報道発表資料

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1999年07月22日

戦略的環境アセスメント総合研究会中間報告のとりまとめについて

戦略的環境アセスメントに関する総合的な研究を行うため、環境庁では平成10年7月より「戦略的環境アセスメント総合研究会」を設置し、2年間の予定で検討を行っているところである。今般、同研究会の初年度の研究の成果として、戦略的環境アセスメントに関する国内外の取組と戦略的環境アセスメントの実施に際して考慮すべき事項や今後の検討課題に関する中間報告が取りまとめられた。
1.経緯

 戦略的環境アセスメント(SEA:Strategic Environmental Assessment)は、個別の事業に枠組みを与える上位計画や政府の政策の段階において、環境への影響を把握・評価し、環境への配慮が十分に行われることを確保するための手続である。  主要先進国では、戦略的環境アセスメントの導入が進められており、また、我が国においても環境影響評価法の国会審議の際にその制度化に向けて早急に具体的な検討を進める旨の附帯決議がなされるなど、具体的な検討の必要性が高まっている。このため、環境庁では、昨年7月に「戦略的環境アセスメント総合研究会」(座長 浅野直人福岡大学法学部教授、委員は別紙のとおり。)を設置し、2年間の予定で国内外の関連制度の実施状況について総合的な調査研究を行うこととしている。  初年度に当たる昨年7月から本年にかけ、諸外国における戦略的環境アセスメントの取組状況を中心に5回に渡って研究会を開催し、調査研究を行ってきたところである。特に第4回の研究会では、戦略的環境アセスメントに関する国際ワークショップと併せて、諸外国の実務者及び研究者を招いた意見交換を行った。  今般、これらの初年度の調査研究の成果として、戦略的環境アセスメントに関する国内外の取組の現状と国際ワークショップから得られた戦略的環境アセスメントの実施に際して考慮すべき事項や、我が国において戦略的環境アセスメントを展開するに当たって検討すべき課題に関する中間報告を取りまとめたため、公表するものである。

2.中間報告の概要

 中間報告は、5章から構成されており、第1章では戦略的環境アセスメントが求められるようになった背景とその意義を、第2章及び第3章では、諸外国における戦略的環境アセスメントに関する制度の状況と具体的な取組事例を、第4章では我が国における戦略的環境アセスメントの萌芽と言える事例を、第5章では、戦略的環境アセスメントの展開に向けた今後の課題を取りまとめている。

(1) 戦略的環境アセスメントとは何か(第1章)
 環境アセスメントは、その創成期である1970年代には事業の実施段階の環境アセスメントである事業アセスのみならず、計画段階の環境アセスメントが行われていたが、その後、事業アセスを中心に発展することとなった。  しかし、1990年代に入り、{1}社会の持続可能な発展を達成するために、政策の策定・実施に当たって環境への配慮を意思決定に統合するためのツールとして、また、{2}個別事業の環境アセスメントでは、政策や上位計画において既にその一部が決定されているために意思決定の段階としては遅すぎ、有効な代替案の検討が行えない等の事業アセスの限界を補完するためのツールとして、欧米では、政策、計画、プログラムを対象とした環境面からの評価を行うための体系的な手続を定めた戦略的環境アセスメントが導入されるようになってきている。我が国でも、環境影響評価法の国会審議の際に戦略的環境アセスメントの制度化に向けて早急に具体的な検討を進める旨の附帯決議が行われ、また、地方公共団体でも早期の段階で環境配慮を行う仕組みの構築が求められるなど、制度化に向けた具体的な検討を早急に行うことが求められている。
(2) 諸外国における戦略的環境アセスメントの制度の実施状況(第2章)
 1990年前後から、オランダ、カナダ、イギリス等の欧米諸国において戦略的環境アセスメントの取組が始められ、特に1992年の地球サミット以降、多くの先進諸国では戦略的環境アセスメントの制度化が急速に図られている。さらに、EUでは、1996年に「計画及びプログラムの環境影響の評価に関する指令案」が提案され、同指令案が成立すると、既にアメリカでは1969年の国家環境政策法により政府のあらゆる決定に対して環境面からの評価を行うことが義務付けられているため、我が国等一部の国を除けば、ほとんどの主要先進国では戦略的環境アセスメントの導入が図られる状況にある。  諸外国の制度では、環境面からの評価に関して他の評価と独立した制度を設ける国が多いが、以下のような幾つかの形式が見られる。
{1} 事業アセスと同一の法制度による形式
 事業アセス法の対象に一定の「計画・プログラム」を含めるものであり、フランス、オランダに見られる。EUのSEA指令案も基本的にはこの形式である。一般的には、法律により、事業アセスと同様に環境影響評価書の作成や公告・縦覧等の手続が義務付けられる。
{2} 政策・法律を対象とする事業アセスとは別の制度を設ける形式
 法律によらない閣議決定などの行政措置により、閣議決定を行う法案等を対象とする制度であり、カナダ、デンマークの内閣指令やオランダの環境テストに見られる。一般に、事業アセスのように詳細な手続は求められず、閣議決定文書に関する章を設ける程度の簡易な手続によることが多い。
{3} 政策評価の指針を定める形式
 イギリスでは、政策評価において環境配慮が適切になされるよう、政策評価のための環境面からの指針を定めている。しかし、法律や閣議決定などの根拠がなく、環境への評価が体系的に行われることを確保するものとはなっていない。

