報道発表資料

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2006年11月22日
  • 保健対策

ジフェニルアルシン酸(DPAA)等の健康影響に関する調査研究及びDPAAの毒性試験について

環境省では、ジフェニルアルシン酸等の健康影響及び毒性について調査研究を進めているところですが、今般これまでの成果を取りまとめましたので、お知らせします。

ジフェニルアルシン酸(DPAA)等の健康影響に関する調査研究について

 ジフェニルアルシン酸等の健康影響に関して、環境省では、分析研究班、毒性研究班、臨床研究班、疫学研究班及びサポート研究班の5班体制で調査研究を進めてきたところですが、今般、各班におけるこれまでの研究成果を取りまとめました。その概要は下記のとおりです。
 今後とも、関係地方公共団体とも協力して、引き続きジフェニルアルシン酸等の健康影響に関する調査研究を実施してまいります。

1 分析研究班の研究概要

 ジフェニルアルシン酸は通常自然界に存在しないことから、これまでほとんど分析対象となったことがなく、迅速で高感度かつ信頼性の高い分析方法の開発・確立が求められています。
 このため、分析研究班では、最先端の高度分析機器を応用するための検討を進めました。今年度は試料の測定手法を確立するため、前処理法の確立を目的に研究を行ないました。また、ジフェニルアルシン酸、モノフェニルアルソン酸(MPAA)に加えフェニルメチルアルシン酸(PMAA)の分析も同時に可能な、新しい分離、検出条件を検討しました。
 また、高度な分析機器を持たない地方研究機関でも簡易に測定出来るように、汎用性の高い原子吸光法をベースに、ジフェニルアルシン酸の有無をスクリーニングする前処理方法を検討し、簡易分析法を向上させました。
 さらに、開発途中の各種分析方法について相互比較し、精度管理手法の開発を進め、本年度は、汚染米均質化試料の作成に向けて検討を進めました。

2 毒性研究班の研究概要

 毒性研究班では、ジフェニルアルシン酸の体内動態、代謝、作用する生体物質、毒性発現機構などを詳細に解明するため、ラットやサル等の実験動物や培養細胞を用いて研究を進めました。
 ラットを用いた代謝過程の研究の結果、ジフェニルアルシン酸は生体への吸収率が高く、各臓器への分布濃度は低いものの、脳への分布が比較的高いことが分かりました。また、ジフェニルアルシン酸は最終的にはそのほとんどが未変化体として尿中排泄されることが明らかになりました。
 サルを用いた研究の結果、ジフェニルアルシン酸を投与後、体重、摂餌量及び一般的血液生化学値に影響は見られませんでした。また、2.0mg/kg/day、0.8mg/kg/dayの投与群の一部に、ミオクローヌス様の症状が見られた個体がありましたが、0.3mg/kg/dayの投与群では異常は観察されませんでした。胎生期ばく露個体の生後行動発達に与える影響評価の研究では、ジフェニルアルシン酸が投与された母体から生まれた子供のサルに行動異常等の影響は観察されませんでした。
 培養ヒト肝細胞を用いた実験の結果、細胞内グルタチオンがジフェニルアルシン酸と反応して複合体を作った場合、強い細胞毒性を示すことが分かりました。

3 臨床研究班の研究概要

 臨床研究班では、その健康影響が明らかでないジフェニルアルシン酸ばく露者における脳血流の低下現象を評価するため、単光子放出断層撮影法(SPECT)による脳血流シンチグラフの正常対照群データベース作成を推進し、また、陽電子放出断層撮影法(PET)を用いて脳の糖代謝低下を解析し、さらに、小児ばく露者の健康影響について健康診査の結果等を用いて臨床医学的に解析しました。
 DPAAばく露者を対象としたSPECT検査の結果、ばく露中止後も約1年程度、小脳の血流は低下しますが、1~2年以降から緩徐に改善することがわかりました。また、PETを用いた検査の結果でも同様に、ばく露中止後、しばらく脳の糖代謝低下が見られました。さらに小児においては、SPECT検査の結果、一部の症例で改善傾向も認められますが、小脳、内側側頭葉、後頭葉で血流低下が持続する症例が見られたほか、精神運動発達遅滞が持続する症例も認められました。

