考えるリスクコミュニケーションです。

(原科) ありがとうございました。「最後の検証」に関しては、特にマスコミが弱いです。マスコミは一気に報道しますが、最後のフォローアップがなかなかありません。誤解を生じさせたまま終わってしまうことがよくあります。では、有田さん、どうぞ。

(有田) リスクコミュニケーションが分からなくなった、というよりは、悩みながら進めていくものだと私は考えています。以前は、説得することがリスクコミュニケーションだといわれるような時期もありました。私は消費者の立場ですので、説得されないぞと思い、また、企業や行政に分かってもらうために参加するものだと考えていました。しかし、利害関係者はそれぞれ考え方が違うので、リスクコミュニケーションに対する思いも違って当然だと思います。ただ、こういう場が用意されてきたことが大きな進歩だと考えます。例えば、マスコミを通じて情報が一気に流れた場合、それしか知りえなければ、市民が不安になるのは仕方がありません。その上で、市民に正しく理解をしてもらう努力を企業側も行政側もしていただきたいと思います。市民は何も分からなくて騒ぐところだけ騒いでいる、というふうには捉えてほしくありません。以前よりは随分市民側も理解ができるようになってきていると考えます。リスクコミュニケーションが分からなくなったのではなく、リスクコミュニケーションとは常に動いているものだと考えます。環境問題すべてに関心を持って、その中で化学物質から入っていけば、日頃の生活が様々なことに関連してくることが分かってくるように思います。これには、時間がかかります。また、化学物質アドバイザー制度についても、その定着にはまだまだ時間がかかるように思います。

(原科) 後藤さん、どうぞ。

(後藤) 行政から「リスクコミュニケーションをやりましょう」と言われても、リスクコミュニケーションが何か分からなければ、無理をして実施しなくてもよいと私は思います。そうではなく、リスクコミュニケーションをなぜ実施しなければいけないのか、ということを考えたほうがよいと思います。たとえば、意識的に違法をしなくても、事故を起こせば法律を破ることになります。そのとき、企業の存続が可能かというと、かなり厳しくなります。今、企業が確実に存続し、発展していくためには、社会に受け入れられていることが大前提です。地域社会の方々に、どのようなことをどのような姿勢で取り組んでいる企業かを理解してもらっていた方が、問題が起きた際に説明等を行っても、ある程度理解してもらえます。逆に、常日頃から地域社会に対して閉鎖的な態度をとっていれば、いくら説明をしても誰も信用してくれません。時代は変わっています。社会に受け入れてもらうためには社会とのコミュニケーションが必要です。その中の一つとしてあるのが、リスクコミュニケーションだと私は理解しています。

(原科) 企業の活動をまず社会に理解していただく、その中でいろいろな問題に対応していくのだと思います。村田さん、どうぞ。

(村田) 市民側もそれぞれリスクコミュニケーションに対する考え方が異なります。ただ、海外で化学物質に関わっているNGOからは今まで一度も「リスクコミュニケーション」という言葉そのものを聞いたことはありません。この言葉は日本でしか聞きません。私がリスクコミュニケーションとは何かと定義するとすれば、環境に何らかの負荷を与えている主体、もしくはそれを管理する行政に市民の知る権利と説明責任を求めることだと考えます。

(原科) 私は環境アセスメントの研究を行っていて、特にアセスメントの分野では国際会議によく出席しますが、そこではリスクコミュニケーションという言葉が出てきます。専門家の間ではよく出ますが、NGOの間ではまだ出ていないということですか?

