報道発表資料

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1998年11月30日

今後の化学物質による環境リスク対策の在り方について(中間答申)-我が国におけるPRTR(環境汚染物質排出移動登録)制度の導入-

平成10年11月30日、中央環境審議会環境保健部会(部会長:井形昭弘・(財)愛知県健康づくり振興事業団副理事長)において、「今後の化学物質による環境リスク対策の在り方について」に係る検討結果がとりまとめられ、これを受けて同日付けで中央環境審議会会長より環境庁長官へ中間答申が行われた。

背景

 製造、使用、廃棄の過程で環境に排出される元素や化合物(「化学物質」)の中には、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがある性状を有しているものも多く、それらによる環境の汚染に関する国民の不安が増大している。
 人の健康や生態系への影響に関する十分な科学的知見の整備には極めて長い時間と膨大な費用を要するため、従来の対策手法には限界があり、世界的にも、環境汚染物質排出移動登録(Pollutant Release and Transfer Register: PRTR)の導入、簡易なリスク評価の推進、産業界の自主的な環境保全対策の促進等様々な新しい取組が行われている。
 このような状況を背景として、平成10年7月15日に環境庁長官から中央環境審議会(会長:近藤次郎・(財)国際科学技術財団理事長)に「今後の化学物質による環境リスク対策の在り方について」諮問がなされた。
 中間答申は、その審議を付議された環境保健部会が、5回にわたる審議、学識経験者・産業界・NGO・地方公共団体の参考人からの意見聴取、国民意見の募集などを経て、我が国において早急に導入すべきPRTRについて、その制度の導入に当たっての基本的な考え方を中心として取りまとめた検討結果を受けたもの。
 中間答申では、化学物質による環境への負荷の低減対策の一環としてPRTRを導入することが急務であるとしており、環境庁においては、PRTRの制度化に関する基本的な論点について取りまとめられるこの中間答申に示された考え方に基づき、早急に我が国にふさわしいPRTRの法制化を図ることとしている。

※PRTRは、行政庁が事業者の報告や推計に基づき化学物質の排出量及び廃棄物に含まれる移動量を把握し、集計し、公表する仕組み。

中間答申の概要

1.化学物質に関する環境保全対策の現状と課題

  • 主に人の健康の保護の観点から、規制等の化学物質対策が実施されてきたが、環境媒体を全体としてとらえ、化学物質による環境負荷の総体を低減し、有害性を有する膨大な化学物質に対応するため、化学物質や発生源に応じた多様な対策手法が必要な状況。
     化学物質への過度の不安を招かぬよう留意しつつ生態系の保全にも一層配慮すべき。
  • 化学物質の環境上適正な管理は「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)でも最重要課題の一つと認識。環境リスクの評価及び管理や、その関連情報の整備・活用等を推進することが世界の潮流で、PRTRの導入等が進められ、事業者による自主的な環境保全対策も促進。
  • これらを踏まえた今後の化学物質対策の基本的考え方・方針は以下のとおり。
    1. 人の健康及び生態系への影響を未然に防止するため、有害性を有する化学物質による環境への負荷を可能な限り低減すべき。
    2. 化学物質による環境への負荷の低減は、多様な方法を用いてできる限り効果的かつ効率的に推進することが必要。
    3. 事業者、国民、行政が各々の役割を果たすことにより化学物質による環境への負荷の低減を進めうるような仕組みを検討することが必要。

2.PRTRを機軸とする化学物質対策の展開

  • PRTRは、化学物質による環境への負荷の程度を把握し、情報を各主体が利用できるようにするもので、環境政策上の手法として有効。既導入国では環境行政機関により実施。
  • PRTRは次のような多面的な意義を有すべきもの。
    1. 環境保全上の基礎データとしての重要な位置づけを有すること。
    2. 行政による化学物質対策の優先度の決定にあたり重要な判断材料となること。
    3. 事業者の化学物質の排出量の削減のための自主的取組の促進に寄与すること。
    4. 国民への情報提供を通じて、化学物質による環境リスクへの理解を深め、化学物質対策への協力及び環境への負荷低減努力を促進するものとなること。
    5. 化学物質に係る環境保全対策の効果・進捗状況を把握する手段となること。
  • 排出量情報とその理解に役立つ情報を併せて公表し、疑問や相談への対応を的確に行うリスクコミュニケーションが必要であり、そのための情報提供体制の整備、意思疎通手法の開発、意思疎通の場の設定、人材育成等を支える行政的な努力も重要。

