報道発表資料

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2007年10月11日
  • 自然環境

自然環境保全基礎調査浅海域生態系調査(干潟調査)の結果について

 環境省生物多様性センターでは、平成14年度より「自然環境保全基礎調査」(注1)の一環として、わが国の代表的な干潟157箇所における底生生物相(注2)について、統一的な手法による全国規模の調査を行いました。今般、その結果をとりまとめましたので、お知らせいたします。
 なお、本調査の結果は、生物多様性センターが運営する生物多様性情報システム(J-IBIS)において閲覧・ダウンロードすることができます。

(注1)
自然環境保全基礎調査:全国的観点から自然環境の現況及び改変状況を把握し、自然環境保全の施策を推進するための基礎資料として整備するために、環境省が昭和48年度より自然環境保全法第4条に基づきおおむね5年ごとに実施。通称「緑の国勢調査」とも言われている。
(注2)
底生生物:干潟など水域の底質(砂・泥など)の表面・内部に棲む生物の総称。

1.調査概要

  • 目的:
    陸域と海域の接点である浅海域に存在する干潟の生物多様性を把握するため、全国的に統一された調査手法により、全国の代表的な干潟における底生生物相の調査を行ったもの。
  • 調査期間:
    平成14年度 調査手法の検討・調査協力体制の整備、現地調査
    平成15~16年度 現地調査
    平成17~18年度 補完調査及び解析・とりまとめ
  • 調査体制:
    特定非営利活動法人日本国際湿地保全連合への請負により、専門家の協力を得て実施。
  • 調査地:
    わが国の生物多様性保全上重要な湿地のリストである『日本の重要湿地500』(平成13年、環境省)等を考慮し、全国的な干潟生物相の現況を把握する観点から選定した代表的な干潟157箇所を対象として、全国を北海道、東北、関東、小笠原、日本海、中部東海、近畿、中国四国、九州、沖縄の10地域ブロックに分けて調査を実施(別表1、図1~2)。
  • 調査手法:
    各干潟で基本的に3測線×3地点の調査地点を設定(調査地点数は干潟の面積によって変化し、最小で2地点、最大で15地点)。 各調査地点で5m×5mの調査区を設定、干潟の表面を目視観察し、出現した生物を記録・採集した。次いで、同じ範囲内を2人が10分間掘り返し、目視で発見できた生物を採集。また、ヨシ原など塩性湿地やマングローブ湿地内の調査地点については、主な構成植物を記録するとともに、2人が20分間歩き回って発見した底生動物を記録・採集した。 採集した生物は同定後に採集場所に放し、現場で同定できないものについては各分類群の専門家に同定を依頼した。

2.調査結果

(1)日本列島全域における干潟生物の出現状況

  • 今回の調査で出現した全国の干潟底生動物は、14動物門1,667種となった。全国の10地域ブロック別の出現種数を比較すると、九州、沖縄、中国四国、近畿地域ブロックの順に多く、日本列島の西南部の地域において干潟生物の多様性が高いことが明らかになった。(表1)。

    表1:各地域ブロックにおける干潟生物の全出現種数
    地域ブロック名
    調査地数
    全出現種数
    各地域ブロックでのみ
    出現した種数
    北海道 18 202 89
    東北 15 257 56
    関東 12 190 29
    小笠原 1 20 5
    日本海 5 56 1
    中部東海 16 247 40
    近畿 14 380 86
    中国四国 19 454 113
    九州 38 700 239
    沖縄 19 630 388
    調査地合計数 157
  • 上記結果をもとに全国データを比較して干潟生物の地理的な特徴を解析するため、全出現種の中から、主に淡水域や岩礁帯に生息する種を除き、調査地2箇所以上で確認された干潟生物種541種(狭義の干潟生物種)について分布状況を調べた(表2)。
  • この結果、地域特有に出現した種(地域特有種)の比率は、沖縄が最も高く、次いで北海道、小笠原、九州であった。亜熱帯・熱帯性の種が多い沖縄、固有の種が多い九州のみならず、北海道でも北方系の特有生物が多く見られ、日本列島全体の生物多様性への  貢献という点から特筆できる。
  • 一方で、主要種の分布状況をまとめたところ、沖縄・九州から北の地域まで広く分布する種(広域分布種)も多数出現したが、イボウミニナ、オカミミガイなど多くの種において最南端の出現地から最北端の出現地までの間に、出現が見られない広い空白地帯が見られた。これは中継地となる生息地欠如による個体群衰退のおそれという点で懸念される。
  • また、過去のデータとの比較により、かつて生息が確認されていたが今回同じ調査地で生息が確認されなかった場合も多く存在した。
表2:狭義の干潟生物種に係る地域特有種の種数と比率
地域ブロック名*
合計種数
地域特有種の種数
地域内比率(%)
北海道 66 18 27.3
東北 119 1 0.8
関東 111 4 3.6
小笠原 11 2 18.2
中部東海 144 3 2.1
近畿 192 3 1.6
中国四国 239 4 1.7
九州 330 35 10.6
沖縄 268 118 44.0
日本海ブロックについては、南北広域にまたがり特有の種が殆ど出現しなかったため、最も近い地域に振り分け、全国9地域ブロックとして比較。