(村田) 出ていません。

(原科) 有田さん、どうぞ。

(有田) 2000年にベルリンで開催されたOECDの化学物質のリスクコミュニケーションには、カナダやアメリカのNGOの方々も出席していました。そこでは、「リスクコミュニケーション」ということでワークショップが開催されました。

(原科) どこかでは使用されているのでしょうが、あまり強調されていないのかもしれません。中下さん、どうぞ。

(中下) 女性をリスクコミュニケーションの場にいかに参加させるか、というお話がありましたが、私は男女共同参画を専門としていますので、その立場から一言申し上げます。御指摘の通り、今日の会場もそうですし、化学物質に関するいろいろな会に参加しても女性の数はやはり少ないです。ただ、生協やPTA、地域のお母さんたちの集まりに行くと、もちろん女性ばかりです。そこでお話をすると、皆さん熱心に話を聞いてくれます。また、私どもが作成しているブックレットも行った先々で売り切れます。ですから、女性の方がむしろ関心が高いように思います。こういう場に出てきていただけないのは、宣伝方法に工夫の余地があるからだと思います。自治会の役員となると、皆、男性です。既存の組織ではなかなか女性がトップになれません。農協もそうです。ですから、そういうところに声を掛けても女性が参加することはありません。女性を出すということを目的意識にして、方法論を考えていただきたいと思います。

(原科) 役員の奥様に御参加いただければよいのではないでしょうか。そういった工夫もしていただきたいと思います。瀬田さん、どうぞ。

(瀬田) リスクコミュニケーションという言葉を海外のNGOの会合で聞いたことがない、というのは驚きです(注:米国、NRC(National Research Councilが報告書を出している)。ただ、「リスクコミュニケーション」が広く議論の場にあがってきたのは、この数年ですから、まだ十分に受け入れられていないということはあるかもしれません。私が先ほど述べたリスクコミュニケーションの4つの条件について、最初の3つはだいたい世の中で言われている定義だと思います。リスクを特定し、ネガティブ情報も出し、双方向で議論し、理解を深める。アメリカではこの議論は随分進んでいます。本もたくさん出版されています。ただ、私は第4の条件がリスクコミュニケーションの質を上げる上で極めて重要だと思います。

(原科) 人々の環境リスクに関する心配はとても大きいように思います。環境問題に対して声を出すための公式な場として裁判があります。しかし、裁判の場で人々が環境問題に対して声を出せるかというと、意外と出せなかったのが日本の実情です。最後に御紹介しますが、新聞記事のコピーを配布しています。12月8日発行の読売新聞の記事です。内容は、小田急の高架化訴訟についてです。世田谷区の某駅周辺に自動車と鉄道がクロスする箇所があり、混雑が生じているため、これを立体化する計画が持ち上がり、高架にすることが決定されました。しかし、路線を地下に通す方がより影響が少ないという考え方もあります。また、費用対効果の問題等もあります。地域住民の方々がこの高架建設に対して声を出しました。従来の考え方では、原告として裁判に訴えることができるのは、土地を有する地権者のみです。しかし、地権者には経済的な利益関係はありますが、そこに家を建てるわけではありません。ですから、被害は受けません。しかし、その鉄道沿いに暮らしている方々は、騒音や日照阻害を受けます。被害者が声を出せなくて、直接被害を受けない人が声を出せるという変な仕組みでした。このため、行政の責任を問うことは難しいですが、昨年、行政事件訴訟法が改正になり、公益性という観点から原告適格の範囲を広げようという考えになりました。行政事件訴訟法が改正になり、この4月から施行になり第1回目の法律適用になったのが、この高架化訴訟です。裁判の結果、最高裁判所の大法廷において、判例変更という判断が下りました。14名の判事全員がこれに同意しています。この判断は大変重いと思います。これから、ようやく環境面から声を出して裁判ができるようになりました。日本も少しずつ変わってきています。裁判でさえ、人々が声を出すことを保障されていなければ、一般市民はそれ以外の形で声を出すことはできません。原告適格拡大に関して、私の詳しい意見が12月17日付けの読売新聞の「論点」に掲載されていますので、感心のある方はお読みください。また、産業界の方々も今行われている取組をぜひ、全体に広げていただきたいと思います。有田さん、どうぞ。