    ※リスクコミュニケーションとは、化学物質による環境リスクに関する正確な情報を行政、事業者、国民、NGO等のすべての者が共有しつつ、相互に意思疎通を図ること。

3 PRTRの導入の在り方

3ー1 導入に当たっての基本的な考え方

  • 環境庁のパイロット事業・「PRTR技術検討会」・OECD「PRTR東京国際会議」の成果、(社)経済団体連合会等によるPRTR関係事業をはじめとする産業界の取組及び諸外国の制度を参考とし、我が国にふさわしい制度を導入すべき。
  • 次のような社会的意義が大きい枠組みを基本とすべき。
    1. 有害性を有する数多くの化学物質について様々な環境媒体への排出量等が、環境保全施策の基礎的な情報として把握できるようにする。
    2. 個別の事業場からの排出量等の報告・それ以外の排出源についての排出量等の推計により、対象化学物質の全排出源からの排出量等を把握できるようにする。
    3. 排出量データの集計及び公表並びにリスクコミュニケーションにより、化学物質による環境リスクに関する情報の提供及び理解の促進、事業者及び国民による環境負荷低減努力の促進を図ることができるようにする。
    4. 化学物質の環境における存在状況の調査(環境モニタリング)の効果的かつ効率的な実施等により、事業者及び国民による環境への負荷を低減するための努力を適正に支援し、補完することができるようにする。

3ー2 PRTRの実施に関する考え方

  • 報告対象事業場からの排出・移動量の報告を義務化することが適当。
     環境への排出量等のデ-タは環境政策の基本であり、環境行政機関が主体的役割を果たすべき。
  • 対象物質は、人の健康への影響のみならず生態系への影響も考慮して幅広く選定。
     対象事業場は、化学物質を製造・使用する事業場等をできるだけ幅広くとらえ、化学物質の取扱いの可能性と排出情報の把握等の能力を考慮し選定。
     報告内容は、対象化学物質ごとに事業場から大気、水及び土壌に排出される排出量、事業場外に搬出される廃棄物に含まれる移動量並びに関連情報とすべき。
  • 報告対象事業者の支援のため、化学製品中の成分情報の提供体制、排出量算定マニュアルを整備・充実し、事業者はマニュアルによる推計等による排出量等を報告すればよいこととし、排出量の実測を必須としない。
     電子媒体による報告を可能とする。また、報告の信頼性の確保を図るべき。
  • 報告対象外の事業場の排出量並びに自動車走行等の移動発生源、家庭及び土地利用からの排出量は、行政が精度を確保して推計し、報告排出量と合算して集計。
  • 全国や地域での化学物質対策にPRTRデ-タを広く活用できるように、国が報告に関する統一的なルールを示すとともに国と地方公共団体が連携して制度の普及定着を図り、デ-タの精度や報告者間の公平性・統一性を確保。
     また地方公共団体がPRTRを有効に活用しやすくすること。
  • 排出量等の情報が社会の様々な構成員に正しく理解され活用されるようにするため、化学物質ごとに、環境媒体別、発生源の種類別、地域別等に集計しわかりやすく公表。
    集計及び集計情報の公表に電子情報システムを活用し、より迅速性と利便性を向上。
     個別事業場データの開示請求があれば可能な限りそれに応じ、その正しい理解のためリスクコミュニケーションの推進に努めるべき。関係する他法との整合を図りつつルールを定めて企業秘密情報を保護する一方、化学物質の排出量全体を把握すべき。
  • PRTRデータの公表に当たり、国や地方公共団体が、有害性に関する情報提供や、環境リスクに関する説明等を併せて行うよう努めるべき。
     事業者が自主的にPRTRデータの公表と説明を行うことは望ましい。行政やそれと同様に中立性が確保された者がリスクコミュニケーションに関与してそれを支援。
     国・地方公共団体は事業者・国民の相談や問い合わせに対応できるよう配慮。
  • PRTRは化学物質による環境への負荷の低減に努める契機となり得るもので、それにふさわしい公表や活用方法を考えるべき。
     化学物質による環境への負荷が増大しないようにするためには、事業者の自主的努力、国民の理解と協力、公的な視点からの環境モニタリングの充実・排出量抑制技術の開発・より安全な物質への代替を促進する調査研究・公共事業の効果的な促進・知識や技術の普及啓発等が総合的に効果。また、PRTRの結果の公表が国民にむやみに不安を生じさせることがないよう積極的に意識啓発等に努めるべき。

