報道発表資料

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1998年10月23日

平成9年度ダイオキシン類の総合パイロット調査結果について

環境庁では平成9年度、ダイオキシン類の総合パイロット調査を実施したが、今般ダイオキシン類総合モニタリング調査専門家会議(座長:池田正之京都大学名誉教授)での評価を踏まえ、その結果を取りまとめた。総合パイロット調査は、ダイオキシン類の全国総合モニタリング調査における試料採取、分析、精度管理、解析等の技術的な事項に関する検討のため、試行的に実施したものである。
 埼玉県内5地域において、大気、降下物、底質、水質、土壌、植物及び動物のダイオキシン類の濃度を測定した結果、大気では2季節の算術平均値で0.25~1.5pg-TEQ/m3(最小0.24pg-TEQ/m3、最大2.6pg-TEQ/m3)、降下物では0.26~3.1mg-TEQ/km2/月、底質では1.1~150pg-TEQ/g-乾重量、河川水では0.62~19pg-TEQ/L、地下水では0.0051~0.31pg-TEQ/L、土壌では0.70~140pg-TEQ/g、植物では2.3~24pg-TEQ/g-湿重量、動物では0.52~5.3pg-TEQ/g-湿重量であった。
 今後、本調査で得られた知見を、現在実施中の全国総合モニタリング調査に反映させることとしている。

1 調査内容

(1)

趣旨

環境庁では,平成10年度から「ダイオキシン対策に関する5ヶ年計画」に基づき、全国的なダイオキシン汚染の実態を把握するため、ダイオキシン類の全国総合モニタリング調査を実施することとしている。
 そこで、当該調査の実施に当たり、試料採取、分析、精度管理、解析等の技術的な事項を検討するため、試行的にパイロット調査を行った。調査結果については、ダイオキシン類総合モニタリング調査専門家会議(座長:池田正之京都大学名誉教授)における評価を踏まえてとりまとめた。

(2)

調査地域及び地点

 埼玉県内5地域(川口・草加市、戸田市、川越・所沢・狭山市、熊谷市、秩父市)で調査を行った。測定地点の詳細については表1に示す。

(3)

調査媒体

 大気、降下物(乾性、湿性)、底質、水質(河川水、地下水)、土壌、植物(松の針葉)、動物(ドバト)

(4)

調査時期及び回数

 大気及び降下物については、原則として、冬期及び春期の2回測定を行い、その他の媒体については、春期の1回測定を行った。

(5)

調査方法

 環境庁が作成したマニュアル等にしたがって実施した。

(6)

調査対象物質

 表2に示すダイオキシン類を測定し、参考としてコプラナーPCBについても測定を行った。なお、文章中のTEQ換算値はダイオキシン類についてのみTEQ換算を行ったものである。
  また、コプラナーPCBの相対的な寄与について検討を行うため、ダイオキシン類のTEQ換算値とコプラナーPCBのTEQ換算値との比較を行った。

2 調査結果

 調査結果を表3に示す。
 以下、ダイオキシン類濃度は、2,3,7,8TCDD等量濃度(TEQ)に換算した結果で示す。 (注)1pgとは、1兆分の1g

(1)

大気

【調査結果の概要】

  ダイオキシン類の濃度は、2季節の算術平均値で0.25~1.5pg-TEQ/m3であ った。(最小0.24pg-TEQ/m3、最大2.6pg-TEQ/m3であった。)これらの値は、環境庁の平成2、4、6、8及び9年度の有害大気汚染物質モニタリング調 査結果(年平均値で工業地域近傍の住宅地域:0.10~1.67pg-TEQ/m3、大都市地域:0.01~2.73 pg-TEQ/m3、中都市地域:0.01~1.56pg-TEQ/m3、バックグ ラウンド地域:0.00~0.46pg-TEQ/m3)(n=352)の範囲内の値であった。

