報道発表資料

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2022年09月30日
  • 自然環境

タヌキ、キツネ、アナグマの生息分布調査の結果について

 
1.  人の生活圏と行動圏が重なるタヌキ、キツネ、アナグマを対象に、全国の生息状況を調査しました。
 
2.  国や都道府県等でまとめられた既存情報や市町村アンケート等を通じ、生息情報の収集・整理を行いました。
 
3.  2000年代の調査結果との比較分布図を作成し、根拠データの情報源リストとともに公表しました。 
 

■ 調査概要

 タヌキ、キツネ、アナグマ(以下「タヌキ等」という。)は、行動圏が人間の生活圏と重なり合う部分が多く、人間活動との関わりが深い種ですが、過去2回(1970 年代、2000年代)の調査以降、全国規模での生息状況は把握されていませんでした。
  そこで、環境省生物多様性センターでは、2018年~2021年度にタヌキ等を対象に、その分布に関する知見を有する有識者で構成される検討会(座長:三浦慎悟(早稲田大学 人間科学部 名誉教授)ら委員8名で構成)を設置し、現在の生息状況を把握するための調査・検討を行いました。
 
(1) 実施年度
    2018年度~2021年度(4か年)
(2) 調査対象
    全国のタヌキ、キツネ、アナグマ
(3) 調査対象期間
    2010年度~2021年度(過去約10年間の情報を収集)
(4)  調査方法
 各都道府県による既存調査の情報に基づき、環境省で集約した調査結果や、研究者による既存文献等から生息情報を収集しました。加えて、全国の市町村に対するアンケート調査、各都道府県担当者や専門家に対する聞き取り調査を実施しました。また、地域の研究団体からの情報、環境省生物多様性センターが運営する「いきものログ」を通じた一般市民の方からの情報も収集しました。収集・整理した情報源に基づく分布図の作成後、都道府県やタヌキ等の生息状況に詳しい専門家等へのヒアリングを実施し、生息情報の精査や必要な情報の補完を行いました。なお、今回の調査は、様々な情報源から生息情報を収集するなど、2000年代の調査と調査手法が異なる部分もあることから、単純比較には注意が必要です。
(5) 取りまとめ
  今回の調査で収集された生息情報の結果に基づき、2000年代の調査結果との比較を行い、それらを取りまとめたタヌキ等の分布図を作成しました(別添1~3参照)。
     2000年代の調査結果と比較して、地域的に分布拡大の傾向や、生息数減少の可能性が認められました。
     今回の調査でタヌキ等の身近な哺乳類の分布状況が全国的に把握されたことは、生物多様性や身近な自然の状況を追跡できた点で意義があり、地域から得られる情報量の偏りや変化を考慮したうえで、今後とも比較可能な精度を保てるよう調査体制や手法の検討が求められます。
 
※都道府県から環境省に報告された捕獲等の情報を含みます。

■ 調査結果概要

 今回の調査の結果、タヌキ51,325件、キツネ34,329件、アナグマ26,665件の生息情報が得られました。なお、2000年代にタヌキの分布(国内移入)が確認された屋久島や奥尻島では、今回の調査においても分布が確認されました。一方で、2000年代には3種共に分布が確認されなかった東京都伊豆・小笠原諸島、鹿児島県トカラ列島・奄美諸島、沖縄県等では、今回の調査においても分布は確認されませんでした。
以下に、各種の結果概要を示します。
 
(1)  タヌキ(Nyctereutes procyonoides
 沖縄県を除く広い範囲で生息情報が得られました。ただし、北海道の中央部の大雪山系や日高山脈、宗谷地方などで生息情報が得られなかった地域があることや、本州の奥羽山系の脊梁部や北アルプスでは生息情報が少ないことがわかりました。
 今回の調査結果と2000年代調査の結果を比較したところ、東京都、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府といった大都市圏とその周辺での分布拡大の傾向がみられました。
 
(2)  キツネ(Vulpes vulpes
 沖縄県を除く広い範囲で生息情報が得られましたが、北海道では特に日高山脈周辺に生息情報が得られなかった地域が存在しました。東北から中部にかけては、まばらですが広く生息情報が得られました。和歌山県、山口県、四国西部、宮崎県では得られた生息情報が少ない傾向がありました。
 今回の調査結果と2000年代調査の結果を比較したところ、千葉県房総半島、愛知県西部、鹿児島県で多くの生息情報が得られました。千葉県と鹿児島県で生息情報が多く得られたのは、狩猟者を対象に実施された出合調査の結果が反映されたためと考えられます。
 一方、山口県、四国西部、宮崎県で生息情報が得られなかったメッシュが目立ち、情報不足の可能性が考えられました。また、和歌山県でも生息情報が得られなかったメッシュが目立ちました。その明確な原因はわかりませんが、県のレッドリストへの掲載が検討されているようにキツネの分布が減少している可能性があります。
 
(3)  アナグマ(Meles anakuma
 北海道、沖縄県を除く広い範囲で生息情報が得られました。特に九州はほぼ全域で連続的に生息情報が得られ、近年増加している農業被害防止目的の捕獲情報が反映されたことが一因と考えられました。
 今回の調査結果と2000年代調査の結果を比較したところ、近畿や九州、首都圏周辺での分布拡大傾向がみられました。また、栃木県においては、本調査の期間において狩猟による捕獲が禁止されていましたが、県が実施した狩猟者へのアンケート実施結果が活用できたことで、生息情報を収集することができました。 

■ 成果の公表場所

 本調査の成果は「令和3年度(2021年度)中大型哺乳類分布調査 調査報告書 タヌキ・キツネ・アナグマ」にまとめられており、環境省生物多様性センターの生物多様性情報システム(J-IBIS)の哺乳類分布調査のページに掲載しています。また、今回得られた生息情報には、根拠となった情報源が記録されており、確認の必要がある情報については、直接情報源に戻って確認できるよう、情報源リストも同ページで公開しています。さらに、自然環境調査Web-GIS上でタヌキ等3種の分布図を地図上に表示するとともに、シェープファイルについてもダウンロードが可能です。
 
・ 哺乳類分布調査 
 https://www.biodic.go.jp/kiso/do_kiso4_mam_f.html
自然環境調査Web-GIS
 http://gis.biodic.go.jp/webgis/

連絡先

環境省自然環境局生物多様性センター
代表
0555-72-6031
直通
0555-72-6033
センター長
松本 英昭
専門調査官
根上 泰子