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化学物質と環境円卓会議(第15回)議事録

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■日時:平成17年9月4日(日) 13:00~16:00
■場所:愛知芸術文化センター アートスペースA(12F)
■出席者:(敬称略)
<ゲスト>
  米澤 勝之 愛知県環境部環境管理監
  安藤 健吾 トヨタ自動車株式会社プラント・エンジニアリング部生産環境室長
  西本 テツオ 愛知県環境カウンセラー(西森真紀代理)
<学識経験者>
  原科 幸彦 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授
  安井  至 国際連合大学副学長
  <市民>
  有田 芳子 主婦連合会
  後藤 敏彦 環境監査研究会代表幹事
  崎田 裕子 ジャーナリスト、環境カウンセラー
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議事務局長
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金ジャパンシニア・オフィサー
  <産業界>
  岩本 公宏 (社)日本化学工業協会環境安全委員会委員
  瀬田 重敏 (社)日本化学工業協会広報委員会顧問
  鳥居 圭市 (社)日本化学工業協会常任理事(中塚巌代理)
  吉村 孝一 日本石鹸洗剤工業会環境・安全専門委員長
  越智 徹 (社)日本電機工業会2005年化学物質総合管理専門委員会委員長
  八谷 道紀 (社)日本自動車工業会環境委員会地球環境部会長(山下光彦代理)
  嵩 一成 日本チェーンストア協会環境委員
  <行政>
  片桐 佳典 神奈川県環境農政部次長
  佐々木 弥生 厚生労働省医薬食品局審査管理課化学物質安全対策室室長(黒川達夫代理)
  藤本 潔 農林水産省大臣官房環境政策課長(吉田岳志代理)
  辻本 圭介 経済産業省製造産業局化学物質管理課企画調整担当補佐(塚本修代理)
  滝澤 秀次郎 環境省環境保健部長
   (欠席)
北野 大   淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
大沢 年一   日本生活協同組合連合会環境事業推進室長
角田 季美枝   バルディーズ研究会運営委員
   (事務局)
上家 和子 環境省環境保健部環境安全課長
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1  愛知県における化学物質の排出量等の現状と取組(米澤さん講演資料) [PDF(53KB)]
資料2  トヨタ自動車の取組み(安藤さん講演資料) [PDF(265KB)]
資料3  気になる臭いと化学物質(西森さん講演資料) [PDF(86KB)]
○事務局が配布した参考資料
参考資料1  第14回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
参考資料2  化学物質と環境円卓会議リーフレット [HTML]
○円卓会議メンバーが配布した資料
滝澤さん資料1 「化学物質ファクトシート-2004年度版-」の作成・公表について [PDF(57KB)]
滝澤さん資料2 「かんたん化学物質ガイド」の作成・公表について [PDF(24KB)]
滝澤さん資料3 化学物質と環境に関する学習関連資料データベースの更新について [PDF(24KB)]
滝澤さん資料4 PRTR対象化学物質の排出削減に向けた取組事例集の作成・公表について [PDF(30KB)]


■議事録

1.開会
(上家) 本日は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。ただ今から第15回化学物質と環境円卓会議を開催させていただきます。円卓会議につきましては、市民、産業、行政、学識経験者の意見交換と相互理解を進めることを目的として、従来、東京都内で開催していました。今回は、幅広い方々にこの円卓会議にご参加いただく機会を作り、化学物質に関するリスクコミュニケーションをより推進していくために、愛知県庁にご協力いただきまして、愛知県において開催することとなりました。初めての試みではありますが、有意義な場になればと存じます。また、従来は「円卓会議」ということで、丸いテーブルを囲んで会議を行っていますが、今回は会場の都合上、また、皆さんにより参加していただくような形にしたいということで、このようなレイアウトにしています。本日は、安井さんに司会をお願いしています。安井さん、よろしくお願いします。

(安井) 皆さんこんにちは。ご紹介いただきました安井です。それでは、ただ今から第15回化学物質と環境円卓会議を開催します。今回は、「地方における化学物質対策への取組」がテーマです。初めての試みという紹介もありましたが、おそらく「愛・地球博(注、名古屋東部丘陵(長久手町・豊田市、瀬戸市)で開催中の2005年日本国際博覧会。「自然の叡知」をテーマに、約120カ国と5つの国際機関が参加。2005年3月25日~9月25日開催。)」が行われていることと関係するかと思います。その愛知県下の皆さんからご意見を聞きながら、意見交換を行うこととしています。これに当たり、愛知県環境部環境管理監 米澤勝之さん、トヨタ自動車株式会社プラント・エンジニアリング部生産環境室長 安藤健吾さん、そして、もうお一方は、当初愛知県環境カウンセラーの西森真紀さんからお話を伺う予定になっていましたが、本日ご都合により代理で西本テツオさんからお話を頂きます。それぞれ質疑応答を含めまして20分程度のご講演を頂きます。その後、フロアーからの質問も踏まえ、メンバーで意見交換をしたいと思います。まず、事務局から本日のメンバーの出席状況等と資料の確認などをお願いします。

(上家) まずはメンバーの交代をお知らせします。行政側の染英昭さんから吉田岳志さんに交代です。本日は、藤本潔さんが代理で出席されています。その他の代理出席についてお知らせします。産業側の中塚巌さんの代理で鳥居圭市さん、山下光彦さんの代理で八谷道紀さん、行政側の黒川達夫さんの代理で佐々木弥生さん、塚本修さんの代理で辻本圭介さん、先ほどもご紹介しました吉田岳志さんの代理で藤本潔さんがご出席です。本日のご欠席は、学識経験者の北野大さん、市民側の大沢年一さん、角田季美枝さんです。
 次に配付資料の確認を行います。資料1は、米澤さん講演資料「愛知県における化学物質の排出量等の現状と取組」です。また、資料番号がついていませんが、「県民の生活環境の保全等に関する条例のあらまし」というリーフレットも米澤さん資料として配付しています。資料2は、安藤さん講演資料「トヨタ自動車の取組み」、資料3は、西森さんに代わり西本さんにご発表いただく講演資料「気になる臭いと化学物質」です。次に、参考資料1は「第14回化学物質と環境円卓会議議事録」です。これは円卓会議のメンバーのみに配布しているものですが、既にメンバーにご確認いただき、環境省ホームページに掲載していますので、どなたにもご覧いただけます。参考資料2は「化学物質と環境円卓会議リーフレット」です。このリーフレットは毎回必要に応じて改訂しながら配布しています。今回は、メンバーの肩書き及びお写真、そして交代された方について変更しました。次に、滝澤さん資料1~4についてご説明します。滝澤さん資料1は「化学物質ファクトシート2004年度版」の作成・公表についてのお知らせです。実際のものは、一緒にお配りした青い表紙の冊子です。これは、昨年の2003年度版を改訂しつつ、新たな物質の情報を加えて作成したものです。今年は、使いやすいようにコンパクトな大きさにしています。滝澤さん資料2は、「かんたん化学物質ガイド」の作成・公表についてのお知らせです。こちらは、小中学生を対象に化学物質について少しでも理解を深めてもらうため、教材に準ずるものとして作成しました。滝澤さん資料3は、「化学物質と環境に関する学習関連資料データベース」の更新についてのお知らせです。こちらは、ホームページ上で新たな学習関連資料を更新したというご案内です。滝澤さん資料4は、PRTR対象化学物質の排出削減に向けた取組事例集の作成・公表についてのお知らせです。これは、PRTRによる自主的取組の推進を目指し、今回初めて作成したものです。他の事業所の参考になると思われる事業所にご協力をいただき、アンケートやヒアリングを行い、PRTR対象化学物質の排出削減に向けた取組についてまとめた事例集です。以上が滝澤さん資料のご紹介です。また、前回の会合では、参考資料3として、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック-平成15年度集計結果から-」をお配りしました。今回資料としては配布していませんが、会場入口に置いていますので、ご自由にお持ち帰りいただければと思います。以上です。

2.議事

(安井) それでは、早速、議事に入りたいと思います。今回の議題は「地方における化学物質対策への取組」ということで、会議冒頭にもお話ししましたとおり、愛知県の行政、産業、市民の立場から、それぞれお一人ずつお話を頂きます。その後、メンバーでディスカッションをした後に休憩に入ります。その休憩の間にフロアーの皆さんから、講演を聞かれた感想や質問、また、今回のテーマである「地方における化学物質対策への取組」に関わる質問事項等を紙にご記入いただきたいと思います。休憩後に、フロアーからの感想や質問をいくつかご紹介した上で、それらを踏まえて更にメンバーで意見交換をしたいと考えていますので、ご協力をよろしくお願いいたします。それでは、はじめに、愛知県環境部の米澤さんよりご講演いただきたいと思います。米澤さん、よろしくお願いします。


(米澤) ご紹介にあずかりました愛知県環境部の米澤です。説明に入る前に、一言お礼をさせていただきます。ここ愛知県におきまして、地方で初めて円卓会議が開催されましたこと、また、円卓会議のメンバーの皆さんにお越しいただきまして、誠にありがとうございます。ご紹介にもありましたが、現在、愛知万博が開催されています。こういった時期にこの円卓会議が開かれたことも有意義なことかと思います。また、愛知万博の開催期間もあと一月を切っていますので、ぜひそちらの方にもお出向きいただければと思います。

 それでは、本県の化学物質排出量等の現状と事業所における化学物質の適正管理の促進に関する取組についてご説明します。

 愛知県におけるPRTR法に基づく届出事業所数は毎年2千件を超えています。特に平成15年度は、届出対象となる事業所の規模に関して、事業所ごとの対象化学物質の年間取扱量が5トン以上から1トン以上に引き下げられました。このため、届出事業所数は、平成14年度は2,071件であったものが、平成15年度には2,603件になっています。また、届出のあった化学物質の種類数は、354物質中173物質でした。排出量に関して、平成15年度は平成14年度に比べ、若干増加していますが、届出数が増えたことから考えると、ほぼ横ばいかと思います。これは、化学物質の管理が多少進んできたためかなと思っています。愛知県は、届出量、届出数、排出量・移動量に関して、全国の6~7%台を占めており、それぞれ全国のトップクラスに入っています。

 次に、都道府県別に見た届出排出量の状況です。上位は、愛知県、静岡県、埼玉県の順になっています。単位面積当たりにしますと、上位から、神奈川県、愛知県の順になっています。

 平成15年度の届出排出量の特徴として、届出排出量の全体は、約2万3千トンありますが、このうち、その他を除く97%が製造業からの排出です。中でも、輸送用機械器具製造業から化学工業までの上位5業種で全体の75%を占めています。また、輸送用機械器具製造業は42%を占め、最も多くなっています。全国でも、輸送用機械器具製造業が18%と非常に高いウエイトを占めています。

 次に、愛知県で届出排出量の多い上位10物質を挙げてみました。排出量の多い上位4物質トルエン、キシレン、塩化メチレン、エチルベンゼンで約88%を占めています。トルエンが42.8%、キシレンが29.4%と非常に高い割合を占めています。

 全国における届出排出量の上位10物質については、上位4物質の順位は愛知県と同じでした。また、これら4物質の合計は、約70%を占め、中でもトルエン、キシレンが非常に高い割合を占めています。

 参考までに、製造品出荷額について説明します。愛知県、神奈川県、静岡県と並んでいますが、愛知県が1位ということで、産業面が非常に大きくなっていることが分かります。こういったことと化学物質の届出排出量は切っても切れないものがあるかと思います。

