報道発表資料
今回のレッドリストでは、絶滅のおそれがある種(絶滅危惧I類及びII類)としてミヤコタナゴ、リュウキュウアユ、メダカなど76種が掲げられた。
環境庁では、このリストを基に、今後、汽水・淡水魚類のレッドデータブックの作成を進めることとしている。
(注)レッドリスト:
日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト。レッドリストに掲載された種について生息状況等をとりまとめ編さんしたものがレッドデータブック。レッドリストは生物学的観点から個々の種の絶滅の危険度を評価し選定したもので、規制等の法律上の効果を持つものではないが、絶滅のおそれのある野生生物の保護を進めていくための基礎的な資料として広く活用されることを目的とするものである。
1.レッドデータブック見直しの経緯
環境庁では、平成3年に動物版レッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の個々の種の生息状況等をまとめたもの)を発行したが、レッドデータブックは、 野生生物の生息状況や生息環境の変化に対応するため定期的な見直しが必要であり、平成7年度より、哺乳類、鳥類、爬虫類といった分類群ごとに改訂作業に着手した。
そして、平成9年8月に両生類及び爬虫類の、平成10年6月に哺乳類及び鳥類の新しいレッドリスト(レッドデータブックの基礎となる日本の絶滅のおそれのある野生 生物の種のリスト)を公表したところであるが、今般、汽水・淡水魚類についても新しいレッドリストの取りまとめ作業が終了した。
これで、脊椎動物については、新しいレッドリストがすべてそろったことになる。
2.見直し作業の体制及び情報源
レッドデータブックの見直しに当たっては、環境庁自然保護局長の委嘱により、専門家による「絶滅のおそれのある野生生物の選定・評価検討会」を設置し、その下に「レ ッドデータブック改訂分科会」及び「汽水・淡水魚類」等の分類群ごとの分科会を設置して検討を進めた。さらに、汽水・淡水魚類については、分科会の下に作業部会(事務 局:(財)自然環境研究センター)を設置し作業を行った。(関連する分科会等の委員は別紙1参照)
また、今回の汽水・淡水魚類の見直しの際の生息状況等に関する情報については、既存の文献・資料や専門家の知見を基本とし、それを補うために必要に応じ若干の現地 調査を行った。
3.レッドデータブックのカテゴリー
レッドリストの見直しに当たっては、1994年(平成6年)にIUCN(国際自然保護連合)が採択した、数値による評価基準による新しいカテゴリーを踏まえつつ、環境庁 としての、定性的要件と定量的要件を組み合わせた新しいカテゴリーを策定した。新しいカテゴリーの定義は、下表のとおり。(詳細は別紙2参照)
なお、今回の汽水・淡水魚類については、現状では数値的な評価のためのデータが得られない種が多いことから、主に定性的要件に基づき評価を行った。
【新カテゴリーとその定義】 参考:旧カテゴリー
● 「絶滅(EX)」
-我が国ではすでに絶滅したと考えられる種。絶滅種(Ex)
● 「野生絶滅(EW)」
-飼育・栽培下でのみ存続している種。-
● 「絶滅危惧」(=絶滅のおそれのある種) ◎ 「絶滅危惧I類」
-絶滅の危機に瀕している種。○ 「絶滅危惧IA類(CR)」
-ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い。○ 「絶滅危惧IB類(EN)」
-IAほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い。◎ 「絶滅危惧II類(VU)」
-絶滅の危険が増大している種。
絶滅危惧種(E)
危急種(V)
● 「準絶滅危惧(NT)」
-現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種。希少種(R)
● 「情報不足(DD)」
-評価するだけの情報が不足している種。-
● 付属資料「地域個体群(LP)」
-地域的に孤立しており、地域レベルでの絶滅のおそれが高い個体群地域個体群(Lp)
4.汽水・淡水魚類レッドリストの選定評価方針
汽水・淡水魚類の新しいレッドリストの選定評価対象種及び評価方法等を、以下のとおりとした。
(1)選定評価対象種
{1} | 淡水河川・湖沼から汽水域に生息する魚類を対象とする。海産魚類は対象外。 | ||||||||||
{2} | 種又は亜種(分類上亜種に細分される場合は原則として亜種)を評価の対象とする。 | ||||||||||
(注1)亜種レベルに満たないグループであるサツキマス、イワメ等は、単独での選定評価は行わない(当該グループが属する亜種全体で評価)。 | |||||||||||
(注2)亜種名が存在しても分類上の議論があるゴギ、ハリヨ等は、単独での選定評価は行わない。 | |||||||||||
{3} | 外来魚(移入種)は対象外とする。(注)ただし、移入かどうかの判断が困難な場合は対象とする。 | ||||||||||
(例:タウナギ、タイワンキンギョ) | |||||||||||
{4} | 地域個体群(LP)としては、種又は亜種の分布において絶滅のおそれの高い地域個体群であって、以下のいずれかに該当するものをリストアップする。 | ||||||||||
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(2)評価方法等
{1} | 可能な限り定量的評価を行うものとするが、魚類は数値データを把握することが困難な分類群であることを踏まえ、実際の評価では専門家の知見等に よる定性的評価を中心とする。 |
{2} | 国内のみの生息状況に基づいて評価する。 |
{3} | 評価の対象は野生個体とする。野生個体群に添加された放流個体が再生産している場合には、野生個体に準ずると考え、評価の対象に加える。 (注)ただし、放流により遺伝的に攪乱された個体群は対象としない。 |
{4} | 増減の比較をする場合、個々の種の状況を勘案し、十年から数十年前の状況と比較する。 |
5.汽水・淡水魚類レッドリストの選定評価結果
