報道発表資料

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1998年01月19日

健全な水循環の確保に関する懇談会報告書「健全な水循環の確保に向けて~豊かな恩恵を永続的なものとするために~」について

日本のような中緯度湿潤森林流域では、水は基本的に一度地下にもぐって地表にしみ出し、河川や湖沼を流れて、最後に海に至る自然の循環系を形成している。しかし、都市化の進行等により地下水を中心とする自然の循環系が損なわれ水環境の悪化や生態系の劣化、ヒートアイランド現象等さまざまな障害が発生している。この問題を解決するには個別対策に止まらず、総合的な視点に立ち、健全な水循環の回復を図る必要がある。

 このため、環境庁では、平成9年2月以降10回にわたり「健全な水循環の確保に関する懇談会(座長:榧根勇(かやねいさむ)愛知大学教授(筑波大学名誉教授))」を開催し、水循環の中でも重要な役割を果たしている地下水を中心に流域の健全な水循環の確保に向けた基本的考え方と施策展開のあり方について議論を重ね、このたび、報告書のとりまとめを行った。

 この報告書では、まず、地下水を中心とした自然の水循環系が人類にもたらす永続的な恩恵と、その水循環が人間活動の影響でどのように変化してきたかについて述べ、健全な水循環の確保のための基本的な考え方を示している。そして、水環境の総合的な改善を図るとともに都市気候の緩和を通じ温暖化防止にも資するため、流域を基本的単位とした関係者の連携の下、水循環を総合的に診断・評価し、これに基づき水循環回復マスタープランを策定することにより、効率的な施策推進を図る必要があるとして、その具体的な施策のあり方を示している。また、流域内のゾーニングによる土地の保全と利用の誘導手法や自然の循環系と人工的循環系の総合化・重層化の検討等、今後の課題についても言及している。

 環境庁では、地下水涵養の促進等により健全な水循環の確保を図る「井戸・湧水復活再生事業」を建設省との連携の下、本年度より推進しているところであり、さらに、本懇談会の成果も踏まえ、健全な水循環の確保に関する施策を全国の流域において展開するため、モデル流域におけるケーススタディを実施し、地下水を中心とする水循環の診断・評価基準及び回復手法を確立するための調査を平成10年度より着手する予定である。

 なお、本報告書は、環境庁などが主催する第1回国際土壌・地下水環境ワークショップの特別企画「パネル討論健全な水循環の確保に向けて」(1月21日13:30~ 東京都庁第一本庁舎5階)において討論の参考資料として活用する。

 また、中央環境審議会地盤沈下部会においても、地下水を中心とした水循環の確保に向けた施策について、審議を行うこととしている。
1.経過
環境基本計画(平成6年12月閣議決定)で示された基本的方向を具体化していくための行動に関する提言として平成7年9月に「水環境ビジョン懇談会報告」がまとめられ、水環境をとらえる視点として水循環の確保の重要性が提言されている。本報告を契機とし、流域における健全な水循環の確保に向けた基本的考え方と施策展開のあり方を示すことを目的として「健全な水循環の確保に関する懇談会」を平成9年2月以降、10回開催し、今回、最終とりまとめを行った。
(別紙1:懇談会メンバー一覧)

2.報告書の概要
(背景及び基本的考え方)
(1)背景・基本認識
{1}「水」は、持続的な自然エネルギーによって循環系を形成し、自然の水循環系がもたらす永続的な恩恵は、物理的あるいは精神的に人類の存続を根底から保障するものと考えられる。
{2}しかしながら、都市化の進行等により、自然の水循環系が損なわれ、水環境の悪化や生態系の劣化、ヒートアイランド現象等のさまざまな障害が発生している。
{3}これらの問題を総合的に解決するためには、水循環系の診断・評価に基づき、効率的に施策を展開し、健全な水循環を回復していくことが必要である。

(2)自然の水循環と地下水の重要性
{1}日本のような中緯度湿潤森林流域では、降雨は一旦地中に浸透し、「降水→土壌水→地下水→地表水(河川・湖沼)→海洋」という自然の循環系を基本的に形成している。
{2}流域全体に面的な広がりをもって貯留され、地表水を涵養し、多様な生物種の保全に寄与する地下水は、流域の水循環系の中で重要な役割を果たしている。
{3}地下水は、水資源として高く評価される一方、枯渇しやすく脆弱な特性を持つことに留意して利用する必要がある。