【調査結果の評価】

 異性体の組成パターンからは、主に焼却起源による汚染が推測される。
 季節による濃度の変動については、川口・草加市、戸田市及び川越・所沢 ・狭山市については、春期と比較して冬期に高い傾向を示したが、熊谷市及び秩父市については、同レベルであった。しかしながら、組成パターンがい ずれの地域においても同様であり、季節間での変動がなかったことから、季節によるダイオキシン濃度の差は主に気象条件によるものと推定される。
 なお、ダイオキシン類と比較して、コプラナーPCBはTEQ値で4~8 %程度であった。

(2)

降下物

【調査結果の概要】

 乾性降下物が0.015~1.4mg-TEQ/km2/月、湿性降下物が0.069~ 2.1mg-TEQ /km2/月、総降下物で0.26~3.1mg-TEQ/km2/月であった。

【調査結果の評価】

 試料採取に当たっては、乾性降下物と湿性降下物とを分離して採取する方法を採用したが、この方法は現時点で技術的に改善の余地が大きく、結果の評価に当たっては、この点に配慮する必要がある。
 総降下物については、環境庁の平成9年度の有害大気汚染物質モニタリン グ調査結果(春期で工業地域近傍の住宅地域:0.67~2.4mg-TEQ/km2/月、大都市地域:0.68~2.4 mg-TEQ/km2/月、中小都市地域:0.51~0.94 mg-TEQ/km2/月、バックグラウンド地域:0.020~0.48mg-TEQ/km2/月)(n=10)とほぼ同程度の値が得られている。地域間の違いについては、冬期では1.7~3.1mg-TEQ/km2/月の範囲にあり、また春期では0.26~1.3mg-TEQ/km2/月の範囲にあることから、顕著な差はなかった。また、異性体の組成パターンから、主に焼却起源による汚染が推測されるが、地域間で特徴的な差はなかった。
 乾性降下物量と湿性降下物量の違いについては、乾性降下物量が多い地点も あれば、湿性降下物量の多い地点もあり、明瞭な傾向は見いだされなかった。

(3)

底質

【調査結果の概要】

 最小1.1pg-TEQ/g-乾重量、最大150pg-TEQ/g-乾重量であり、環境庁の平成8年度の化学物質環境汚染実態調査(0.012~23pg-TEQ/g-乾重量)(n=13)と比較して、1地点を除きこの範囲内であった。

【調査結果の評価】

 異性体の組成パターンからは、いずれの地域でも焼却や化学製品中の副生成 物の起源による汚染が推定される。 ダイオキシン類と比較して、コプラナーPCBはTEQ値で0.5~17%程度であった。
  なお参考までに、綾瀬川(川口・草加市)については、本調査地点から約8km 下流の都県境における平成9年度の東京都の調査においてもほぼ同様の値(180pg-TEQ/g-乾重量)が得られている。

(4)

河川水

【調査結果の概要】

 最小0.46pg-TEQ/L、最大19pg-TEQ/Lであり、環境庁の平成9年度公共用水 域の水質におけるダイオキシン類調査結果(海域・河川)(0.005~3.9pg-TEQ/L)(n=12)と比較して、全体的に高い値を示した。特に川口・草加市 (綾瀬川)及び戸田市(笹目川)においてはそれぞれ、19及び6.0 pg-TEQ/L と過去の調査結果と比較して高いレベルであったため,ダイオキシン類総合 モニタリング調査専門家会議での指摘を踏まえて再調査を行ったが、それぞれ12及び7.8 pg-TEQ/Lであった。

【調査結果の評価】

 川口・草加市(綾瀬川)及び戸田市(笹目川)における高濃度の原因とし ては、懸濁物質(SS)が、1回目川口・草加市:11mg/L、戸田市:6.3mg/L、2回目川口・草加市:51mg/L、戸田市87mg/Lと、2回目の方が高いにもか かわらず、ダイオキシン濃度は1回目、2回目ともほぼ同レベルであることから、その原因について今後検討が必要である。
 また、異性体の組成パターンからは、いずれの地域でも焼却や化学製品中 の副生成物の起源による汚染が推測される。なお、ダイオキシン類と比較して、コプラナーPCBはTEQ値で0.4~6%程度であった