 次に、事業所における化学物質の適正管理等の促進に関する取組について説明します。化学物質の排出量削減のためには、事業者の方々の自主的取組が第一ですが、愛知県ではここに紹介するいくつかのことを行っています。それは、事業者の方が化学物質管理の徹底を図り、自主的に化学物質の使用合理化や化学物質の転換等の促進が図られることを目的にした取組です。
 まず、「県民の生活環境の保全等に関する条例による化学物質の適正管理の一層の促進」、次に、「PRTR法届出集計結果の公表(国と同時公表)」、それから、「事業者向け化学物質適正管理セミナーの開催」、そして、「一般住民向けセミナーの開催」、これは本年度から開始する予定です。最後に、「事業者のリスクコミュニケーションの実施の促進」について、順にご説明します。

 はじめに、県民の生活環境の保全等に関する条例についてご紹介します。この条例は、化学物質の自主的な適正管理の推進を一層図ることを目的としています。愛知県は全国でも有数の産業県であり、また、届出排出量が全国でもトップレベルであるということから、従前あった「愛知県公害防止条例」を全面的に改正し、PRTR法を補完する形でこの条例の中に化学物質の適正な管理に関する規定を設けました。その中身を3点紹介します。1つ目は、「特定化学物質」の取扱量の届出です。特定化学物質とは、PRTR法で定める第一種指定化学物質と同じ物質です。この特定化学物質の基本数量について届出をしてもらいます。2つ目は、特定化学物質等管理書の提出です。これは、化学物質管理の徹底を図るため、管理書を提出してもらうというものです。3つ目は、化学物質の漏洩等の事故時の措置や届出についてです。それぞれについて更に詳しく説明します。

 特定化学物質取扱量の届出は、昨年4月に施行し、平成17年4月1日から法の届出と合わせて、県に届け出てもらうこととしました。

 特定化学物質等管理書とは、事故時の対応等も含め、特定化学物質等を適正に管理するために講じる措置を記載するもので、県への提出を義務付けています。これにより、事業者の化学物質の適正な管理の推進を促すことができるかと思っています。
 その記載事項として、5つ紹介します。1つは、事業者の管理方針及び管理計画です。ここでは、化学物質の削減目標や目標達成時期、達成方法を具体的に記載してもらいます。2つ目に、事業所で管理の対象となる特定化学物質の名称を記載してもらいます。3つ目に、化学物質を取扱う施設での取扱い工程をフローシートで示してもらい、保守管理の方法や排出抑制装置、あるいは、代替物質への転換の検討等について記載してもらいます。4つ目に、それぞれの企業内で化学物質の管理組織を整備してもらい、その体系図を記載してもらいます。5つ目に、化学物質に関する事故が起こった場合の連絡体制や措置、また、防災訓練や事故の予防対策等について記載してもらいます。提出対象は、常時使用する従業員の数が21人以上の事業所としています。また、提出期限は、平成17年9月末までとしています。

 事故時の措置の届出等については、化学物質の漏洩等の事故が発生した場合、直ちに応急措置を行うとともに、その状況を知事に報告し、その後、速やかに応急措置の内容を届け出ることを義務付けたものです。これらの内容が不十分な場合は、知事の方から応急措置命令や事故再発防止措置の勧告ができるようになっています。

 続いて、愛知県の化学物質に関する取組として、事業者向け化学物質適正管理セミナーの開催についてご説明します。このセミナーは、平成14年度から毎年定員200名程で実施しています。毎回希望者が多く、募集開始から数日で定員に達します。セミナーの内容としまして、国や大学の教授、日本化学工業協会や日本塗装協会等の方を講師に招き、最新の情報、化学物質の適正な管理や、リスクコミュニケーションについて講義をしていただいています。一般住民向けセミナーについては、本年度から実施する予定です。これは、住民の皆さんの化学物質に対する意識の向上を目的に実施します。
 次に、事業者のリスクコミュニケーションの実施の促進に関して説明します。昨年度から、行政が主体となってモデルケースとしてリスクコミュニケーションを実施しています。昨年度は1か所で実施しましたが、今年度は3か所での実施を予定しています。

 条例改正についての説明会を行った際に、一度事業者に対してリスクコミュニケーション等の取組に関するアンケートを行いました。620事業所中311事業所から回答を頂きましたので、その結果を紹介します。化学物質に関する情報提供の社内体制整備を実施又は予定している事業所は約25%、住民との意見交換を実施又は予定している事業者は約8%でした。この数字は高い数字とは言い難いと考えましたので、県が主体となってリスクコミュニケーションのモデルとなる地域懇談会を実施しました。

 昨年度実施した化学物質の適正管理に関する地域懇談会の時の様子です。ある電化製品のメーカーで実施しました。この会には、地域住民、事業者や行政が参加し、司会進行にはファシリテーター(注、コミュニケーションの場が円滑に進行するように、議論を整理したり、進行方法を提案したりする、いわば司会進行役を務める人。リスクコミュニケーションにおいて必要な人材であり、中立的な立場から議論を整理する司会の役割をする人のこと。)と、化学物質アドバイザー(注、化学物質に関する専門知識や化学物質について的確に説明する能力などを有する人材であり、中立的な立場で化学物質に関する客観的な情報提供やアドバイスを行う人。)を揃え、実施しました。

 懇談会の進行は、主催者のあいさつから始まり、参加者全員の自己紹介とアイスブレーク(注、参加者の緊張をほぐすこと。)を兼ねたファシリテーターによるオリエンテーションを経て、事業者から化学物質管理等に関する説明がありました。具体的には、この工場で使用しているハンダやイソプロピルアルコールについての自主的な管理や取組の状況等についての説明でした。その後、工場見学を実施し、意見交換を行いました。住民の方々から、従業員への環境教育やイソプロピルアルコールの性状などについて質問が挙がりました。その際は、化学物質アドバイザーや行政も説明をしました。住民の方々の感想として、「工場見学を通じて実際の状況を自分の目で見たため、分かりやすかった」というものや、参加当初はほとんどの方が、化学物質という名前を聞いただけで「非常に有害だ」とか、「難しい」というイメージを抱いていましたが、懇談会の後には、「工場でどのような化学物質が使用され、何をしているのかということがよく理解できた」など、また、「化学物質の管理の状況等についてもよく理解でき、安心した」という感想を持たれました。また、事業者の方も、最初は非常に心配されていたこともあったようですが、「住民の皆さんが安心されたということを聞いて、自信を持った」ということを聞いています。今後もこのようなリスクコミュニケーションを実施する予定で、事業者の自主的取組の参考になればと考えています。

 最後にまとめを述べさせていただきます。本県では、事業者の化学物質管理の徹底や化学物質排出量等の削減に関して、特定化学物質の取扱量の届出や、特定化学物質等管理書の提出によって、管理の方法や削減目標を提示してもらい、それにより事業者の自主的な取組が促進されるよう考えています。また、リスクコミュニケーションに関しては、事業者の自主的取組を定着させていくことが第一です。そのためには、ファシリテーターやインタープリターが必要かと思います。化学物質アドバイザー等の人材の育成につきましても国に対して要望している状況です。さらに、化学物質に関する一般住民の意識の向上のために、分かりやすいデータの提供が重要だと考えます。今年度から条例に基づく取扱量を含めた集計結果を公表する予定ですが、これにつきましても、分かりやすく提供できるような方法を今検討しています。また、ホームページだけでなく、一般住民向けのセミナーで住民の方々に直接的に働きかけていきたいと考えています。以上です。どうもありがとうございました。

(安井) ありがとうございました。フロアーからのご質問は、用紙にご記入いただくこととしますので、まずはメンバーから米澤さんのお話に対し、質問等はありますか? では有田さん、どうぞ。

(有田) スライド15にある「化学物質の適正管理に関する地域懇談会」では、電機メーカーを選ばれていますが、選ぶ際の基準は何だったのでしょうか? また、なぜそこでリスクコミュニケーションを行うことを決めたのか教えてください。

(米澤) リスクコミュニケーションを行う際は、事業者の協力を得なければいけません。ですから、第一に協力してもらえる事業者の中から選びました。

(安井) 原科さんどうぞ。

(原科) 愛知県では、経済活動が非常に活発であることが分かりました。それだけ化学物質の排出量も多いわけですが。3つお聞きします。1つは、スライド10に「特定化学物質取扱量の届出」とあります。PRTR制度で、「取扱量」は、インプット側の把握だと理解しますが、ここで使用されている「取扱量」の定義を具体的に教えてください。また、これによってストック量も把握できるのか、ということも教えてください。2つ目の質問は、スライド11「特定化学物質等管理書」について、記載事項に「事業者の管理方針及び管理計画」とありますが、管理計画は、かなり個別で具体的になってくると思います。ですから、化学物質の名称が決まらなければ書きにくいように思います。最初の段階で、管理方針と管理計画を一緒に書くことによって不都合が生じてしまわないのでしょうか? 3つ目に、スライドの1415で、地域懇談会について説明があり、具体例としては非常に良かったと思います。ただ、愛知県は経済活動が活発ですので、たくさんの事業所に広がっていかなければ効果が上がらないように思います。ですから、その後の展開についてどのような計画をお考えなのかをお聞きしたいと思います。以上です。

(米澤) 1つ目の質問に対してですが、「PRTR法の届出」では、排出量・移動量が対象であり、取扱量は対象ではありません。ここでの取扱量とは、製品等に含まれているものを含めた量、つまりインプット側を指します。PRTR法では、取扱量は届出の対象となっていませんので、それを対象にしました。2つ目の管理書についてですが、スライド11で示した記載事項のア~オは、管理書の目次の構成というわけではありません。原科さんがおっしゃるとおり、物質がなければ管理計画は立てられませんので、管理計画の中で化学物質を選択してもらい、それぞれについて目標や達成時期等を記載してもらうことになっています。3つ目の今後の展開についてですが、昨年度からリスクコミュニケーションを開始し、今年度は3事業所での開催を予定しています。昨年度は尾張地区で実施しました。愛知県にはそのほか、知多地区、西三河地区、東三河地区といった3つの大きな地区がありますので、今年度はそれぞれの地区で1回ずつ開催できればと考えています。リスクコミュニケーションはあくまでも事業者の協力がなければできません。ですから、現在はやり方等も含め、開催場所を検討している段階です。

(安井) 後藤さんどうぞ。

(後藤) 昨年、総務省の行政評価で届出をしていない事業者が非常に多いにもかかわらず、それに対する取組がお粗末であるという評価が出ていたかと思います。愛知県の場合、届出を行っていない事業者に対してどのような施策を講じているのでしょうか?

(米澤) いろいろな業界が主催する説明会等や業界が発行している機関誌に載せる、また、愛知県のホームページ等いろいろな媒体を通じてPRを行っています。PRTRの届出要件である事業所の取扱量は、行政には分かり得ない情報ですが、行政としては、ちゃんと届出を行うようにPRしていかなければいけないと考え、そのように行っています。

(後藤) 市町村とのタイアップということはないのでしょうか?

