大気環境・自動車対策

平成10年度地方公共団体等における有害大気汚染物質モニタリング調査結果

1.概要

 大気中の濃度が低濃度であっても人が長期的に曝露された場合には健康影響が懸念される有害大気汚染物質については、環境庁において、昭和60年度からモニタリング調査を行ってきたところであるが、平成9年度から、改正大気汚染防止法に基づき、地方公共団体(都道府県・大気汚染防止法の政令市)においても本格的にモニタリングを開始したところである。
  今回、地方公共団体における平成10年度の有害大気汚染物質の大気環境モニタリングについて調査結果がまとまり、環境庁の調査結果と併せて公表することとした。
  なお、調査地点によっては、測定頻度が少なく、年平均値を算出し、環境基準等により評価できないデータもあるが、有害大気汚染物質の大気環境中の濃度を把握する上で貴重な情報となるため、これらのデータについても取り入れた上で調査結果をとりまとめた。

2.調査方法、対象物質及び測定地点数

(1)調査方法

 原則として、有害大気汚染物質モニタリング指針(平成9年2月2日制定、平成10年1月9日一部改正)及び有害大気汚染物質測定方法マニュアル(環境庁大気保全局大気規制課)に準拠して調査を実施した。

(2)対象物質

・PCDDs・PCDFs
・揮発性有機化合物 ・・・ アクリロニトリル、塩化ビニルモノマー、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,3-ブタジエン、ベンゼン
・アルデヒド類 ・・・ アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド
・重金属類 ・・・ 水銀及びその化合物、ニッケル化合物、ヒ素及びその化合物、ベリリウム及びその化合物、マンガン及びその化合物、クロム及びその化合物
・多環芳香族炭化水素 ・・・ ベンゾ[a]ピレン

(3)測定地点数

 平成10年度の調査における地域分類(一般環境、発生源周辺及び沿道)別の調査地点数(環境庁及び政令市が実施した調査地点数を含む。)を都道府県・測定対象物質ごとにまとめたものを表4~6に示す。
 測定頻度に係る条件を満たしていない地点も含め、PCDDs・PCDFsについては、一般環境、発生源周辺及び沿道を合わせて526地点(47都道府県)で測定が実施された。
 ベンゼンについては397地点(47都道府県)、トリクロロエチレンについては374地点(47都道府県)、テトラクロロエチレンについては371地点(47都道府県)で測定が実施された。

3.測定値の評価について

 長期曝露による健康リスクが懸念されている有害大気汚染物質のモニタリングにおいては、原則として月1回以上の頻度で測定を実施し、年平均濃度を求めることとしている。(PCDDs・PCDFsについては、季節ごとに測定することが望ましいが、少なくとも夏期及び冬期に測定する必要があるとしている。)また、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンに係る大気環境基準や、PCDDs・PCDFsに係る大気環境指針も年平均値として示されているところである。
  しかしながら、必要とされる頻度で測定を実施できなかった地方公共団体もあることから、全ての測定結果について年平均濃度を算出し、評価をすることは困難である。
  このため、今回のとりまとめにおいて、別添の個別測定地点の調査結果表の平均値の欄には、当該測定地点における複数回の測定結果の算術平均値を記載したが、調査地点によっては、必要とされる測定頻度の測定を実施していない場合もあることから、大気環境基準値や大気環境指針値との直接的な比較はできないものもあることに留意する必要がある。

4.調査結果の要点

(1)PCDDs・PCDFs

 PCDDs・PCDFsには多数の異性体が存在しており、その毒性の評価に当たっては、これらの中で最も毒性が強いといわれている2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)の毒性を1としたときの他の異性体の相対的な毒性を毒性等価係数(TEF)で示し、その上で2,3,7,8-TCDDの等量濃度(TEQ)として換算し、評価するのが一般的である。(今回のとりまとめにおいては、I-TEF(1988)を用いて、測定結果を評価した。)
  今回とりまとめた測定地点のうち、夏期及び冬期を含め年2回以上測定した地点数は、一般環境では414地点中381地点、発生源周辺では96地点中61地点、沿道では16地点中16地点であり、全体としては526地点中458地点であった。(平成10年度ダイオキシン類緊急全国一斉調査結果(環境庁実施)は除く。)
  PCDDs・PCDFsの濃度については下表のとおりであった。(表1表7表8図1~3参照)