4 疫学研究班の研究概要

 疫学班では、ジフェニルアルシン酸ばく露による中長期的な健康影響の有無を明らかにするため、緊急措置事業において医療手帳を交付された方を対象に前向き追跡研究を実施します。具体的には、研究対象者の健康状態について追跡調査を実施し、追跡期間中の死亡者については、がんや生活習慣病など死因を把握し、他の集団と比較して偏りがあるかどうかを確認します。また、医療手帳交付者の傷病や治療の状況とそれに伴う医療費について、レセプト内容から分析することを目的とした研究にも着手しました。現時点では、レセプト件数や医療費には明らかな増加傾向はないこと、ただし、調剤医療費に関しては緩やかな増加傾向にあることが明らかになりました。

5 サポート研究班の研究概要

 ジフェニルアルシン酸に起因すると考えられる健康影響に対しては、健康診査の実施と、医療費等の支給による支援が行われていますが、時間の経過とともに、医療手帳交付児の成長に伴う状況の変化や健康状態に対する不安など新たな問題も生じています。このため、医療手帳交付者が日常生活を営む上での問題点を明らかにし、その改善を図るための支援策を検討するために、サポート研究班が新たに設置されました。
 昨年度は、医療手帳交付者を対象に、[1]緊急措置事業の利用状況とその問題点、[2]手帳交付者世帯が感じている問題点、[3]今後に必要と考えるサポート、についてアンケート調査を実施しました。
 アンケート調査の結果、緊急措置事業による医療手帳や療養手当がほとんどの世帯で有効に利用されていることが分かりましたが、同時に対象となる症状が不明確であることや一部の世帯では利用されていないことも明らかになりました。また、子供のいる世帯については、多くの世帯で「(子供の)体調不良」、「保護者の精神・心理面での問題」、「子供の精神・心理面での問題(元気がない、落ちつかないなど)」の項目が選択されていました。
 多角的なサポートシステムの構築が重要であることから、今後は、関係者によるワーキングチームを設置し、詳細な分析をもとに支援策を具体化していきます。

ジフェニルアルシン酸(DPAA)の毒性試験について

 環境省では、DPAA等の安全性に関する基礎データを集積することを目的として、ラットを用いた動物実験を含む基礎研究を実施してきたところです。この度、毒性試験の結果等について取りまとめましたので報告します。

1 DPAAの体内動態

単回投与による試験の結果、以下のことが明らかになった。

吸収
  • DPAAの経口吸収性は比較的高く、経皮的な吸収も認められた。
分布
  • 吸収されたDPAAは全身諸器官に分布した。特に腎臓に高い割合で分布し、次いで血液、骨格筋、小腸、肝臓および皮膚、中枢・末梢神経へ分布した。中枢神経内での部位特異性は認めなかった。
  • 妊娠ラットを用いてDPAAの胎児への移行性について検討した結果、DPAAの胎児への分布の割合は低く、胎児への移行は胎盤により制限されていると考えられる。
  • 新生児ラット(4日齢)では血液および肝臓に高い割合で分布したが、腎臓からの排泄機能が未熟であることが原因と考えられる。
代謝
  • ヒトおよびラットの肝ミクロソーム・肝細胞を用いた代謝試験では、DPAAはいずれにおいても代謝を受けず、また、いずれの薬物代謝酵素も誘導しなかった。
排泄
  • DPAAの排泄経路は主に尿中排泄と胆汁排泄であった。
  • 経口投与後24時間までに,投与したDPAAの約8割が尿中、糞中に排泄されることから、その排泄は比較的速やかであると考えられる。
  • 経口および静脈内投与後168時間までに、投与したDPAAはほぼ完全に尿中、糞中に排泄されたが、微量のDPAAは中枢・末梢神経および皮膚に比較的長く留まる傾向にあった。
  • 乳汁移行性試験の結果、DPAAは乳汁中に移行しやすい物質ではなかった。

