報道発表資料

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2005年04月08日
  • 自然環境

第6回自然環境保全基礎調査鳥類繁殖分布調査について

環境省生物多様性センターでは、通称「緑の国勢調査」と言われている「自然環境保全基礎調査」(以下「基礎調査」、本文末尾の注1参照)の一環として、(財)日本野鳥の会と連携し、国内で繁殖する鳥類について、繁殖分布調査を実施しました。
 本調査「第6回基礎調査(2002年)」では、同様の調査手法で実施された「第2回基礎調査(1978年)」との調査結果の比較を行い、約20年前との全国的な鳥類の繁殖分布の変化を把握しました。(生息数については調査項目としていません。本文末尾の注2参照)
 その結果、調査データが得られた国内で繁殖する鳥類(248種)のうち79%にあたる196種については、繁殖分布の大きな変化は見られませんでした。
 一方、比較的大きな繁殖分布の拡大・縮小が見られたのは、拡大25種、縮小27種であり、特に大幅な拡大が見られる種は、カワウ(5→62区画)、アオサギ(69→406区画)であり、特に大幅な縮小が見られる種は、ウズラ(46→5区画)、アカモズ(99→21区画)、チゴモズ(48→10区画)等でした。
 この他、外来生物では、ソウシチョウ(0→57区画)、ガビチョウ(0→21区画)の拡大や、ベニスズメ(42→1区画)の縮小が確認されました。
1.調査概要(*調査は、第2回基礎調査と同様の調査手法及び調査期間で実施)

目的 「国内に生息する鳥類(577種)」を対象に生息状況調査を実施し、このうち「国内で繁殖する鳥類」について、第2回基礎調査(1978年)結果との比較により、約20年前との繁殖分布の変化を把握する。
調査期間 平成9~14年度(1997~2002年度、第6回基礎調査)
調査手法 4~8月の繁殖時期において、第2回基礎調査とほぼ同じコース(全国2317コース)で調査 を実施した。約3kmのコースを歩きながら観測するロードサイド調査と定点調査及び補完情報として、アンケート調査を実施した。
情報数等 情報総数約22万件。内訳は、現地調査約14万件、アンケート調査約8万件。


2.調査結果

(1)集計データによる「繁殖分布図」の作成
  今回の調査で調査対象とした577種のうち、第2回基礎調査で繁殖ランク(A~C)に該当し繁殖分布図を作成した種、及び第6回基礎調査で新たに繁殖ランク(A~C)に該当した(希少種の一部を除く)合計248種について、繁殖分布図を作成し比較対象とした。
  繁殖分布図の図示表示については、収集した繁殖データを、1区画(約20km×20km、全国約1200区画)ごとに集計し、各区画における繁殖ランクを「繁殖が確認できた(Aランク)」、「繁殖は確認できなかったが、繁殖の可能性がある(Bランク)」、「生息を確認したが、繁殖可能性については情報不足(Cランク)」の3ランクに分け、繁殖分布図上の●印の大きさで表した。(本文末尾の注3、及び別紙「主な鳥類の繁殖分布図」参照)

(2)第2回基礎調査(1978年)との集計データ比較結果
  繁殖分布図を作成した248種について、第2回基礎調査との集計データの比較を行うために「全国繁殖区画数(A~Cランク区画数の合計)」(注4)及び「A~Cの各繁殖ランク別区画数」の変化率(第2回基礎調査区画数を100として、第6回区画率を表した)を指標として、比較的大きな拡大・縮小がある種を抽出するために、下記の基準を設定した。
  拡大種については、「全国繁殖区画数の変化率が150%以上であること」、または「各繁殖ランク別区画数の変化率が150%以上であること」、また、縮小種については、「全国繁殖区画数の変化率が40%より少ないこと」又は「各繁殖ランク別区画数の変化率が40%より少ないこと」などを基準とした。

 

[1]繁殖分布の変化が見られなかった種について
 繁殖分布図を作成した248種のうち79%にあたる196種については、約20年前と比べ、全国繁殖区画数や繁殖ランクについて大きな変化は認められず(変化率は、増加150%以下から減少40%以上の間)、今回の調査結果からは、繁殖分布の変化は見られなかった。
 上記248種のうち、第6回基礎調査で新たに繁殖分布が確認等され、分布図が作成された種は、43種であるが、2.(2)[3]で後述するソウシチョウ、ガビチョウ以外の41種については、局所的な分布であり、繁殖分布が拡大している種はなかった。

[2]繁殖分布が拡大した種について
 前出2.(2)の抽出基準により、「全国繁殖区画数の変化率が150%以上である種」18種と、「A~Cのいずれかの繁殖ランク別区画数の変化率が150%以上である種」5種を分布が拡大した上位種(23種)とした。
 また、この他に、新たに分布が確認された外来種2種を含め、全国繁殖区画変化率の増加が大きい順に「別表1」に掲載した。これらの25種のうち、特出すべき点を挙げると、

ア)内水域や海岸に生息する一部の種の拡大
 カワウ、アオサギ、ダイサギは、全国の内水域や海岸で広く生息している種であるが、第2回基礎調査に比べて、大幅に分布域が拡大している。
 繁殖分布図では、カワウについては関東・近畿地方において、アオサギ・ダイサギについては全国的に分布が拡大している。
 この他にも、分布域の拡大傾向が見られる種として、オオセグロカモメ、ウミウ、オシドリ、アマサギ、チュウサギ、アカショウビン、タンチョウ、ケリといった内水域や海岸に生息する種が、上位25種中9種入っている。

イ)外来生物の拡大
 今回新たに、ガビチョウ、ソウシチョウが外来生物として分布拡大が確認された。両種とも、原産地は、東南アジア周辺地であり、日本へ観賞・愛玩用として輸入されたものが、野外に逸出したものと考えられる。
 繁殖分布図では、両種とも本州中部以南の地域で確認された。

