報道発表資料

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2005年11月10日
  • 保健対策

「平成16年度POPsモニタリング調査結果」について

 環境省は、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)に定められたPCB類、HCB、DDT類等の化学物質に関する環境中の存在状況の監視及び条約の有効性評価に資する基礎データを得るため、平成14年度からPOPsモニタリング調査を実施してきた。
 このたび取りまとめた平成16年度の調査結果の主な内容は次のとおり。

[1]

我が国周辺のPOPs濃度レベルは総じて横ばいあるいは暫減傾向とみなすことができる。

[2]

しかしながら、幾つかの地点では、一過性ではあるものの相対的に高濃度を示す事例も観察されている。

[3]

平成16年度調査においても、国内での使用記録のないトキサフェン類、マイレックスが大気中や沖合魚から検出されたことから、東アジア地域、さらには地球レベルの長距離移動も視野に入れた継続的な監視が引き続き行われることが求められる。

1.背景

 残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants、以下「POPs」という。)による地球規模の汚染を防止するために、平成13年5月22日に、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(以下、「POPs条約」という。)が採択され、我が国は平成14年8月30日に同条約を締結し、平成16年5月17日に同条約が発効された。平成17年11月1日現在で112ヶ国が締結している。
 この条約では、POPsについて、ヒト及び環境中における存在状況などを明らかにするために国内及び国際的な環境モニタリングを実施すること(第11条)及びモニタリングデータを活用した条約の対策面での有効性の評価を行うこと(第16条)が規定されている。
 そこで環境省では、POPsの環境中の存在状況の監視及び条約の有効性評価に資する基礎データを得るため、平成14年度よりPOPs汚染実態解析調査(以下、「POPsモニタリング調査」という。)を実施している。

2.平成16年度の調査概要

(1)対象物質
 POPs条約は、PCB、DDT、ダイオキシン類(ダイオキシン及びジベンゾフラン)等の12物質を対象にしているが、本調査では、別途、ダイオキシン類対策特別措置法に基づき常時監視しているダイオキシン類を除いた、PCB類、HCB、DDT類、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン類、ヘプタクロル類、マイレックス及びトキサフェン類の10物質を対象とした。
(2)対象媒体
 一般環境中(排出源と予想される地点以外の都市、郊外、島嶼、山地、河川等)の水質(全国主要河川、主要湖水、港湾等を中心に42地点)、底質(全国主要河川、主要湖水、港湾等を中心に63地点)、大気(100km四方に区分して全国をカバーする37地点)、生物(ウサギアイナメ、アイナメ、サンマ、スズキ、ミナミクロダイ、ウグイ、ムラサキイガイ、イガイ、ムラサキインコガイ、ムクドリ、ウミネコのいずれかを対象として合計23地点)において実施した。また、昨年度よりヒト生体試料(母乳、臍帯血)についても分析に着手した。
(3)分析手法
 各媒体の試料から、対象物質を抽出、精製後、GC/高分解能MS(高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計)により分析を実施した。
  なお、異性体がある物質は可能な限り異性体別に分析を実施した。この分析手法により、従来と比較して1000倍程度高感度の分析が可能となった。なお、トキサフェン類については、負イオン化法によるGC/MSで別途分析を行った。
(4)その他
 調査の実施にあたり、専門家によるPOPsモニタリング検討実務者会議(事務局:国立環境研究所)を設置して、調査手法及び結果等の検討を行った。

3.平成16年度の調査結果及び評価の概要

媒体別の各物質の検出数、検出範囲の結果の評価概要は以下のとおり。

(1)
 GC/高分解能 MSを主体とする新しい分析手法の適用により、平成14年度、15年度と同様、全地点の8割を超える地点及び試料においてPOPsが定量検出された。POPs条約に対する取組の一環として、日本及びその周辺における現在の環境濃度レベルを把握することができ、条約の有効性評価に資する基礎データが引き続き得られたと考えられる。
(2)
 水質、底質濃度の地域分布を見ると、港湾あるいは大都市圏沿岸の準閉鎖系海域など、人間活動の影響を受けやすい地域で相対的に高い傾向を示すものが比較的多く見られた。
 また、複数の成分からなる物質については、クロルデン類を除き、場所により組成に変化が見られた。このうちHCH類については環境残留性の高いβ-HCHの相対的割合の多い地点が多かった。

 しかしながら、調査を実施した水質試料中でHCH類の検出値が最高値を示した地点と2番目に高い値を示した地点のHCH類の組成はそれぞれγ-HCH、α-HCHが大半を占める特徴的な分析結果を示した。これらの分析結果は同じ地点の底質試料中のHCH類の分析結果とは異なり、また前年度までの水質試料におけるHCH類の分析結果とも異なることから、一過性の事象を捉えた可能性が高いと考えられる。
(3)
 大気中のPOPs濃度については、前年度と同様に温暖期(8月末~10月)と寒冷期(11月~12月)の2回測定が行われ、いずれの化合物についても、気温の高い温暖期の方が寒冷期よりも全国的に濃度が高くなる傾向が認められた。
 また、国内で農薬登録実績のないマイレックス及びトキサフェン類の2物質については、前年度同様、いずれも大気中にごく微量検出された。
(4)
 生物試料については、PCB類、DDT類等が人口密集地帯近傍の沿岸域の魚で高めの傾向を示したのに対し、トキサフェン類はその特徴として沖合の回遊魚の方が高めになる傾向を示した。
 また、野生生物ではどの化合物についてもスナメリが最も高く、カワウまたはトビがそれに次ぐ濃度を示した。
(5)
 以上の結果を、これまでに得られたデータと比較すると、我が国周辺のPOPs濃度レベルは総じて横ばいあるいは暫減傾向とみなすことができる。
 しかしながら、幾つかの地点では、一過性ではあるものの相対的に高濃度を示す事例も観察されている。

 また、平成16年度調査においても、国内での使用記録のないトキサフェン類、マイレックスが大気中で検出され、沖合魚からも検出されたことなどから、東アジア地域、さらには地球レベルの長距離移動も視野に入れた継続的な監視が引き続き行われることが求められる。

4.過去3年間の総括及び保存試料を用いた分析結果について

 過去3年間の分析結果をまとめ、解析を行ったところ、大気については明瞭な経年変化は抽出できなかったが、主成分分析によって各化合物をそれぞれ主とする軸に分離され、各地点毎に特徴を持つ様子が確認できた。これに対し、水質と底質はさらに主成分分析により、地域毎にまとまって分離される傾向が認められるようになった。
 一方、過去10年余にわたって保存試料として保存されてきた試料を、新しい高感度分析手法で再度分析を行った。その結果、平成14年度から導入した高感度分析手法により、東京湾、大阪湾のスズキで確認されている一部化合物の組成比の特徴が、10年前からすでに存在していたことが初めて確認された。

5.その他

 本調査結果は、化学物質環境実態調査結果と併せて平成16年度のモニタリング調査結果として取りまとめ、中央環境審議会化学物質評価専門委員会(平成17年度末に開催予定)において審議する予定である。

添付資料

連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課課長: 上家 和子
専門官: 吉田 佳督(6361)
 調査係長: 川村 太郎(6355)

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