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2004年12月10日
  • 自然環境

第6回自然環境保全基礎調査 哺乳類分布調査について

環境省生物多様性センターでは、第6回自然環境保全基礎調査(※注1:通称「緑の国勢調査」、以下「基礎調査」)として、シカやカモシカなど中大型哺乳類の生息状況調査を実施し、今般、「全国分布メッシュ比較図」を含む報告書を、取りまとめた。
 本調査では、都道府県ごとに、平成12~15年度(2000~2003年度)まで、生息状況の調査を実施し、全国分布メッシュ図を作成した。さらに、「第2回基礎調査(昭和53年度、1978年)」との比較により、「全国分布メッシュ比較図」を作成し、約20年前との全国的な分布状況の変化を把握した。(※注2:生息数については調査項目としていない。)
 その調査結果として、「ニホンジカ(24%→42%)、カモシカ(17%→29%)を始め、いずれの種においても、分布域の拡大傾向が見られる。」 一方、「ツキノワグマやサルについては、西中国などにおいて、分布域が孤立している地域がある。」ことが確認された。

1.調査方法(*調査は、第2回基礎調査と同様の調査手法で実施)

 

 ・ 調査期間 平成12~15年度(2000~2003年度、第6回基礎調査)
目的 全国的な中大型哺乳類の生息状況の調査を実施し、全国分布メッシュ図を作成する。
さらに、第2回基礎調査(昭和53年、1978年)調査結果との比較により、約20年前との全国分布状況の変化を把握する。
対象種 ニホンジカ、カモシカ、ニホンザル、ツキノワグマ・ヒグマ、イノシシ、キツネ、タヌキの中大型哺乳類7種(報告書には、アナグマも合わせ8種について記載)
調査手法 都道府県ごとに、鳥獣保護員、森林組合員、狩猟者等の野生動物の生息状況に詳しい者から、目撃情報等を聞き取り調査等をするとともに、現地調査や既存文献で情報を補足した。
情報数等 情報総数約39万件(前回約20万件)、聞き取り対象者約1万8000人(前回約4万5000人)

 

2.調査結果

 

(1)「全国分布メッシュ比較図」の作成及び第2回基礎調査(1978年)との比較
 収集されたデータは、5kmメッシュ(約5km×5km)を1区画単位とする全国分布メッシュ図として集計した。さらに、第2回調査と今回調査を種ごとに比較し「全国分布メッシュ比較図」(別紙資料参照)を作成した。
 以下、作成された「全国分布メッシュ比較図」、「国土全体に対する生息メッシュの比率(全国生息区画率)」、「全国生息区画(メッシュ)数」、及び「地域的傾向」の概要について、種ごとに記述する。

 

[1]ニホンジカ
 全国的に、山地を中心に広く生息している種であるが、今回の調査では、20年前と比較すると、全国生息区画率は24%から42%と、18ポイント増加した。また、全国生息区画数は、4220メッシュから  7344メッシュとなり、1.7倍に拡大した。
 全国分布メッシュ比較図の表示メッシュ数は、それぞれ、292(1978年のみ生息)、3416(2003年のみ生息)、3928(1978年及び2003年生息)である。
  地方別には、北海道、中部、近畿、四国地方では、生息区画率が約20ポイント以上増えているが、青森県、秋田県、山形県などの東北地方や、新潟県、富山県、石川県などの北陸の多雪地帯では、積雪が分布制限要因となり一部にしか分布していない。また、茨城県、千葉県、東京都などの関東地方や、島根県、広島県、山口県などの中国地方では、分布が少ない。

[2]カモシカ
 本州、四国、九州の山地に生息する種で、今回の調査では、20年前と比較すると、全国生息区画率は 17%から29%と、12ポイント増加した。また、全国生息区画数は、2947メッシュから5010メッシュとなり、1.7倍に拡大した。
  全国分布メッシュ比較図の表示メッシュ数は、それぞれ、139(1978年のみ生息)、2202(2003年のみ生息)、2808(1978年及び2003年生息)である。
 地方別には、東北、中部地方では、生息区画率が約20ポイント以上増えているが、大阪府、兵庫県及び中国地方6県の分布はなく、関東地方や、四国、九州地方では一部にのみ分布している。

[3]ニホンザル
 本州、四国、九州の主に山地に生息する種で、今回の調査では、20年前と比較すると、全国生息区画率は13%から20%と、7ポイント増加した。また、全国生息区画数は、2288メッシュから3471メッシュとなり、 1.5倍に拡大した。
  全国分布メッシュ比較図の表示メッシュ数は、それぞれ、640(1978年のみ生息)、1823(2003年のみ生息)、1648(1978年及び2003年生息)である。
 地方別には、関東、中部、近畿、四国地方では、生息区画率が約10ポイント以上増えているが、ポイントが減少している地域もある。また、青森県、秋田県、岩手県など東北地方では分布は少なく、その一部については、房総半島の地域個体群とともに、分布域が孤立している。

