水・土壌・地盤・海洋環境の保全

有識者インタビュー

エネルギーも活用しないと「もったいない」
地中熱でエネルギーの有効利用を

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
地熱統括部 特命審議役
安川 香澄 氏

安川香澄氏

地中熱の"インフラ"化を実現するヨーロッパ

地中熱の活用はもともと1980年代頃からヨーロッパやアメリカで始まった技術です。地熱発電ができる国はヨーロッパでも限られますが、地表より少し温かい程度の熱でもヒートポンプを使えば暖房に活用できるということで、地中熱ヒートポンプが広まりました。
地中熱は利用時間が長いほど電気料金が得なので、年中を通して冷暖房をしている病院や老人ケア施設などでメリットが出やすいです。一般住宅でも、例えば三世代同居で常に家に人がいて、1日中冷暖房を使うような家庭だとお得に使えます。
また、地域冷暖房※1にも有効で、ヨーロッパでは特に寒い地域で、暖房を効率化しようと、一か所で集中暖房し、セントラルヒーティング的に供給する地域冷暖房を街ぐるみでやっています。温水のパイプも、水道などと同じようにインフラとして整備されている国も多く、かつて石炭暖房だった
熱源を地中熱に変えた経緯があるので、普及しやすかったのではないかと思います。
日本での地域冷暖房は、駅や役所周辺の商業施設など、公共の場所で活用が少しずつ増えており、ヨーロッパのように住宅まではまだ難しいですが、良い方法だと思っています。

発電の前に、まずは再生可能エネルギー熱で節電を

脱炭素社会に向けて、二酸化炭素排出削減のための電化が進んでいますが、電力を暖房に使うのはもったいないと思っています。原子力発電も火力発電も、モノを燃やした熱でタービンを回して発電しますが、熱エネルギーを電気エネルギーに変える際に、エネルギーを6割もロスしてしまうのです。日本ではエネルギーの半分以上が暖房などの加熱に使われているのに、わざわざ熱を電力に変換して、それを再び熱として消費するのはエネルギーの無駄使いです。再生可能エネルギーというと電力だけを考える人が多いのですが、エネルギーの有効利用という意味では、再生可能エネルギー熱を重視すべきです。地中熱は、地下にある再生可能エネルギー熱の利用であり、冷暖房に使えば節電効果が大きくなります。

ネット・ゼロ・エネルギーには地中熱

安川 香澄 氏

節電になる地中熱は、ZEB※2やZEH※3との相性が良いです。太陽光で発電をしても、電力消費が多くては収支をゼロにできないためです。
また冷房の場合、外気に排熱しないのでヒートアイランド現象を緩和できるというメリットがあり、都市全体で地中熱の利用が進めば、冷房需要が減ってさらに省エネになります。ただし、地中熱だけで全て賄おうとすると、最も暑いときや寒いときに合わせて設備が巨大化し、導入コストがかさむので、日常的に使用する分は地中熱を活用し、特別に暑いときや寒いときに追加的に他のエネルギーで賄うのが賢い方法です。
「エネルギーがもったいない」という感覚を持ち、まずは地中熱活用で節電から始めることがスタートなのです。

※1 地域冷暖房:冷水や温水等を一か所でまとめて製造し、供給するシステムです。"まとめて"製造・供給することによって省エネルギーや省CO2などさまざまなメリットを実現します。

※2 ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル):年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物

※3 ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス):外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