報道発表資料

この記事を印刷
2005年06月07日
  • 自然環境

ツキノワグマの大量出没に関する調査報告について

環境省では、昨年秋の北陸地方を中心に発生したツキノワグマの大量出没について、その要因を探るとともに、今後の対策の方向について検討するため、昨年10月に標記調査に着手しました。このたび
[1]北陸地方の大量出没にはブナの不作の影響があったと考えられたこと
[2]里地里山がクマの好適な生息地になりつつある可能性があること
[3]集落周辺に放置されたカキなどの果実や生ゴミなどが誘因になった可能性があること
等を内容とする調査結果が報告書としてまとまりましたので、その概要をお知ら せいたします。

1. 調査の目的
   昨年秋の北陸地方(富山県、石川県、福井県)をはじめとするツキノワグマ(以下、「クマ」という)の大量出没を記録するとともにその要因を分析し、クマの今後の保護管理対策の方向を検討する。


2. 調査結果の概要
  (1) 出没状況
     平成16年秋は北陸地方を中心とする日本海側で里地里山や集落、さらには市街地にまで出没するクマが多く見られた。
 北陸地方においては、クマの出没位置が通常の分布前線よりも3km程度外側に拡大しており(右図参照)、一部の個体は8km程度離れた平地部にまで出没した。
 
図(クリックすると拡大図を表示。)
図.第6回自然環境保全基礎調査・種の多様性調査哺乳類分布調査による通常年のツキノワグマ分布域と2004年の出没地
   (2) 大量出没の背景
  [1] クマの出没が多発した地域は、全国的にブナやミズナラの凶作の割合が高い地域とほぼ一致していた。
  [2] 北陸地方で行った堅果類の結実状況調査では、標高600m以上で優占するブナは不作であり、600m以下で優占するコナラは豊作に近い状況であった。
  [3] クマの秋季の主要な餌はブナなどの堅果類であることから、高標高地におけるブナの凶作が、クマの低標高地への移動を促したものと考えられた。
  [4] 一方、北陸地方の里地里山においては、利用や手入れの放棄により広葉樹二次林の成長が進んでおり、餌となる堅果類の生産量が増加するとともに林内の下層植生が発達することにより、クマの好適生息地になりつつあると考えられ、これらの地域に生息するクマが今回の大量出没に関与した可能性も考えられた。
  [5] その他、集落周辺のカキなどの果実や生ゴミがクマを誘引している可能性や、河畔林や河岸段丘林などが森林から人里へのクマの移動ルートとなったことも考えられた。
 

3. 今後の対策の方向
   報告書においては、大量出没対策として、以下の取組を提言している。
  (1) 保護管理の総合的な取組
     保護管理計画の作成、クマの生息状況や生息環境のモニタリングの実施、大量出没予報に係るシステムの構築により、総合的な保護管理への取組を進めることが重要である。
  (2) 誘因環境の改善による出没の抑制
     里地里山の整備、集落等への出没ルートの遮断、草地の刈り払い、集落等における生ゴミや放棄果樹の適正な処理等によりクマの出没を抑制することが必要である。
  (3) 出没時対策
     住民へ正確な情報を伝える広報体制の整備及び普及啓発の実施、出没時の対応体制整備及び危険予防・捕獲管理のための人材育成が重要である。
  (4) 広域保護管理体制の整備
     県をまたがる広域保護管理体制の整備を検討することが必要である。


4. 検討会委員
   本調査報告を取りまとめるために、以下の4名の有識者に調査結果の解析及び今後の対応の方向に係る検討を依頼した。
  ○検討委員(五十音順)
  青井 俊樹 (岩手大学農学部)
  大井 徹   (独立行政法人 森林総合研究所関西支所)
  高柳 敦   (京都大学農学部)
  箕口 秀夫 (新潟大学農学部)


自然環境・自然公園 報告書
 ツキノワグマの大量出没に関する調査報告書

添付資料

連絡先
環境省自然環境局野生生物課
課長   :名執 芳博  (6460)
 鳥獣保護業務室
 室長   :瀬戸 宣久  (6470)
 室長補佐:大賀 雅司  (6472)
 担当   :横山 昌太郎(6473)