(3)人間活動による水循環への影響
{1}人間はその文明の発展段階において、さまざまな形で水循環系に働きかけ、多くの便益を得る一方で、地下水涵養を中心とする自然の水循環系に多大なインパクトを与え続けてきた。
{2}都市化の進展に伴う地下浸透の阻害、森林や水田の水環境保全機能の低下などにより、河川流量の不安定化(都市型水害の発生、平常時流量の減少等)や湧水の枯渇、地下への浸透量の減少に伴う浄化作用の低下やノンポイント汚濁源による水質悪化の進行、地下水の過剰汲み上げによる地盤沈下、ヒートアイランド現象等、さまざまな問題が発生している。また、流出パターンの変化及び水質悪化の進行等により、生態系の劣化が見られる。(別紙2)

(4)健全な水循環確保のための基本的考え方
{1}「健全な水循環」とは、自然の水循環がもたらす恩恵が基本的に損なわれていない状態であると言える。
{2}その確保のためには、湿潤地域、急峻な地形、水利用の現状等日本における水循環の諸条件を前提にしつつ、流域特性を十分踏まえ、人間活動による水循環系へのインパクトが極力少なくなるよう努めるとともに、自然循環系のもつ持続的機能を最大限活かしてくべきである。(別紙3)

(施策の展開に向けて)
(5)水循環機構の把握と水循環の診断・評価
{1}健全な水循環確保には、まず自然循環系からみた診断・評価を行うことが基本となる。
{2}「水循環の診断・評価」とは、まず水循環機構の実態を把握し、流域住民の目に見えるように明らかにし、発生している環境障害の程度と原因を究明するとともに、社会動向等から今後の状況を予測し、必要となる水循環回復施策の基本的方向性を明確にすることである。(別紙4)

(6)健全な水循環確保に向けた施策展開
{1}効率的な施策展開には、水循環の総合的な診断・評価を踏まえ、流域全体を視野に入れた水循環回復マスタープラン(内容:計画目標、施策メニュー、各主体の行動計画等)を策定する必要がある。(別紙5、6)
{2}既存施策や伝統的技術を含め、今後推進すべき対策、技術などに対する評価と改善に努めるとともに、新たな施策や技術についても、調査・研究を進めていく必要がある。
{3}また、マスタープランを地域計画やまちづくり等に位置づけることも必要である。
{4}施策展開に当たっては、流域住民、市民セクター、学識者、行政機関等の連携を効果的にする「場」が必要である。
{5}また、実効ある「場」の運営には、互いの立場を理解し尊重するためのルールづくり、連携の成果を目に見えるものとする工夫、各主体が保有している水循環関連情報を公開・共有することなどが必要である。(別紙7)

(7)今後の課題(全国の具体の流域における健全な水循環確保に向けて)
{1}モデル流域での調査研究を推進し、水循環の診断基準(指標化等)及び回復手法を検討し、確立する必要がある。
{2}中長期的課題
・水循環確保に向けた流域内のゾーニングによる土地の保全と利用の誘導手法等の検討していく必要がある。
・自然の水循環系と人工的水循環系の総合化・重層化を図るための検討が必要である。
・日本において蓄積した水循環保全技術の地球規模での展開していく必要がある。

3.環境庁における今後の取組
{1}環境庁では、地下水の涵養施設を整備し、水循環を回復するとともに、井戸や湧水の周辺の整備事業を推進する「井戸・湧水復活再生事業」を平成9年度に創設し、全国28地区で事業に着手したところである。
{2}また、水循環の確保に関する施策を全国の流域において展開するため、障害が顕著な流域をモデルにケーススタディを実施し、地下水を中心とする水循環の診断・評価基準及び回復手法についてのガイドラインを作成するための調査を平成10年度に着手する予定である(「流域水循環診断基準・計画策定調査」平成10年度20百万円)。
{3}中央環境審議会地盤沈下部会においても、地下水を中心とした水循環の確保に向けて審議を行うこととしている。


(別紙1)

健全な水循環の確保に関する懇談会委員名簿
(五十音順、敬称略)

今村 清光(財)水利科学研究所理事長
金子 博みずとみどり研究会事務局
(座長)榧根 勇愛知大学教授(筑波大学名誉教授)
桜井 善雄応用生態学研究所(信州大学名誉教授)
田中 正筑波大学助教授
増島 博東京農業大学教授
宮   晶子(株)荏原総合研究所先端バイオ研究室長
虫明 功臣東京大学生産技術研究所教授

*別紙2~5及び7は省略

添付資料

連絡先
環境庁水質保全局企画課地下水・地盤環境室
健全な水循環の確保に関する懇談会事務局
 室 長 :安藤 茂  (6670)
 補 佐 :加藤 裕之(6671)
 係 長 :谷口 英博(6674)