4 今後取り組むべき事項

  • 環境モニタリングデータ、化学物質の排出量データ、化学物質の有害性等に関するデータ等は重要な基本情報であり、整備・充実が必要。また環境リスク評価をより迅速に行える手法・システムの開発に努め、環境リスク管理への活用を図るべき。
  • 環境庁のパイロット事業の実施による知識や経験、OECDの「PRTR東京国際会議」によって培われた国際的な関係を活かし、国際的な協力の実施可能性について検討を行うべき。国際的なPRTRの普及と協調のための取組等の国際機関による取組にも貢献すべき。
  • 国際的な分担下で簡易な手法によるリスク評価を行うプロジェクトにより積極的に参加。化学物質に関する国際条約関係の動向、有害性による化学物質の分類とラベル表示の調和、OECDにおけるリスク管理に関する検討等にも留意しながら、国際的な協調の下で、化学物質に関するリスク管理の推進に貢献すべき。

(参考1)中央環境審議会環境保健部会委員名簿

部 会 長
井形 昭弘 (財)愛知県健康づくり振興事業団副理事長
部会長代理
安原  正 さくら総合研究所顧問
委   員
浅野 直人 福岡大学法学部教授
江頭 基子 全国小中学校環境教育研究会会長
角田 禮子 主婦連合会参与
北野  大 淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
小早川光郎 東京大学大学院法学政治学研究科教授
近藤 雅臣 大阪大学名誉教授
櫻井 治彦 労働省産業医学総合研究所所長
佐和 隆光 京都大学経済研究所所長
清水  誠 東京大学名誉教授
鈴木 継美 東京大学名誉教授
竹宇治聰子 日本マスターズ水泳協会理事
竹内 輝博 (社)日本医師会常任理事
辻  義文 (社)日本自動車工業会会長
野中 邦子 茨城県人権擁護委員連合会会長
宮本  一 関西電力(株)取締役副社長
森嶌 昭夫 上智大学法学部教授
横山 長之 (財)日本気象協会調査事業本部参与
特別委員
宇野 則義 (財)日本自動車輸送技術協会会長
長田 泰公 国立公衆衛生院顧問
香川  順 東京女子医科大学教授
木原  誠 (社)日本鉄鋼連盟環境政策委員会委員長
七野  護 (財)日本産業廃棄物処理振興センター理事
西山 紀彦 (社)日本化学工業協会総合対策委員会技術環境部会長
林  裕造 北里大学薬学部客員教授
前田 和甫 東京家政大学家政学部教授

(参考2)国民意見の概要

 「今後の化学物質による環境リスク対策に在り方」に係る国民意見の募集が10月16日から1か月間行われ、その結果、124通の意見が提出され、環境保健部会の審議において参考とされた。提出された意見の概要は環境庁のインターネットホームページ(http://www.eic.or.jp/eanet/)で公表する。

添付資料

連絡先
環境庁企画調整局環境保健部保健企画課
環境庁企画調整局環境保健部環境安全課

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