[4]ツキノワグマ、ヒグマ
 ツキノワグマは、絶滅したとされている九州を除き、本州、四国の山地に生息する種で、今回の調査では、20年前と比較すると、生息区画率は28%から34%となり、6ポイント増加した。また、生息区画数は、3789メッシュから4511メッシュとなり、1.2倍となった。
  地方別には、東北地方では、生息区画率が約10ポイント以上増えているが、中国、四国地方では一部にしか分布しておらず、下北半島、西中国、紀伊半島、四国の地域個体群は、分布域が孤立している。
 ヒグマは、北海道に生息する種で、今回の調査では、20年前と比較すると、生息区画率は48%から 55%となり、7ポイント増加した。また、生息区画数は、1962メッシュから2224メッシュとなり、1.1倍となった。
  ツキノワグマ、ヒグマの全国分布メッシュ比較図の表示メッシュ数は、2種合計して、943(1978年のみ生息)、1927(2003年のみ生息)、4808(1978年及び2003年生息)である。

[5]イノシシ
 北海道及び東北・日本海の多雪地帯を除き山地を中心に広く生息する種で、今回の調査では、20年前と比較すると、全国生息区画率は30%から39%と、9ポイント増加した。また、全国生息区画数は、 5188メッシュから6693メッシュとなり、1.3倍となった。
  全国分布メッシュ比較図の表示メッシュ数は、それぞれ、331(1978年のみ生息)、1836(2003年のみ生息)、4857(1978年及び2003年生息)である。
 地方別には、関東、中部、四国、九州・沖縄地方では、生息区画率が約10ポイント以上増えており、これらの地方では、まんべんなく分布している。

[6]キツネ
 国内に広く生息する種で、今回の調査では、20年前と比較すると、全国生息区画率は58%から67%と、9ポイント増加した。また、全国生息区画数は、10101メッシュから11668メッシュとなり、1.2倍となった。
  全国分布メッシュ比較図の表示メッシュ数は、それぞれ、1309(1978年のみ生息)、2876(2003年のみ生息)、8792(1978年及び2003年生息)である。
  地方別には、北海道、関東、中部、四国地方では、生息区画率が約10ポイント以上増えており、平野部も含めほぼ国内全域に分布している。

[7]タヌキ
 国内に広く生息する種で、今回の調査では、20年前と比較すると、全国生息区画率は59%から66%と、7ポイント増加した。また、全国生息区画数は、10195メッシュから、11476メッシュになり、1.1倍となった。
  全国分布メッシュ比較図の表示メッシュ数は、それぞれ、1263(1978年のみ生息)、2544(2003年のみ生息)、8932(1978年及び2003年生息)である。
地方別には、関東、中部、近畿、四国地方では、生息区画率が約10ポイント以上増えており、平野部も含めほぼ国内全域に分布している。

(2)調査結果の考察

[1]中大型哺乳類の分布の拡大、及びツキノワグマ、サルの地域個体群の孤立
  調査を実施した中大型哺乳類の7種は、いずれの種も、全国的に分布域が拡大している傾向にある。一方、ツキノワグマやサルについては、西中国などの地域個体群の分布域の孤立が見られ、今後ともその動向に注意する必要がある。

[2]中大型哺乳類の分布が拡大した要因
  一般的には、全国的な状況として、中大型哺乳類の主たる生息地である山地から平野部までの地域では、過去20年間に、集落人口の減少・高齢化と、これに伴う耕作地の放棄や集落の活動域縮小が進んでいると言われており、放棄された耕作地は、中大型哺乳類に好適な環境を作り出していると考えられる。
  また、基礎調査として全国を自然林、二次林、植林地、農耕地、市街地などに区分した植生調査と今回調査との重ね合わせ比較によると、サル、ツキノワグマ、イノシシなどいずれの種も、特に農耕地や、植林地・二次林として区分された地域において、分布が拡大している。
  さらに、東北地方などの多雪地帯においては、積雪量の減少が知られており、こうしたいくつかの社会的・気象的要因が重なり、分布域の拡大に繋がっているものと考えられる。

 

※注1 自然環境保全基礎調査について
 自然環境保全基礎調査は、全国的な観点から自然環境の現況及び改変状況を把握し、自然環境保全の施策を推進するための基礎資料として整備するために、環境省が昭和48年度より自然環境保全法第4条に基づきおおむね5年ごとに実施している調査である。通称「緑の国勢調査」とも言われている。調査結果は、ホームページで公開している。(http://www.biodic.go.jp/)

 

※注2 中大型哺乳類調査について

[1]今回実施した中大型哺乳類分布調査は、5km四方を区画単位として、目撃情報等の有無により対象種ごとに全国集計したものであり、生息数は調査対象としていない。

[2]このため、本調査では生息密度の増減が把握されておらず、分布域と生息数との関係は明らかではない。したがって、分布が拡大したとしても生息数が増加しているとは、一概には言えない。

 

添付資料

連絡先
環境省自然環境局生物多様性センター
センター長:北沢 克巳
 総括企画官:谷川 潔
 連絡先:0555-72-6033
      090-5193-8695(発表当日のみ)
  〒403-0005
  山梨県富士吉田市上吉田剣丸尾5597-1