(米澤) 名古屋市、豊橋市、豊田市とはタイアップしていますが、それ以外の市町村については、特にタイアップをしているわけではありません。

(安井) 崎田さんどうぞ。

(崎田) 管理の徹底の仕組みを推進されていることをお聞きし、安心しました。管理の徹底を促進した上で、事業者の排出削減を促進する狙いがあると思います。スライド2にある排出量のデータは、削減の促進に向かいつつあると理解してよいのでしょうか? それとも、今後効果が出てくるであろうと捉えればよいのでしょうか?この辺りの状況について教えてください。

(米澤) 管理書の提出を条例で義務付け、今年の9月末までに提出してもらう予定になっています。これにより、これから排出量が削減されていくことを期待しています。

(崎田) 地域懇談会についてはぜひ今後も広げていただきたいと思います。最近、環境報告書において、サイトデータとともにPRTRデータを掲載している企業が増えています。例えば、「環境報告書を読む会」等と連携させる形でリスクコミュニケーションを行えば、開催の機会が増えるように思います。ぜひいろいろな取組の中からリスクコミュニケーションの機会を広げていただければとありがたいと思います。よろしくお願いします。

(米澤) ありがとうございます。

(安井) 村田さんどうぞ。

(村田) 「特定化学物質等管理書」の提出を義務付けることは大変素晴らしいことだと思います。こういうものを提出してもらうことだけで十分意味があると思いますが、管理書を受け取る県としては、これを具体的にどのように活用するのでしょうか? また、地域懇談会について伺います。参加を呼びかけた市民は地域住民ですか? また、どのように市民に参加を呼びかけたのでしょうか? 当日、市民は何名ぐらい参加されましたか? 最後に、反省点等がありましたら、お聞かせください。

(米澤) 管理書の活用方法について、条例はあくまでも事業者の自主的取組を促すものですから、管理書の提出によって自ら宣言をしてもらうことになるかと思います。行政としては、管理書を通じて、どのような場所から化学物質が排出されているのかなどを整理し、良い事例があれば事業者の了解を得て、インターネット等を通じて紹介していきたいと考えます。また、逆にインターネットでの反響を事業者にフィードバックすることも大切だと思っています。
地域懇談会の参加人数は、行政側3名、事業者側3名、地域住民11名、その他傍聴者等を含め、合計40名程で実施しました。

(安井) ありがとうございました。それでは、続いて、トヨタ自動車株式会社の安藤さんよりご講演いただきたいと思います。安藤さん、よろしくお願いします。

(安藤) 

 皆さんこんにちは。トヨタ自動車で生産環境室長を担当しています安藤です。よろしくお願いします。私の所属する生産環境室は、弊社工場の環境対応に対する企画と推進部署です。社内だけでなく、国内ではトヨタグループ各社と連携した取組を行い、また、海外でも事業体の工場における環境対応についても担当しています。

 本題に入る前に、弊社の環境全体の取組と生産環境との関係について触れたいと思います。弊社には、基本理念が7つあり、スライドに環境に関係する事項を示しています。基本理念から、トヨタ地球環境憲章を制定しています。この憲章は4つの基本方針と4つの行動指針から構成されています。この憲章をより具体的な活動項目や目標として定めたものが環境取組プランで、5年単位で目標を定めて進めています。今年は2005年度でくくりの年になっています。この目標から、製品環境や生産環境といった各分野の目標を定め、それを達成するためのシステム、環境マネジメントシステムを作りました。そして、その下が底辺となり、工場別の方針と目標を考えて取り組んでいます。

 トヨタには、社長を委員長とするトヨタ環境委員会があり、その下に製品環境委員会と生産環境委員会、自動車のリサイクル委員会があります。私が関係しますのは、生産環境委員会で、その下部組織としてもさまざまなものがあります。

 製品環境と生産環境では、ここに挙げるように環境問題に関するいろいろな課題がありますが、本日は、化学物質の管理について紹介します。

 「トヨタにおける化学物質の管理・削減」、「トヨタにおけるPRTR情報の開示とコミュニケーション」、「PRTR法対応支援事業」の3つについてお話しします。

 はじめに、トヨタ自動車の化学物質の歴史を振り返ります。スライドの上段では、主にPRTR法に関する動きを示しています。トヨタ社内では、1984年に環境保全事前検討制度の仕組みを作り、運用を開始しました。工場で使用するいろいろな材料について、例えば、排水処理されるような材料については、処理性の評価等や使用禁止物質のチェックなどを行いました。現在では、使用禁止物質として464物質を定め、有機塩素系溶剤の使用全廃等を進めています。この制度を立ち上げてからちょうど10年経った1994年に、本格的な化学物質管理を始めました。当初は、化学物質の排出量の管理を進めました。現在の状況として、工場で使用する材料は約4,000種類あり、その中に含まれる化学物質は534物質、内PRTR対象物質が35物質あります。これらの物質については、化学物質の環境影響評価を行い、トルエンやキシレン、ニッケルの排出量の削減に取り組んできました。

 トヨタ自動車の管理物質の出典ですが、国内外の最新環境動向を踏まえ、3,424物質を管理しています。

 その3,424物質の中には、使用を全廃したい物質が568物質あり、そのうち現在使用禁止しているものが、464物質あります。この464物質の大半は、これまでも使用していなかったものです。カドミウムやトリクロロエチレン、ジクロロメタン等は、過去に使用していましたが、ある時点で使用を全廃しました。

 現在、4,007種類の材料が工場で使用されていますが、塗料やシンナーが35%を占めています。
 以下、試薬類や接着剤、潤滑、作動油が並んでいます。

 次に、環境保全事前検討制度の概要と特徴について説明します。社内には生産や準備、工場部門などいろいろな部署があります。それらの部署で、ある材料を使用したいという場合は、材料の仕入れ先から材料のデータを入手します。入手するデータは、含有化学物質のデータで、その他にも必要に応じて、排水試験結果や臭気試験結果等を添付して提出してもらいます。それを事前検討部署と私どもの生産環境室、そして、内部の作業環境に関わる部署で一緒にチェックを行い、その結果が良ければ、初めて品番設定を行い、工場で使用できるようになります。結果が悪い場合には、計画部署を通じて仕入れ先にお返しします。例えば、化学物質の場合、使用禁止物質が入っていないかどうかのチェックを行い、入っていれば代替品の検討をしてもらう、ということになります。ただ、実際には、使用禁止物質464物質について、すべての仕入れ先に公開していますので、この段階で代替品の検討を行うことはありません。

 化学物質の排出量を管理し、その環境影響評価を行っています。これは環境基準等と比較して評価しています。大気については、気象を観測し、シミュレーションを行い、最大着地濃度が環境基準値に比べて高いかどうか、ということで評価します。水質については、排出濃度が水質汚濁防止法と同様に、10倍希釈を仮定し、水質環境基準と比べて高いかどうか、という評価を行います。

 環境影響評価で用いる大気のシミュレーションデータについて、世の中には風向や風速のデータはありますが、日射量や示差放射量のデータがなかったため、1995年から主な工場に記録計を設置し、データを収集し始めました。

 また、環境影響評価において比較対象とする環境基準値について、日本で定められているものについてはその基準値を使用しますが、定められていない場合には、WHO(注、World Health Organization;世界保健機関)のガイドライン値や米国環境保護庁のクライテリアを想定環境基準値として使用しています。また、ガイドライン値やクライテリアもない場合には、その元となる毒性データからガイドライン値やクライテリアを算出する際の算出方法を適用し、想定環境基準値を設定しています。ただ、元となる毒性データもないといった場合には、慢性毒性データに準ずるものとして、作業環境許容濃度のデータから、同様の算出方法を使って想定環境基準値を設定しています。

 これは、弊社のある工場での大気に関する環境影響評価の結果を示したグラフです。環境基準値や想定環境基準値と最大着地濃度の関係を示しています。ベンゼンについては、日本の環境基準値がありますのでそれと比較しています。また、これ以外の物質については、日本では環境基準値がありませんので、海外の基準値などを採用しています。例えば、エチルベンゼンについては、WHOのガイドライン等を参照して比較しています。

 これは、同じ工場の水域に関する環境影響評価の結果を示したグラフです。

 次に、どのように化学物質を削減してきたかについて話題を移します。これは、トルエン、キシレンの大気中での削減計画の実績を示したグラフです。1998年度で1台当たり4kg程ありましたが、昨年度では6割削減しています。今年度は、新目標として、1998年度と比較し、3分の2の削減を進めています。具体的な削減の中身に関して、暫定的な対策としてはトルエン、キシレンを有害性の低いものに代替化すること、恒久的な対策としては、使用量の削減や溶剤を水性に代替化することを行っています。

 暫定的な対策の説明として、このグラフでは、横軸が国内の取扱量を示し、縦軸が作業環境濃度の逆数を示しています。トルエン、キシレンを有害性の低いものに、あるいは取扱量の少ない酢酸ブチルや酢酸エチルに代替化してきました。

 次に、恒久的な対策について3つ紹介します。1つは、車の塗装を行う際に、ロボットを使用しますが、そのロボットの可搬重量が大きくなったことで、色替バルブの位置をロボットのハンドの先端に持ってきました。これにより、ホース内の残存塗料や洗浄シンナーを約10分の1に削減することができました。

 2つ目として、さらに取組を進め、塗料をカートリッジ式にしたことで、交換箇所が針の部分だけになり、従来に比べ、塗料のロスや洗浄シンナーの使用量が限りなくゼロに近いものになりました。

 恒久的な対策の3つ目として、現在、溶剤塗料を水性塗料に切り替えています。これで溶剤がすべてなくなるというわけではありませんが、含有量で示しますと大幅に低減できたことが分かります。

 次に、水域におけるニッケルの削減実績について紹介します。横軸は、各工場の排水中のニッケル濃度を示しています。国にはニッケルの排出基準はありませんが、神奈川県では条例によって排出基準を定めていますので、それを基準にしました。暫定的な対策として、1999年から2000年にかけ、廃水処理設備を増強し対応しています。恒久的な対策として、ニッケルを使わない材料の開発を現在進めています。

 水域における化学物質の中長期削減目標として、ニッケルを更に削減していくべきだと考えています。また、フッ素についても、わずかですが、削減していくべきだと考えています。これらにつきましては、代替技術の継続を検討しています。

 続いて、PRTR情報の開示とコミュニケーションに話を移します。これらの図は、PRTR公表データの加工例を示しています。まるいちの図は、製品評価技術基盤機構のホームページに載っている情報で、2003年度の公表データを元に、色の濃さで排出量の多さを示しています。まるにの図は、エコケミストリー研究会の評価方法に基づき、化学物質毎の排出量と毒性の強さを考慮し、示したマップです。まるいちは届出事業所のみですが、まるには届出事業所と推計分が含まれていますし、年度も違いますので、単純な比較はできませんが、豊田市は排出量が多いけれども、リスクは小さいと言えるのかなと思います。

 これは、まるにの図の元になる式を示しています。市町村毎のリスクスコアということで、排出量を可住地面積で割ったものです。毒性スコアとは、環境基準値との逆数で示しています。これらを各事業所が排出する化学物質毎に掛け合わせてΣ(シグマ:総和)をとり、さらに事業所ごとのΣをとって市町村毎に算出するというものです。

 左の図は、ニッケルの削減効果を自己評価したものです。1998年のトヨタグループ以外のデータは公表されていませんが、2001年のデータはこのようになっています。トヨタグループでは1998年から2001年の間にこれだけ削減しました。トヨタグループ以外に変化がなかったとすれば、削減の様子は、ここに示すようになっているのかなということを示しています。右の図は、水域のリスクマップを示していますが、真っ赤にならず、良かったと考えています。

 それから、弊社ではPRTR法ができる以前から一部の工場で地域の皆さんと環境のコミュニケーションを実施してきました。2000年からは、全工場、事業所において地域の皆さんとコミュニケーションを進めています。写真はその時の様子です。

 コミュニケーションのやり方として、我々事業者は地域の皆さんに情報公開や対話を通じて理解していただいています。PRTR法の第4条では、事業者の責務として、管理の状況に関する国民の理解を深めるための「努力義務」が謳われています。コミュニケーションの体制としては、工場の工務部長や総務、環境担当と、行政や地域の議員、区長など三者で行っています。