(1)レッドリスト掲載種
評価の結果、汽水・淡水魚類の新しいレッドリストを別紙3のとおり取りまとめた。
なお、レッドリストに掲げられた種数(亜種を含む)は下表のとおり。
カテゴリー 種 数
絶滅 EX 野生絶滅 EW
3 0 絶滅のおそれのある種 絶滅危惧I種
IA類 CR
29 58 76
IB類 EN
29
絶滅危惧II類 VU
18
準絶滅危惧 NT情報不足 DD
12 5計 96
(地域個体群) LP 14
(2)レッドリストの特徴
汽水・淡水魚類レッドリストの主な特徴は以下のとおりである。
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評価対象種(亜種を含む)は約300種であり、その約4分の1に当たる76種が絶滅のおそれのある種とされた。
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絶滅のおそれのある種が、旧版(平成3年版レッドデータブック)の22種から76種へ増加。そのうち、旧ランク外からの新たな選定種は49種。
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絶滅のおそれのある種に選定された76種のうち、約半分の35種(うち30種が旧ランク外からの選定)がハゼ類である。ハゼ類が多く選定された理由としては、特に南西諸島に生息するハゼ類の知見が充実し適切な判定が可能になったことや、分布範囲が極めて限定されており生息数の減少が起こりやすいことなどが挙げられる。
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メダカ、ホトケドジョウなど、普通に生息していると思われていた種でも、絶滅のおそれがあることが明らかになった。
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旧版で絶滅危惧種に選定されていたサツキマスは、今回の選定評価の対象外であったため、本リストには掲載されなかったが、サツキマスの自然個体群の希少性の評価は変更なく、その旨は今後作成するレッドデータブックの中で記載する予定。
→ サツキマスはアマゴの降海型であり、分類学上はアマゴ(亜種レベル)に含まれる。旧版では亜種レベルに満たないグループも選定対象としていたが、今回の見直しでは、選定評価の対象を分類学上の亜種レベル以上に厳密に限定したことから、サツキマスを含むアマゴ全体が評価の対象とされた。アマゴ全体で見れば、絶滅のおそれがあるとは言えないことから、本リストには掲載されなかった。
6.今後の保護対策・課題
環境庁としては、レッドリスト掲載種の中でも特に保護の優先度の高い種について は、さらに生息状況等に関する詳細な調査を実施し、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく国内希少野生動植物種の指定等の保護措置を検討 していく。
また、レッドリストについては、広く普及を図ることにより、国民の絶滅のおそれの ある野生動植物の種の保存への理解を深めるとともに、関係省庁や地方公共団体等にも 配布し、各種計画等における保全配慮の促進を図る。なお、レッドリストの一般入手方法は別記のとおり。
なお、汽水・淡水魚類分科会等において、以下のような意見が出された。
- 今回のレッドリストに選定された種について、希少性が広く一般にも認識されることは大変重要だが、選定されたことにより逆に密漁圧が高まることも予想される。密漁圧から希少種を守るため、 住民や研究者等への普及啓発を十分に行う必要がある。
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レッドリスト選定種等が現在生息している環境は、数少ない残された良好な 生息環境であると考えられることから、それらを評価・分析することにより、 汽水・淡水魚類全般にわたる効果的な保護方策を検討することが期待される。
7.レッドデータブックの作成
今後、レッドリスト掲載種について個々の種の特徴や生息状況等の概要について記載 したレッドデータブック「日本の絶滅のおそれのある野生生物ー汽水・淡水魚類編ー」 の作成作業を行い、来年度を目途に公表する予定。
(別記)汽水・淡水魚類レッドリスト入手方法
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(別紙1) ●レッドデータブック改訂分科会(環境庁自然保護局長委嘱) 座 長:上 野 俊 一 国立科学博物館名誉研究員 委 員:阿 部 永 元北海道大学農学部教授 藤 巻 裕 蔵 帯広畜産大学畜産学部教授 多 紀 保 彦 東京水産大学名誉教授 森 本 桂 九州大学名誉教授 奥 谷 喬 司 日本大学生物資源科学部教授 青 木 淳 一 横浜国立大学環境科学研究センター教授 大 野 正 男 東洋大学文学部教授 岩 槻 邦 男 立教大学理学部教授 千 原 光 雄 千葉県立中央博物館館長 ●汽水・淡水魚類分科会(環境庁自然保護局長委嘱) 座 長:多 紀 保 彦 東京水産大学名誉教授 委 員:新 井 良 一 元東京大学教授 上 野 輝 弥 国立科学博物館名誉研究員 木 村 清 朗 元九州大学農学部教授 後 藤 晃 北海道大学水産学部教授 長 田 芳 和 大阪教育大学教育学部教授 細 谷 和 海 水産庁中央水産研究所魚類生態研究室長 ○汽水・淡水魚類作業部会(事務局:(財)自然環境研究センター) 座 長:細 谷 和 海 水産庁中央水産研究所魚類生態研究室長 委 員:岩 田 明 久 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科助教授 小早川 みどり 九州大学理学部生物学科研究生 小宮山 英 重 標津サーモン科学館主任学芸員 瀬 能 宏 神奈川県立生命の星・地球博物館主任研究員 林 公 義 横須賀市自然博物館技監主任学芸員 前 畑 政 善 滋賀県立琵琶湖博物館交流センター科長
添付資料
- 連絡先
- 環境庁自然保護局野生生物課
課長:森 康二郎(6460)
担当:植田、樋口(6465)