ウ)限られた地域に生息する希少種の拡大
 東南アジアより夏期に少数渡来するヤイロチョウ、沖縄諸島に生息するシロハラクイナ、本州中部以南の島嶼部に生息するカラスバトは、局所的に繁殖区画数の増加が見られる。
 一方、北海道東部の湿原地帯を中心に生息するタンチョウは、明治期には絶滅寸前の状態にあったが、冬季給餌事業など保護増殖活動の進展により、繁殖分布だけでなく生息数が増加していることが知られている。

[3]分布が縮小した種について
 前出2.(2)の抽出基準により、「全国生息区画数の変化率が40%より少ない種6種」と、「A~Cのいずれかの繁殖ランク別区画数の変化率が40%より少ない種20種」を分布が縮小した上位種(26種)とした。
 また、この他に、大幅な繁殖分布の縮小が確認された外来生物1種を含め全国繁殖区画数の減少が大きい順に「別表2」に掲載した。これらの27種のうち、特出すべき点を挙げると、

ア)林縁から草原・湿地にかけて生息する一部の種の縮小   
 国内に広く生息していた種であるウズラ、また、東南アジアより夏期に渡来する種であるアカモズ、チ
ゴモズ、シマアオジ、ヒクイナ、ホオアカについても、大幅な縮小傾向が見られる。

イ)シギ・チドリ類の一部の種の縮小
 国内の湿地等で繁殖するシギ・チドリ類であるタマシギ、シロチドリ、イソシギ、ヤマシギについて、繁殖分布の縮小が見られる。

ウ)希少性の高い種の縮小
 北海道の主として高山に生息するエゾライチョウ、東南アジアから夏期に渡来するサンショウクイについて、繁殖分布の縮小が見られる。

エ)外来種の縮小
 ベニスズメは、原産地が東南アジア周辺地であり、日本へは鑑賞・愛玩用として輸入され、第2回基礎調 査では、東北から九州までの埋立地や河川敷のヨシ原で記録されたが、第6回では大幅な縮小傾向が見られる。


3.調査結果のまとめ

[1]全体的な傾向
 繁殖分布図を作成した248種のうちの79%にあたる196種については、約20年前(第2回基礎調査)と比べ繁殖分布の大きな変化は見られなかった。
 大幅に繁殖分布が拡大又は縮小している種については、引き続き注意を要するが、今回の調査結果からは、約8割の種の国内繁殖分布状況について大きな変化がなく、約20年前と比較して、全体的に安定していると言える。

[2]分布の拡大縮小と生息環境の変化
 繁殖分布域が大幅に拡大又は縮小した種について、変化の理由を本調査では特定することはできないが、一般的には、その生息環境の変化(改善・悪化)が大きく影響していると考えられる。
 例えば、内水域や海岸に生息するカワウ、アオサギなどの種は、河川などの水質が約20年前に比べて改善傾向であることが、拡大の要因となっていると考えられる。
 また、タンチョウのように、冬季給餌事業などの保護増殖活動の進展により、繁殖分布が拡大している例もある。

[3]外来生物
 外来生物では、ソウシチョウ、ガビチョウの繁殖分布の拡大が確認された一方、ベニスズメについては大幅な縮小が見られた。こうした外来生物については、生息・繁殖状況について注意を要する。

[4]継続的なモニタリングの必要性
 本調査では、国内で初めて全国規模で、約20年前との鳥類繁殖分布の比較を行った。自然環境の変化は、こうした継続した調査の比較により初めて明らかになるものであり、今後も、このような調査を継続的に実施することが重要である。



※注1 自然環境保全基礎調査について
 自然環境保全基礎調査は、全国的な観点から自然環境の現況及び改変状況を把握し、自然環境保全の施策を推進するための基礎資料として整備するために、環境省が昭和48年度より自然環境保全法第4条に基づきおおむね5年ごとに実施している調査である。通称「緑の国勢調査」とも言われている。調査結果は、ホームページで公開している。(http://www.biodic.go.jp/


※注2 鳥類繁殖分布調査について
[1]今回実施した鳥類繁殖分布調査は、20km四方を区画単位として、現地調査及びアンケート調査により、対象種ごとに繁殖・生息情報を全国集計したものであり、生息数は調査対象としていない。
[2]このため、本調査では生息密度の増減が把握されておらず、分布域と生息数との関係は明らかではない。したがって、分布が拡大したとしても生息数が増加しているとは、一概には言えない。
[3]ただし、本調査では、繁殖ランクを調査項目とし、生息状況の評価に付与している。


※注3 繁殖分布図における繁殖ランクの表示について
  繁殖分布図では繁殖ランクを●印の大きさによって表示している。
  大●  
Aランク:繁殖を確認した。
  中●  
Bランク:繁殖の確認はできなかったが、繁殖の可能性がある。
  小●  
Cランク:生息を確認したが、繁殖可能性は情報不足。
     
Dランク:姿・声を確認したが、繁殖の可能性は、おそらくない。
 
     
Eランク:生息は確認できなかったが、環境から推測して、繁殖期における生息が考えられる。
   


※注4 全国繁殖区画数とは、20km区画(約20km×20km)を1単位とした、国土全体に対する繁殖が確認された区画の合計をいう。

添付資料

連絡先
環境省自然環境局生物多様性センター
センター長 :北沢 克巳
 総括企画官:谷川 潔
 調査科   :長山 聡枝子
連絡先:0555-72-6033
     090-5193-8695(発表当日のみ)
〒403-0005
山梨県富士吉田市上吉田剣丸尾5597-1

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