 それから、紹介になりますが、PRTR法対応支援事業として弊社では、株式会社日立製作所他各社と出資、提携し、株式会社エコ・リサーチという会社を設立しました。この会社の目的は、企業への化学物質管理の技術支援です。

 この会社では、エコ材料情報の提供を行っています。

 例えば、先ほども説明しましたジクロロメタンの全廃について、全廃の事例が43件あり、こういった改善事例等を提供しています。

 最後になりますが、本来我々事業者が行うことは、化学物質の管理、削減、情報公開という3つのステップであると考えています。まずは、使用している化学物質の成分情報を入手し、排出量、移動量を把握し、リスク評価を行う。そしてその結果、削減する必要があるものについては削減する。それらの結果を踏まえてPRTR法に基づく届出書を提出する。また、環境報告書等を通じて広く社会に情報を発信していき、また、地域の皆さんとのコミュニケーションを実施することだと考えます。本来、この部分は各社が実施するところですが、エコ・リサーチではこれらのすべてを支援します。以上です。

(安井) 安藤さんのお話に対し、メンバーから質問等はありますか? 中下さん、どうぞ。

(中下) 大変積極的な事例発表で、私も感心しました。2点伺います。まず、使用禁止物質についてですが、それらの物質が含まれているかどうかのチェックをどのように行っているのでしょうか? 次に、リスクコミュニケーションをされる場合、製品中に含まれている化学物質についてどこまで情報開示をしているのでしょうか? 具体的に言いますと、今アスベストが非常に問題になっていて、自動車のブレーキ中にもアスベストが含まれているということが取り沙汰されています。もちろん今は含まれていないと思いますが、どういう年代の型式のものに含まれていたかという情報まで開示してもらえるのでしょうか?

(安藤) 1点目について、スライド6の年表のところで説明しましたように、弊社ではPRTR法とは別に、1994年から化学物質の管理を開始しました。仕入れ先から提出してもらうデータには、含有している化学物質の含有率まで規定し、申告してもらうようにしています。それに基づき、使用禁止物質が入っていない場合は、入っていないという扱いにしています。ただ、海外の場合、例えば、東南アジアでは、これらの成分情報などは出てきません。しかし、有機塩素系の溶剤等非常に重要な化学物質については、東南アジアでも全廃しなければいけないと考えています。それらの化学物質が含まれているかどうかのチェックには、現物チェックを行っています。つまり、一つ一つの材料について分析を行い、使用禁止物質が含有していないことを確認します。2点目は、製品環境の話になりますので、生産環境を担当している私ではお答えできないということを了承していただきたいと思います。

(安井) 岩本さん、どうぞ。

(岩本) 同じ製造業として生産現場でのご苦労がよく分かりました。1つ伺います。自動車の場合、溶剤塗料から水性塗料に切り替えることがVOCの削減に最も貢献するということでした。環境問題にはいろいろな要因があり、場合によってはトレードオフの関係にあります。溶剤の水性化を、ライフサイクルを通じてトータルで考えた場合に、環境問題としてどのように評価されていますか?

(安藤) 水性塗料の場合、トータルで考えるとCO2も低減されますので、非常に環境に優しいと考えています。ただ、トヨタ自動車の中では、少しCO2が増えてしまいます。なぜなら、塗装した後には、乾燥させるための熱エネルギーが必要になります。溶剤塗料の場合も乾燥炉で乾燥させますが、水性塗料の場合はそれ以上にエネルギーが必要になるのです。ただし、主に原料の段階ではCO2が非常に減るため、トータルで見るとリスクは低減されていると考えます。

(安井) 八谷さん、どうぞ。

(八谷) 私は自動車工業会で環境委員会の委員をしていますので、先ほどの中下さんの2つ目の質問についてお答えします。今、自動車工業会では、各社が何年にアスベストの使用を廃止したかということを調べている最中です。1996年頃に大型トラックのブレーキライニングへの使用を全廃したのが最後です。乗用車の場合は、1992年~1994年に代替材に交換しています。会社によって多少ばらつきがありますが、トラックは乗用車に比べ、2、3年時期がずれています。当時、代替材に代えることで本来のブレーキ性能が出なくなってしまうという技術的な問題があり、自動車の安全性を優先したため時期が遅れました。情報の開示については、自動車工業会に問い合わせていただくか、ホームページをご覧いただければと思います。

(安井) ありがとうございました。片桐さん、どうぞ。

(片桐) トヨタグループ以外にも協力会社等いろいろとあるかと思います。そういったところに対する支援についてはどのようにお考えでしょうか?

(安藤) 発表の最後に紹介しましたエコ・リサーチという会社では、PRTR法に関係する化学物質管理や影響評価、削減、情報公開等の支援を行っています。本来であればその事業者自らが行うのが一番良いのですが、どうしてもそこまで対応できないという事業者については、エコ・リサーチを通じて支援しています。

(安井) ありがとうございました。それでは、続きまして、当初は愛知県環境カウンセラーの西森真紀さんよりご講演いただく予定でしたが、本日は代理で西本さんからご講演を頂きます。西本さん、よろしくお願いします。


(西本) 環境カウンセラーの西本です。最初にお断りを申し上げます。本来なら西森真紀さんがご発表される予定でしたが、母体と胎児の安全保持の観点から、昨日急遽ドクターストップがかかってしまい、同じ愛知環境カウンセラー協会に所属しています私が西森さんの資料を代読し、発表させていただきます。名前は一字違いですが、西森さんのお母さんとしての感性は私には再現できませんので、表現力は劣ってしまいますが、ご容赦ください。

 環境カウンセラーの西森です。今回円卓会議で発表する機会を頂きまして誠にありがとうございます。本日は、事業者部門の環境カウンセラーというよりは、一市民として意見を述べたいと思います。

 今日はここに示しました4つの話題についてお話しします。生活を通じて感じたこと、仕事で驚いたことなど、どれも身近な話題です。1つ目、自動車について、ある日の長男の一言です。「ばーばの車、くさいから嫌いなんだ」ちょっと驚かされる一言でした。2つ目、おもちゃについてですが、我が家にあるのは軽くて扱いやすいプラスチック製のおもちゃがほとんどです。木のおもちゃは投げつけられると痛いのであまりありません。でも、プラスチックのおもちゃは本当に子どもたちが安全に遊べるものなのでしょうか? 3つ目、衣料品についてですが、赤ちゃん用の衣料品が入っている袋には、「ホルマリン汚染を防ぐため、開封しないでください」と書いてあります。でも、お母さんの衣料品には何も書いてありません。なぜ赤ちゃん用だけ注意書きがあるのでしょう? 4つ目、印刷物について、会社で環境リーフの印刷を大豆インキでお願いしたときのことです。「大豆インキは納期が一日遅れ、料金も高くなります」と印刷会社から言われました。なぜそんなことになるのでしょうか?

 化学物質は、使用、生産、廃棄のどの段階にも私たちに影響を及ぼすおそれがあります。東京都の報告によれば、体重1kg当たりで考えた場合、子どもの呼吸量や食事量は大人の2倍で、化学物質の暴露量も2倍と考えるそうです。つまり、同じ環境で暮らしていると、子どもは、化学物質による影響を大人の2倍受けているということになります。子どもと大人の感受性の違いを考慮すると2倍以上の影響を受けていると言えるかもしれません。また、アスベストと同様に、生産工場周辺の市民の方や作業者及び作業者の家族の方の健康が心配されます。

 4つの話題について順にお話しします。うちの長男が嫌いな新車の臭いは、シックハウス症候群にならってシックカー問題と言われているそうです。原因となっている主な物質は、揮発性有機物VOCと言われるもののうち、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド等で、これらは車のシートやカーペット、天井材といった内装材に使われています。最近の自動車は昔に比べると臭いなあと思う期間が短くなっているように感じます。それでも長男と私は確かに新車に乗ると気分が悪くなることがあります。特に長男は強い吐き気をもよおすようです。シックカー問題については、2007年度以降に発売される乗用車では、厚生労働省のシックハウスに対する指針を自動車室内にも適用することになるそうです。我が家の自動車の買い換え時期のタイミングが合うので、改善を期待しています。

 厚生労働省食品衛生部の報告によりますと、プラスチック製のおもちゃには、長時間口に含んでいると素材によってはフタル酸エステル類が溶出してくることがあるそうです。ただし、直ちに人体に影響があるほどの量ではないとのことです。とはいえ、少量でも長期間暴露が継続した場合、どのような影響が出るのかは現在のところ分かっていません。また、劣化したプラスチック製品からは、新しい製品からよりもVOCが多く排出されるそうです。データの出典を忘れてしまいましたので、詳しいことが分かりませんが、古くなったプラスチック製のおもちゃは、新品のものよりVOCが相対的に出やすいので注意が必要ですね。

 赤ちゃん用の洋服を買いに行くとよく見かける表示があります。「ホルマリン汚染を防ぐため、開封はご遠慮ください。」最初、私はこの意味がよく分かりませんでした。よくよく調べてみると、新生児から2歳児用の衣料には、規制がかかっていたのです。うちの次男はまだ離乳食も始まっていない生後3、4ヶ月の頃、体中にひどい湿疹が出ました。近所の皮膚科のお医者さんから、「アレルギー性皮膚炎の可能性があります。お子さんの肌着、タオルの他、お母さんの服も天然素材のアレルギー対策のものに変えてください」と指導を受けました。アレルギー対策として、2歳児以下の子ども用衣料には規制がかけられていますが、大人の衣料には特に規制がありません。子どもを抱っこする大人の衣料にも規制が必要なのかもしれません。

 新しい印刷物を手にしたとき、独特の臭いを感じることがあります。私は幸いにも臭いなと思うだけですが、目が痛くなる、咳やくしゃみがでるという方もいらっしゃるようです。臭いの元はインキに使われている鉱物油に含まれるVOCです。最近では、健康や環境への配慮から鉱物油を含まないノンVOCインキの一つである大豆インキがよく使われています。仕事で印刷物を作ることがありましたので、私は印刷屋さんに大豆インキの採用をお願いしました。すると印刷屋さんは、「大豆インキはもちろんできますが、大豆インキは乾きがとても悪いので、納期が一日遅れます。また、ライン変更の費用として3万5千円余分にいただくことになります。あまりおすすめできませんね。」とのことでした。私は2つのことに気が付きました。1つは、ラインの変更をしなければいけないということから推測すると、大豆インキを指定するお客さんは未だに少数派だということです。もう1つは、印刷屋さんが大豆インキをあまり使いたがっていないということです。お客様の要望でなくても、作業者の健康と事業所から排出される環境負荷を考え、大豆インキを積極的に取り入れるべきではないかと思うのですが、実際の現場ではそうなっていないようです。事業者への教育の重要性を改めて考えさせられる体験でした。
 以上、4つの話をしましたが、私たち市民は日常的にさまざまなところで化学物質に取り囲まれ、自らの体、命で商品テストをしているようなものだと思います。自分自身や家族を守るためにも、もっと正しい情報収集と賢い商品選択をしていかなくてはなりません。そのために必要なことをお願いの形で書いてみました。

 まず情報収集ですが、偏った情報に左右されていないか、特にテレビの影響は大きいと思います。マイナスのプラセーボ効果(注:偽薬効果。思いこみ効果。)で精神的に体調不良になることや、本当は害のないものを使わなかったり、買わなくなったりして、事業者さんが窮地に追い込まれるということが起こっています。情報が不足してはいないか、日常的に使っているものやたくさん使っているものを安全と思い込んでいるのではないでしょうか? これは私たちだけではなく、事業者さんにも考えていただきたいことです。

