報道発表資料

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1998年12月02日

身近な生きもの調査「ひっつきむし調査」結果について

第5回自然環境保全基礎調査の一環で、身近な生きもの調査として、平成8年度にひっつきむし(動物付着散布型の草本の果実)調査を実施したが、この度報告書としてその結果を取りまとめた。
 本調査は、ひっつきむしの分布状況やその生育環境等を把握することをねらいとし、調査参加者にひっつきむしを送付してもらい、専門家による同定・解析を行った。
 調査には一般公募した自然愛好家のボランティア約3万1千人が参加し、約2万5千個のひっつきむしが寄せられた。専門家がすべてのひっつきむしを同定・解析した結果、調査対象種とした18種について、精度の高い全国的な分布図が作成できた。
 今回の調査においては、オナモミ、タウコギなどの在来種が少なくなる一方、コセンダングサ、アメリカセンダングサ、オオオナモミなどの帰化種の方が身近なひっつきむしになっていること等の結果が得られた。
 なお、報告書は調査参加者及び都道府県立中央図書館に配布する予定である。
1. 調査の経緯

 身近な生きもの調査は、広く自然を愛好する国民の参加を得て環境指標となる身近な動植物の分布や生態を調べ、国土や身近な自然環境を診断しようとするもので、平成7年度はセミ、平成8年度はひっつきむし(動物付着散布型の草本の果実)、平成9年度はツバメ類を対象として実施してきた。
 今回の調査では、調査票にひっつきむしを貼りつけて送付してもらい、専門家の同定・解析を経て、ひっつきむしの分布状況やその生育環境を把握し、また調査を通じて国民の身近な自然への関心を高め、その保全の必要性についての理解を深めていくことに役立てることを目的とした。
 調査参加者の募集は平成8年7月から開始し、個人、団体合わせて5,062件の申込みがあり、合計参加人数は31,422人に上った。調査参加者には、環境庁から「調査のてびき」を送付し、9月から12月にかけて調査が行われた。12月末にはひっつきむしが貼られた調査票11,932枚が環境庁に返送され、専門家による同定・解析を行った。

2. 調査結果
(1)

分布状況について(別添資料参照)

 今回のひっつきむし調査では、全国から18種25,034個のひっつきむしが寄せられた。これは1,598区画の2次メッシュ*から情報が寄せられたことになり、平野部を中心に、多くの人々が暮らす地域はよく調べられており、この調査が本来目指している「身近な地域」には十分調査が行き届いたことがわかった。
 この調査で最も数多く、密度も高く見られたひっつきむしはコセンダングサ、最も多くの地域で見られたひっつきむしはアメリカセンダングサであり、いずれも帰化種であった。在来種の中では、ヒナタイノコズチが密度、広がりともに最も多く見られた。
 また、今回の調査で得られた新知見としては、下記のものが挙げられる。

  1. オナモミ(在来種)
     以前は全国で普通に見られると言われてきたが、今回の調査では全国的な減少が確認され、分布が極めて少ないことも推測された。

  2. オオオナモミ(帰化種)
     北アメリカ原産の帰化種で、オナモミの仲間の中では関東から九州で最も普通に見られる種になっていることがわかった。

  3. タウコギ(在来種)
     昔は水田の雑草としてどこでも見られたが、アメリカセンダングサとの競合や除草剤などの影響で生育場所が著しく減少していると推測された。

  4. アメリカセンダングサ(帰化種)
     最近まで北海道では見られなかったが、今回の調査では北海道でも広く分布していることが確認され、分布域が北に拡大していることがわかった。

  5. コセンダングサ(帰化種)
     太平洋側に多く日本海側にはほとんど見られないという興味深い分布をしていることがわかった。また、分布域が今まで知られていたよりも北に広がっていることもわかった。

  6. ヒナタイノコズチ(在来種)
     今回の調査で最も広域に見られた身近なひっつきむしの一つであった。また、分布域が今まで知られていたよりも北に広がっていることがわかった。