 測定頻度に係る条件を満たしている地点の測定結果を平成9年9月に設定された大気環境指針値と比較すると、一般環境について381地点中2地点で指針値を超過、発生源周辺61地点及び沿道16地点についてはいずれも指針値以下であり、合計すると、458地点中2地点で指針値を超過していた。
  なお、測定頻度に係る条件を満たしていない地点も含め、今回とりまとめた全ての地点のデータについてまとめた値を表1の中の括弧内に示したが、これらのデータについては、大気環境指針値との直接的な比較はできないものもあることに留意する必要がある。

 また、環境庁においては、全国的なダイオキシン類による汚染実態を把握するため、平成10年度に全国約400地点において大気、水、土壌、底質等の調査を実施し、その結果を平成11年9月24日に公表したところである。この調査を含め、平成9年度と平成10年度に継続して調査を実施した地点におけるPCDDs・PCDFs濃度の推移を表8及び図2に示す。
 平成9年度と平成10年度に環境庁及び地方公共団体において、継続して調査を実施した地点は52地点あり、これらの地点における平成10年度のPCDDs・PCDFs濃度の平均値は、平成9年度の0.56pg-TEQ/m3に比べ約45%減少し、0.31pg-TEQ/m3であった。

 (注)1pg(ピコグラム)は1兆分の1g(グラム)
(参考)ダイオキシン類の指針となる大気環境濃度として、中央環境審議会答申を受け、年平均値0.8pg-TEQ/m3以下(大気環境指針値)と平成9年9月に設定。

(2)ベンゼン

 原則として月1回以上の頻度で1年間にわたって測定することとしている。平成10年度は平成9年度に比べ、この条件を満たしている地点が大幅に増加した。
  今回とりまとめた測定地点のうち、月1回以上の頻度で1年間にわたって測定した地点数は、一般環境では237地点中174地点、発生源周辺では76地点中58地点、沿道では84地点中60地点であり、全体として397地点中292地点であった。
  ベンゼンの濃度については下表のとおりであった。(表2図4参照)

 測定頻度に係る条件を満たしている地点の測定結果を平成9年2月に設定された大気環境基準値と比較すると、一般環境について174地点中68地点で、発生源周辺について58地点中22地点で、沿道について60地点中45地点で環境基準値を超過しており、合計すると292地点中135地点で環境基準値を超過していた。
  なお、測定頻度に係る条件を満たしていない地点も含め、今回とりまとめた全ての地点のデータについてまとめた値を表2の中の括弧内に示したが、これらのデータについては、大気環境基準値との直接的な比較はできないものもあることに留意する必要がある。

(3)トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン

 ベンゼンと同様に、平成9年度に比べ、測定頻度に係る条件を満たしている地点が大幅に増加した。
 トリクロロエチレンについて、月1回以上の頻度で1年間にわたって測定した地点数は、一般環境では237地点中172地点、発生源周辺では81地点中61地点、沿道では56地点中38地点であり、全体として374地点中271地点であった。
  テトラクロロエチレンについて、月1回以上の頻度で1年間にわたって測定した地点数は、一般環境では236地点中174地点、発生源周辺では79地点中61地点、沿道では56地点中37地点であり、全体として371地点中272地点であった。
  トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの濃度については下表のとおりであった。(表3図5図6参照)

 平成9年2月に設定された大気環境基準値と比較すると、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、全ての地点で環境基準値を下回っていた。
  なお、測定頻度に係る条件を満たしていない地点も含め、今回とりまとめた全ての地点のデータについてまとめた値を表3の中の括弧内に示したが、これらのデータについては、大気環境基準値との直接的な比較はできないものもあることに留意する必要がある。

 (注)1μg(マイクログラム)は100万分の1g
(参考)ベンゼンの環境基準は、年平均値3μg/m3以下
    トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの環境基準は、それぞれ年平均値200μg/m3以下

5.今後の対応

 有害大気汚染物質の大気環境モニタリングについては、大気汚染防止法に基づき、国及び地方公共団体が調査の実施に努めることとされており、地方公共団体においても現在本格的な調査が実施されているところである。
  また、ダイオキシン類については、平成11年7月に公布された「ダイオキシン類対策特別措置法」(公布後6ヶ月以内に施行)において、都道府県知事等は、ダイオキシン類による汚染の状況を常時監視しなければならないこととされている。
 環境庁としては、今後とも、有害大気汚染物質の大気環境モニタリングの充実を図るとともに、有害大気汚染物質による大気汚染の健康リスク評価を行い、対策の推進に役立てていくこととしている。

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