 商品選択は、市民とメーカーの共同作業です。メーカーへのお願いです。危険性が指摘される物質は、規制されていなくても使わないでください。経験上これは危ないかもという物質は規制されていなくても使わないでください。また、原料にどのようなものを使っているか分かりやすく表示してください。

 行政へのお願いです。市民の命と健康を守る行政の役目はとても大切です。化学物質の危険性について、正確な情報をわかりやすく提示してください。安全性に配慮しているメーカーを積極的に紹介してください。

 マスコミにお願いです。「危険です」という情報だけではなく、実は安全性が証明されましたとういう情報も提供してください。市民団体へのお願いです。過敏になりすぎず、フェアな情報提供を進めてください。消費者へのお願いです。自分の使っているものに対して興味を持ってください。

 最後のスライドです。そもそも安全とはなんだろう? 規制値が定められると、それより上か下かだけで判断しているのではないでしょうか? 安全を確保するために規制値を決めたのに、なんだか逆転しているようです。食品は、化学物質としては扱われませんが、分かりやすいので食品を例にして説明します。サッカリンは発がん性が疑われていて、使用が規制されています。しかし、砂糖を摂ってはいけない糖尿病の人にとっては、生活の質を高めるためにとても有用なものです。リスクと利益を比べて選ぶことが大切だと言われています。でも、人間はすべてのことを知っているわけではないので、リスク論だけでは危ないと思います。安全は、皆で作り上げていくものです。便利で使い勝手の良い化学物質は、生活になくてはならないものです。しかし、健康や環境への影響を考えると行政、事業者、市民それぞれの立場で責任と果たすべき役割や取るべき行動があるのだろうと思います。そこで、どのような責任があるのか、どのような役割を果たし、行動を起こすべきなのかをまとめてみましたので、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
 行政は、市民の生命と環境を守るということが一番の使命です。また、合理的な観点から市民の利益と事業者の利益の和が最も大きくなるように、社会情勢を見ながら規制をかけたり事業活動を誘導したり、各機関の調整を図ることが期待されています。行政の課題としては、事業者や市民の自己責任の範囲と行政が調整を図る範囲をいかにして線引きするかということだと思います。緊急性、重大性とコストを検討し、公共サービスをどこまで行うべきか、その判断は簡単ではありません。
 事業者は、化学物質を使用することで発生する、もしくは発生するかもしれないさまざまな問題を、自社の利益を確保しながら、できる限り自分たちの責任で処理していくようにしなければならないと考えます。事業者の果たすべき役割と責任は大変重いですし、ここがしっかりしなければ安全は確保できません。規制値を守るだけでは企業イメージが環境に後ろ向きだとして、社会から見放されかねません。しかし、厳しすぎる自己規制をかけてしまうと商品の競争力が落ち、せっかくの商品が提供できなくなってしまいます。してはいけないことや当面の目標、すべきことの線引きをどうしていくのか、その判断は、とても難しいと感じています。しかし、化学物質対策も経営面でのリスクの一つと考えれば、経営者にとって対応は可能ではないでしょうか?
 最後に、市民はとにかく賢くなることが役割でもあり、必要なことだと思います。第一段階としては、何も知らずに危険なものを使っているということがないように情報収集ができるようにします。第二段階としては、「危険です」という情報だけに過敏に反応しないよう、情報の適切な取捨選択ができるようにします。第三段階としては、正しい情報や新しい情報を家族やご近所さん、友人と説明、共有化できるよう皆で賢くなることが大切ではないでしょうか? 危険情報に過敏になっては心の健康によくありません。情報収集と取捨選択を行って自分の意見を持つことができるよう、いろいろな方面から勉強して欲しいと思います。
雑多な話になってしまいましたが、行政、事業者、市民それぞれが自分の責任や役割を果たしながら協力し合って、心身共に健康で豊かな社会を築いていくことができるようになると良いなと思います。以上で私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。

(安井) ありがとうございました。西森さんのお話に対し、西本さんがお答えするのは厳しいのかもしれませんが、お答えいただけることを期待して、メンバーから質問等はありますか? 嵩さん、どうぞ。

(嵩) 非常に本質的な問いかけで共感する言葉が多く、本当に感動しました。私は、問いかけや解決の場が円卓会議の場であると思っていますし、私もそういう気持ちで参加しています。賢い商品選択のために、行政やマスコミ、市民団体に対してそれぞれお願いがありました。私はチェーンストア協会に属する人間で、販売者でありますから、私自ら販売者の皆さんに対して言葉を考えた場合、「安全性の高い商品をできるだけ仕入れて販売してください」というメッセージをこの資料の中に組み込んでいただければなと思いました。ありがとうございました。

(安井) 瀬田さん、どうぞ。

(瀬田) 私も西森さんの大変真摯なご姿勢に本当に感銘を受けました。一つ一つお聞きしていて、ごもっともなことが随所にあったと思います。スライド10に「わかりやすさ」という言葉がありました。この「わかりやすさ」という言葉は、大変難しいことです。私は、たまにNHKのこどもニュースというテレビ番組を見ますが、その番組では、難しいことでも本当に分かりやすく説明されています。化学物質やリスクについて、あれぐらい分かりやすく説明できないかなといつも考えます。しかし、実際には、相手は子どもたちだけではなく、いろいろなレベルの受け手がいます。また、記載内容に正確を期そうとなると、どうしても内容が長くなります。また、できるだけ簡素にすると言葉が足りなくなるという歪みがあります。さらに、専門用語を使うと「分からない」ということがあります。こういった制限の中で、分かりやすい説明が求められていると我々は思います。これは西森さんにお聞きしたかったのですが、西本さんに伺います。このような説明であれば分かりやすい、というイメージをお持ちであればお聞きかせください。

(西本) 西森さんは母親であることから、非常に感覚が鋭いですが、西本は化学物質に関してはかなり寛容です。「わかりやすく」というのは、正確でなくても良いと思います。知りたいことが伝わるかということが一番だと思います。提供する側の意気込みがあまりにも強いと必ずオーバーフローしてしまいます。受け手が欲しい情報は何かということを合わせることがコミュニケーションの基本です。すごく簡単な言葉であっても、相手に納得してもらえれば、それはそれで良いと思います。ただ、それだけでは文学的路線になってしまいますので、ある程度客観性を持たせるにはどうしたら良いか、ということをいろいろなところで話し合うべきだと思います。以上です。

(安井) 原科さん、どうぞ。

(原科) 説明の仕方を考えた場合、一方向な印象がありますが、会話を通じて、また、会話をフィードバックしていくことで徐々に理解していくものだと思います。そういう場を積極的に作っていくことが大事です。スライド11に「興味を持ってください」とありますが、これも難しいことだと思います。どのような形であれば興味を持ってもらえるかということについてお考えがあればお聞かせください。

(西本) 西森さんは自分のことは自分で守らなければいけないという意識がかなり強いですから、勉強も熱心です。最後はやはり、自分のことは自分でしなければいけないので、調べなくてもよいけれど関心を持ってください、見てください、誰かが何とかしてくれるだろうという便乗的な気持ちではなく、心掛けを持ってくださいということだと思います。

(原科) 興味を持つきっかけの一つに、人間は危険を感じた場合に関心を持つと言えます。ですから、あまり危ないということに惑わされるなというふうに言われると逆に大丈夫だと思ってしまうことも考えられます。その辺りをどうすれば良いのかなと思い、質問しました。

(安井) 崎田さん、どうぞ。

(崎田) 生活者の視点から実感のこもった問題提起をしてくださっていたため、非常に勉強になる思いで伺っていました。1つ質問ですが、西森さんはこういう思いを込めて、きっと普段から地域で普及啓発や環境活動など、化学物質に関する活動をされているかと思いますが、普段はどのように化学物質の普及啓発に努められているのか教えてください。

(西本) 西森さんは、今子育て真っ最中ということで、個人の活動はちょっと分かりませんが、今回この円卓会議での発表をお願いしましたところ、かなり努力をしていただきました。今、ご自身が動ける時間とのバランスを考えながらやっているかと思います。愛知県環境カウンセラー協会には160名程の環境カウンセラーが所属していますが、今は自分たちの勉強会というレベルで化学物質に関する情報交換を行っています。これから一般市民の方のニーズに応えていくにはどうしたら良いかというところを模索中です。

(安井) ありがとうございました。私も質問させていただきます。先ほどの発表の中に食品の話が出てきました。食品、特に健康食品や化学物質の話などいろいろと関心がありますが、実は提供されている情報はかなり異なります。私は、食品に関しては最近少し情報提供について改善されてきたような認識を持っています。ですから、食品に関しては少し改善されたのに、化学物質については改善されていないじゃないかということを思われているのかどうかお聞きしたいと思います。できれば、西森さんと西本さんのご意見を伺いたいと思います。

(西本) この辺りについては十分フォローしきれていませんが、おっしゃるとおり、食品関連はかなり進んできたなという感じがします。PRTRにも関連しますが、環境中の毒性になると、今まではタブーの領域がありましたので、危険だということがあってもリスクとしての評価が行われていませんでした。食品や薬品は摂取する量が必ず分かりますから、その辺りが皆で話し合っていかなければいけないところだと思います。

(安井) ありがとうございました。ここで、15分程度の休憩を挟みまして、休憩後にメンバーによる意見交換を行いたいと思います。先ほども説明しましたとおり、質問用紙をお配りしていますので、そのことについて事務局側からもう一度ご説明をお願いします。

(上家) フロアーの皆さんには、事前に質問用紙をお配りしています。これまでの三人の方のご講演と、それに対する質疑応答などへの質問等、ご自由にご記入いただければと思います。ご記入いただいた用紙につきましては、フロアー入口両脇に置いております意見受付箱にお入れください。休憩は15分程度ですが、10分後の14時45分になりましたら、質問受付箱の中の用紙を回収しますので、それまでにお入れください。いただいたご意見等は後半に一部ご紹介させていただきたいと考えています。なお、本円卓会議に対する全体的な感想につきましては、お手元にお配りした黄色のアンケート用紙にご記入の上、会議終了後に、同じく意見受付箱にお入れくださいますよう、よろしくお願いいたします。以上です。

(安井) ありがとうございました。それでは、休憩に入ります。

―― 休憩 ――


(安井) そろそろ時間になりましたので再開したいと思います。休憩時間中に、フロアーの皆さんから質問用紙に質問を書いて提出いただきました。現在、事務局が質問を整理しているところですので、その間まずはメンバーで、ご講演いただいた三人のお話の内容を踏まえて、意見交換をしたいと思います。その後、フロアーからのご質問を紹介し、適切にお答えし、それを踏まえた上で、最後にメンバーで議論を進めたいと考えています。それでは、メンバーからのご意見等はありますか? 原科さん、どうぞ。