 環境面からの評価を明らかにした文書の作成や当該文書の公告・縦覧等の進行管理は、ほとんどの国では事業アセスと同様に当該案件を所管する部局が行っている。環境部局は、当該文書の審査について何らかの形で関与している国が多い。公衆の関与もほとんどの制度で義務付けられているが、「政策」を対象とする制度では必ずしも義務付けられていない。評価の手順としては、事業アセスと同様に、スコーピングを行った後、影響の予測及び評価、緩和措置の検討が行われ、その結果が文書として取りまとめられることが一般的であるが、「政策」では、詳細な規定は設けられていないことが多い。社会経済的な評価に加えて環境面からの評価が併せて行われる制度は一部の国で地域の総合計画に見られるものの、一般的には社会的・経済的影響を直接的に評価するものとはなっていない。

(3) 諸外国における戦略的環境アセスメントの実践事例(第3章)
 戦略的環境アセスメントの取組は、欧州では、「計画・プログラム」を中心に行われており、特に総合開発計画、交通、エネルギー、廃棄物処理等の分野別の開発計画や土地利用計画に対して実施される例が多く見られる。また、米国では特定地域における資源開発や水資源開発に対するプログラムアセスメントが多く行われている。また、カナダやオランダ、デンマークでは法案等の「政策」に対して適用される事例が見られる。
 今回の報告書では、ドイツの州道に関する計画、オランダの廃棄物計画及び住宅地域の土地利用計画、アメリカの水資源管理プログラム、カナダの法律の改正に関するアセスメントの事例を代表的な事例として取り上げた。
(4) 我が国における戦略的環境アセスメントの導入に関する取組(第4章)
 我が国でも、環境影響評価法により港湾計画に対する環境アセスメントが制度化されているほか、東京都や川崎市等において、事業段階より早期の「政策」や「計画」の段階から環境への配慮を行う制度的な取組が進められている。
 また、制度的なものではなくとも、1970年代にはむつ小川原開発基本計画や苫小牧東部大規模工業基地開発計画に対するアセスメントが行われ、その後も、広島空港の立地選定段階での環境への配慮、最近では狛江市の廃棄物処理場や横浜市での道路事業の構想段階での環境配慮の事例など、構想や立案の段階から環境への配慮が行われている事例は多数見られるところである。
(5) 戦略的環境アセスメントの実施に際して留意すべき事項(第5章第1節)
{1} 政策・計画の多様性と柔軟なアプローチの必要性  戦略的環境アセスメントが対象とする政策や計画は、抽象的なものから具体性の高いものまでその内容が多様であるとともに、その立案から決定に至るプロセスも多様なものとなっている。戦略的環境アセスメントは各案件の立案から決定のプロセスにおいて環境面からの評価を行い、その結果を当該政策や計画に反映させていくものである。このため、当該政策や計画に適した評価手法を用いることが必要であるとともに、評価のプロセスも各案件の策定プロセスに即した柔軟なアプローチをとることが求められる。
{2} 政策や計画に対する評価と不確実性への対処
 戦略的環境アセスメントでは、政策や計画を対象とする戦略的な意思決定を行う段階での環境アセスメントであるが故に対象となる案件は抽象的であったり、その効果が不確実なものが多く、その環境面からの影響を詳細に予測しようとしても不確実なものとならざるを得ないが、戦略的環境アセスメントでは、政策や計画の決定に影響を及ぼすような重要な環境面の要因について評価を行うことが重要である。このため、評価項目を決定するスコーピングの段階が非常に重要である。
{3} 代替案の設定
 政策や計画を対象に環境への影響を評価することの一つの大きな意義は、より広範な複数の案を扱えることにある。環境への影響を定量的に評価することがその不確実性から困難であっても、複数の案の相対的な評価を行うことは可能である。また、政策や計画では、考慮すべき事項が複雑多岐に渡ることが多いため、評価をできるだけ簡潔に行う観点からも有効である。このため、諸外国の多くの制度では、代替案の設定が義務付けられている。ただし、「政策」では、その抽象性のために代替案を設定することが困難な場合もあり、義務付けられていないことが多いことに留意することが必要である。
{4} 政策や計画の決定への活用と簡潔さ・分かりやすさ
 一般に、政策や計画の影響は抽象性や不確実性が高く、その内容も広範多岐に渡ること、また、政策や計画のスケールから代替案の検討の余地が広く、環境の改善効果を考慮したり、それぞれの案の環境面からのメリット・デメリットを比較衡量することが必要なため、判断の結果を簡潔かつ分かりやすく示すことは困難なことが多い。しかし、政策や計画を策定する者がその結果を十分考慮することができるように、どの案が環境保全の観点からより望ましいものであるか等の環境面からの評価結果を簡潔に分かりやすく示すことが重要である。
(6) 戦略的環境アセスメントの今後の展開に向けた課題(第5章第2節)
 