2 DPAAの一般毒性

神経毒性
  • 28日間反復投与毒性試験では5.0 mg/kg/day、91日間反復投与毒性試験では2.0 mg/kg/dayの用量で振戦、痙攣、易刺激性、流涎などが発現したことから、DPAAは中枢・末梢神経系に影響を及ぼしているものと推察される。
血液毒性
  • 28日間反復投与毒性試験では1.2 mg/kg/day以上、91日間反復投与毒性試験では2.0 mg/kg/dayの用量で貧血傾向が認められた。
肝毒性
  • 28日間反復投与毒性試験では5.0 mg/kg/day、91日間反復投与毒性試験では2.0 mg/kg/dayの用量で肝臓の重量が増加し、病理組織学的には胆管増生やグリソン鞘における炎症性細胞浸潤,グリソン鞘内の肉芽腫等の異常が認められた。
  • 血液生化学的検査では、28日間反復投与毒性試験では5.0 mg/kg/day、91日間反復投与毒性試験では2.0 mg/kg/dayの用量で胆道系酵素の高値、血漿総ビリルビンおよび尿素窒素、尿ビリルビンおよびウロビリノーゲンの高値が認められたことから、DPAAは胆道系に影響を及ぼすと考えられた。
無影響量
  • 28日反復経口毒性試験、91日反復経口毒性試験それぞれの無影響量(NOEL)は雌雄とも0.3 mg/kg/day、0.8 mg/kg/dayであった。

3 DPAAの次世代への影響

  • 催奇形性試験の結果、DPAAには奇形を誘発するような作用はなかった。
  • 生殖能試験では、受胎率にDPAA投与による影響は認められなかった。3 mg/kg/dayの用量では,妊娠した雌親動物において黄体数、着床数および生存胚数の低下、早期死亡胚数、着床前後ならびに総胚死亡率の増加が認められた。
  • ラット出生児に対しては、ラットやマウスの情動性・探索行動に関わる検査であるオープンフィールド試験において、潜時の延長、区画移動数、立ち上がり数および身繕い数の減少がみられたが、実験動物におけるオープンフィールド試験の結果の解釈については、現在、確定的なものはなく、各測定指標の意味づけや評価方法については今後の議論が待たれる。
  • 胚の発生および出生児の成長、生後の形態的発育および分化、各種の反射および各種の反応、その他各検査ではDPAA投与の影響は認められなかった。
  • ラット新生児を用いた毒性試験において、 28日間反復投与した結果、雄では0.3および1.0 mg/kg/day、雌では1.0 mg/kg/dayの用量で、5週齢のラットとほぼ同様の毒性変化が認められた。ラット新生児の毒性試験の無影響量(NOEL)は5週齢のラットとほぼ同等(0.1~0.3 mg/kg/day)であり、DPAAは若齢動物に対して特別に強い毒性作用を有するとは考えられなかった。

4 DPAAの遺伝毒性

  • 遺伝毒性スクリーニング試験を実施したところ、復帰突然変異試験では陰性、染色体異常試験で陽性であったが、小核試験では染色体異常誘発性は認められなかった。

5 DPAA関連物質(PMAAおよびMPAA)の毒性

  • PMAA(フェニルメチルアルシン酸)、MPAA(モノフェニルアルソン酸)をそれぞれラットに28日間反復経口投与した結果、無影響量(NOEL)はそれぞれ1.2 mg/kg/day、5 mg/kg/dayであり、 PMAA、MPAAの毒性作用はDPAAより弱いことが分かった。
連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課環境リスク評価室
TEL 03(3581)3351
 室長 北窓 隆子(内線6340)
 室長補佐 長谷川 学(内線6343)

茨城県保健福祉部
 TEL 029(301)1111
 保健予防課長 緒方 剛(内線321)
潮来保健所
 TEL 0299(66)2114
 所長 佐藤 正

神栖市生活環境部環境課
 TEL 0299(90)1111
 課長 大槻 孝雄(内線 140)
 地下水汚染対策室長 野口 正信(内線 146)