(原科) PRTR制度に効果があるかどうか、ということが非常に気になります。資料1のスライド2「愛知県における届出排出量等の推移」に、平成13年、14年、15年度のデータがあります。最初の1年間で全国では約4%が減少しましたので、この制度には効果があると大変喜びました。一方、14年度と15年度ではあまり差がありません。しかし、届出事業所数が増えたことを勘案しますと、横ばいですが実際には減少してきたという感じがします。愛知県の場合には、届出事業所数が14年度から15年度では3割増えています。全国では2割程度ですので、愛知県はPRTR制度に関してはかなり良い方向に向かっているように感じました。愛知県の届出事業所数が3割も増えた割に、排出量がほぼ横ばいですので、相当削減努力がされているような感じを持ちます。ですから、PRTR制度は効果があると思います。米国では10年間で約4割の排出量が減少しました。日本でも1年目で4%減と、米国と同じようなペースになっていました。ただ、この3年間では、データのベースが変わっていますので、簡単にはチェックはできませんが、今後もデータが蓄積されていきますので、今後その辺りのことが分かってくると思います。少なくとも2、3年の傾向を見ますと、日本でも効果がありそうだと思います。ぜひ、より多くの事業所が届出するように行政も頑張ってほしいと思います。

(安井) ありがとうございました。補足させていただきますと、実際にはこの法律が始まる前から、かなりの期間、制度として試行されていましたので、そのおかげだと私は考えています。多くの先進的な企業では、大分前から削減を始めていて、法律が開始されたときにはかなり下がっていたという実態もあります。その辺りのデータに関しては、各事業者の環境報告書等をぜひご覧いただきたいと思います。後藤さん、どうぞ。

(後藤) 2つ申し上げます。1つ目は、私が最初に質問した「未届事業者」の問題です。PRTR制度を作る際に、私どものグループでは市民案をつくり野党案の元になりました。当初、国の案では、届出先は国で、自治体という考えはありませんでした。実際には、都道府県への届出になりました。私たちの案では、市町村に届け出るということを考えていました。現実にはなかなか難しいということがよく分かっていましたが、化学物質の問題は地域特性がありますので、基礎自治体がかむべきだという意向を持っていました。現実に今、人口が15万~20万人以下の市町村では、こういったことへの対応がほとんどできません。先ほども申しましたが、総務省の行政評価では、未届出事業者の把握と届出の励行等といった努力がもっと必要だという評価が出ました。当初から、中小企業からの排出は決して少なくないということを言われていましたので、その辺りをぜひ県で検討していただくことが重要だと考えます。
2つ目として、市民参加の問題です。日本では、PRTR制度は化学物質の管理という観点で法律が作られています。しかし、世界的には市民参加やパートナーシップにおけるベースとなる情報提供という要素になっていると理解しています。市民参加ということに関して、国連欧州経済委員会(注、UNECE。国連の地域委員会の一つとして、1947年3月に設立。加盟国は、中央・東西欧州、北米、中央アジア等の55ヶ国(2005年2月時点)。)でオーフス条約が作られました。日本でもオーフス・ネットというNGO組織を作り、メンバーの中下さんが事務局長で、私も運営委員として参加しています。そこでは市民参加を進めています。オーフス条約には既に37カ国が批准し、欧州などで活動する日本企業にも大きな影力を持ちます。この6月に環境省総合環境政策局環境経済課から頼まれ、ジュネーブの国連欧州経済委員会のワークショップに出席し、日本の取組を発表してきました。現在、欧州だけではなく、中央アジア、コーカサス、東欧といったところも猛烈な勢いで市民参加の制度化を進めています。日本ではこの辺りが非常に遅れており、国の法律で進めていくということが至難の業です。ですから、地域での市民参加ということをいろいろな形で進めていただければと思います。私は某県立大学で非常勤講師をやっています。その県で市民参加の条例を作ろうという動きがありましたが、大変な反対があり、話はなくなりました。しかし、県条例で市民参加を推進するということもできると思います。今日のテーマに沿うと、そういったことも検討していただければと思います。

(安井) 佐々木さん、どうぞ。

(佐々木) 先ほどの西森さんのご発表(西本さん代読)に、生活者の視点としてのご指摘がありました。その中で、安全性と利便性を勘案した上での、消費者、事業者、行政等の役割分担のお話は非常に重要なご指摘だと思いました。その辺りはこういう場を含めてどんどん議論を進めていかなければならないと思いました。厚生労働省でも、子どもへの影響を重要な課題だと考えており、これについては研究段階にありますが、安全性評価の方法論も含めて研究等を進めていることを御報告したいと思います。また、衣料品の規制にも触れられていましたが、子ども服に比べ、数値は緩やかですが、大人の衣料品についても規制をしていることを補足させていただきます。私も行政で化学に関わってきた者として、「わかりやすく」ということをどのようにすれば良いのか考えています。ぜひこういう場で皆さんからもご検討、アイデアを頂きまして、行政に反映させていきたいと考えています。以上です。

(安井) 瀬田さんどうぞ。

(瀬田)  感じたことを3つお話しします。1つは、西森さんの資料(西本さん代読)の最後のスライドに、「今、もうすでに「危ない」とわかっているものは本当に危ないの?」、「今、「安全だ」と思われているものは本当に安全なの?」、「50年後、100年後になってようやく判明することだってあるのでは?」とあります。こういったことは確かに大きな懸念だと思います。しかし、一方では、この円卓会議でも過去に一度議論しましたが、人間は果たして未知のリスクに対応できるのだろうか、という問題があります。これについてはもう一度安井さんや原科さんのご意見を伺いたいと思います。
 2つ目に、化学物質と直接関係はありませんが、自動車の場合は、化学物質の他にも安全性等さまざまな問題があります。その中に、音の問題もあるかと思います。自動車の音について考えた場合、通常、その視点は、室内の快適さや運転者の快適さになるかと思います。しかし、音の問題では、沿道に住む人や歩行者の立場から見た快適さも追求していかなければいけないと思います。もちろん、まったく音がなくなってしまうと、近づいていることが分からなくなるというマイナス面もあるかもしれません。しかし、今後、自動車業界は音というものにどのように対応していくのかということについて、直接化学物質には関係しませんが、気になりました。
 3つ目に、「わかりやすさ」という点に関して、ボトムラインという考え方が日米の考え方の差に出てきているとよく言われます。日本の場合は、部分的に完璧を帰するということがあります。しかし、必ずしも部分的な完璧が全体の完璧に結びつかないという点があります。例えば、日本のロケットがよく落ちるのはなぜかと言われていますが、そこに理由があると指摘されています。つまり、「わかりやすさ」の話で、西本さんから完璧でなくても良いから、とにかくニーズに応えることが大事だというご意見がありましたが、まさにそのとおりだと思いました。それはまさにボトムラインの考え方だと思います。我々も環境問題を考える際にこれからは完璧よりもボトムライン、つまり最低限ここまでは必要だという視点に立って考えていくことが必要だと思います。そういう立場から、「わかりやすさ」ということを求めていく必要があると思います。以上です。

(安井) ありがとうございました。フロアーからのご質問について、事務局の準備が整ったようですので、まず、今の瀬田さんの音に対する質問についてお答えいただいて、残りの2つは後に回したいと思います。

(安藤) 音の問題は、製品環境の分野になりますので、お答えしかねますが、工場の方でも騒音の問題が現にあります。特に、我々が問題視して手を打っていることが、間欠騒音です。例えば、いらなくなった材料等をトラックに積み込むときのような音です。そういった作業時の音が地域の方に迷惑のかかることのないよう、場所の選択やチェックする仕組み等で対応しています。

(原科) 音の問題には、車の性能と運転の仕方が大きく関わると思います。以前環境アセスメントでよく問題になったことがありました。それは、自動車は法定速度で走る、つまり50kmで規制をしているので80kmで走るはずはないという前提で予測をしていたことです。当然騒音の予測は低くなりますので、環境影響が少なくなってしまいます。しかし、それはおかしいということで、徐々に変わり、今では設計速度で予測しています。そうすると、現実に走っているスピードに近くなります。自動車メーカーにはなるべく騒音が少なくなるような設計にしていただきたいのですが、同時にスピードを出しすぎないような工夫をお願いしたいと思います。1つのアイデアとして、ソフトカーというものがあります。これは、走っている車のスピードを表から分かるように情報提供する仕組みです。例えば、スピードが速くなると、車に付けたサインボードの色がだんだんと赤くなるといったものです。これは大分前に紹介されましたが、万博でも実験をやるようなことを聞きました。情報を提供することでスピードを制御する、運転する方は周りから見られているので変なスピードを出せないということになります。これはけっこう効果があると思います。そのようなこともぜひお考えいただきたいと思います。

(安井) ありがとうございました。それでは、事務局の方で質問の整理が終わったようですので、事務局より、質問の紹介をお願いします。

(上家) たくさんのご質問を頂いています。まず、愛知県の米澤さんに対するご質問を3点紹介します。1つ目、これは事業者の方からのご質問です。事業者のPRTR対応だけではなく、住民もまた環境へ負荷を与えるセクターの一つです。その観点からの市民向け取組について、行政としてどのようなことをされているのでしょうか?例えば、ゴミの分別や小中高校生への環境教育プログラム、消費者教育プログラムなど、愛知県の取組について教えてください。

(米澤) PRTRとは離れますが、愛知県の循環型社会に向けての取組についてご説明します。家庭から出るゴミについては、市町村が対応していますが、私どもでは、環境教育が大事なことだと考えています。愛知県では環境教育の基本方針を作り、PRTRも含め、いろいろな環境問題への取組を一人一人が今後どのようにやっていくのか、ということについて現在取り組んでいるところです。具体的なプログラムでは、例えば、一般市民、特に、これから世界を担っていく小中学生が10年後、20年後も環境に対する意識を持てるような、そんなプログラムを日夜検討している段階です。

(上家) 2つ目の質問です。今年度から一般向けセミナーを開催するとのことですが、どのようなテーマで何を目的に開催するのでしょうか? 具体的な計画があれば教えてください。

(米澤) 一般向けセミナーをどういう観点で行うのかということですが、内容は、暮らしと化学物質というテーマになると思います。なるべく分かりやすく化学物質について一般市民の方々に説明できるように講演者も含め、現在検討している段階です。我々としましても、一般市民の方を対象にするのは初めての試みです。一般の方といいましても、化学物質について詳しい方からそうでない方まで、非常に幅広いといえます。化学物質に関する用語に関しても詳しい方とそうでない方がいらっしゃいます。そういう中で、何を狙っていくのか、例えば、すべての方に分かりやすくするにはどうすればよいのか、ということを検討しています。先ほどから「わかりやすさ」という話がありました。これは、化学物質に限らず、どんなことでもそうですが、一般の方にどのようにすれば分かりやすく、かつ正確に伝えることができるのかということも、模索しながら現在検討しています。いずれにしましても、本年度の開催を予定しており、「広報あいち」等で参加を募集しますので、その際は、ぜひ参加していただき、貴重なご意見を聞かせていただければと思います。以上です。

(上家) まだいくつかご質問をいただいていますが、これを最後の質問とさせていただきます。条例による適正管理を目指していらっしゃいますが、他の都道府県と比べて異なる点、あるいは強調したい目的についてお聞かせください。

(米澤) 他の都道府県にもいくつか条例があるようですが、詳しく比較したものがありませんので、国の法律との違いをご説明します。1つ目は、取扱量についての記載です。取扱量の記載は国の法律の中にはありません。2つ目に、事故時の対応についてです。事故発生時だけでなく、事故を起こさないためのマニュアル等を作ることを盛り込みました。

(上家) ありがとうございました。続きまして、トヨタ自動車の安藤さんへのご質問です。実は安藤さんへのご質問をたくさんいただいています。まず、1つ目、さまざまな判断をされる際のリスクトレードオフをどのように考えていらっしゃるのか、事例を含めてご紹介いただければと思います。

(安藤) ご質問の意味がよく分かりませんが、例えば、リスクトレードオフとは代替化する際に、それに伴う環境影響をどのように考えるかということでしょうか? また、コストも含めて考えるということでしょうか?