{1} 戦略的環境アセスメントのケーススタディの実施
 戦略的環境アセスメントでは、その対象が事業アセスに比べて非常に広範であり、また、個々の案件の意思決定過程に沿って評価を行うことが必要であるため、詳細な手続を画一的に定めることは困難であり、まず柔軟な形でケーススタディを積み重ねていくことが適当である。国レベルでは、特に環境配慮が必要な特定の個別計画や環境面での影響が明確になる環境セクターの計画などを対象としてケーススタディを実施することや、地方公共団体がケーススタディを行う参考となる戦略的環境アセスメントの考え方や評価手法等をまとめた手引きを提供し、取組を支援することが必要である。
{2} 我が国における政策や計画の策定プロセスの整理
 我が国では、多数の政策や計画が策定されているが、法的性格や財政的な裏付けの程度、事業や他の政策・計画等との関係の程度、その策定プロセスなどが極めて多様である。戦略的環境アセスメントでは各案件の策定プロセスに即したものとすることが重要であることを踏まえ、それらの策定プロセスを整理していくことが必要である。この際、特に戦略的環境アセスメントでは、アカウンタビリティや透明性を確保することが必要であることから、費用対効果分析の導入やパブリックコメント、情報公開法の制定などの近年の動向も踏まえつつ、検討することが必要である。
{3} 環境保全上のメリットを得られる戦略的環境アセスメントの対象の明確化
 環境保全上メリットを得ることのできる政策や計画を具体的に明らかにしていくことも重要である。この際、どの段階でどのような環境要因について評価を行うことにより所要の目標を達成できるのかという観点からも検討を行うことが必要である。また、既に環境配慮を行う仕組みが存在している場合もあり、環境配慮がどのような制度的仕組みで行われることとなっているのかを明らかにすることも必要である。
{4} 環境政策手法の中での戦略的環境アセスメントの位置付けの整理
 持続可能な経済社会の構築に向け、行政の意思決定メカニズムに環境への配慮を組み込むため、環境基本計画との調整を図るための協議等を始め、既に様々な取組が行われているところであり、戦略的環境アセスメントの環境政策の中での位置付けを明確にしていくことも必要である。
{5} 制度化に向けた諸論点の整理
 以上の課題を踏まえつつ、特に「政策」を対象とするのか、「計画・プログラム」を対象とするのかによってアプローチが異なることに留意しつつ、制度を構築する上で柱となる、環境アセスメントの手順や公衆の関与、事業の公益性、社会経済的評価と環境面からの評価との関係等の論点について整理を行っていくことが必要である。
(別紙) 戦略的環境アセスメント総合研究会委員(50音順、敬称略)
浅野 直人 福岡大学法学部教授(座長)
安藤 時彦 日本開発銀行新規事業部次長
家田  仁 東京大学大学院工学系研究科教授
井村 秀文 九州大学工学部教授
宇賀 克也 東京大学法学部教授
幸田 シャーミン ジャーナリスト
高橋  滋 一橋大学法学部教授
田中  充 川崎市環境局環境企画室副主幹
原科 幸彦 東京工業大学院総合理工学研究科教授
松村 弓彦 明治大学法学部助教授
連絡先
環境庁企画調整局環境影響評価課
課長:寺田 達志(6230)
補佐:中尾  豊(6234)