    *メッシュ
     「メッシュ」とは緯度・経度を基準として日本全国を格子状に区分した区画で、「2次メッシュ」は約10km四方の区画。全国をこの区画で区分すると4,738区画(北方領土を除く。)。
(2) 身近なひっつきむし

 都道府県単位で報告されたひっつきむしを多い順に並べると、下記のように地域ごとに特色が見られ、「ひっつきむし」と言われてまず思い浮かべる種は地域ごとに異なるようであった。
北海道 ・・・・キンミズヒキ
東北 ・・・・アメリカセンダングサ、キンミズヒキ
日本海側と中国 ・・・・アメリカセンダングサ、ヒナタイノコズチ
関東以南の太平洋側と四国、九州 ・・・・コセンダングサ、ヒナタイノコズチ
沖縄 ・・・・コセンダングサ
(3) 環境とひっつきむし

 記録された「歩いた環境」から、ひっつきむしのよく育つ環境を考察し、ひっつきむしと生育環境の相関を解析した。

・・・・・・・・・・・・ヒメキンミズヒキ
森林に多く、中でもスギ・ヒノキ林に多い ・・・ノブキ、ウマノミツバ、ハエドクソウ
森林にやや多く、草地にもやや多い ・ヒカゲイノコズチ、キンミズヒキ、ミズヒキ
広範囲に生息(様々な環境に生育) ・・・・・・・・・・・・・ヒナタイノコズチ
広範囲に生息し、水辺にやや多い ・・・・オオオナモミ、アメリカセンダングサ
広範囲に生息し、センダングサ類の中で森林に多い ・・・・・・・・・・センダングサ
広範囲に生息し、草地・裸地にやや多い ・・・・・・・イガオナモミ、コセンダングサ
水田の周辺と畦に多い ・・・・・・・・・・・・・・・・・タウコギ
(4)

共存する傾向の高い ひっつきむし

 各種のひっつきむしが生えている環境の記録から、それぞれの環境に対する好みを考察し、どの種とどの種が同じ場所で見られたかという組合せから環境に対する好みの近さを解析した。(ここでは同じ調査票に貼られていたひっつきむしを共存するひっつきむしとみなした。)

  1. 単独で採集されることが多かった種
      イガオナモミ、タウコギ、センダングサ

  2. 他のひっつきむしと一緒に採集されることが多い種
      ヒナタイノコズチ、コセンダングサ、アメリカセンダングサ、オオオナモミ、
     ミズヒキ、キンミズヒキ、ヒカゲイノコズチ

  3. 共存率が最も高かった種
      ヒナタイノコズチとコセンダングサ(共存率*が30%以上)
         
                AとBの両方の種が貼られていた調査票の数
         *共存 =――――――――――――――――――――――――――― ×100   
               AまたはBのどちらかの種が貼られていた調査票の数
3. 調査結果の公表

 今回の調査結果については、本資料と下記の生物多様性センターのインターネットホームページで公開する予定である。また、調査参加者及び都道府県立中央図書館に本年12月中を目途に調査結果報告書(別添資料)を送付する予定である。

ホームページアドレス:http://www.biodic.go.jp

4. 本調査の企画検討

 自然環境保全基礎調査検討会 身近な生きもの分科会

  槐  真史 厚木市郷土資料館 主任
座長 大場 秀章 東京大学総合研究博物館 教授
  大森 雄治 横須賀市自然・人文博物館 学芸員(ひっつきむしの同定・解析)
  浜口 哲一 平塚市博物館 主管兼主任学芸員
  望月 賢二 千葉県立中央博物館 自然誌・歴史研究部長
   
(五十音順・敬称略)

添付資料

連絡先
環境庁自然保護局生物多様性センター
センター長 :浅野 能昭
 専門調査官 :伊藤 勇三
〒403-0005
山梨県富士吉田市上吉田剣丸尾5597-1
    Tel:0555-72-6033

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