(安井) 先ほどご説明いただいた水性塗料の話のようなことだと思います。

(安藤) 水性塗料に関しましては、代替化することで使用する化学物質は良くなります。また、弊社の中ではCO2の排出量が増えますが、原料を作る際のCO2が減りますので、トータルでの環境影響は減ると考えられます。コストに関しても、採用当時は水性塗料の値段が高かったのですが、いずれ採用する量が多くなれば値段が安くなりますので、そういう意味で方向としては正しいと判断しています。

(上家) それについて、社内外で代替物質への転換に対する抵抗はなかったのでしょうか、というご質問をいただいています。

(安藤) ニッケルの削減に関して言いますと、あれは完全な後処理対策ですから、設備投資も必要でしたし、ランニングコストも高くなりました。しかし、いずれは材料を代替化し、もともとニッケルを使わないような材料にするという考えで上司を説得しました。今ちょうどそれがうまくいくかどうかの時期にきています。あの当時はお金の掛かる方法をとりましたが、やらなければいけないことはいくらお金がかかろうともやらなければいけないという考えがあります。

(上家) 社内のことに関連してもう1つ質問です。PRTR対象品目、あるいは管理対象品目等について、社内でも十分情報を共有していく必要があるかと思いますが、社内での情報の共有はどのように行われていますか?

(安藤) 1994年に化学物質管理の制度を立ち上げる際に、主に計画する生産技術部署と実際に使われる各工場に出向き、教育を行いました。

(上家) 同様に、社外に対して使用全廃候補物質等を開示されているのでしょうか?

(安藤) 開示しています。社外についても、当時、全仕入れ先業者を集めて説明会を行いました。

(上家) 地域のコミュニケーションという観点で、そのような場を持たれたのでしょうか? また、地域の方からどのような反響がありましたでしょうか?

(安藤) PRTR法をきっかけに2000年から全工場、事業所で地域とのリスクコミュニケーションを行うようになりました。それに先立ち、1999年に化学物質をテーマに地域懇談会をモデル的に実施しました。その工場では、創業当初から環境をテーマにした地域懇談会を開催していました。また、他の工場でも、例えば、臭いや騒音といった問題について地域の方たちと意見交換をする場がありましたので、化学物質の排出や影響評価の話をするに当たっても、そういう場が以前からあったということでやりやすかったと思います。

(上家) 他にもたくさんご質問を頂いていますが、これを最後の質問とさせていただきます。化学物質管理の基準はグローバルに同じ基準を、おそらく最も厳しい基準と思われる日本の基準を全世界の工場に適用していくべきだと考えますが、開発途上国についても同様のことを実施しているのでしょうか?

(安藤) 例えば、東南アジアの事業体の場合、材料中にどういった化学物質が何%入っているのか、という情報は残念ながら集まりません。無理をしてでも集めるようにはしていますが、やはり難しいです。また、MSDS(注:化学物質安全性データシート。Material Safety Data Sheetの略)についても、日本の昔のMSDSと同じで、適当なことしか書かれていません。しかし、情報が集まらないから知らないまま使ってもよいというわけではありませんので、少なくともトヨタ使用禁止物質については、しっかり管理を行っています。有機塩素系化合物等については、現物チェックを行っています。チェックは、高級な測定器で行わなくても、簡単に検知管でできますので、チェック方法も現地で現物を使って指導しています。現地の事業体では、現地のニーズに合わせて材料を変えていきますので、その際にチェックを行う仕組みを作って運用するよう指導しています。

(上家) 次に、西本さんへのご質問です。いわゆる市民の活動として組織化した場合は、市民団体という一つの運動の方向性を持つことになりますが、こうしたことについて何かコメントがあればお聞かせください、ということです。

(西本) 西森さんも私も、愛知環境カウンセラー協会という団体に登録しています。ただ、環境カウンセラーの場合は、環境全般に興味を持っている者の集まりですので、その中で化学物質に興味を持っている者が組織的に動けるかといいますと、なかなかそこまで動いていません。私どもでも年1回は一般市民向けに講演会を行っていますが、参加される方からは、自分が心配されていること、例えば、化学物質過敏症等といったことについて話してほしいと言われます。団体というものはそれほど組織だったものではありません。また、NGO、NPOでそれだけ人を動かすことはできないとお考えになった方が良いと思います。今回、西森さんに講演をお願いし、時間を作ってもらい準備をしていただきましたが、当然一人ですので、サポートできず、たまたま私が今日空いていましたので、代わりに出席した次第です。
 PRTRデータが電子化され、国や県と同じデータを直接触ることができるようになりました。また、今年から経済産業省が「PRTRけんさくん(注、PRTRデータの再集計や加工、分析が行えるシステム。http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/prtr/7_6.html よりダウンロード可能。)」というデータベースソフトを開発しましたので、その気があればいろいろなことができるようになりました。そういう可能性があれば、自分の知りたいこととできることが一致し、市民の活動は面白くなると思います。上から与えられる情報だけでは興味が長続きしませんので、その辺りの兼ね合いかと思います。市民団体は、そんなに怖いものではありませんので、行政の方も事業者の方ももっとお声を掛けていただければ良いかと思います。

(上家) 円卓会議のメンバーの皆さんへの質問もいくつか頂いています。普通の市民にとって、環境問題を間違いのないように読み解くためには解説者が必要だと思います。この解説者としてどのような主体が適切とお考えか、皆さんにお聞きしたいと思います。

(安井) 後藤さんどうぞ。

(後藤) ファシリテーターやインタープリターが必要であるということだと思います。今日は愛知環境カウンセラー協会の方が来ていらっしゃいますが、私は、この環境カウンセラー制度を作る際の委員会の委員を務めました。まさにそういう役割を担ってほしいということで、環境カウンセラー制度に賛成し、以後運営にも関わらせていただいています。また、私は環境管理規格審議委員会の委員を務めていまして、環境コミュニケーション規格14063というのを現在作っています。来年にはガイドラインが公表されるかと思いますので、そういったものも活用してコミュニケーションを推進していただければと思います。

(有田) 環境カウンセラー制度以外にも、化学物質アドバイザー制度というものがあります。私は、この会議に主婦連合会のメンバーとして出席していますが、それ以外にも生協の中で環境グループを作り、活動しています。昨年は生協のメンバーをはじめ、地域住民の方々総勢50名で勉強会を開催しました。その際に化学物質アドバイザーの方にも参加していただきました。「わかりやすく」とか「中立に」というのはなかなか難しいですが、ちゃんとトレーニングをされた方で、非常に丁寧に説明をしていただけたので、とても良かったです。

(上家) では、次の質問に移ります。VOC規制やその他の規制等について対応した場合のコストを部品単価に反映してくれないのでしょうか、というご質問があります。その他にも、環境への負荷の少ない化学物質へ転換する際にコストアップした場合、消費者は受け入れることができるのでしょうか? また、受け入れられる範囲がどの程度か調査したことはありますか?というご質問です。

(安井) 私は実例を知りませんが、どなたか調査されていますか?

(後藤) 環境配慮製品が他に比べて1割、2割高くても買いますかというアンケートが時々あります。その時は皆買いますと言いますが、それは大嘘ですよね。

(安井) 具体的には、あまり調査されていないような気がします。これは一つの課題かもしれません。コスト負担に関して、個人的な意見ですが、例えば、税金等を経て最終的には消費者が負担することになります。一部、移り変わるときにそのコスト負担がずれることもありうるだけであって、最終的には消費者が負担していることは事実だと思います。

(崎田) コスト負担の話に関して、コストが上がっても買いますかというアンケートがいろいろとありますが、20%アップしても買うという結果をみたことがあります。しかし、現実にそうなのかという問題がありますが。
 なお、市民の環境コストに関する意識という点から言えば、例えば、リサイクル費用の場合、自動車やパソコンといった製品には、製品価格にリサイクルコストが含まれる時代になっています。また、家電製品の場合でも、廃棄時にリサイクル料金を支払うことが定着しています。税金で一律環境対策にお金を支払うということではなく、受益者がきちんとコストを負担し、自分の使うものに対して責任を果たしていくという大きな流れがあるかと思います。ですから、化学物質の代替化に伴うコストアップ等についても、それなりにきちんとした情報提供がなされていれば、消費者は払わないはずはないという考えで、企業の方にはぜひ取り組んでいただきたいと思います。
 また、化学物質対策には大変なコストがかかるかもしれませんが、それでも自分の会社はコストをかけて対応しているということを情報発信することだが大事だと思います。そして、消費者はそれをきちんと理解し、受け止め、そういう会社の商品を選択したり、投資をしたりするといった流れが大事だと思います。つまり、新しい環境対策に一生懸命チャレンジする企業を、消費者がきちんと評価するという信頼関係の上で、環境負荷を下げていく社会を作っていく方向性が大事だと考えます。
 
(原科) 環境に対して貢献した企業に対し、その商品を買うことで満足を得る消費者は多くなってきたと思います。例えば、公害対策をしている自動車を買う場合、値段は基本ですが、それだけでなく少額の差であれば購入するといった消費パターンになっていると思います。化学物質対策に関する情報が的確に与えられれば、消費者の行動はどんどん変わっていくと思います。

(後藤) 安井さんがおっしゃったように、全商品についていろいろなコストを消費者が負担していると思います。唯一税金でまかなわれ、消費者が負担していないのは容器包装です。容器包装ゴミの分別収集のほとんどは税金で処理されています。名古屋市も非常に大きな額を負担していると思います。税金も消費者が負担しているといえばそうですが、受益者が負担していないという意味では、容器包装の問題があります。

(上家) ご紹介したご質問以外にも感想やご意見等がいくつも寄せられています。ここで紹介できない分に関しましては、議事録の付録という形でホームページに掲載させていただきます。以上です。

(安井) 今ご意見を伺いたい気もしますが、議事録の付録という形で公開させていただきます。フロアーからのご質問、ありがとうございました。集中攻撃を受けた安藤さん、ご苦労様でした。それでは、今までの議論を踏まえてメンバーで議論を続けたいと思います。いくつかの問題点がありますが、とりあえず本日まだ発言されていない方からご意見を伺いたいと思います。では、越智さん、どうぞ。

(越智) 今日の議論では「削減」ということが共通の内容にあったと思います。例えば、トヨタ自動車さんでは、想定環境基準というものを決められて、削減の取組を行われていますし、西森さんのお話(西本さん代読)の中でもメーカーへの要望として、危険なものは当然使わないようにというお話がありました。私どもメーカーとしましては、削減の取組に対するコスト対効果をどのように考えたら良いのかという思いがあります。例えば、あるところまでは必要な削減がありますが、その線を越えたところでの取組、つまり、コストはかかるけれどもリスク低減効果が薄らいでくる領域があるかと思います。その辺りの線引きをどのように考えたら良いのかなと思います。企業の自主的取組や環境経営がきちんと評価される社会の仕組み作りというお話にも絡んでくるかと思います。また、本当にその点について考えなければ、コスト投資で競争力を失ってしまっては元も子もないという西森さんのお話に絡んでくるかと思います。メーカー側とユーザー側のある程度のコンセンサスが得られるような考え方について整理が必要だと感じました。

(安井) ありがとうございました。では、鳥居さん、どうぞ。

(鳥居) PRTRデータが経年変化で少し増えているというお話がありましたが、私どもの日本化学工業協会は、約10年前から自主的にPRTRの対応を行っています。その時の経験から言いますと、例えば、データの入れ忘れというようなことが、経験を積むにしたがって分かります。同じ状態であっても、一見データが増えてしまうようなことが多々起こります。最終的にデータを扱われている自治体や国の方であればお分かりかと思いますが、そういうことも有り得るということを念頭に置いていただければと思います。以上です。