(有田) 先ほど上家さんから、化学物質アドバイザーがファシリテーターを務めてもかまわない、とお答えがありました。地方などの開催でファシリテーターを探すのは難しいということは分かりますので、それはそれで良いと思います。ただ、化学物質アドバイザーの立場は中立的であり、化学物質アドバイザーとしての中立性を確保するためにはファシリテーターまで担うのは難しいと思います。例えば、企業側が信頼されていない状況の中で、企業側が科学的に正しいことを言って、化学物質アドバイザーが采配を振るいながら回答もすることは困難です。地方でファシリテーターを見つけるのが難しいという状況はありますが、例えば、司会進行などを行政の方に行っていただくという工夫もあるのかな、と思います。

(原科) ファシリテーターとは、この円卓会議のような議論の場をサポートする役目を指し、司会役、促進役、進行役などと言われます。双方から信頼を寄せられていなければファシリテーターはできません。化学物質アドバイザーは、正しいことを伝えるためには結果的には必ずしも中立でなくてもよいのかもしれません。アドバイスする姿勢を見て、公正、中立だと理解してくれれば当然ファシリテーターをお願いされる場合もあるかもしれませんが、それはケースバイケースです。化学物質アドバイザーの機能とファシリテーターの機能は基本的には分けておいた方がよいかもしれません。上家さん、どうぞ。

(上家) 例えば、情報がたくさんある地域での需要と、そういうものをこれから掘り起こしていかなければいけない地域での需要は異なると思います。25人いる化学物質アドバイザーも、関東地区に集中しています。そういう中で、地方で活躍していただいている方に、情報が溢れかえっているところでの図式をそのまま当てはめることはできない部分があるように思います。ですから、フレキシブルに対応していただきたいと申し上げました。また、最後にせっかくですので、須能さんと丹野さんに化学物質のリスクコミュニケーションを促進するために、行政に希望されることがあればお話しいただければと思います。

(原科) では、一言ずつお願いします。須能さん、どうぞ。

(須能) リスクコミュニケーションを促進するために例えば中立的なファシリテーターに近い役割を担っていただくというようなこともあるかもしれませんが、一方、行政は我々事業所が事故などを起こした際に、設備の改善命令など行政的な命令を出す立場をお持ちです。そのようなことを考えますと、私ども企業側があくまでも自主的取組の中で、中立的なことを大事にしながら進めていくことが長い目で見てもよいのではと思います。

(原科) ありがとうございました。では、丹野さん、どうぞ。

(丹野) 県が主催するリスクコミュニケーション推進セミナーや意見交換会に参加したことが、我々の活動の第一歩になっています。そういう場に我々が出席していなければ、やり方が分からず、踏み出せなかったように思います。今年になり、いろいろと教育もしていただきました。そういう点では、このリスクコミュニケーション推進セミナーや意見交換会に、皆さんに出席していただければ、おのずから道は開けてくるように思います。非常に良いことを行っていただいていると思います。

(原科) さらにそういう取組を進めていただきたいと思います。皆さん御承知だと思いますが、環境省の予算はあまり多くありませんので、ソフト面についても取り組めるように、国民からもサポートしていただければと思います。いろいろな面でのコミュニケーション、例えば、企業とNGO、企業と地域住民、行政など、さまざまな主体でのコミュニケーションを進めるためには、リスクだけではなく、環境コミュニケーションといった幅広い考え方で行っていただきたいと思います。では、そろそろ時間となりましたので、この辺で、本日の会議は終了したいと思います。次回の内容については、この後開催する予定のビューロー会合において協議して決めたいと思います。それでは、最後に、事務局の方から何かございますか。

(神谷) フロアーの皆さんには、黄色のアンケート用紙をお手元にお配りしていますので、本日の円卓会議についての御意見・御感想を御自由に御記入の上、フロアー入口両脇に置いております質問受付箱にお入れください。また、ビューロー会合は、控室にて行いますので、メンバーの方はよろしくお願いします。

(原科) それでは、本日の会議は、これで閉会にさせていただきます。どうもありがとうございました。

第16回化学物質と環境円卓会議でフロアーから頂いた意見

第16回化学物質と環境円卓会議のアンケート結果