(2)塩性湿地・マングローブ湿地に生息する底生動物の分布状況

  • 干潟の後背域にみられるヨシ原など塩性湿地やマングローブ湿地については、埋立や河川の土砂供給の減少等により全国的に面積の縮小・消失が進んでいる。今回の調査では、これらの塩性湿地・マングローブ湿地を分布中心とする底生動物種が合計78種確認された。これらは、わが国の塩性湿地・マングローブ湿地で確認される昼行性の代表的な底生動物種である。
  • これらの種について、多くの地域ブロック・調査地で出現した種に比べて、出現地域ブロック・調査地が少ない種の方が絶滅の危険度が高いと仮定して、絶滅の危険度評価のためのカテゴリ分けを試みた。
  • その結果、以下のとおり全78種のうち59.0%がカテゴリA~D(非常に危険~危険)に相当し、カテゴリE(危険は少ない)に相当する種は12.8%であった(表3)。

    表3:塩性湿地・マングローブ湿地の底生動物における危険度
    カテゴリ
    種数
    塩性湿地・マングローブ湿地種(78種)に占める割合
    A 1地域ブロック・1調査地でのみ出現した種
    非常に
    危険
    14
    シイノミミミガイ(オカミミガイ科)、アシハラガニモドキ(モクズガニ科)など
    17.9%
    B 複数の地域ブロックから出現したが、すべての地域ブロックで1調査地からのみ報告された種
    3
    フジテガニ(ベンケイガニ科)など
    3.8%
    C 複数の地域ブロックから出現したが、1つ以上の地域ブロックで1調査地からのみ報告された種
    危険
    21
    カワアイ(キバウミニナ科)、センベイアワモチ(ドロアワモチ科)、ハマガニ(モクズガニ科)など
    26.9%
    D 共通種の多い東北・関東・中部東海・近畿・中国四国・九州の6地域ブロックの内、4地域ブロック以下で出現した種
    8
    クロヘナタリ(キバウミニナ科)、オカミミガイ(オカミミガイ科)など
    10.3%
    E 上記6地域ブロックの内、5地域ブロック以上で出現し、すべての地域ブロックで複数の調査地から報告された種
    危険は
    少ない
    10
    クリイロカワザンショウ(カワザンショウ科)、アシハラガニ(モクズガニ科)など
    12.8%
    F 地域特有種の多い地域ブロック(北海道・九州・沖縄)の複数調査地で出現した種
    危険度
    不明
    22
    キバウミニナ(キバウミニナ科)、ウラシマミミガイ(オカミミガイ科)など
    28.2%

3.まとめ

  • 本調査により、全国の代表的な干潟における底生生物相の現況が統一的手法により把握された。これほど多くの調査地における全国規模での干潟生物相の調査は、わが国でははじめての試みである。特に、九州、沖縄、中国四国など日本列島の西南部地域において、より多くの種が見られたほか、北海道、九州、沖縄の3地域ブロックについては、他の地域に出現しない特有の生物が多く出現し、これらの地域における生物多様性の高さなど地域的特長が明らかになった。
  • 今回の調査では、過去に記録されていなかった種の分布が新たに確認された一方で、今回分布が見られなかった種も多く確認された。また、主要種の分布図をまとめた結果、域に分布する種の一部に分布域の分断が見られた。さらに、塩性湿地・マングローブ湿地に生息する種の多くは、限られた地域ブロック・調査地のみに出現し、地域的絶滅の危険性も示唆された。
  • なお、今回の調査では1箇所につき1回のみの調査であったため、出現しなかった種が調査の年に偶然少なかったのか、あるいは地域的に絶滅したのか明確には判断できない。これらの詳細について確認するためには、干潟生物相の継続的なモニタリングが必要である。
  • 環境省では、わが国の生態系の状況を継続的に把握するため「重要生態系監視地域モニタリング推進事業(モニタリングサイト1000)」を進めており、今回の干潟調査の結果を踏まえつつ、平成20年度以降、わが国の重要な干潟生態系のモニタリングを実施する予定である。

4.報告書の公開等

  • 本調査の結果については、わが国の沿岸域における自然環境保全のための基礎的資料として一般に広く提供・公開することとしており、報告書については、環境省生物多様性センターが運営する生物多様性情報システム(J-IBIS)上で閲覧・ダウンロードすることが可能である。
  • 上記システムのHPアドレスは次のとおり。(http://www.biodic.go.jp/kiso/fnd_f.html

添付資料

連絡先
環境省自然環境局総務課生物多様性センター
連絡先:0555-72-6033
センター長:鳥居 敏男(内線111)
総括企画官:中島 尚子(内線213)

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