(安井) ありがとうございました。岩本さん、どうぞ。

(岩本) コストに関する議論がありましたのでそれに関連してお話しします。環境リスクのトレードオフという話がありました。また、安藤さんのお話にもコストの大部分がエネルギーであるとありました。新しい材料の採用や運転のためのコストなど、あることをするためにかかるコストには別の環境負荷が発生している可能性があります。このどちらを採っていくのか、一番良いのは全体として小さくなっていくことだと思います。しかし、なかなかそうはいかないときに、リスクのトレードオフという概念が常につきまといます。今の日本の環境対策は、世界からみても良い水準にあると思います。これから環境対策を進めていく上で、総合的にあるいは複眼的な視点でこの問題を捉えることが必要です。最終的には、リスクコミュニケーションという対話の場になってくるかと思います。我々としてもできるだけ客観的なデータを出しながら、消費者の皆さんと一緒になって、今後20年30年先をどう考えていけば良いかという議論をしていきたいと思います。環境問題は、一つのことが消されれば、別の問題が起こるということをぜひご理解いただければと思います。

(安井) ありがとうございました。八谷さん、どうぞ。

(八谷) 環境対応に関する企業の情報開示というお話がありましたが、企業としては、当然競争をしながら事業をしていかなければいけません。また、コストの話も非常に難しいです。自動車で言えば、環境対策と安全対策の2つは、社会的な責任が非常に大きいです。個々の会社の取組は別として、少なくともコストと安全や環境リスクを天秤にかけるということは絶対に許されないことだと思います。安藤さんのお話にもありましたように、やらなければならないことについてはコストがいくらかかってもやるというのは、まさにそのとおりです。リスクが大きくて絶対に許せないというものは、国の規制という形になるのだと思います。どこまでやるのかということに関しては、社会全体のメリットや社会コストで判断していかなければいけないと思います。どの企業のどの製品を選ぶのかということは、ある意味で消費者に託されています。企業の情報は、環境レポートやソーシャルレスポンシブルレポートなどに情報公開されていますので、会社や製品を比較される際には、それらを通じて消費者の皆さんに対応していただければと考えます。

(安井) ありがとうございました。滝澤さん、どうぞ。

(滝澤) PRTRの取組についていろいろなご意見を頂き、ありがとうございました。制度上は、再来年にこの法律を見直す時期になります。未届事業者の問題、市民・企業への情報提供やフィードバックの不足についてのご意見や、特に企業からは情報をもらいっぱなしだというご意見を頂きましたが、このうち、未届事業者の問題については、先日の国会でも質問が出ました。罰則まであるのに、何をやっているのかと大分注意もされました。ただ、この制度の将来像が1万メートルの水平飛行だとすれば、今は6千メートルぐらいであり、まだ上昇中だと思います。昨年度より対象範囲も変わっていますので、発展途上の制度だと思っています。とは言え、本日もいろいろなご指摘がありましたので、それらについて必要なところは改善しながら、この制度を育てていき、再来年の、PRTRの問題点見直しの議論に結びつけていきたいと思います。

(安井) ありがとうございました。片桐さん、どうぞ。

(片桐) PRTR対象事業者の把握という話がありましたが、私どもでもどのように把握していけば良いのかということを悩んでいます。何らかの形で行政に届出のある事業者に対しては、PRTR制度や届出について連絡することができます。環境関連について何の届出もない事業者に対しては、業界団体等を通じて制度や届出について連絡しています。また、水質汚濁防止法や大気汚染防止法、条例の届出の際や、立ち入り検査の時に把握し、未届事象者については、届出をお願いしているのが現状です。条例の作り方が自治体によって異なりますので、どこまで把握できるかは自治体によってかなり異なると思いますが、おそらく他の自治体でもこういう形で努力していると思います。その辺はご理解いただきたいと思います。それから、今日は愛知県での取扱量のお話がありましたが、私どもの県や東京都にも同じような制度があります。日本でこのような制度がほとんどない中で作りました。取扱量のデータを受け取りますと、どこでどれだけ排出されているのかということがチェックできますので、これから期待していきたいと考えています。以上です。

(安井) ありがとうございました。吉村さん、どうぞ。

(吉村) 石鹸洗剤工業会の吉村です。皆さんのお話に対して感想を述べます。石鹸洗剤工業会では、PRTR対象化学物質を含め、いかに情報公開するか、また、分かりやすく説明するか、ということを努力してきました。環境リスクや安全性等についてホームページや主要冊子を通じて公開し、説明する努力をしています。しかし、今日の西森さんのお話(西本さん代読)を伺っていて、まだまだ足りないところがあるのかなと思いました。そして、今日のお話を参考にしながら、今まで取り組んできた活動を見直すことも必要だと考えています。各社とも各工場でPRTR対象化学物質を排出しないように努力しています。また、なかなか表には出てきませんが、製品の原料の成分についても、日々より良いものに代替したり、開発したりしています。それをコストに反映するかどうかということにつきましては、自分たちの努力で置き換えていくことが基本になっています。トータルとして商品が新しい機能を提供できるといった場合は、ご提案できるかと思いますが、やはりなかなか難しいと思います。今、洗剤の値段はものすごく安くなっていますので、非常に厳しい状況に追い込まれていますが、その中でもいかにしてより良いものをどのようにすれば見つけられるかという努力を行っていることをご理解いただければと思います。

(安井) ありがとうございました。いろいろな立場からご意見をいただいていますが、他に何かありますか? 崎田さん、どうぞ。

(崎田) 先ほどフロアーの方から愛知県に対して、環境教育やそういう機会に関するご質問がありました。最近、環境教育そのものに関しては、地域社会や学校で取り組む機会も増えてきています。しかし、その中には化学物質に関する情報の織り込みが大変少ないです。本日会場に来てくださった方もいろいろな立場で環境にご関係があると思います。ゴミの削減や省エネといった普段の環境学習の中に、暮らしの中の化学物質についても関心を持つような機会をぜひ増やしていただき、地域社会の中でどんどん取り組んでいただきたいと思います。行政の皆さんが仕掛けをご検討される時にも、例えば、地域社会でいろいろな環境活動をされている団体や普及啓発に取り組まれている環境カウンセラーの皆さんなどの人材をできるだけ活用して、リスクコミュニケーションや環境教育の機会を増やしていただければありがたいと思います。場を増やし、人材を増やしながら、社会の中で市民の関心を高めていただきたいと思います。そうすれば、企業の方もいろいろな対策を進めてくださるでしょうし、そういうことを理解する消費者が増えれば、お互いのコミュニケーションがよりうまくいくと思います。よろしくお願いします。

(安井) ありがとうございました。中下さん、どうぞ。

(中下) 私も市民ですので、西森さんのお話(西本さん代読)の中に大変共感する部分がありました。PRTR法の中では、子どものことや製品中の化学物質関連について、あまり配慮がされていないように思います。PRTR法のみならず、製品中の化学物質について、例えば、トヨタ自動車の場合は、子どもを基準とした取組についてのご報告はありませんでした。各メーカーでは、子どもが使う製品に対して子どもの安全性を確保する観点から、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。行政も、例えば、東京都は「化学物質の子どもガイドライン」を作り、リスク削減策に取り組んでいます。また、各自治体におかれましても、ぜひ子どものリスクに関する観点から取り組んでいただきたいと思います。

(安井) ありがとうございました。岩本さん、どうぞ。

(岩本) 今日最大の収穫は、西森さんのお話(西本さん代読)を聞かせていただいたことです。私も産業界の人間ですが、家に帰れば孫がいますので、一市民です。西森さんのお話(西本さん代読)にもありましたように、化学製品にもっともっと関心を持っていただきたいと思います。そうすれば、そこからきちんとした議論が始まるだろうと思います。このようなリスクコミュニケーションの場で、一体となって話し合えば理解していただけることや、議論を通じてこれは良くないと我々が判断することもあるかと思います。最近では、業界団体がホームページ等を通じて、皆さんの質問にお答えするような情報も発信しています。私も一市民として子どものおもちゃを買いますので、その時にはおもちゃ工業会のホームページにアクセスします。すると、そこにはいろいろな情報があります。ですから、皆さんもそういうところにどんどんアクセスして、その中で疑問点があればどんどん質問していただきたいと思います。こういった双方向の議論がこれから必要だと思います。そういう意味で、消費者の方にもぜひ関心を持っていただきたいという西森さんのコメントは、非常にありがたかったと思います。

(安井) ありがとうございました。本日はいろいろなご指摘を新たにいただいたように思います。分かりやすいコミュニケーションは、我々の目指すところですが、なかなか難しいところでもあります。例えば、本日お配りしてある化学物質ファクトシートですが、この内容を易しいといえる方はなかなかいないかと思います。しかし、これ以上易しくできるかと言えば、これもまた大変です。西森さんの資料(西本さん代読)の中には、我々がもっと気にしなければいけないなと思うところがありました。中下さんがおっしゃっていましたが、日用品の中に入っているものは、直に消費者に影響します。実は、現代人はどんどんアレルギー化しています。これは、化学物質のせいではなく、生活のせいだと私は考えていますが、体質的にいろいろなアレルギーを持つ方が増えています。これはある意味で人類の宿命のように思います。文化的な生活を送ることや、死亡率を下げるためにはどうしてもそうなってしまうと思います。そういう中で、より過敏な方が増えているという現状をどうしていくのかという問題があります。また、インタープリターやコミュニケーターの重要性をご指摘いただきました。この辺りももう一度考え直す必要があるように思いました。一般市民の方が化学物質のことを考える際の原理原則は何かというところで、岩本さんからリスクのトレーオフという考え方を紹介していただきました。私も年がら年中言っていることですが、これはけっこう難しい話です。今日の話題に関して言いますと、PRTR対象化学物質はものすごい勢いで削減されています。対象物質となった時点で削減対象になります。ところが、削減されたのはよいが、無理な代替が行われていて、どこかに変なことが起きていないかということが全然見えてきません。このリストに載っている354物質が減っているのは事実ですが、それの代替がどうなっているのかという実態がよく分かりません。この辺りがリスクのトレーオフで、見えないところで何が行われているのかということに非常に興味があります。いずれにしましても、今回初めて名古屋で円卓会議を開催したおかげで、示唆に富んだ新たなヒントをたくさん頂けたように思い、大変良かったと思います。それでは、この辺で、本日の会議は終了したいと思います。それでは、最後に、事務局からお願いします。

(上家) フロアーの皆さんには、黄色いアンケート用紙をお手元にお配りしていますので、本日の円卓会議についてのご意見・ご感想をご自由にご記入の上、フロアー入口両脇に置いています意見受付箱にお入れください。頂いたご意見は、ある程度集約させていただいた上で、本日の議事録の後に付け加えてホームページに掲載させていただきます。よろしくお願いいたします。また、配布資料の化学物質ファクトシートやかんたん化学物質ガイド、取組事例集については余分がありますので、必要な方は受付にご連絡ください。最後に、メンバーの皆さんへのご連絡です。ビューロー会合は、「アートスペースD」にて行いますので、よろしくお願いします。

(安井) それでは、本日の会議は、これで閉会にさせていただきます。どうもありがとうございました。

第15回化学物質と環境円卓会議でフロアーから頂いた意見

第15回化学物質と環境円卓会議のアンケート結果