(5)

地下水

【調査結果の概要】

 最小0.0051pg-TEQ/L、最大0.31pg-TEQ/Lであった。

【調査結果の評価】

 これまで、地下水の測定結果がほとんどないが、河川水と比較すると低い 値であった。 また、ダイオキシン類と比較して、コプラナーPCBはTEQ値で、1.4%から31%までとなっており、地点ごとのばらつきが大きい。

(6)

土壌

【調査結果の概要】

 最小0.70pg-TEQ/g、最大140pg-TEQ/gであった。

【調査結果の評価】

 異性体の組成パターンから、一部、化学製品中の副生成物の起源もあると 推定されるが、いずれの地域も燃焼由来の寄与が大きいと推測される。 また、ダイオキシン類と比較して、コプラナーPCBはTEQ値で、10% 程度であった。

(7)

植物(松の針葉)

【調査結果の概要】

 松の針葉は過去数年間の大気の状況を反映する指標として調査を行った。 クロマツの2年葉以上の古葉を採取して測定した。
 最小2.3pg-TEQ/g-湿重量、最大24pg-TEQ/g-湿重量であった。

【調査結果の評価】

 ダイオキシン類と比較して、コプラナーPCBはTEQ値で、20%~51 %であり、大気におけるコプラナーPCBの割合と比較して高い値であった。

(8)

動物(ドバト)

【調査結果の概要】

 ドバトは、松の針葉と同様に過去数年間の大気汚染の状況を反映する指 標として調査を行った。
 最小0.52pg-TEQ/g-湿重量、最大5.3pg-TEQ/g -湿重量であった。

【調査結果の評価】

 異性体の組成パターンは、環境大気とは異なっていた。
 ダイオキシン類と比較して、コプラナーPCBはTEQ値で、0.9%~ 4%であった。

3 精度管理の実施

 ダイオキシン類の測定は高度の技術を要するものであり、ダイオキシン類 の調査において、データの精度を管理することが重要な課題である。そこで 、本調査では、調査実施機関において、予め試料採取、前処理、分析の各段階においてデータの精度管理を行うための計画書を作成し、それに基づく測 定を実施した。 また、必要に応じて専門家が調査実施機関において、分析手順、チャート等のチェックを行った。

4 全体のまとめ

本調査は、全国総合モニタリング調査のパイロット調査であり、このため 、同一地域における複数の媒体のダイオキシン類濃度を測定し、このような 測定結果の解析方法や精度管理の方法について検討するなど、全国総合モニタリング調査実施のための手法について技術的な検討を行った。
 調査結果からは、川口・草加市、戸田市、川越・所沢・狭山市、熊谷市の4 地域では、秩父市より全体的に高い濃度を示す等の傾向が見られるが、各媒体 間を行うことはできなかった。今後、より大きな規模で実施する全国総合モニタリング調査で引き続き検討する必要がある。
 また、解析方法については、異性体の組成パターンの分析により発生源の推 定に資する結果が得られたものもあったが、測定結果の分布の要因分析や、媒 体間の関係のように、データ数が小さいために十分な解析が行えなかったものもあり、全国総合モニタリング調査でさらに検討を進めていく必要がある。
 精度管理については、調査実施に当たって精度管理の計画書を作成するとと もに、測定値の専門家による現地調査により分析手順やチャートの確認を実施 するなど、ダイオキシン類の総合的な調査において測定精度を管理していくための知見が得られた。これらに加えて、今後はさらに外部精度管理についても 検討を進め、精度管理の一層の充実を図る必要がある。
 環境庁としては、以上のような本調査で得られた調査手法、調査結果の解析 等に関する知見について、現在行われている全国総合モニタリング調査に反映 させ、適切な実態調査の推進に努めることとしている。

添付資料

連絡先
環境庁企画調整局環境保健部環境安全課環境リスク評価室
室 長 :上田 博三(内線6340)
 補 佐 :牧谷 邦昭(内線6341)

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