報道発表資料

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2022年07月22日
  • 自然環境

サンゴ分布調査(2017~2021年度)結果について

1.気候変動等の影響が懸念されるサンゴ礁生態系について、琉球列島・小笠原諸島のサンゴ分布等を調査しました。

2.衛星画像解析と現地調査を組み合わせた手法で、サンゴの分布や被度の状況を把握しました。 

3.5か年の調査結果を取りまとめ、琉球列島・小笠原諸島のサンゴ分布図を作成し、公表しました。 

調査概要

 サンゴ礁や干潟、藻場等の浅海域生態系は多様な生物の生息場であり、特にサンゴ礁は熱帯雨林と並び、地球上で最も生物多様性が高い場所の一つとされ、サンゴ礁生態系は、海産資源、観光など様々な生態系サービスを提供しています。
 しかし、サンゴ礁生態系を含む浅海域生態系は気候変動の影響を受けやすく、近年、その劣化が進むことによる生態系サービスの低下等が懸念されています。サンゴ礁生態系は、海水温の上昇等に伴う白化現象の発生によって現況が著しく変化するため、環境影響評価等においても最新情報の取得の必要性が高まっています。
 環境省生物多様性センターでは、2017年~2021年度に国内の主要なサンゴ礁域のうち特に近年の分布状況等のデータが不足している海域を対象にサンゴの分布・被度等の現況を把握するための調査を実施しました。この度、5か年の取りまとめ結果を公表します。

(1)調査実施年度
 2017年~2021年度(5か年)
(2)調査対象
 琉球列島(「①大隅諸島・トカラ列島」、「②奄美群島」、「③久米島・宮古諸島・八重山諸島」)及び④小笠原諸島の各海域における主に礁池内(外洋に面した斜面以外)のサンゴ
(3)調査手法
 2016年夏季以降に撮影されたSPOT-6及びSPOT-7衛星画像を用い、底質指標を用いた画像解析を実施するとともに、教師データの取得のため一部の海域で目視観察を主体とした現地調査も実施しました。その後、現地調査で得られたサンゴの被度情報と衛星画像の輝度値との相関を分析してサンゴ分布素図を作成し、有識者へヒアリング後、凡例の見直しや修正を実施した上でサンゴ分布図を完成させました。
(4)成果のとりまとめ
 2021年度にサンゴ礁生態系、サンゴ礁地形等に詳しい有識者6名からなる検討会を設置し、「全体スケール」と「地域スケール」の2つの空間スケールに着目して、5か年の成果の取りまとめを実施しました。
「全体スケール」では、広域的な観点から、サンゴ分布の緯度勾配(全域)やサンゴの分布と被度の状況(海域別)を「琉球列島・小笠原諸島のサンゴ分布図」としてまとめました。「地域スケール」では、本調査の成果(サンゴの分布状況)と既存データ(海水温データ等)を用いて、その関連性について検討しました。

調査結果概要

(1)全体スケール
 琉球列島・小笠原諸島におけるサンゴの分布状況を別添1及び別添2の分布図で示しました。琉球列島の南西に位置する八重山諸島ではサンゴが広い範囲に分布しており、緯度が高くなるにつれてサンゴの分布範囲は狭まり陸域に近い範囲に限られるなど、サンゴ分布の緯度勾配が見られました。
 また、4つの各海域(「①大隅諸島・トカラ列島」、「②奄美群島」、「③久米島・宮古諸島・八重山諸島」、「④小笠原諸島」)のサンゴの概要を以下に示します。
 なお、サンゴ被度とは、サンゴが着生可能な海底面(泥地や砂地等を除く)に占める生きたサンゴの割合(被覆率)を示します。別添1、2の分布図では、サンゴ被度を5%未満、5~50%未満、50~100%の3段階で示しました。
 
① 大隅諸島・トカラ列島
 当海域におけるサンゴの分布範囲は37.1㎢で、そのうち30.5㎢(全体の82.1%)が「被度5%未満」でした。礁池はほとんどなく、サンゴ礁の発達は見られませんでした。現地調査の結果、卓状や被覆状のミドリイシ属、被覆状のコモンサンゴ属、散房花状のハナヤサイサンゴ属が優占(「生物群集で、ある種が優勢の状態にある」ことをいう。以下同じ。)していることが分かりました。
② 奄美群島
 当海域におけるサンゴの分布範囲は75.1㎢で、そのうち44.5㎢(全体の59.3%)が「被度5%未満」でした。礁池は陸域近傍に限られ、サンゴ礁の発達は顕著ではありませんでした。現地調査の結果、卓状のミドリイシ属、コモンサンゴ属、ハナヤサイサンゴ属が優占していることが分かりました。
③ 久米島・宮古諸島・八重山諸島
 当海域におけるサンゴの分布範囲は300.7㎢で、そのうち199.5㎢(全体の66.3%)が「被度5%未満」でした。礁池は比較的広く、サンゴ礁の発達は顕著でした。現地調査の結果、ミドリイシ属、コモンサンゴ属、塊状ハマサンゴ属が優占していることが分かりました。
④ 小笠原諸島
 当海域におけるサンゴの分布範囲は15.6㎢で、そのうち11.0㎢(全体の70.5%)が「被度5~50%未満」でした。礁池は陸域近傍に限られ、サンゴ礁の発達は顕著ではありませんでした。現地調査の結果、枝状や卓状のミドリイシ属、アザミサンゴ属、塊状ハマサンゴ属が優占していることが分かりました。
 
(2)地域スケール
 調査対象海域のうち奄美大島や宮古島を対象に、サンゴの分布状況と、土地利用状況、海水温等との関連性等について整理しました。
 その結果、サンゴの分布状況と「土地利用状況等の陸域の状況」には特に関連性は見られず、サンゴの分布状況と「海水温の状況」では、宮古島において高水温と白化現象の関連性が示唆されました。

成果の公表場所

 本調査の成果(報告書、各海域のサンゴ分布図等)は、環境省生物多様性センターの生物多様性情報システム(J-IBIS)における、浅海域生態系現況把握調査Webサイトに掲載しています。また、自然環境調査Web-GIS内でサンゴ分布図を地図上に表示するとともに、サンゴ分布図、サンゴ被度の増減図のシェープファイルについてもダウンロードが可能です。
・浅海域生態現況把握調査 (https://www.biodic.go.jp/kiso/44/44_kikou.html#mainText)
・自然環境調査Web-GIS  (http://gis.biodic.go.jp/webgis/)
以上

連絡先

環境省自然環境局生物多様性センター
代表
0555-72-6031
直通
0555-72-6033
センター長
松本 英昭
調査科長
鴛海 智佳