地中熱関係

導入事例インタビュー 大阪市域


グラングリーン大阪(提供:グラングリーン大阪開発事業者)

市域における帯水層蓄熱普及への挑戦
実証試験で課題を乗り越え、万博会場へ

大阪市環境局 環境施策部環境施策課
エネルギー政策担当

大阪市域での導入事例

〇アミティ舞洲
場所:大阪市此花区
供用開始:令和3年8月
導入効果:令和3年度 省エネルギー率47%
     令和4年度 省エネルギー率41%
     ※ガス吸収式冷温水機との比較

〇グラングリーン大阪
場所:大阪市北区
供用開始:令和6年12月(一部)

〇大阪・関西万博
場所:大阪市此花区
供用開始:令和7年夏(予定)

帯水層蓄熱システムとは

 帯水層蓄熱システムは、地下水を多く含む地層(帯水層)から熱エネルギーを採り出して、建物の冷房・暖房を効率的に行う技術です。帯水層の周囲の地層が断熱性の高い魔法瓶のような役割を果たす特徴を活かして、空調からの冷排熱や温排熱を帯水層に蓄え、これを季節をまたいで取り出し活用することで、省エネルギー及びヒートアイランド現象の緩和策として期待されています。
 特に大阪市域は、熱需要の高い建物が集中し、地下は豊かな帯水層に恵まれていることから、地域特性に即した未利用エネルギーである帯水層蓄熱利用の普及に向け取り組んでいます。

うめきたをはじめとする大阪市域における事例の特徴と効果

 大阪市域はかつて過剰な地下水の汲み上げによる地盤沈下を経験し、地下水の採取規制がかかっています。このため、オープンループ型の帯水層蓄熱システムの普及には、汲み上げた地下水を完全にもとの層に戻し、地盤沈下を防がなければならないという大きな課題がありました。しかし、揚水した地下水は空気に触れると化学変化を起こし、もとの地層に還水する際に目詰まりを起こしてしまいます。そこで、大学や関西圏の企業と連携し、環境省「CO2排出抑制対策強化誘導型技術開発実証事業」を活用し、うめきた2期区域において、地下水の全量還水をめざし実証実験を行いました。
 うめきた2期区域での実証実験では、地下水を変質させないよう、空気と触れあわない新たな熱源井の開発と、井戸1対で100㎥/hの地下水を揚水/還水し、井戸1対あたり床面積1万㎡クラスのビル空調を賄う大容量システムの実現をめざしました。その結果、4.5シーズンに相当する期間中、安定して運用することができ、従来システム比35%の省エネ効果を確認しました。なお、運用期間中の地盤変位量は2mmであり、帯水層蓄熱システムの利用による新たな地盤沈下は観測されていません。この技術開発の結果により、うめきた2期地区での国家戦略特区制度による規制緩和が認められ、うめきた2期地区への帯水層蓄熱冷暖房の実導入につながりました。その後、より地盤沈下が生じやすいと考えられる大阪湾沿岸部の埋立地にある大阪市舞洲障がい者スポーツセンター(アミティ舞洲)においても同規模のシステムで実証事業を実施し、地盤への影響等についてさらなる検証を行い地盤沈下が起きないことを確認しています。

アミティ舞洲の帯水層蓄熱システム

これまでの取組と今後の展開

大阪市域における帯水層蓄熱システム利用ポテンシャルマップ
 大阪市では、帯水層蓄熱システムの普及をめざし、様々な取組みを行ってきました。その一つとして、大阪市域における帯水層蓄熱利用ポテンシャルマップがあります。市が公開している「マップナビおおさかの」サイト上では、誰でも簡単に250mメッシュ単位での地盤構成や地下水の賦存状況のデータ等に基づいた帯水層蓄熱システムで利用可能な熱の賦存量及び井戸コストを調べることができます。
 また、帯水層蓄熱システムを有効に稼働させるためには、確実に地下水の揚水・還水を行う技術が必要不可欠であることから、日本の地質条件に適用可能な井戸の掘削工法、構造、運用等について、これまでの技術開発・実証事業の成果等をとりまとめた「帯水層蓄熱システム熱源井構築ガイドライン」を公開しています。さらに、環境省委託事業として、帯水層蓄熱システムにより、昨今課題となっている太陽光、風力などの再エネの余剰電力を吸収し、活用できるようにする実証実験を実施しており、これにより、同システムのさらなる価値の向上に取り組んでいます。
 大阪市では、オランダ王国と大阪公立大学と協力関係を構築し、連携して取り組むための覚書を締結したことをはじめとし、様々なステークホルダーと協力し、技術等の課題克服への取組みを進めることで、民間施設を含めた事例形成を促進し、今後さらなる普及拡大をめざしています。